【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-43】弱電設備工事

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『弱電(じゃくでん)』って、一般には聞きなれない言葉ですが、情報の伝達や機器の制御などに利用する電気設備の総称です。住宅では電話線やTV共聴設備、インターフォンやインターネットのLAN工事、ホームセキュリティや火災報知機などの工事です。人間の神経細胞と同様、とても重要な設備です。

画像は2012年2月に米国フロリダ州オーランドで開催された『ニューアメリカンホーム』というイベントで、全米ホームビルダーズ協会のコンベンション参加者向けに公開された、最新モデル住宅の操作パネル類です。6年経っても日本ではこのような状況ではありませんが、スマホと同じiOsのタッチパネルが壁に格納され、スマホアプリで室内の機器をコントロールする『スマートハウス』が実現していました。画像の1枚はトイレの壁面タッチパネルです。
Wakamoto
住宅における弱電設備は、居住者の安全性を高めたり、外から情報を得るための配線およびパネル類です。今後AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット接続)が発達すると、住宅内での弱電装置の重要性・多様化はますます高まるでしょう。

パネル類

弱電設備は、隠ぺい配管されたリード線の先に、制御のための操作パネルが取り付けられることが一般的です。TVアンテナの共聴設備やインターネットなどジャックだけ取り付けるケースでも、最終的にはパソコンやテレビ画面などの操作画面に接続されます。

インターフォン

今の住宅で欠かせないのが、来客を確認するインターフォン。今や多くがカラー液晶モニターに録画機能がついています。

画像は玄関ホールに面したリビングの入り口壁に取り付けられた弱電設備。一番上が液晶画面付きのインターフォン操作盤で、その下が給湯器(エコキュート)の操作パネル、右下は第一種換気システムの操作パネルです。キッチンがアイランドタイプのオープンキッチンで、壁の少ない空間なので、玄関近くの壁に集中させています。

パネルの設置場所

インターフォンの設置場所は、呼び出し音があったらキッチンからもすぐに出ることが可能な壁面に取り付けられます。最近ではソーラー発電などの『HEMZ(ヘムス/Home Energy Manageent System)』パネル等も並ぶことが増え、壁にアルコーブ(凹面)を設けて目立たせないデザインも増えています。

コントローラー

弱電設備は、機器の制御パネルがセットになるから、電動による操作や機器の状況確認をするモニターなどと接続され、離れた場所の機器を手元で操作することが可能となります。

画像は浴室乾燥や換気システム、収納式物干し竿のコントローラーです。吹抜け部分の開閉式トップライトなど、手の届かない場所にある電動機器のコントロールパネルです。赤外線センサーなどでリモートコントロールできる機器もあります。

アクティブソーラー

機械的に太陽の熱を利用しようという『アクティブソーラー』は、太陽光発電とは異なり、日当たりがいいと暑くなる「屋根の熱」を床下に取り込んで基礎を暖めるという、工学的仕掛けで冷暖房の補助熱源としようという設備です。そのためには外気温や屋根のリアルタイムの温度変化や、送風・排熱などの操作を手元で見れることが必要です。

画像は『そよ風』というアクティブソーラーシステム。鉄板(ガルバリウム鋼板)の屋根の一部にスチールを格子状に組み、強化ガラスを載せて、ガラスと金属屋根の間で暖められた空気を、小屋裏に設けた送風ファンで冬は床下に、夏は外部に送り出します。似たようなシステムに『OMソーラー』がありますが、大規模なシステムではなく、太陽熱の恵みを活かす発想です。

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「パッシブソーラー」も「アクティブソーラー」も、太陽を中心とした自然エネルギーをうまく住宅に取り込もうという発想です。いずれにしても基本は”しっかりとした断熱性能”が前提で、小さなエネルギーが逃げないように室内に貯めることが出来る気密・断熱に一定の費用が掛かります。上記のアクティブソーラーで、軽自動車1台分程度の追加コストが目安です。

放送・通信設備

以前のTVアンテナは、地上波のVHFやUHFを視聴するため、屋根の上に魚の骨のような赤白の受信機を立てていました。最近はBS(衛星放送)やCS(通信放送)、CATVやネット動画など、動画受信も多様化し、パラボラアンテナ等のデザインもすっきりとしてきました。

