前回の記事では、ハウスメーカーと工務店の違いを中心に、依頼先の企業規模や業態を知ることで、自分たちに合った新築依頼先選びの基本的知識を学んでいただきました。以下のリンクをクリックすると、前回の記事を読むことが出来ます。
今回は、自分たちが建てようとしている家の建築予算を、相手(住宅会社)に知られることなく自分で試算するための知識と、建設費の資金調達に必要な基礎知識を学んでいただきます。個人がマイホームを手に入れるということは、将来の人生に大きな影響を与える「意思決定をする」ということ。私は個人にとって『家づくりは人生最大の事業』だと考えています。仕事でいえば「大きなプロジェクトを任された」状態です。
これまでの勤務先をイメージした時、プロジェクトの発注者または責任者として、あなたは依頼先の営業担当者に最初に「予算」を伝えますか?そして自分たちの家の発注金額が「いくらくらい掛かりますか?」と相手に尋ねますか?
相手が第三者のファイナンシャルプランナーを紹介してくれたとしても、まずは自分たちで”返済可能な建築予算”を調べて試算して下さい。幸い、毎年数十万人が同じプロジェクトにチャレンジし、参考書籍もあふれているのです。
住宅建設費の適正価格と年収の関係

年収から逆算する建築予算
これまで住んできた賃貸住宅でも、自分の収入に応じて「負担できる家賃」を考え、その範囲内で物件を探したはず。建物の構造や雑誌で紹介されていた最新設備、そして室内のイメージ、立地を最優先するのではなく、やはり「家計の中の住居費負担」で家賃の上限を決め、最寄駅や駅からの距離、周辺環境も妥協して、結果として「住めば都」だったのではないでしょうか?
今回初めて新築の家を手に入れる機会になったとしても、考え方は全く同じです。これから収入が伸びていくのか、健康が続いて仕事が順調に出来るのか、誰も分からないから、家計の住居費負担率から考えていくのが堅実な人生を歩めます。もちろん投資や事業に成功し、キャッシュでも家を買える人や、親から住宅資金を提供される人も、本質は同じ。余裕資金は別で運用するとして、まずは自分の今の年収から建築予算を考えましょう。

スマホの有料アプリ『iLoan Calc』は簡単に住宅ローン計算が出来る便利なアプリ。
実は建売住宅は、ターゲットとするエリアの見込み客層の年収を設定し、年収の倍率で販売価格を決めていきます。首都圏は土地代が高いため、年収の倍率も高くなりますが、一般的には年収の5倍が目安です。ご主人だけでなく、働いている奥さんの収入合算で返済すれば、その分予算が膨らみます。
しかし史上空前の低金利が続き、銀行も住宅ローンが最も安心して貸出できるため、最近では勤務先や勤続年数など「個人の属性」で年収の8倍まで貸すような金融機関もあるようです。ちなみに住宅取得を「投資」と考える米国では、基本的に『年収の3倍』が適正予算として、キャピタルゲイン(購入時と中古売却時の売買差益)を狙います。中古でも値上がりするようなロケーション・建物・価格を一般市民でも判断して、購入するかどうか決めるのです。
次は、住宅ローンの返済負担率をみていきましょう!
住宅ローンの返済負担率
住宅建設費をキャッシュで払える人はわずかなので、多くの人は長期の住宅ローンを利用されます。金融機関が借入可能額を計算する場合、主に「収入」(年収)と「借入期間」そして「金利」の3つの要素で試算します。まだ建物のプランや建築業者が決まっていない段階での『事前審査』で、自分たちの借入可能枠を確かめます。
「金利」は金融機関が決めるものなので、選ぶ銀行や交渉によって多少の差は出るものの、住宅取得の時点でほぼ確定します。「収入」も変えることが出来ない要素なので、自分たちの意志で『借入期間』だけが自由に変動できます。その結果で計算されるのが『返済負担率』という指標です。
この率は、各金融機関によって基準が異なり、年収の倍率のように単純計算では出せません。エンゲル係数(1世帯ごとの家計の消費支出に占める飲食費の割合)と同様、年収が低い人ほど家計支出の中の住居費負担が増えると生活が苦しくなるため、金融機関は返済負担率を低く見積ります。年収400万円で目安は25%です。金利が安くても年収が300万円台の方は、土地付き一戸建てはまだ時期尚早でしょう。
年収が800万円台になれば、返済負担率が30%になっても生活に余裕があります。年収400万円で25%の100万円を住宅ローンの返済に充てると、残りの300万円で家計を切り盛りしなければなりません。しかし800万円の30%、年間240万円の住宅ローン返済でも、残りの生活費は560万円あり、派手な生活をしなければ預貯金も可能です。
とはいえ年間240万円のローン支払いは、月額家賃20万円に相当するので、現在住んでいる家の家賃とこれまで貯蓄してきた月額平均「預金額」などを参考に、入居後の「積立預金」や「メンテナンス費用」も考慮して『無理のない返済金額』を算出するのが賢明です。
以下、計算式を記載しておきます。ご自身で計算してみて下さいね!
今は年収が高くても、それがいつまで続くか、住宅ローン返済は長期に亘るので、返済負担率が高い場合は借入期間を短くするなど、自己防衛もお忘れなく。
決して「返済負担率上限」で計算しないこと♪
『無理のない返済額』=現在の住居費+現在の貯蓄額ー将来に備える貯蓄額ー入居後の維持メンテナンス
(いずれも月額で算出)
スポンサーリンク
頭金はいくら用意するか?
分譲マンションの販売の前線では「頭金なし」でもローンが組める物件もあります。しかし、全く預金無しでは不動産購入の手付金や仲介手数料、住宅ローンの融資手数料、登記費用などの『諸費用』が用意できません。新築の一戸建ての場合は、土地や建物代金以外の支出がかなりあるため、最低限の「自己資金」を用意してのスタートが安全・安心です。
ここで『自己資金』というのは、あくまで不動産取得、住宅建築に使うために充当する現金のことで、自分の預貯金総額ではありません。一般的には、建築予算の2割は準備したいところ。最低でも1割は用意してからのスタートです。
仮に土地が1,500万円で建物予算が2,500万円だったら、建築費の2割は500万円。担保価値から言えば、土地は大きな変動はありませんが、残念ながら建物は入居した途端に1~2割下落するから、借入額(=住宅ローン)と担保価値(=建物の評価)は均衡していることが安全です。

