前回の階段の取付けに続いて、今回の講座は室内の建具の取付けです。
階段の取付けは以下復習して下さい。
欧米の住宅の室内建具は、いわゆる『内装ドア』と呼ばれる開き戸が主流で、寸法は統一されデザインのパターンもほぼ決まっています。ひとつの家で何種類ものドアを使うことはあまりありません。一方日本の住宅は、様々な種類の建具が混在し、選ぶのも取り付けるのも結構大変です。
目次
開き戸と折れ戸
現代の住宅で最もポピュラーな室内建具は、欧米でも一般的なドア(開き戸)です。ドアの吊元に『蝶番(ちょうつがい)』や『フロアヒンジ』があり、ドアノブやレバーハンドルを回して押すか引くかで開く”室内建具”です。人が出入りする居室の入り口がこの『開き戸』で、モノを出し入れする収納やクローゼットなどの建具には『折れ戸』か『観音開きの両開きドア』が使われます。
画像は2人の女の子がいるご家族の2階子供室。思春期になるまではひとつの広い部屋で過ごし、プライバシーが必要になった頃に真ん中で間仕切りして個室にする予定です。真ん中に2枚重なり合っているのが白いドアが『開き戸』で、建具の高さは2mです。両側のクローゼットのドアは『折れ戸』で高さは2.3m、4枚の建具が2枚づつ両脇に畳まれます。
ドア枠取付け
最近のドアは、専門の建具屋さんでつくることは少なく、大手建材メーカーが工場で生産し、ドア枠と建具がセットで現場に送られてきます。カタログでデザインや仕様(樹種やグレード)、色などを選んで発注します。
仕上がった写真と同じ現場の工事中の様子です。日本の住宅では、ドアの寸法は幅が柱間(910ミリ)に建具枠が収まり、高さは2mが一般的です。高さ2mは『内法(うちのり)寸法』といって、サッシの窓枠の高さ(まぐさ)と揃えるときれいに見えるので、天井からは『垂れ壁』が下がります。
まずは枠のみ取り付けますが、昔は床部分にあった『沓摺(くつずり)』や『敷居』のような”床に段差が出来る下枠”は無くなり、今は『三方枠(さんぽうわく)』と呼ばれる縦枠と上部の枠だけになりました。枠自体、床材との干渉があるので、床材を貼り終わった後にドア枠を取付けます。
接着・固定
ドア枠自体は、柱などの下地にビス留めしていきますが、正面から見える”見付部分”については、ドア枠に厚みを感じさせる装飾のケーシングを回します。欧米ではまるで絵画の額縁のような”幅広のケーシング”を回しますが、日本では薄くシンプルなものが好まれます。画像のようにプラスターボードにボンド留めされ、確実に接着できるまで仮押さえされます。
ケーシング
欧米の住宅や日本の輸入住宅では、建具枠や巾木、天井の廻縁まで幅広に装飾するケーシングが数多く使われます。日本の内装ドアの枠との違いを比較してみて下さい。木製ですが、ペンキで白く塗装されます。
枠取付け完了
ドア枠を取り付けたら、壁の仕上げ(塗装やクロス貼り)の下地作りのためにビス留めの跡や石膏ボードのジョイントを『パテ埋め』していく作業に進みます。概ね大工さんの作業はドア枠の取付けで最終段階です。
床との境界の『巾木』や、天井と壁の境界(取り合いとも言います)の『廻縁』も取付きました。この現場では、腰壁も青森のヒバを使って、女の子らしい柔らかい雰囲気で仕上げました。ドアの上には明り取りのガラスブロックを入れます。
スポンサーリンク
引戸と引込み戸
家は長く使うものだから、自分たちが高齢者になった時のことも考えて、内装建具を選びます。もし車いす生活になったり、脳梗塞などで四肢が不自由になったとしても暮らしやすい家にしたいと、出来るだけ室内では『引戸』にしたいというご要望も多く、ドアよりも設計段階からの配慮が必要です。
引戸の特長と注意ポイント
開き戸(ドア)の場合は、出入りする”建具の幅”だけ確保して、最小限の柱間に取り付けることが可能です。引戸は敷居や鴨居(レール)で建具をスライドさせる分、ドア寸法の2倍の開口部寸法が必要で、その分建具枠も倍になります。
-
耐力壁(筋交いのある壁)には引き込めない
-
建具に遊び(隙間)が多い
-
スイッチやコンセント位置が限定される
通常、引戸は建具の厚み分、壁も薄くなって引き込まれるから、壁自体に強度はなく、上階に柱が載るプランも出来れば避けたいところ。下の滑車や上吊りの滑車が転がりスライドする機構なので、多少のグラつきがあり、音や臭いは容易に漏れる。また枠が柱の角に取付く場合が多く、開き戸のようにドアを開けてすぐに照明スイッチをつけられないケースが少なからずある。
