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平屋の間取りと建築費【若本修治の住宅取得講座ー10】

日本でも空き家の増加や、故郷の実家や土地が余ってくるという問題と高齢化率の高まりから、平屋に住みたいという人が増えてきました。一部の大都市圏を除いて土地の価格も安くなり、将来を考えても1階だけで過ごせる家で十分だという考え方です。

しかし住宅展示場に平屋のモデルハウスはほとんどなく、各ハウスメーカーも主力商品は2階建てからさらに4~5階建てへと高層化に向かっています。なぜなら住宅需要が今後も続く人口規模のある都市部が主戦場であり、相対的に土地価格の比率が高いため、土地+建物総額を考えると多層住宅が主力商品にならざるを得ません。

ハウスメーカーといえども基礎工事は「現場打ち」で、自社工場の構造部材と違って量産効果もコストコントロールも出来ないため、自社の収益性や強みを考えても、基礎が小さいほうが望ましいのです。もちろん大地主で予算が豊富なお客さんであれば、基礎の大きな邸宅も喜んで建築しますが、平屋では意外とデザイン性の高い家をつくるのが難しく、ほとんどが二階建て住宅を建築しています。

日本と同じ島国で、戦後の日本が住宅政策を学んだ英国では、子供たちが独立し、夫婦だけになったら終の棲家として「バンガロー」に住みたいという中高年者が多いそうです。英国のバンガローとは「平屋の家」です。

平屋の特長(二階建て住宅との比較)

平屋を希望する人たちは増えていても、建築予算的に制約がある人たちが少なくありません。
大家族で平屋に住む人よりも、ご夫婦だけとか、ペットも含めた少人数の家族のケースが多く、将来空き部屋になる可能性があるような無駄な建築費は避けたいという方がほとんどです。その分生活にゆとりを持たせたいという方々なので、内装仕上げや設備にお金を掛ける傾向があるようです。

平屋の建築費や坪単価は、事例が少ないため「平屋は高いよ!」という声だけ耳に入り、その根拠がよく分からないといった方が多いでしょう。まずは平屋の特長をまとめることで、高いと言われる建築費の秘密に迫っていきたいと思います。

敷地と建築面積(建坪)

建物を建てる時、ほとんどの土地で『建ぺい率』という”敷地に対する建物の建築面積の制限”を受けます。
例えば40坪の土地で、建蔽率が60%,容積率が200%だったとしたら、1階の床面積にあたる『建築面積』は40坪×0.6=24坪となります。つまり延べ床面積が24坪以上の広さ・部屋数が必要な場合は、二階建て以上でなければ床面積が確保できません。

分譲マンションでも地方の広い『100m2マンション』クラスであれば30坪になり、3LDK+納戸という間取りがイメージされます。だから24坪では少し手狭で、子供が2人以上いる家族では、おおむね50坪以上の広めの土地で平屋を建てるようなケースを除き、ほとんどが二階建て住宅になるでしょう。通常は1階が18~20坪程度で2階が12~18坪程度の”30坪~38坪程度”の二階建てが一次取得される施主の平均像です。

平面的特長

マンションと同様、1フロアで生活が完結するため、階段が不要となります。
その分複数の居室(個室)に出入りするために、廊下が長くなりがちです。もちろん、すべての個室がLDKに面して廊下のない間取りも可能ですが、その分家族とはいえプライバシー確保が難しくなり、就寝時間の違いなどがあると家族同士で気を遣わなければならない間取りになってしまいます。昔ながらの民家のように『田の字型』であれば、廊下は外部に面した広縁でいいでしょうが、通常はマンションのように家の真ん中に廊下が通るケースが多くなります。

家の真ん中に廊下が来ると、外の光は入って来ないため玄関ホールや廊下部分は暗くなりがち。屋根の棟も家の真ん中に来るから、トップライト(天窓)で明かりを取るとしても位置取りが難しく、基本的に廊下には冷暖房もつけないから、家の中心に快適性が劣る空間があるということになり兼ねません。これを解消する方法は後段で説明しますが、二階建ての家に比べて間取りの工夫が必要で、コストアップ要因が増えるのが平屋住宅です。

