これで解決!土地購入から住宅建築まで(基礎編)【若本修治の住宅取得講座-12】

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新しく住宅取得を考え始めた時、多くの人が『庭付きの注文住宅』をまず最初に思い浮かべます。予算や利便性を優先するため、建売住宅分譲マンションにする人もいますが、買えることなら「自分の土地」の上に注文で家を建てることが理想です。

しかしこれまでの人生で土地を買った経験のある人は、すでに自宅を持っている人以外はわずかです。いかにネット社会になって、情報がタダ同然で入り不動産情報も容易に集められると言っても、戸建て住宅用で手頃な土地を見つけて購入の意思決定をするのは、プロでも容易ではありません。

建売りや分譲マンション、そして大規模に造成されて土地だけでも販売するというチラシ広告が入っているような不動産物件であれば、比較も判断も容易です。しかし今やそんな物件はほとんどなく、仮に条件のいい土地があっても建築条件付き分譲として、指定のハウスメーカー・建築会社でしか家を建てられないという、自分たちの希望通りにならない不動産物件ばかりです。

このページでは、ある段階までは自力で土地を探し、十分知識を得たうえで自由設計の注文住宅を建てるための流れとヒントをお伝えします。

土地探しのスタート

Wakamoto
すでに日本は人口減少社会に入り、空き家は800万戸を超えています。情報化社会になり、有望な土地情報も十分入りそうですが、実際に探してみるとなぜかほとんどいい不動産情報に巡り合いません。

なぜ自分たちが住みたいと考えているエリアで手頃な価格の不動産物件の入手が困難かといえば、土地の購入は『椅子取りゲーム』か『混んでいるフードコート』のようなものだから。駅に近いとか買い物や病院などが近くに揃っているエリアは、すでに椅子に座っている人が大半で、空いているように見える席も荷物などが置かれて席は確保されてしまっているのです。席が空くまで立っておくか、「相席」で詰めて座るしかありません。

混雑するショッピングセンターの駐車場であれば、車を誘導する係員も、空きが出たらセンサーが反応して『空車』を表示してくれる電光掲示板も用意できるから、来場者は待っているだけで案内してくれますが、不動産の物件情報はルールに従い順番に待っている訳ではなく、不動産情報が一元管理できて誰でも情報にアクセスできるわけではないのです。

しかし一方で、フードコートの席や駐車スペースは用が済んで空いても、本人たちは何も告げず去っていくだけ。土地はそのまま放置していたら固定資産税や相続税が掛かるから、出ていく時は「この土地の利用者を探しています」という『募集の告知』を必ず行います。そのタイミングとどこにその告知をお願いするかが分からないから、土地探しをお客さんから依頼されたプロでも、土地を見つけるのは容易ではないのです。

不動産業界基礎知識

このページをご覧になっている方で、すでに住宅展示場に行き、複数のハウスメーカーに土地探しの依頼をした方もいらっしゃるかも知れません。土地がなければ住宅建築が出来ないので、提携先の不動産仲介業者からの情報を提供してくれますが、違うメーカーの営業マンが同じ土地情報を持参してくることも少なくありません。なぜか同じ物件なのに扱っている不動産業者が異なり、場合によっては価格も違うケースさえあります。

戸建て用地の不動産取引において、基本的にはプレイヤーは4者となります。
以下それぞれ解説していきます。

  1. プレイヤー(1)『売り主

    まずは土地を所有している売り主です。
    大半は個人の方で、農地や駐車場(空き地)または古家(アパート含む)が建っているケースもあります。100坪を超えるような土地は、個人には売りづらいから、メーカーに勧められて賃貸アパートを建てるか、建売業者など不動産売買を目的とした法人に売却されます。

    基本的には「自分の土地を売ることをご近所には知られたくない」というケースが多いため、最初は「広告不可」「ネット掲載不可」からスタートしがちです。特定の不動産業者に内密で売ってもらうように伝え、ある程度の期間はその業者に売却の一切を任せます。その相手が「プレイヤー(2)」の仲介業者です。

    「多少時間が掛かってもいいから、出来るだけ”高く売って欲しい”」のが売り主のニーズです。

  2. プレイヤー(2)『売り主側の仲介業者

    売り主側から売却を依頼された『不動産仲介会社(宅建業者)
    業界用語で「元付会社」とも呼ばれますが、通常この会社は売り主と「不動産専任媒介契約」を結び、看板や広告を準備し問合せ状況などを定期的に売り主に報告する代わりに、売り主側から他の不動産業者には声掛けできない制約条件を付けます。「お宅だけに任せるから、その代わりにしっかり買い手を探してね!」ということで、指定流通機構(西日本レインズ等)への物件情報登録なども行う義務が生じます。