画像は地上デジタルのTVアンテナ。屋根の上ではないため、台風などで方角が変わっても簡単に向きを動かすことが可能です。屋内に引き込んだ配線はブースター(増幅器)や分配器を経て、テレビを置くリビングや寝室などの複合コンセントに配られます。

一般的なコンセントは「2口コンセント」ですが、テレビ周辺はその他のデジタル機器、電話などを置くケースが多く、携帯の電源などで「タコ足配線」になりがちです。コンセントはテレビ台やテレビ本体の裏に隠れることが多いとしても、せっかくの新築であればコンセントは余裕を持って計画しましょう。画像のような6口コンセントもあります。

安全設備

昔の家にはなくて、2000年以降に建築基準法で義務付けられた機械装置が『24時間換気システム』と『家庭用火災報知器』です。その他義務付けではありませんが、ホームセキュリティを採用される方も弱電工事が必要です。

24時間換気システム

換気システム自体は弱電ではありませんが、天井裏や床下に配置されている「熱交換システム」と部屋の壁や天井に取り付けられている「給気口」や「排気口」、そして風量などを制御する「コントローラー」がセットになり、熱のロスを少なくして新鮮な外気を取り込んでいます。画像は室内の汚れた空気を吸い込む「排気口」と、新鮮な外気と熱交換して室内に供給する「給気口」です。

第一種換気システム(熱交換型)の取付けは、ダクト工事も含めて以前学んだ”以下の記事”で参照して下さい。

【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-21】ダクト配管がある第一種換気設備

2018.07.21

家庭用火災報知器

天ぷら火災や寝たばこなど、特に乾燥した冬には痛ましい火災が数多く発生しています。新築住宅では、平成18年6月から、既存住宅は平成23年6月から家庭用火災報知器の設置が義務化されました。古い建物でも、火報器を付けていないと『既存不適格』となります。

熱検知式

火器を使用することが前提のキッチンでは、以前よりマンションでは火災報知器が取り付けられていました。キッチンに取り付けられる火災報知器は主に『熱検知式』と呼ばれる温度上昇を感知して警報を鳴らすタイプの報知器です。あくまで警報が鳴るだけで、スプリンクラーのような消火機能はありません。

煙検知式

寝室や階段などに設置するのは、煙を感知する『煙検知式』の火災報知器です。基本的には火器使用のない居室で、家族がリビングにくつろいで寝室に誰もいない時でも、煙を感知すれば警報が鳴ります。電気器具のショートや寝たばこによるボヤ騒ぎなどでも警報が鳴る仕組みなので、子供部屋も含めて就寝する部屋すべてに設置します。

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米国のような凶悪犯罪が多発する国では、玄関や窓など開口部の鍵の二重化など「ハード対策」と併せて、ガラスを切る音(周波数)やガラスを割る振動に反応するセンサーほかWebカメラなど「ソフト対策」のホームセキュリティが充実しています。また外出先からエアコンをコントロールするなど、家族の安全や快適性の確保を機械装置で守る『スマートハウス(賢い住宅)』が大きな潮流になりつつあります。

音響設備

マンションでは管理センターからの館内一斉放送や避難情報などの有線放送設備が備えられています。一般の住宅では、音響設備は家電メーカー製の設置型の機器を購入するケースが多いものの、オーディオルームや防音室などを別注でつくるケースもあり、スピーカーの天井配線など、弱電工事が必要です。

画像はいずれも大きな音で音楽を楽しみたいという『防音室』です。換気口なども音漏れの原因となるため、すべての配線や配管も気密性を高めるよう気密テープで巻き、適切な音響になるように天井吸音材なども張っています。

天井スピーカー

本格的な防音室、オーディオルームはお金をかければキリがないほどの出費になりますが、単にリビングで常に音楽が流れておくようにしたいと考えた場合は、喫茶店で流れる有線放送のように、どこからともなく音が流れてくる『天井スピーカー』が経済的です。音だけが聞こえて、音響機器の存在は感じないBGM放送が可能です。

画像は広島市安佐北区でお引き渡しした家のリビング天井です。スポットタイプのダウンライトと天井スピーカーが、家具の配置(=人の居場所)に合わせて埋め込まれています。窓際にある3つもスピーカーです。
Wakamoto
弱電設備工事まで終われば、いよいよ引き渡しが間近です。
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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。