【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-21】ダクト配管がある第一種換気設備

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照明やコンセントなどの電気配線工事と並行して、天井裏や床下、間仕切り壁内に先行配管が必要な、ダクト工事を行う第一種換気システムについて学んでいきます。前回の復習は以下クリック下さい。

【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-20】照明やコンセントの電気配線工事

2018.07.13

戸建住宅の換気は、従来は”開放型”の換気扇がほとんどでした。典型的なのが、キッチンのコンロ上部にある「プロペラ型の換気扇」です。アルミサッシの普及と建物自体の隙間が減ってきたこと、そしてホルムアルデヒドなどの揮発性物質によるシックハウス症候群』が社会問題になってきて、個人住宅でも”機械による計画換気”が建築基準法で義務付けされました。

法的には室内の空気が2時間に一回入れ替わるだけの換気量”を確保出来れば、大掛かりな換気設備は不要です。一般的には『第三種換気システム』と呼ばれる小さな換気ファンを、水回り中心に数か所付けるだけで、計算上は十分換気量を確保することが可能です。つまり法律上はダクト工事などは不要です。しかしより高い断熱性能、省エネ住宅を目指すのであれば、ダクト配管の第一種換気システム採用をお勧めします。

Wakamoto
ダクト配管を行うためには、ダクトスペースが必要です。設計段階からの綿密な計画を立て、着工後もまだ構造体が見える早い段階で現場に入ります。

床下換気システム

第一種換気システムのうち、本体を床下(基礎内)に設置して、床下で熱交換や換気を行う方法です。基礎換気口のない「基礎断熱」として、床下は”断熱区画的”に室内空間として扱います。

画像は『澄家Eco』(マーベックス)という床下設置型の第一種換気システムの施工例。基礎のコンクリートは外周面は外気の影響を受けやすく、蓄熱容量の大きな素材ですが、中央部分は一年を通じて温度変化が小さいため、床下で熱交換した新鮮な空気を給気することで、床下の温度や湿度を安定させます。

本体は、将来のメンテナンスや機器の交換などを想定して、点検口を付けるよう床組みをします。

吸気口

室内に新鮮な空気を取り込む「吸気口」は、基礎コンクリートの立上げ部分に150φのアルミダクトが配管され、ヘチマを大きくしたような白い防塵フィルターをかぶせたうえでアルミ製のカバーがされます。ここ一カ所のみの吸気で、外壁面に他の穴が開けられないので、外壁防水などの面でも安心です。

円形型分岐チャンバー

本体で熱交換された空気は、分岐チャンバーに送られて、100Φの蛇腹ダクトで各部屋の床下に配られます。

画像は土台施工中の様子と、完成お引き渡し時の床下の様子です。概ね床下は気温20℃前後で、湿度は50%前後の環境を保ち、リビングなどの居室の窓際に設けられた『ガラリ』から自然に室内に空気が配られます。(トイレや洗面、収納などの床に設置された排気口に空気が引っ張られる機械換気なので、床下と室内の空気が循環します)

給気ガラリ

床下の空気の室内側の出口は、床に設けた『給気ガラリ』です。掃出しのサッシなど、大きなガラスの開口部がある床面に設けることで、冬の「コールドドラフト」を抑制し、窓にエアカーテンのような効果で冷気が室内に及びにくくします。学校などの大きな教室の窓際にパネルヒーターを設置しているように、外気よりも暖かい空気が上昇する気流が生じると、窓面の結露も防止できます。

ゆっくりとした自然に近い気流が窓近くで上昇するので、エアコンは気流を感じるほど強くする必要はなく、一定の設定温度を保つことが出来れば、その室内空気がまた床下で「熱交換」されて循環するという換気システムです。エアコンを常時運転しても、負荷が少なく省エネに繋がります。

室内排気口

第一種換気システムは、給気も排気も機械で換気されるので、第三種換気システムのように居室に面した外壁から給気したり排気することはありません。基礎部分や小屋裏のダクトに空気が集められます。だから室内に直接外気や外部の音などが浸入せず、調理で生じた湿気や人の吐いた息、一酸化炭素や二酸化炭素などは、床下に設けられた室内排気口からダクトを通じて床下に集められます。