    専任媒介契約を結んだ時点で、物件価格の「3%+6万円」の仲介手数料を得ることがほぼ確定します(より高い確率で得るためには「専属専任媒介契約」の締結が必要)。仮に不動産価格2千万円が売却出来れば66万円の仲介手数料です。しかし専任媒介契約を結べる機会はそれほど多くないのが通例で、より多くの仲介手数料を得たいと考えます。

    しかも、出来るだけ経費を掛けずに売れるのが利益を最大化できるから、電話一本で購入の打診が出来る「建売業者」や取引のある「ハウスメーカー」、そして「同業の不動産業者」などから声掛けしていきます。自分の息が掛かった業者が買う意思を示せば、売り主から頂戴する仲介手数料以外にも、業者側からの紹介料(キックバック)や『建築条件付き土地販売』などに加工して、さらに稼ぐことが可能です。

    また自ら購入者を探せば、「買い手側」からも仲介料が得られる『両手数』という倍額の手数料になります。その場合、買い手がつかないような割高な売却価格を設定し、数か月”たなざらし状態”で売り主が値段を下げるのを待って、その間に自らお客を探すというケースも少なくありません。財閥系を含む東証一部上場の不動産会社さえ、そのようなことをしていると週刊誌に大々的に報じられたケースもあります。

    日本では「両手数」自体は違法ではありませんが、弁護士が加害者と被害者の間で調整役を果たすようなもので、双方から手数料を得ることは『利益相反』になりがちです。プロの倫理が問われるから、米国では自主ルールで買い手側に別のエージェントを立てるのが一般的です。

  3. プレイヤー(3)『購入希望者』

    3番目のプレイヤーは土地探しをしている「購入希望者」であり、最終的には『買い主』となるあなたです。利便性の高いロケーションで、日当たりや眺望が良く、静かで出来るだけ広い敷地を少しでも安く買いたいのがニーズです。

    しかしそんないい土地であれば、売り主側は「より高く売りたい」のが人情であり、売り主についている仲介業者側も同じです。これまで取引がなく、一度きりで将来継続的に利益が享受できない個人相手に、いい物件を優先的に提供する道理がありません。

    チラシや不動産広告に掲載しても売れなかった物件が安くなったら「お買得の物件がありますよ!」と、ようやく一回きりの商談相手にも物件情報が渡されるのです。基本的に、売り主側には購入希望者のニーズに配慮する相手はいません。
  4. プレイヤー(4)『買い主側の仲介業者』

    残る4者目は、土地探しをしている「購入希望者」に不動産情報を提供する不動産仲介会社(宅建業者)。こちらは『客付け会社』と呼ばれる不動産の売買仲介を行う一般の不動産会社です。

    上記に書いたように、売り手側の仲介業者とは別の不動産会社に仲介に入ってもらうのが基本です。仲介手数料の上限が法令で決められているだけなので、本来なら価格競争があっても良さそうですが、売買仲介の場合はほぼどこも同じ仲介手数料を請求されます。だから基本的にはどの仲介業者に頼んでも負担する費用も、購入する物件自体が変わる訳でもありません。

    客付け会社は、指定流通機構に掲載されている情報をもとに、資料請求や問合せがあったお客さんに、条件に合致する不動産情報を提供しますが、どの業者でも公開情報にアクセスできるので、同じ情報が複数の会社から送られてきます。不動産サイト(ネット)や住宅情報誌(紙媒体)に掲載されている情報も、大多数はこのような公開情報です。情報のタイムラグが価格差を生じさせ、手頃な物件はすぐに購入者が現れて予約が入ります。これは人気のフードコートの席や入庫待ちの駐車場を思い浮かべてもらえば分かります。

    では、売り物件の情報元である「専任媒介契約」を結んだ不動産業者にあたることが出来れば、と考えがちですが、日本の不動産業界は体質も閉鎖的で情報も透明性が不十分です。元付でも客付でも、負担する仲介手数料は同じなので、あなたの味方になってくれるような情報力・交渉力のある客付専門の仲介業者を選びましょう。

