自然災害のリスクと宅地(土砂災害警戒区域編)|若本修治の住宅取得講座-20

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前回の講座は、高台を造成した「盛り土の宅地」に関して解説しました。基本的に嵩上げしているので土石流のリスクは低いものの、巨大地震によって擁壁や法面の崩壊、地盤沈下などのリスクは小さくありません。前回の講座は以下参考にして下さい。

自然災害のリスクと宅地(大規模盛り土編)|若本修治の住宅取得講座-19

2019.02.07

今回は、低予算で土地探しをしていると遭遇する崖や擁壁のある土地です。西日本地区で幾度となく発生している『大規模土砂災害』に関して、自治体が後追いで指定強化している『土砂災害警戒区域』の宅地が増えてきました。特に中国地方は急峻な山がない代わりに、風化が進む花崗岩でできた小高い山や丘陵地が多く、平野が少ないため山裾に多くの住宅地が開発されてきたのです。

土石流の危険地域

Wakamoto
豪雨災害で最も怖いのは、逃げる余裕もなく建物を破壊する『土石流』。床下浸水や床上浸水などの水害は、よほど河川の決壊など急激な水位の急上昇がない限り逃げる時間的猶予はあり、人命への影響は土石流ほど大きくはありません。どのような宅地が土石流に襲われやすいのか見ていきましょう。

画像は2018年7月の西日本豪雨で被災した地域の半年後の様子です。真ん中を流れる川に土石流が襲い、この下流地域は多くの建物が土砂の直撃を受け建物が次々と破壊されていました。画像の左側の白い建物は、恐らく築5年以下の比較的新しい建物でしたが、川沿いの外壁やエアコンの室外機などは引きちぎられたままでした。

土石流は、山の沢に沿って崩落した土砂が、最も低い地形(=沢から川へ)を狙って下流地域に流れていきます。中国地方の山には『コアストーン』と呼ばれる直径2mを超える岩石が山に露出していて、このような大きめの岩石が転げ落ちていくと大きな被害に及びます。流れに勢いがつきカーブに遠心力が掛かると土石は川の護岸を越え、岩石や倒木などが橋脚で堰き止められるとそこから氾濫した川の水や倒木が、付近の住宅を襲うのです。

土石流の通りをイメージする

住宅を建てて安全かどうか、まずは自治体が出している『ハザードマップ』で当該エリアの危険性を把握しましょう。新規購入の場合は、宅建業者が重要事項説明で危険性を説明してくれます。そのうえで、自分でその地域の地形も航空写真やグーグルアースなどで確認して下さい。今はスマホでグーグルアースの三次元画像がスクロールできるので、がけ崩れや土石流が発生した場合のその地域の被害もイメージできるでしょう。

画像は、私が広島空港に到着する前に飛行機の窓から撮った写真。上空から眺めると、山から沢や川が流れ出ている急傾斜地周辺にも集落があることや、少し大きな川が蛇行して、どのあたりが川の決壊や水没の危険性がありそうか、想像がつくでしょう。地図ではなく航空写真で、二次元よりも三次元で確かめられるとより危機感が高まります。
実際に被災した地域を被災後に訪れると、自然災害の猛威が分かる一方で、災害も「自然の力学」を超えた不自然な結果は生じていないことが分かります。想定外の被災は人間が想定していないだけで、物理的にあり得ない事象は自然災害で発生することはないのです。「この場所が破壊されているのはごく自然だ」というのが、豪雨災害被災地で感じる次への教訓です。

地下シェルターの設置と避難

土砂災害の危険性のある地域は、住宅建設を回避するのが原則です。しかし既に長らくそこに住んでいて、人間関係や経済的にも建替えを選ばざるを得ないなど、立地が変えられず”建物側で災害リスクを減らして欲しい”と考えるケースもあるでしょう。レッドゾーンではなく危険性が低いイエローゾーンで、建築着工に規制のない場合に考えられる対策です。