立面的特長

屋根は軒の高さを建物ぐるりと揃えるため、基本的に「左右対称(シンメトリー)」になります。建物の一番高いところになる「棟」から同じ長さ、同じ勾配で屋根を架けるから、積み木のように四角と三角を積み重ねた単純な形がほとんどです。間口や奥行に対して高さがない分、寸胴な建物になりがちで、外観のシルエットを美しく見せるのはかなりのデザイン力が必要です。でなければ倉庫や納屋と勘違いされ、せっかくの新築が喜び半分になってしまうかも知れません。

欧米のバンガロー、つまり平屋の家は平面や立面は単純でも、玄関ポーチのデッキや三角屋根の破風、妻飾りなど、外部の装飾や植栽、外構などで街並みの雰囲気を壊さないデザインを取り入れています。『クラフツマン様式』という玄関ポーチに大きな柱と屋根が載る外観デザインも、平屋の代表的なデザイン様式です。リビングポーチ暖炉のエントツなど、外部周りでずいぶん印象も変わります。下の画像が特徴的なクラフツマン様式の住宅です。

平屋のクラフツマン様式の建物。海外のように見えるが広島空港近くにあるコテージ村

Wakamoto
自由設計よりも、建築様式を採用するほうが街並みを壊さず、設計も容易です。それは欧米だけでなく日本でも徒弟制度が残っていた大工・棟梁の時代は平屋でも建築様式のパターンがありました。二段の屋根になった入母屋の家です。田舎に行くとまだまだ数多く残されています。
ページ最下段に事例写真を掲載しました。

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平屋はなぜ坪単価が高いのか?

平屋の家は、土地の利用形態が贅沢なだけでなく、建物自体の坪単価も高いと言われます。
建築費の総額(絶対額)では二階建て住宅のほうが工事金額は高く、本当は負担する額は大きいのですが、坪単価という相対比較では、平屋は割高についてしまいます。その理由は以下の通りです。

基礎と屋根が大きい

二階建ての場合、上記で説明した通り1階の床面積(建坪)は概ね20坪程度となります。ごく平均的な延べ床面積が36坪の家をイメージすると、2階は16坪となって、この1階・2階の床面積が、基礎と屋根工事の面積に比例します。

仮に同じ床面積36坪を平屋で建てようとしたら、基礎工事は「36坪+玄関ポーチ」,屋根工事は「36坪+軒の出+勾配割増」となるでしょう。単純比較すると、基礎工事と屋根工事は2倍となります。相対的に、基礎工事の面積当たりの工事単価が高いため、同じ面積であれば平屋のほうが割高となります。

床面積の調整

しかし平屋の家は階段が不要となり、2階の階段ホール(廊下)部分や2階トイレに割いていた空間も必要がなくなります。床面積で言えば3~4坪小さくても、実際に利用できる居室面積等は変わりません。日本の二階建て住宅ではほぼ確保されるバルコニーもないので、平屋の床面積では32坪程度で同等の暮らしが出来そうです。基礎の面積は2倍まではいかず1.6~1.7倍くらいでしょう。

屋根は勾配がある分、面積の割り増し分が大きく、また寄棟屋根になると外周全てに雨どいが回るため、板金や樋工事などが増えてしまいます。一般的に壁の断熱材よりも屋根や天井裏の断熱材のほうが厚みが必要でもあり、屋根が大きくなるほど断熱工事の費用もアップします。基礎(または1階床下)の断熱材から土台の防蟻処理(シロアリ駆除)なども割り増しが必要です。

構造体を考える

構造躯体である木材の材積などを考えると、平屋は垂直荷重が少ない分、梁や桁といった『横架材』の太さは二階建ての家ほどの梁成はなくても大丈夫だと考えられます。重心が低い分、耐震用の部材や金物も安価で済みそうで、基礎の配筋量も少なくて済むと考えられます。

一方で小屋組みは大きくなるため、屋根の野地板等も含めて構造材の材積自体は相殺してしまいそうです。ただし大工の作業性を考えると、階段が掛かっていない段階で1階と2階を行き来したり材料搬入・運搬等の手間は、平屋のほうが勝ります。足場の面積や足場の上り下りも、現場経費に影響を及ぼします。