和室の引込み戸
最近の和室は、洋風の部屋に畳を敷くことが増えました。昔の純和風の和室のように、柱や長押などで規則的に木材が縦横に現れず、障子やふすまなどの建具もない、大壁で洋風建具を使い、廊下やホール・リビングなどの他の部屋と違和感のない仕上げが好まれます。
しかし、やはり開け放して広く使いたいという要望が多く、建具は数枚を引き込んで、和室側からは建具の存在を消し、すべて壁に重ねて引き込みたいという希望に応えるため、引込み戸が採用されます。
広島市南区でお引き渡ししたこちらの現場では、2階の寝室を畳み敷きにして、3枚の建具を引き込めるようにしました。畳は部屋の真ん中だけ『琉球風』の90cm角の縁なし畳を敷き込んでいます。
アウトセット建具
耐震等級を高めるため、筋交いのある耐力壁を減らすことが出来ず、それでも引戸にしたい時に採用するのが『アウトセット』と呼ばれる引戸です。通常の引戸は、半分の厚みの壁に引込み、ドアのレールは壁内に収まりますが、アウトセットは壁の外にレールが取り付けられます。壁の厚みに影響を与えませんが、その分室内側に建具と枠が出っ張ってきます。
特殊な建具
建具は外側の枠を『框(かまち)』と呼び、内側を『鏡板』と呼びます。ほとんどの建具の框の部分は木製で、鏡板は木製の板の場合もあれば、全面ガラスや格子が入る場合もあります。鏡板の種類や透過度によって、プライバシーの調整を行うのが日本流です。またほぼすべての部屋は建具で仕切られます。
一方、米国では個室は建具で閉じられるものの、玄関やホールなどは建具で仕切られず、玄関からダイニングが丸見えという『オープンプランニング』の家がほとんどです。部屋を仕切る建具は、各個人のプライバシーを守るため、窓のない重厚な木製ドアで、デザインや寸法も規格で統一されているのが一般的です。室内の建具が部屋ごとにデザインも寸法も、開け方も違う日本の住宅に、アメリカ人は驚くことでしょう。
フルハイドア
日本の室内建具は、窓の高さと合せることが多く、内法寸法という窓や建具の上端を2mに揃えると建具の高さが違和感なく揃います。しかし天井高は通常2.4m程度なので、どうしても垂れ壁(下がり壁)が出来てスッキリしません。天井高までの高さのある建具も登場してきました。天井いっぱいにドア枠が収まるタイプと、ドア枠自体が上下にはなく、床と天井が隣の部屋と連続するタイプがあります。
画像はリビングの入り口とトイレのドアに『フルハイドア』を採用した事例。トイレドアは開き戸で、上下にヒンジを取り付けています。リビングへの入り口の建具は木製の引き戸です。ドア枠やレールもシンプルで目立たないタイプです。
引戸の場合は、レールやガイドが必要なので、上部に必ず枠が見えてきますが、ドアの場合はヒンジや蝶番で開け閉め出来るため、上枠なしも可能です。ただし廻縁を回す場合や、天井に光が漏れたり通気があることが気になる場合は、しっかりと枠のあるタイプを選んだほうがいいでしょう。以下はパナソニックのベルティスというシリーズの建具です。
引込み戸(隠し扉)
和室や洗面所など、見た目や掃除などで建具を壁の中に完全に引き込み、建具自体の存在を消したいというご要望もあります。取っ手(引手)自体も隠れるため、ドアを引き出す金具が必要ですが、きれいに壁内に収まります。
画像は工事途中の下地の段階と、完成後に建具が収まった写真です。取っ手の金具が見えるので、建具が壁に収まっていることが分かります。手前に洗濯機を置き、隣は洗面台があるため、壁に収納できる建具を採用しました。
すべて輸入の建具を使った広島市安佐南区の施工事例。真ん中の引戸は唯一の和室の建具で、壁の中にきれいに納まる輸入建具です。特殊な金具で、比較的簡単に建具を外し取り替えることも可能です。
閑話休題
また、無垢の材料を建具屋さんに加工してもらうと、材料費や加工賃、そして塗装代などが積み重なり、建具枠やドアノブ等の加工も技術が必要です。米国は熟練の職人でなくても、同じ規格の建具で取り付け作業が標準化・単純化されているので、安くできますが、やはりせっかくなのでちょっとだけ凝りたいところです。
画像はシート張りで四方の框もないシンプルなドアですが、丸い穴を3つ開けてアクリルを入れただけで、光が透過し、ちょっと楽しめるドアになりました。このような加工は既製品でも可能です。