住宅ローンの専門家で私の友人でもある淡河範明さんは、著書の中でお客さんに自己資金を確認する時、必ず「三つの貯金箱があると考えて下さい」という話をしているそうです。銀行出身で、プロである住宅会社にコンサルティングを行っているプロ中のプロです。以下その話に簡単に触れておきましょう。
【三つの貯金箱】
- 万が一の備えに残しておくべきお金(当面の生活費として6か月分)
- 1年以内に発生が想定できるイレギュラーな支出(車検代や入学金、引っ越し費用など)
- 1年超の将来に発生が想定できる支出(教育費や老後資金などの積立)
それぞれの貯金箱に入れる金額は、ご自身で計算してもらうのが原則です。
詳しくは日経BP社から出版されている淡河さんの著書『顧客が喜ぶ家づくりの資金計画提案』で♪
親の援助と相続時精算課税
しっかりと自己資金を貯めてきた方でも、やはり教育資金や老後資金を考えると、住宅取得で貯金を取り崩すのは少し不安ですね。今は政府も高齢者が貯めているタンス預金を、子供や孫に使う『世代間の資産移転』によって景気刺激を与えるため、様々な税制優遇策が講じられています。
つまり親からの資金援助で自己資金を充実させるというもので『住宅取得等資金の贈与税の非課税』という制度があります。時限立法ですが、消費税増税などの住宅着工の落ち込みをカバーするために、非課税額を変えながら延長されている制度です。
詳細は専門サイトに譲る(気になるキーワードを選択して右クリックで検索)として、まずは以下の表の通り、親からの住宅取得資金贈与に『非課税枠』があります。
2019年10月に消費税が10%に上がればさらに非課税枠が増える制度です。
契約締結日 | 省エネ等住宅 | 一般の住宅 |
平成 28 年 1 月 1 日から 平成 32 年 3 月 31 日まで |
1,200 万円 | 700 万円 |
平成 32 年 4 月 1 日から 平成 33 年 3 月 31 日まで |
1,000 万円 | 500 万円 |
平成 33 年 4 月 1 日から 平成 33 年 12 月 31 日まで |
800 万円 | 300 万円 |
■消費税が10%になった場合
契約締結日 | 省エネ等住宅 | 一般の住宅 |
平成 31 年 4 月 1 日から 平成 32 年 3 月 31 日まで |
3,000 万円 | 2,500 万円 |
平成 32 年 4 月 1 日から 平成 33 年 3 月 31 日まで |
1,500 万円 | 1,000 万円 |
平成 33 年 4 月 1 日から 平成 33 年 12 月 31 日まで |
1,200 万円 | 700 万円 |
注)年間110万円までの「暦年贈与」分もプラス出来ます。
さらに親に財産があり、将来の一次相続や二次相続で、子供たちに相続税の負担があるようだったら、兄弟姉妹で相続トラブルになる可能性も残ります。だから親の意志がしっかりしている時に住宅資金を「生前贈与」として援助してもらうことも検討に値するでしょう。『相続時精算課税』という2,500万円の贈与も可能です。ただしこれは「非課税」ではなく、親が亡くなって相続発生時に課税される「税の先送り」です。
それでも、将来親が認知症になったり、兄弟間で遺産分割で揉めたりすることを考えると、生前に親の意志で贈与を受け、しっかりと納税したほうがスッキリします。住宅取得時の負担を抑えて住宅ローンの返済が少なければ、その分先送りした納税分を貯めることも可能です。住宅ローン減税の還付金だけでも、相続時精算課税の納税資金として準備しておけば、将来慌てることはありません。
続いての記事は『住宅会社・営業マンの選び方と賢い交渉術』です。