排気口の設置個所は、湿気や臭いなどが溜まりやすい場所で、洗面所やトイレ、納戸などの床に設けられます。

室内を浮遊している埃やカビ菌なども床近くで排出したほうが効率が良く、臭いも一緒に排気されます。床下の全熱交換器で8割~9割の熱エネルギーが交換されるので、エアコンで暖められた暖気や冷房で下げた冷気も、熱交換素子でほとんどが回収されて、また床下から新鮮空気が各部屋に配られます。

Wakamoto
このような床下の換気システムの重要なキモは、床下空間までしっかりと高い気密性能が得られ、また防蟻剤などの人体に影響のある薬剤を使わないことで、家全体を効率よく換気することが可能です。

天吊り型換気システム

床下設置型よりも一般的なのは、天井裏に吊り込むタイプの第一種換気システム。
システム自体は床下設置型と違いはないものの、各居室の天井や壁に給気口(吹出し口)が付くのでインテリアの雰囲気を壊さないよう注意が必要です。天井内のダクトも長くなりがちで、圧力損失ダクト内の掃除など、メンテナンス負担は小さくありません。

ダクトスペース(縦配管)

1階の天井裏に換気システムの本体を収納し2階までカバーしようとすると、1階の天井裏から2階の間仕切り部分にダクトが通る『ダクトスペース』を確保して、2階の天井裏から給気(吹出し)出来るよう配管する必要があります。通常の間仕切り壁の厚みでは収まり切らないため、壁を”ふかす”など最低でも給気と排気の2本のダクトの収納箇所を設けます。

室内給排気口

床下設置型の第一種換気システムは給気のダクトがなく、基礎内に配られた熱交換後の新鮮な空気が1階床に設けられたガラリ等の開口部から自然に対流し、2階の複数の部屋の床に設置された排気口から回収されます。天井設置型は各居室の天井や壁面に給気口(吹出し口)があり、居室以外の部屋の排気口から汚れた空気が回収され熱交換ユニットに送られます。

画像のような給排気グリルが各部屋に取り付けられるので、天井裏にはジャバラ配管が何本も這い、計画的な配管経路の確保が欠かせません。構造体を避けることで経路が長くなり、配管の曲がりが増えてくると、圧力損失や配管内の汚れも溜まりやすくなるため、出来るだけシンプルにすることが肝要です。

ダクトスペースの仕上げ

1階と2階を縦で配管するダクトスペースは、壁の厚みを増して”ふかす”ため、そのままでは壁に段差がつきます。他の給排水配管などとまとめることが多いため、洗面所やトイレなどの水回りの壁の背後に納めることがほとんどです。

画像は、換気用のダクトスペースを利用して、壁に段差を付けて洗面台を設置した事例。違和感なく納まっています。

米国の全館空調日本の住宅は、部屋ごとにエアコンを設置する「個別空調」です。
第一種換気システムを導入することで、暖房や冷房された空気が各部屋を循環して回収されるので、全館空調に近い形にはなりますが、換気自体に熱源がないため、部屋によっては温度差が生じてしまいます。

米国の住宅の建築現場を訪れると、画像のようにまるでビルのような空調の配管工事が行われます。自由に曲げられるフレキ(ジャバラ)の配管ではなく、換気ロスがなく埃なども溜まりにくい鋼板製の部材がしっかりと計画された位置に配管されていました。それだけ「快適な環境・暑さ寒さを感じない住空間」が当たり前の要求になっているようです。
Wakamoto
多くの人が、日本の高気密高断熱のレベルサッシのグレードは国際的に高いと考えていますが、世界中を見てみると基準自体がかなり低く、多少の暑さや寒さは甘受している人が多いようです。北海道や東北を除いて温暖な地域が多いことも一因でしょうが、省エネ基準が中国や韓国にも劣っている現状では、少なくとも第一種換気システムが計画通りの性能を発揮するために、隙間相当面積C値=0.5cm2/m2以下の気密性能は欲しいところです。

▼次回は断熱のことについて解説していきます。

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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。