【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-18】外部開口部と採光・通風

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前回の講座は、外壁と窓周りの防水について学びました。
窓に関しては、主に「サッシ枠の取付け」の防水シート防水テープの張り方を説明しています。復習は以下でチェック下さい。

【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-17】外壁と窓周りの防水工事

2018.06.24

さて今回は、開口部でも”障子”と呼ばれる窓ガラス窓枠の部分を中心に解説していきます。建物の外側と内側の境となる「窓」は、単に光を取り入れたり、窓を開けることで風を通すという「透過の機能」だけでなく、熱の侵入や流出を防いだり、自然の猛威や、近隣火災、犯罪者等から家族を守るといった「防護の機能」も重要です。

もちろん機能ばかりでなく”景色を楽しむ”といった、壁だけでは得られない「情緒的な役目」も他の部材にはない窓選びで重要なポイントです。

広島県廿日市市吉和の別荘地で建築のサポートをした事例。
室内から見える景色と冬の寒さ対策、外から見られるプライバシーのバランスが求められる。

Wakamoto
アメリカでは日本以上に住宅の窓は重要視されます。外観のリズムをつくるのも窓で、『マービン(MARVIN)社』という窓メーカーが有名です。日本のようにアルミサッシはなく、主に木製窓や樹脂窓で窓装飾にケーシングと呼ばれる絵画の額縁のような装飾が施されます。

窓に求められる機能・性能

日本の住宅の窓と言えば、ほとんどが『引違い窓』でした。特に日当たりのいい縁側は「掃出し窓」と呼ばれる、足元から高さ1.8mや2mで直接外部に出入りできる「アルミサッシ」が長らく採用されてきました。”柱と柱の間に収める”幅の広い窓が普通だったので、施主が窓について考えることはほとんどありませんでした。建物が密集しておらず、プライバシーや防犯も無頓着だった時代の外部開口部です。

採光

建築基準法では、国民が”文化的な生活”を営むための最低限の基準を決めています。窓に関しては、やはり部屋の「明るさの確保」です。リビングや寝室など、家族が日常的に利用する「居室」では、床面積当たりの窓の面積に規制があります。

採光に有効な面積

窓の大きさの規制は、単にガラスの面積だけでなく、部屋の中が最低限の明るさが確保できるかどうかが問われます。密集した住宅地で、お隣がブロック塀を立てたり、中高層のマンションが建っても、真っ暗な部屋が出来ないよう『採光に有効な面積』をクリアしなければ建築の許可が得られないのです。

広島市中区の狭小地三階建て住宅の3階階段ホール。吹抜けの下は2階のLDKで、採光の確保のためベルックスの天窓2枚とハイサイドライトを取り付けた。

上記画像は、道路に接する敷地の間口が6mほどしかない狭小地で建築した木造三階建て住宅。居室の窓の大きさは、基本的に「その部屋の床面積の1/7以上」となりますが、単純な面積計算ではなく”採光に有効な面積”となっています。計算方法は、他の専門サイトで詳しいので省きますが、窓の中心から建物の高さと、自分の建物とお隣の敷地までの最小距離に影響されます。

お隣との距離がとれなければ、大きな窓があっても「採光に有効」とは認められず、出来るだけ窓を高い位置にするほど、有効と算定される面積が増えてきます。それでも面積が確保できない場合はトップライト(天窓)が有効です。トップライトは計算上も、一般の窓と比べて3倍の明るさが採れると認められ、実際にも天空からの光を遮る建物はないので、一定の明るさが確保できます。

敷地の間口の狭い狭小地だけでなく、広い敷地を手前と奥に分割した『旗竿地』でも、奥の敷地はお隣の”隣地境界線”との距離が取れないことがほとんどなので、1階リビングでは広さと比較して採光に有効な窓面積が取れません。その場合、吹抜けを設けて天窓から採光を取るといった工夫が必要です。または2階をリビングとして、1階を居室とすれば部屋ごとの床面積が小さくなり、条件をクリアできるケースもあります。

1階に複数の個室がある場合、採光が厳しければ”内部建具(襖など)による続き間”にするか、居室以外の”納戸”にするなど、窓面積の規制をクリアできるケースがあり、こなれた設計者であればうまく収めてくれます。

通風・換気

窓の機能として欠かせないのが、換気や通風です。
多くの一般の施主が勘違いするのは「窓やドアは正面(対面)になければ風が通りにくい」と、平面上で風通しをイメージすることです。プロでも提示する提案書の中で「この地域に吹く風の方角を気象庁で調べて、風通しのいい家を計画しました♪」と、プレゼンテーションする人たちが数多くいます。

しかし、現実の風は”平面上の位置”よりもむしろ”断面上の高低差”によって動きます。暖められた空気は上昇し、冷たい空気は下りてくるというのが自然現象で、多くの風(気流)の原因である「海風」や「陸風」そして、風が止まってしまう「凪(なぎ)」も、”陸地や海の温度差”によって空気が動き風が発生するのです。台風でさえ、上昇気流によって大きな風になっていくのです。

Wakamoto
閉じた空間で気圧が高まれば、空気は小さな隙間や穴から出ていきます。風船や浮き輪(ブイ)を思い浮かべれば分かる通り、穴の位置は関係なく、気圧差が生じればどんな場所からでも、どんなに小さな穴(=窓)でも空気は出ていきます。窓の位置や大きさよりも、換気は”気圧差が重要”です。

重力換気

室内で気圧差を生じさせるといっても、ピンとこないかも知れません。航空機のように機械によって気圧の差をつくるのではなく、室内に生じる温度差によって気圧が変わることを利用するのです。具体的には「高低差」であり専門的には『重力換気』と呼ばれます。

上の画像は、重力換気を利用した典型的な事例。右側が南に面した道路で、明るい光が入っているのは東南角に配置した2階のバルコニー。南東の日射で暖められた空気が勾配天井に沿って上昇し、天井付近を漂います。赤い楕円で記したロフト上部の北面に配置した高窓(ハイサイドライト)を開けると、戸外の空気との温度差(=気圧差)によって、室内の空気が自然に排出されるのです。

実はこの建物の建築場所は、北側が都市計画道路の予定地で幅員20m以上の高規格道路が走る予定。出来るだけ南を空けて建物を北側の敷地いっぱいに寄せたため、ロフト下に設けた2階北側の窓は窓は計算上「採光に有効な窓」とはなりません。

しかし現実的には北側に建物が建つ可能性もなく、北側から安定的な柔らかい光を確保でき、窓から日射(=暑さ)が入ってくることもありません。さらに小屋裏が換気できず”輻射熱の影響を受けやすい「勾配天井」”は、出来るだけ高い位置で空気が排出できるように、重力換気の窓を付けると、採光換気、そして暑さ対策の「一石三鳥」です。

ゴルフでもスキージャンプや陸上競技でも、風向きは刻々と変わっているのを中継で多くの方はご存知です。自宅周辺の風も当然刻々と変わり、気象庁で調べた風の向き、窓の配置提案で感心していると、まんまと相手の術中にはまります。機械換気以上に自然現象は正直です。

次回は、窓の『防御機能』について学びましょう。
自然からの防御(熱損失や防災)と人間からの防御(防犯やセキュリティ)を軸に解説していきます。

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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。