平屋の間取りと建築費【若本修治の住宅取得講座ー10】

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平屋の間取り(採光や通風の工夫)

平屋は、部屋を仕切らずに大きな空間で開け放すことが出来れば、家の中心部でも光が届きます。
とはいえ日本庭園があり立派な門構えのあるような大邸宅であればプライバシーを守れるものの、通常は壁で部屋を仕切り、それぞれの部屋のプライバシーを確保するから、建物の中央は廊下となって暗くなりがちです。光や通風に工夫が必要なのが平屋のプランです。

真ん中ホールにドーマー採光のプラン

比較的広い平屋の提案をした間取り事例をご紹介しましょう。
屋根が大きくなり、家の中央部分が暗くなりがちなので、ホールを設けて高い位置からの採光を確保するためにドーマーを付けました。天窓よりも雨漏りのリスクが抑えられ、近隣の中高層マンションからも家の中の様子が分かりづらく、外観のアクセントにもなるのがドーマーによる採光です。

通常の二階建て住宅では、押し入れやクローゼットなどの収納スペースを除いて、全く窓がなく外部に面さない部屋はつくりません。トイレや洗面所であっても換気や採光が欲しいので、外気に面した部屋でプランします。このプランのケースでは、洗面所と納戸(ウォークイン・クローゼット)が外部に面しておらず、照明がなければ昼間でも真っ暗な部屋になります。

マンションを考えれば妥協できる案として、来客用の玄関とは別に家族用玄関にもなる勝手口からのアプローチにホール空間をつくり、その上部は勾配天井としてドーマーから光を取り込む計画です。道路に面した南側は友人や親せきなどが集まって祝い事や法事なども出来るLDKや8帖の和室を配置し、北側に夫婦の寝室とご主人の書斎・仕事部屋を配置したプライベート空間に分けたプラン。

なかなか使い勝手の良さそうなプランになりましたが、結局は諸事情があって二階建てプランになりこの案はボツとなったので公開します。

外観に関しては、お隣が和瓦が載った古い入母屋造りの平屋なので、違和感が大きくならない程度に和風の雰囲気を取り入れながらモダンな外観を提案しました。外部の柱の太さや形状、目隠しとなる格子パネルなどによって、洋風にも和風にも変えることが出来る無難な外観です。

細長い建物で坪庭的なコートヤードから採光

敷地が細長く、長方形の建物に出来る場合は、比較的各部屋を外部に面した配置が可能です。
こちらの事例は、南面からの光を各部屋に配るため、コートヤード(中庭)を入れて変化のある空間としました。プライベート空間であるバスルームがコートヤードに面して、入浴も楽しめます。

インナーガレージから直接リビングに入ることが出来る動線やキッチン脇の食品庫、そしてランドリールームなど、変形した細長い敷地にほぼ要望通りの間取りが出来ました。しかし実際に複数の工務店で入札を行い、各社の見積を確認すると、当初予定していた予算よりもはるかに金額がオーバーです。

コートヤードは、室内に太陽光を取り込み、明るさの確保や風通しのいい家にはなりますが、問題は外壁の延べ長さが増えて、構造材から外壁仕上げ、断熱材に至るまで数量が増えコストアップに繋がります。開口部のサッシも必要個所が増えるため、「平屋ということ」以上にコストアップ要因でした。インナーガレージも基礎工事や外壁、屋根工事の増加要因だったのです。

希望通りのプランでも、施主の負担能力を超えると将来の生活が苦しくなります。こちらのケースでは、生活を犠牲にせずにコストを抑えるために、コートヤードは取りやめて、ガレージも通常の屋外設置に変更し、外皮面積を最小化することで大きなコストダウンが実現できました。施主が気に入っていたプランはボツの幻の案に終わったので、こちらで公開してみます。

考えてみると、平屋の設計案は、自分たちの理想案が出来ても、実際に見積もってみると建築費が予算オーバーとなり、面積圧縮案を受け入れざるを得ないケースが多いようです。

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平屋のメンテナンス(維持・管理コスト)

建築費が割高になりがちな平屋の住宅。
しかし、住宅は建築時の『イニシャルコスト』だけでなく、入居後に発生する『ランニングコスト』も20年、30年の経過で計算すると莫大な費用です。特に傷みやすいのが、設備の配管関係と風雨や紫外線の劣化にさらされる外壁や屋根です。光熱費も経済面だけでなく健康面でも重要です。

自分の資産にならない工事用仮設

屋根は比較的耐用年数の長いものが使われますが、外壁は15年程度で塗替え工事やコーキング補修工事などが発生します。日本では敷地が狭く安全管理や周辺への塗料・臭いの飛散などには社会の目も厳しいため、外壁のメンテナンス時には工事用足場や飛散防止シートなどの『仮設部材』が必要です。家の財産にはならないものの作業のために必要なコストで、恐らく20~30万円程度の負担となります。