Wakamoto
広島県内で2016年に実施した平屋建築の入札事例で検証してみましょう。

右の『部位別坪単価』は、工事明細の”最安値”を集計して坪数で割った価格なので、左側の各社見積数字とは一致しません。

基礎の最安値坪単価は約5万2千円。30坪で156万円ですが、2階建てで20坪であれば単純計算で10坪分,52万円ほど平屋の基礎が割高だという計算です。屋根工事は軽い「コロニアル屋根(カラーベスト)」で70~80万円でしたので、二階建てが半分だとして約38万円平屋が高いとすれば、屋根と基礎だけで90万円の差額が生じます。

一方で、住宅設備機器はほぼ変わらず、2階のトイレや配管がなくなることで30万円程度のコスト圧縮、その金額は階段材やバルコニーの防水工事等で相殺されると考えられます。30坪の1階間取りを半分に切って2層に重ねるとイメージすれば、切った面は二面とも外壁に面するということになります。つまり平屋のほうが外気に面する壁面が減るため、開口部の窓の数や外壁材・外壁塗装、断熱材等も少なくて済むでしょう。

営業マンによるバイアス

現実の商談では、ハウスメーカーの営業マンや工務店社長が施主の懐具合を探りながら建築費を算出します。
平屋を希望される方は、広い土地を用意できる方になるため、その時点で「比較的建築予算に余裕がある家族」という思い込み、希望的観測が頭にインプットされます。年齢的にも老後のことを考えてバリアフリーの生活を想定して平屋を希望される中高年・熟年の方が多いため、仕上の質感やグレードに対する審美眼も備え、安価な材料で妥協することが少ないことも、建築費の上昇要因です。

建築予算が3千万円だと言っているお客さんに「当社は2千万円でいい家を建てます♪」と進言する住宅会社は皆無で、予算の上限を消化しようとするのが建設業の性(さが)なので、見積にもそのバイアスが掛かったものが提出されます。土地の割合が相対的に大きい平屋の住宅は、銀行の担保価値も高くなるため、借り入れがしやすいというのも建築予算が増える要因です。

最初に予算を伝えない、出来るだけ借入れは増やさないという「強い意志」を持って住宅会社に臨み、相対すれば、平屋の建築費は抑えることは可能となるでしょう。坪単価でイメージしないことです。

Next:平屋の間取りと建築費-2 平屋の間取り

平屋の間取り(採光や通風の工夫)

平屋は、部屋を仕切らずに大きな空間で開け放すことが出来れば、家の中心部でも光が届きます。
とはいえ日本庭園があり立派な門構えのあるような大邸宅であればプライバシーを守れるものの、通常は壁で部屋を仕切り、それぞれの部屋のプライバシーを確保するから、建物の中央は廊下となって暗くなりがちです。光や通風に工夫が必要なのが平屋のプランです。

真ん中ホールにドーマー採光のプラン

比較的広い平屋の提案をした間取り事例をご紹介しましょう。
屋根が大きくなり、家の中央部分が暗くなりがちなので、ホールを設けて高い位置からの採光を確保するためにドーマーを付けました。天窓よりも雨漏りのリスクが抑えられ、近隣の中高層マンションからも家の中の様子が分かりづらく、外観のアクセントにもなるのがドーマーによる採光です。

通常の二階建て住宅では、押し入れやクローゼットなどの収納スペースを除いて、全く窓がなく外部に面さない部屋はつくりません。トイレや洗面所であっても換気や採光が欲しいので、外気に面した部屋でプランします。このプランのケースでは、洗面所と納戸(ウォークイン・クローゼット)が外部に面しておらず、照明がなければ昼間でも真っ暗な部屋になります。

マンションを考えれば妥協できる案として、来客用の玄関とは別に家族用玄関にもなる勝手口からのアプローチにホール空間をつくり、その上部は勾配天井としてドーマーから光を取り込む計画です。道路に面した南側は友人や親せきなどが集まって祝い事や法事なども出来るLDKや8帖の和室を配置し、北側に夫婦の寝室とご主人の書斎・仕事部屋を配置したプライベート空間に分けたプラン。