平成の30年間で広島市の土砂災害警戒区域を襲った三度の豪雨災害では、豪雨の予測精度や避難指示のタイミングが問題になりました。しかし『正常化バイアス』など、自分の家は安全だという判断の揺らぎや、避難したほうが危ないタイミングや地域もあり、自宅の中で出来るだけ安全に一時的でも逃げ込める『シェルター』を設けることが望ましいのではないでしょうか?戦時中の『防空壕』や『地下通路』なども、戦火を免れ、集落の人たちがすぐに逃げ込めるシェルターでした。物理的に危険から命を守る先人の知恵です。

画像はドラム演奏をしても近所迷惑にならない『防音室』を半地下に造った事例です。土砂災害の危険性を感じたら、出来るだけ上層階(2階)で就寝したほうがいいと言われますが、新築をするのであればコンクリートで地下空間を確保し、土石流が流れてくる上流側に入口をつくらない『地下シェルター』を一体で造ったほうがコアストーンの直撃でも家族の命は守ることが出来るでしょう。

ハリウッド映画で、巨大な竜巻やハリケーン、大地震などのパニック映画でも、地下空間に逃げ込むシーンをよく目にします。土石流や津波も含めて、水密性を高めて水や土砂が流れ込まないようにさえ設計し、2~3日間生存のための換気、水や食料、連絡手段が確保出来れば、格段に大規模自然災害での生存の可能性が高まります。

地下室の耐震性と保温性

大規模災害の避難で、実際に避難指示や警報が発令されていても、避難場所が遠く避難所生活は過酷車の中のほうがまだ快適でプライバシーが守れるといった人たちが圧倒的です。その結果『エコノミー症候群』などによって災害関連死に繋がる人たちも一定割合発生しているのです。

画像は福岡県糸島市で分譲された『荻浦ガーデンサバーブ』という住宅地。日本と同様に地震が多く、建物の倒壊経験から長屋形式ながら耐震性を高めて美しいビクトリアン様式の連棟の建物が人気の「サンフランシスコの住宅地」も参考に、地下が一体化した船のような基礎をつくっています。

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基礎の型枠は断熱材をサンドイッチしてコンクリートを打ち込むため、型枠の解体費用も不要で、コンクリートの蓄熱効果で夏も冬も室温の変化が少ない空間を安価に提供しています。地震の揺れにも強いため、自然災害の時に避難できる「シェルター」として、備蓄品や避難用品を備えておけば、真冬でも真夏でも快適に過ごすことが可能な空間です。
2018年の西日本豪雨災害では、日中は40度を超える猛暑で熱中症で倒れる高齢者が相次ぎました。阪神淡路大震災や東日本大震災は、寒さで避難所生活は過酷な環境でした。広域避難所ではなく、町内会単位で地域の人数分に応じた地下シェルターを公的建物(公民館や交番・郵便局など)で備えることで、救える命は増えるでしょう。津波タワーよりも経済的です。

がけ崩れの危険地域

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土砂災害の警戒区域には、土石流の危険性だけでなく、がけ崩れや斜面崩壊が懸念されるような立地があります。土石流ほどの危険性は無くても、宅地造成が規制されている区域や、『がけ条例』といった建物の配置や構造に一定の制限がある土地も残っています。

広島市の土砂災害警戒区域

平野部の少ない広島市では、急激な人口増加に伴って、郊外の丘陵を切り拓き高台に数多くの大型団地が出来ました。元々の市街地は『デルタ地帯』とも呼ばれ、太田川水系の扇状地で、ほとんどの土地は津波や高潮で浸水の恐れのある『浸水想定区域』なので、戦後の経済成長で山を削った高台の開発が進んだのです。

図は広島市の都市計画審議会で示された災害リスクの地図です。モスグリーンが『浸水想定区域』で黄色が『土砂災害警戒区域』。市街化区域内で、危険区域を外せば、ほとんど住む場所がないほど危険と背中合わせの都市が広島市の現実です。