米国オレゴン州ポートランド郊外で視察した新築現場。 米国では購入者の財産にならない仮設資材は最小限しか認められない。

上記の画像は、私が視察で訪問した米国の新築現場ですが、大きな家でも必要最低限の仮設資材しか使いません。脚立やハシゴでの作業で施主の財産にもならない工事作業者の足場代を何十万円も負担することはないのです。日本ではそんなわけには行きませんが、平屋の家であればこのような状態で作業を行っても安全性が大きく損なわれることがありません。

設備の更新と光熱費負担

また2階がないことで、給排水の配管や電気設備等もメンテナンス個所が少なくて済み、入居後の維持・管理は意外と安く済みそうです。エアコンなどの冷暖房機器も、断熱性能を高めれば容量の大きな機器を一台入れれば家全体をカバーできるでしょう。将来の機器の故障・交換も含めて二階建て住宅よりも経済的です。

バリアフリーは、単に「家の中に段差がない」とか「介護しやすい」という建物のハード面、設計上の工夫だけでなく、室内のどこに行っても『温度差が少ない』状況をつくることが重要です。洗面所や浴室が寒いことで、冬に脳梗塞などを起こして介護が必要な状況になる人も少なくありません。また、室内のカビやダニなどの発生も、部屋中の温度や湿度の差が少ないほど発生しにくくなります。そのような温熱環境をつくるのは、二階建てよりも平屋の家のほうが優位に働きます。

2階にも給排水や空調の配管が必要になると、将来のメンテナンス費用は大きくなります。

まとめ

平屋の家は、歳をとっても安心して快適に暮らし続けることが出来、年金暮らしになった頃に負担が増える建物の維持管理のコストも抑えられそうです。平屋のメリット、デメリットを整理し、ポイントをまとめてみたいと思います。

平屋のメリット

  1. ワンフロアで生活が完結するので、年齢に関係なく暮らしやすい。
  2. 同じ生活空間であれば床面積は小さくて済み、建築コスト(総負担額)は抑えられる。
  3. 外皮(外壁)面積が抑えられるので、二階建てよりも熱損失は少なく省エネになる。
  4. 維持・管理がしやすいため、将来のメンテナンスコストも抑えられる。
  5. 垂直・水平荷重が少なく建物重心が低いため、耐震性能や耐風性能が高い。

平屋のデメリット

  1. 基礎や屋根が大きいため、床面積当たりの建築費(坪単価)は高くなる。
  2. 低湿地や雪の多い地域では、大雨や大雪の時に避難が困難になるリスクがある。
  3. 家の中央部分に採光や通風の工夫をしないと、日中でも暗い家になってしまう。
  4. 外観やアプローチなどでデザイン的工夫をしないと、街並みのリズムが失われる。
  5. 防犯上、賊に狙われやすいので、セキュリティ強化が必要。

平屋検討のポイント

Wakamoto
平屋を建てたいと考えた時、住宅会社任せにせず自分自身で平屋の家をイメージし、その建物が街の景色として続くということも考慮して検討して下さい。二階建てよりもはるかにプランも外観も難しいのが平屋の家です。

Point

  • 敷地いっぱいで建てるのではなく、前面道路からセットバックできる敷地の余裕が望ましい。
  • 家の中央部が暗くならないための間取りの検討は十分に。
  • 屋根形状やドーマーの付加、玄関ポーチの小屋根など、外観デザインに工夫を!
  • 住宅会社側から「予算のある客」と見られがちなので、予算上限を決めて臨むこと。
  • 防災や防犯など、立地条件によって対策を考えて依頼すること。
  • お布団や洗濯物を干す場所と動線をイメージしておくこと。

[閑話休題]

地震の多い日本では、従来は平屋の家が数多く建っていました。
下の画像の通り、今でも地方都市や温泉地などに行くとみられるので「懐かしい景色」だと感じるかも知れません。何の変哲もない外観と古臭い間取りですが、この『入母屋造りの平屋の家』は、冷暖房器具や換気システムがなかった時代に自然の力を利用して建物の形状と方角を決め、暑い夏の「日射を遮蔽」し、冬の日差しを室内の奥まで取り込む「日射取得」を計画していたことが分かります。

そして、入母屋部分が東西を向くことで、夏の西日の暑さの大部分を屋根で受けて外壁の温度上昇を抑え、南北は深い軒の出や広縁で太陽の角度と熱のコントロールが出来ました。南に開いた大きな開口部は和紙を使った障子で明るさや温度変化を調整していることも先人の知恵だと気付きます。

西側に仏間や床の間、押し入れなどを配置することで、夏の西日は室内に入りません。また反射率の高い漆喰の白い外壁によって、家の中の温度変化を緩やかにして、外壁の汚れも最小限に出来るのは、日本の民家の優れたデザインであり地元で採れていた材料の使い方でしょう。

屋根の大きさによって二段・三段に瓦を重ね、棟瓦や鬼瓦や破風板などにも装飾を施すことで、外観に変化を与えていたのが日本の平屋の建物です。今のシンプルな切妻屋根と比べ、屋根デザインの重要性に気づきます。

徒弟制度による大工・棟梁の知恵と工夫が、建築家が設計する家や街並みよりも「50年後も遺したい風景」と感じるのは、私だけではないでしょう。それだけ日本の気候風土にマッチしたデザインであり素材を使った家づくりだったのです。
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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。