信頼できる不動産会社と担当者とは

不動産取引の透明性・公平性が高いアメリカでは、まるでAmazonの書評のように、不動産購入者の評価による不動産エージェントの評判がネットで公開されています。プロ野球選手が大リーグでの挑戦や移籍でエージェントを使うように、不動産取引もどのエージェントに頼んで物件の交渉や取引成立のナビゲートをしてもらうか選ぶことが可能です。

米国の不動産情報サイト『Zillow』(https://www.zillow.com)の物件検索画面。物件ごとにエージェントの顔写真と評価が現れ、直接優秀なエージェントにコンタクトできる。

このような仕組みもなく、自立した優秀な不動産エージェントもいない日本では、自分の味方になってくれる不動産会社、営業担当者選びからすでにハードルがあります。アメリカの不動産エージェントは、外資系の保険会社の営業担当者や弁護士などと同じく、組織には属していても独立性が高く、誰に頼むかで安心感が変わってきます。しかし日本の場合は所属する会社ごとで体質が異なり、誰に頼んでも大差ないのが実態です。

とはいえ、住宅建築が前提での土地購入であれば、建築法令等の知識があるかどうかは重要です。

前面道路の幅員や所有権、道路斜線やがけ条例など、実際に建築にあたって建物の配置やボリューム、外観などに影響を及ぼす制約が発生する場合は少なくありません。新築の住宅建築を考えているのに『再建築不可』という不動産を紹介する仲介業者もいるから、ハウスメーカーのOBなど建築に携わった経験のある『宅地建物取引士(以下「宅建士」)』に頼んだほうが無難です。経歴などを尋ねることをお勧めします。

土地を探してもらうことをお願いし期待するよりも、むしろ自分が土地情報を探し、候補地に対しての意見をもらってその回答力によって経験や能力を把握していくという形がいいでしょう。ただし「建築業者もご紹介します」という話があった場合は、紹介された業者から紹介料のキックバックがあり、建築費に上乗せされる可能性があることは知った上でご検討下さい。

各都道府県に『宅建協会』や『全日本不動産協会』などの業界団体があり、その組織の理事や各委員会の委員などをされている地元の不動産会社を私はお勧めします。概ね地元の不動産事情に精通し、会員への法令順守の啓もうや社員教育などに力を入れており、社長自身が不動産のビジネスに従事しています。全国チェーンの大手企業サラリーマン担当者よりも、情報量や交渉力は豊富です。

Wakamoto
ちなみに私も全日本不動産協会広島県本部で、広報委員や流通教育委員などを歴任しています。

土地探しの基本とコツ

ネット上では「建築をお願いするハウスメーカーや建築会社を決めてから、一緒に土地探しをしましょう」と書かれているケースを良く目にします。しかし基本的にはまずは自分で探すところからスタートです。今はネット社会でもあり、チラシや住宅情報誌に掲載されている物件は、アットホームHOME’SYAHOO不動産など、オンラインでも出ています。

自分で探してみることで、探している地域の不動産の相場観も養えますし、実際に建築中の現場も意識するようになります。該当エリアで扱いの多い不動産業者さんや建築工事を請け負っている住宅会社なども知ることが出来るでしょう。ただ漫然とネットで情報収集するのではなく、自分たちの土地探しの条件などは書き出しておいて下さい。当社が相談者にお渡ししている『土地探し要望シート』の一部を参考にご紹介します。

希望エリアを絞る

多くの方が「交通の利便性」か「学校区」で住みたいエリアを探します。
通勤のための公共交通機関の駅や路線、実家へのアクセスを考えた立地、そして子供たちの進学を考えて学校区を決めるなど、まずは探す地域を絞ります。最初の段階では柔軟性を考え、3つくらいの希望エリアで物件情報を収集してみましょう。

希望条件を整理する

希望条件には(1)地理的・地形的要因と(2)環境要因、そして(3)人的要因の3つに分けてみました。
ハザードマップに示された災害危険地域も気になるところですし、周辺の交通量や前面道路の幅員、近隣のお店や公共施設、病院なども入居後の生活で重要な要素です。何を優先すべきかもイメージ出来たら、実際に「売り土地」で出ている物件情報を判断する基準も明確になるでしょう。近隣の坪単価の相場が分かれば、どのくらいの広さの土地が取得可能かも分かってきます。

マンション購入者の中には、チラシ広告に反応し、頭金もほとんどないのに「賃貸の家賃を払うくらいなら」と即決する方もいらっしゃいます。土地選びは最低でも3カ月程度は希望エリアの不動産売買の推移を見守り、自分たちの希望条件が固まってから具体的アクションを起こしましょう。

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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。