がけ条例

土石流ほどの大規模な被害にならなくても、裏山が崩れたり、古い石垣が膨らんで来たり、傾斜のある地形では崖や裏山にも注意が必要です。住宅地を購入する場合も、崖の存在によって思わぬ規制が入る場合があります。『がけ条例』と呼ばれる建築制限です。

画像は大型分譲マンション群がある広島市安佐南区のAシティですが、開発許可を得て宅地造成された検査済みの場所でも、新たに『土砂災害警戒区域』に指定されると、建物の新築や一定規模以上の増改築では、鉄筋コンクリート造など、土砂崩れがあっても安全な建物が求められます。

広島県のがけ条例による”崖の定義”は、敷地が2m以上隣接地や道路から高くなっている場所や、裏山が5m以上の高さがある場合に建物の配置や基礎の補強などの対策が求められます。広島県のホームページからイメージ図を引用します。

がけ条例について(広島県HPより引用)

高さが2m以上ある擁壁(コンクリートや石垣など)の上に建てられる住宅は、擁壁の下端から30度勾配で斜めにラインを引き、そのラインまで基礎を深くするか地盤補強を求められます。がけが崩れたとしても建物が傾かないようにというラインです。この角度を『安息角』といって、一般的な土砂は摩擦で30度勾配以下には崩れないという想定で決められています。

画像の現場は、下のお宅の敷地から2m以上の高低差があり、がけ条例に掛かるということで『ラップルコンクリート』と呼ばれる地盤の補強を施しました。画像左端に大木も生えていましたが、ご近所の方の依頼で残念ながら伐採しています。

バッファゾーンという発想

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バッファゾーンとは『緩衝地帯』という意味です。災害の危険が及ばないように少し距離を空けるとか、国家同士でもお互いが対峙することなく衝突の危険性を和らげるといった地域や空間がバッファゾーンです。広島では原爆ドーム周辺も、景観に配慮して高い建物や派手な看板等を規制するエリアを『バッファゾーン』として指定しています。

今回は、災害から”物理的”に距離を置くという意味でのバッファゾーンの提案です。

都市のバッファゾーン『平和大通り』は広島の都市景観としてなくてはならないものになっている。

平成以降も自然災害が繰り返されましたが、残念ながら土砂災害警戒区域はすでに規制が強化される前に造成された数多くの団地があり、敷地単体や土地購入者個人の負担で危険を回避できるものではありません。特に急傾斜地の多い広島県内の住宅地には、下の画像のような”宅地開発に取り残された地域”が数多くあり、新たな規制では災害が防げないのです。

中国地方最大の政令指定都市広島市は、戦後に大きな都市構造の変革に取り組みました。原爆の投下によりそれまでの街が壊滅したということもありましたが、災害に強い都市をつくるために、巨大なバッファゾーンを都市の中心部につくったのです。その一つが火災の延焼を食い止めて都市景観にも寄与した『平和大通り』であり、河川の氾濫により下流に大きな水害を繰り返していた太田川水系の「山手川」と「福島川」を改修・拡幅して直線の人工河川を整備した『太田川放水路』です。

もはや広島市も人口増加のピークが過ぎ、空き家も増加、土砂災害に見舞われた郊外の団地や山裾の住宅地は、避難所や仮設住宅から戻らず引っ越していく人たちで人口減が顕著になってきました。奇しくも『コンパクトシティ』や『立地適正化計画』など、出来るだけ都心近くに居住地域を誘導しようという流れになっており、今や人口密度が低く所有者も不明の山林に『治山ダム』や『砂防ダム』といった大規模なコンクリート構造物に多大な税金を投入するよりも、そのお金で移転の補償を行って、危険地域に住む住民の移動を促して『バッファゾーン』を整備したほうが都市の持続可能性が高まります。世界の潮流は『SDGs』という持続可能な開発です。