なかなか使い勝手の良さそうなプランになりましたが、結局は諸事情があって二階建てプランになりこの案はボツとなったので公開します。

外観に関しては、お隣が和瓦が載った古い入母屋造りの平屋なので、違和感が大きくならない程度に和風の雰囲気を取り入れながらモダンな外観を提案しました。外部の柱の太さや形状、目隠しとなる格子パネルなどによって、洋風にも和風にも変えることが出来る無難な外観です。

細長い建物で坪庭的なコートヤードから採光

敷地が細長く、長方形の建物に出来る場合は、比較的各部屋を外部に面した配置が可能です。
こちらの事例は、南面からの光を各部屋に配るため、コートヤード(中庭)を入れて変化のある空間としました。プライベート空間であるバスルームがコートヤードに面して、入浴も楽しめます。

インナーガレージから直接リビングに入ることが出来る動線やキッチン脇の食品庫、そしてランドリールームなど、変形した細長い敷地にほぼ要望通りの間取りが出来ました。しかし実際に複数の工務店で入札を行い、各社の見積を確認すると、当初予定していた予算よりもはるかに金額がオーバーです。

コートヤードは、室内に太陽光を取り込み、明るさの確保や風通しのいい家にはなりますが、問題は外壁の延べ長さが増えて、構造材から外壁仕上げ、断熱材に至るまで数量が増えコストアップに繋がります。開口部のサッシも必要個所が増えるため、「平屋ということ」以上にコストアップ要因でした。インナーガレージも基礎工事や外壁、屋根工事の増加要因だったのです。

希望通りのプランでも、施主の負担能力を超えると将来の生活が苦しくなります。こちらのケースでは、生活を犠牲にせずにコストを抑えるために、コートヤードは取りやめて、ガレージも通常の屋外設置に変更し、外皮面積を最小化することで大きなコストダウンが実現できました。施主が気に入っていたプランはボツの幻の案に終わったので、こちらで公開してみます。

考えてみると、平屋の設計案は、自分たちの理想案が出来ても、実際に見積もってみると建築費が予算オーバーとなり、面積圧縮案を受け入れざるを得ないケースが多いようです。

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平屋のメンテナンス(維持・管理コスト)

建築費が割高になりがちな平屋の住宅。
しかし、住宅は建築時の『イニシャルコスト』だけでなく、入居後に発生する『ランニングコスト』も20年、30年の経過で計算すると莫大な費用です。特に傷みやすいのが、設備の配管関係と風雨や紫外線の劣化にさらされる外壁や屋根です。光熱費も経済面だけでなく健康面でも重要です。

自分の資産にならない工事用仮設

屋根は比較的耐用年数の長いものが使われますが、外壁は15年程度で塗替え工事やコーキング補修工事などが発生します。日本では敷地が狭く安全管理や周辺への塗料・臭いの飛散などには社会の目も厳しいため、外壁のメンテナンス時には工事用足場や飛散防止シートなどの『仮設部材』が必要です。家の財産にはならないものの作業のために必要なコストで、恐らく20~30万円程度の負担となります。

米国オレゴン州ポートランド郊外で視察した新築現場。 米国では購入者の財産にならない仮設資材は最小限しか認められない。

上記の画像は、私が視察で訪問した米国の新築現場ですが、大きな家でも必要最低限の仮設資材しか使いません。脚立やハシゴでの作業で施主の財産にもならない工事作業者の足場代を何十万円も負担することはないのです。日本ではそんなわけには行きませんが、平屋の家であればこのような状態で作業を行っても安全性が大きく損なわれることがありません。

設備の更新と光熱費負担

また2階がないことで、給排水の配管や電気設備等もメンテナンス個所が少なくて済み、入居後の維持・管理は意外と安く済みそうです。エアコンなどの冷暖房機器も、断熱性能を高めれば容量の大きな機器を一台入れれば家全体をカバーできるでしょう。将来の機器の故障・交換も含めて二階建て住宅よりも経済的です。

バリアフリーは、単に「家の中に段差がない」とか「介護しやすい」という建物のハード面、設計上の工夫だけでなく、室内のどこに行っても『温度差が少ない』状況をつくることが重要です。洗面所や浴室が寒いことで、冬に脳梗塞などを起こして介護が必要な状況になる人も少なくありません。また、室内のカビやダニなどの発生も、部屋中の温度や湿度の差が少ないほど発生しにくくなります。そのような温熱環境をつくるのは、二階建てよりも平屋の家のほうが優位に働きます。

