【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-32】開口部周りの造作

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外装仕上げが終わる頃に、室内はサッシ周りの窓枠の取り付け作業を行っていきます。業界用語では『額縁(がくぶち)』とも呼ばれ、絵画の額縁と同様、窓周りの装飾ですが、最近はシンプルな窓枠が好まれます。前工程の「内装下地」は、以下復習して下さい。

【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-28】内壁下地と天井組み

2018.09.06

日本の住宅の開口部は、元々は柱がそのまま枠となり、敷居と鴨居で襖や障子、外部に面した木製建具が柱で止まり、開口部が閉じられていました。一方欧米の住宅は、ケーシングと呼ばれる窓枠を四方に回して、窓の景色が額縁の中の絵になるよう、窓周りの装飾を重視してきました。(下記画像の赤い”楕円内”が窓枠のケーシング。塗装仕上げで完成です)

Wakamoto
一戸建ての住宅で、窓は少なくとも十数か所、多い場合には二十か所を超えるサッシが取り付けられます。欧米のようにケーシングで窓周りを飾り、きれいに塗装して1か所あたり平均2万5千円(もちろん周囲の長さ・材料によって異なります)が掛かったとしたら、20か所あれば50万円のコストアップです。コスト圧縮のため、四方枠ではなく「窓台」だけ付けるというのが、日本では主流になりつつあります。

サッシ室内枠

欧米の住宅は、サッシの外部も室内側も、幅広の装飾枠が四方に回ります。日本では「アルミサッシ」が主流になり、冬は結露して窓周りは水浸しになるケースが多かったこともあって、あまり窓周りに気を配ることがありませんでした。そのため窓に面した壁の汚れや傷みを防止するための「固定枠」として、機能性重視の窓枠が付けられました。下記画像は、内装下地のプラスターボードを張り終えた時点の窓周りの状況です。

窓周りの気密

最近は『省エネ性能』が求められ、サッシもガタツキがない気密性能の高い高性能サッシになってきました。ガラスもペアガラスから次第にトリプルガラスLow-eガラス(熱線反射ガラス)など、熱損失の低いガラスが採用されています。しかしサッシが高性能でも現場での施工精度が低いと、サッシ周辺からわずかに漏気する「隙間」が生じます。

そこで、窓枠を付ける前の段階でスプレー缶に入った発泡ウレタンを窓周りに注入するなど、隙間のないように処理していきます。

窓台

窓周りの建具の下枠として、物を置いたり濡れても大丈夫なように『窓台』を設けます。以前は建具屋さんで加工した無垢の枠材を四方に回していましたが、窓は直射日光による温度変化や窓の結露など、無垢材では変形するリスクがあるため、建材メーカーが製造している集成材の枠材を使うことが増えました。

小さな窓は人の出入りもなく、角がこすれて傷むこともあまりないため、下枠の窓台だけ木製にし、縦枠は無しで壁クロスをそのまま巻き込む納まりが増えています。ただし下地はプラスターボードでは湿気にも衝撃にも弱いため、合板を使って角はしっかり固めます。

四方枠

もちろん下枠の窓台だけでなく、四方枠を回したいというご要望もあります。枠は壁から少し段差があり、クロスもきれいに納まって窓枠自体が部屋のアクセントになります。壁は薄い色が多いため、サッシが濃い色の場合には四方枠があるとシャープですっきりします。

見付のデザイン

窓枠を正面から見た時の、枠の見え掛かりを「見付(みつけ)」と呼び、日本の建材メーカーはせいぜい2cm程度の見付幅の細く見えるデザインがほとんどです。サッシ自体の見付(サッシ枠の幅)も、木製や樹脂でなければ熱が伝わり冬結露しやすいため、細めの商品を出しているLIXIL(トステム)のようなサッシメーカーもあるくらいです。

上の画像は「インテグリティ」という輸入サッシを使って四方枠を回した事例。米国の高級窓メーカー、マーヴィン社が発売している普及品タイプのサッシですが、窓枠の見付を二重に段差を付けることで、奥行きが感じられます。

ケーシング

四方枠にプラスして装飾の額縁を回すと、より窓周りのデザイン性が増します。
米国の建材工場やショールームに行くと、画像のように様々な種類の枠材、ケーシングから選べます。

上げ下げ窓(ダブルハング・シングルハング窓)

欧米の住宅は、日本のような『引違い窓』は珍しく、人が出入りできる『掃出し窓』もほとんどありません。あっても「片引きドア」で、両方のサッシがスライドせず、半分は嵌め殺しの「FIXガラス」です。

もっともポピュラーな窓は、下の画像のような上げ下げ窓。片方だけが動くものを『シングルハング』と呼び、上下の窓とも動くのは『ダブルハング』といいます。その他では軸回転する「滑り出し窓」で『ケースメント』か、観音開きの窓で『フレンチドア』とも呼ばれる全開口の窓です。

画像は、シングルハング・ウィンドウに3方枠としてケーシングを回している現場。コーナーの接続部は専門用語で『留(とめ)』と呼ばれる加工で、45度にカットしてキッチリ角度が合うようにくっつけます。角が開かないようにコーナー部分を仮押さえしているのが分かります。

リモデリング

日本では、一旦家を建てたらサッシを取り替えることはほとんどなく、建物とサッシの寿命は同じと考えられています。それは日本の住宅の寿命が30年程度から伸びておらず、住み替えもままならないから。多くの家が住み潰されて最後は空き家です。

しかし欧米では、築60年や90年の住宅が、リノベーションリモデリングされ、しっかりと中古住宅市場で売買されるから、多くの建築部材の寸法が規格化され取り換えが容易で、サッシや室内建具などもホームセンターで売っています。画像のように古い窓も交換され、幅広のケーシングがあればDIYで施主が窓枠を取り付けても、ある程度腕をごまかせます。(プロの職人も日本の職人ほど器用ではありません)

米国の窓のリモデリング事例。日本のように窓寸法がバラバラではなく一定の規格寸法があるから、古い窓を取り替えてケーシングで装飾すると、窓周りが美しくよみがえります。

窓台の完成

建築中の窓周りは、合板やプラスターボードが剥き出しで、窓台も無塗装の木材や集成材なので、実際に仕上がった状況がイメージできないかも知れません。画像は、壁の仕上げを「紙布」として窓の縦枠がなく紙布を巻き込んで貼った納まりです。

窓台とサッシの間にある黒いレール状の部材は「網戸」です。

Wakamoto
コスト優先の場合は、窓枠は下枠の「窓台」のみが一般的ですが、バルコニー出入り口など、人や物が出入りし、布団や洗濯物などで擦れる箇所では、三方枠や四方枠を取り付けます。日本では窓装飾のケーシングはカーテンで隠れてしまいますが、欧米の窓は枠の中にブラインド等が収まるため、窓枠の見付のデザインはとても重要なインテリアの要素です。

米国ワシントン州シアトルで視察した築80年を超える住宅。日本では昭和の初期に建てられた家が、きれいにリモデリングされ現役で売買されている。

▼次回は室内建具を解説していきます。

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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。