草原ビオトープ型ソーラーパーク

災害危険地域に住んでいる人たちにも『財産権』がありますが、現状では土地の価格は上昇することはあり得ず、建物も残念ながら価値は落ちる一方です。それは地方都市全てに言える状況で、逆にいえば「売らない限り損は確定しない」と考えれば、危険地域に住み続ける限り価値下落が表面化することはなく、固定資産税負担だけが割高で支払い続けなければならないということと同義です。つまり負担もリスクも大きいのです。

100年後の災害で、土石流を押し留める強度があるかどうかも分からない砂防ダムに大金を投じても、50年後には住民が半数以下になる地域でもあり、今のうちに土木工事への公共事業費を、住民移転の補償費に変え、さらにヨーロッパで行われているような自然エネルギーのソーラーパークとして整備すれば、そこからエネルギー利用の収益も生まれます。

Wakamoto
特に『草原ビオトープ型』と呼ばれるソーラーパークでは、絶滅が危惧される昆虫や爬虫類、鳥類などが増え、生物多様性の復活が報告されています。再生可能エネルギー投資は、県外の大手企業ではなく、地元自治体と地元民による『自然エネルギー組合』が出資・経営することで、住民には定期預金や国債以上の利回りの配当が行われているのがヨーロッパの先進事例です。

まとめ

私は2014年に発生した広島土砂災害で、広島市の幹部職員が犠牲になったことを知りました。1999年の豪雨災害発生後、国会議員や国土交通省などに奔走して窮状を訴えかけ『土砂災害防止法』成立に大きな役目を果たした広島市の部長です。安佐南区の毘沙門台にある自宅で被災し、帰らぬ人になりました。

画像は、その当時私も災害ボランティアとして床下の泥出し作業を手伝った安佐南区八木5丁目の土砂災害の現場です。国土交通省のゼッケンをつけたダンプカーの前にある右端の大きな岩は、山から転げ落ちてきた『コアストーン(花崗岩)』ではなく『治山ダム』が破壊され、転がり落ちてきたコンクリートの塊でした。砕石が混じったコンクリートだと気づき、人工でつくられた土木構造物の限界を知りました。東日本で巨額な投資をされている防潮堤も同じです。

もはや多発する自然災害と、逼迫する自治体の財政を考えると、その場所に人の生活も生産活動もない山林をかき分けて工事用道路をつくり、コンクリートと鉄筋の塊である『砂防ダム』『治山ダム』で、下流の住民を土砂災害から守るという発想自体が、さらなる自治体の財政悪化と将来の危険を繰り返すだけではないかとこの現場を見て感じました。

実際に2018年の豪雨災害では、安芸区矢野で春に完成したばかりの治山ダムに安心して、避難指示の警報でも逃げなかった住人が犠牲になりました。古い土木構造物ではなく、陳情を重ねて出来たばかりの治山ダムを超えて、土砂が住宅地を襲ったのです。

正常化バイアスの罠
ゲリラ豪雨線状降雨帯の発生の予測精度を高めたり、避難指示のタイミングや伝え方の改善、住民の避難意識を高めるといったことが、何年先に起こるか分からない豪雨災害から市民を守り切れるとは思えません。また『正常化バイアス』といった避難を避けようとする人間の習性・心情や、安全とは言えない避難経路、劣悪な環境を強いられる避難所など、技術立国・先進国とは思えない状態が阪神淡路大震災以降、東日本大震災も挟み二十数年間続いているのが日本の実態です。
Wakamoto
災害のリスクを減らし、少なくとも人命を守るためには、物理的に自然の猛威が及ばないような『シェルター』の整備や『バッファゾーン』にこそ、限られた財源を投入し、身体が不自由な人や高齢者、妊婦や赤ちゃんを抱いたお母さんなどでも2~3分で安全な空間に逃げ込めるような配慮が必要でしょう。それは『人が日常的に生活している場所』への投資であり、未来にわたって安全を高めるための創意工夫・維持管理、そして住民への啓蒙が出来る投資です。

それが『コンクリートから人へ』の本当の投資ではないでしょうか?

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ABOUTこの記事をかいた人

≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。