2階にも給排水や空調の配管が必要になると、将来のメンテナンス費用は大きくなります。

まとめ

平屋の家は、歳をとっても安心して快適に暮らし続けることが出来、年金暮らしになった頃に負担が増える建物の維持管理のコストも抑えられそうです。平屋のメリット、デメリットを整理し、ポイントをまとめてみたいと思います。

平屋のメリット

  1. ワンフロアで生活が完結するので、年齢に関係なく暮らしやすい。
  2. 同じ生活空間であれば床面積は小さくて済み、建築コスト(総負担額)は抑えられる。
  3. 外皮(外壁)面積が抑えられるので、二階建てよりも熱損失は少なく省エネになる。
  4. 維持・管理がしやすいため、将来のメンテナンスコストも抑えられる。
  5. 垂直・水平荷重が少なく建物重心が低いため、耐震性能や耐風性能が高い。

平屋のデメリット

  1. 基礎や屋根が大きいため、床面積当たりの建築費(坪単価)は高くなる。
  2. 低湿地や雪の多い地域では、大雨や大雪の時に避難が困難になるリスクがある。
  3. 家の中央部分に採光や通風の工夫をしないと、日中でも暗い家になってしまう。
  4. 外観やアプローチなどでデザイン的工夫をしないと、街並みのリズムが失われる。
  5. 防犯上、賊に狙われやすいので、セキュリティ強化が必要。

平屋検討のポイント

Wakamoto
平屋を建てたいと考えた時、住宅会社任せにせず自分自身で平屋の家をイメージし、その建物が街の景色として続くということも考慮して検討して下さい。二階建てよりもはるかにプランも外観も難しいのが平屋の家です。

Point

  • 敷地いっぱいで建てるのではなく、前面道路からセットバックできる敷地の余裕が望ましい。
  • 家の中央部が暗くならないための間取りの検討は十分に。
  • 屋根形状やドーマーの付加、玄関ポーチの小屋根など、外観デザインに工夫を!
  • 住宅会社側から「予算のある客」と見られがちなので、予算上限を決めて臨むこと。
  • 防災や防犯など、立地条件によって対策を考えて依頼すること。
  • お布団や洗濯物を干す場所と動線をイメージしておくこと。

[閑話休題]

地震の多い日本では、従来は平屋の家が数多く建っていました。
下の画像の通り、今でも地方都市や温泉地などに行くとみられるので「懐かしい景色」だと感じるかも知れません。何の変哲もない外観と古臭い間取りですが、この『入母屋造りの平屋の家』は、冷暖房器具や換気システムがなかった時代に自然の力を利用して建物の形状と方角を決め、暑い夏の「日射を遮蔽」し、冬の日差しを室内の奥まで取り込む「日射取得」を計画していたことが分かります。

そして、入母屋部分が東西を向くことで、夏の西日の暑さの大部分を屋根で受けて外壁の温度上昇を抑え、南北は深い軒の出や広縁で太陽の角度と熱のコントロールが出来ました。南に開いた大きな開口部は和紙を使った障子で明るさや温度変化を調整していることも先人の知恵だと気付きます。

西側に仏間や床の間、押し入れなどを配置することで、夏の西日は室内に入りません。また反射率の高い漆喰の白い外壁によって、家の中の温度変化を緩やかにして、外壁の汚れも最小限に出来るのは、日本の民家の優れたデザインであり地元で採れていた材料の使い方でしょう。

屋根の大きさによって二段・三段に瓦を重ね、棟瓦や鬼瓦や破風板などにも装飾を施すことで、外観に変化を与えていたのが日本の平屋の建物です。今のシンプルな切妻屋根と比べ、屋根デザインの重要性に気づきます。

徒弟制度による大工・棟梁の知恵と工夫が、建築家が設計する家や街並みよりも「50年後も遺したい風景」と感じるのは、私だけではないでしょう。それだけ日本の気候風土にマッチしたデザインであり素材を使った家づくりだったのです。