最近の問合せで増えているのが、地震や豪雨による水害など自然災害によってせっかく購入した家が損傷を受けたり不動産価値を棄損しないだろうかということ。建物の性能や品質よりも、どこに住んだら安全なのかの優先度が高まっています。
そこで今回の講座では、住宅用地を探す段階で知っておきたい宅地の安全性や、過去の土地形状の把握方法などについて事例紹介していきます。土地探しからスタートする人は、購入希望の敷地単体だけでなく、しっかりその宅地が出来る前の状況や災害へのリスクも確認の上で購入に踏み切って下さい。一度買ってしまったら、容易に移り住むことは出来ないのが不動産取得です。
目次
高台の盛土造成地
平成30年に発生した北海道胆振東部地震では、見た目平坦な住宅地が液状化で道路は陥没、家々も傾き、その後”谷を埋めて造成した宅地”だったことも分かりました。現在の状況を見ただけでは、災害のリスクは分からず、地盤調査で補強しても大規模な液状化になれば、被害は免れません。
なぜ谷を埋めるのか?
昭和の終わり頃、バブル経済によって土地価格が急騰、既成市街地や都市近郊は、一般のサラリーマン世帯が庭付きの一戸建てを取得するには土地代が高くなり過ぎました。大都市圏では狭小地の三階建てのニーズも生まれましたが、多くは山や田畑の残る郊外にスプロール化し、広島都市圏ではなだらかな丘や山が削られて高台の団地が次々と開発されたのです。
当初の大規模団地は、山や丘の傾斜に沿って、多くの土砂運搬がないように、北側斜面での団地造成でも、地形そのまま北向きのひな壇状で日当たりの悪い分譲地を売出したり、すり鉢状の谷に向かって開発された急こう配の団地も登場しました。土地価格の高さや土木技術の低さ、小規模デベロッパーによる開発が中心だったので、切土・盛り土は周辺道路の造成や、敷地の高低差を解消する小規模の擁壁くらいだったのです。ちょうど、呉市や尾道市など、坂の多い古い町のような景観です。
しかしバブル崩壊で土地の価格も落ち着いてきて、新しく土地を買い求める人たちは、日当たりや景観なども気にするようになりました。谷になっているような場所は日中でも薄暗く、午後3時くらいになれば庭は日が陰ってきます。北斜面や谷沿いに開発した住宅地は売れ残り、宅地開発したデベロッパーや造成工事を担当したゼネコンも不良債権を抱えるか破綻していったのです。
大規模な土木工事、宅地造成の背景
郊外の大規模団地は、リゾート開発ブームに沸いたバブル期に、ゴルフ場開発などと共に、大規模な土木工事を担う全国規模のゼネコンやゼネコン子会社が開発プロジェクトに参画しました。バブル崩壊で塩漬けになった二束三文の山林・荒地を買い、元の地形が分からないほど巨大なコンクリート擁壁やブロック、アスファルト舗装をすれば、その加工が宅地価格を嵩上げし、莫大な開発利益が得られるのです。決して別荘地のように、出来るだけ自然を残し緑の中に家が点在するような住宅地では、手間ばかりかかってゼネコン利益にはならないのです。
画像は広島市安佐北区の大型団地『若葉台』。わざわざ道路との高低差をつけて、日当たりや眺望が確保できるように見えるが、道路と勾配は同じだから、宅地のブロック擁壁はこれほどの高さは不要です。駐車場との高低差が出来るため、アプローチに階段が必要で、基礎工事も高くなる懸念がある敷地です。
水の流れ、調整池の確認
敷地の高低差くらいは、現地で簡単に目視できます。しかし谷だったところを埋めたかどうかは、宅地造成が終わった現地ではほとんど分かりません。実際に土地選びをする時には、その団地内で降った雨がどこに集まっていくのか、排水の経路をイメージして下さい。最近ではスマホで航空写真が見られるので『調整池』を探せば、そこが低い場所だったということが想像つくのです。
画像は前出の『昔の航空写真』で過去と現在を並べて比較した住宅団地の、ダム湖畔からの写真です。「レイクサイド」といえば聞こえが良く、湖畔に公園があるからとてもロケーションが良さそうに感じます。赤い楕円で囲んでいる場所が宅地で、多くの住宅が並んでいますが、ここから見れば明らかに谷を埋めた土地だということが分かります。まるでそこに見える法面がダムのような地形です。
山頂から俯瞰してみよう!
山登りが好きな人は、是非自分が購入しようと考えている団地を山の頂から見てみましょう!その団地のどのあたりが山を削った『切土』で、その土を埋めた『盛り土』はどこらか、昔の等高線を想像しながら眺めると、土砂災害の危険性なども気づくことが出来ます。
画像は、分譲時には土砂災害危険区域に指定されていなかった戸建て分譲地。しかし2014年の大規模土砂災害を経験し、広島県が調査した結果、一部は『土砂災害特別警戒区域』に指定されました。山の中腹から団地を眺めると一目瞭然ですが、当時分譲地の案内をしていた現地販売センターでは、誰も気づかなかったのです。
なぜ水平な地形をつくるのか?
高台の団地にアクセスする時、上り坂で団地が見えたら車を停めてその団地のライン(シルエット)を見てみましょう。実は、安く手に入れた山林を高く売るためには、団地の最前列を水平にすれば、そこからの眺望が大きなウリになって、初期の販売時に競争倍率の高い、買いたい人が殺到する団地になるのです。(画像は安佐南区の『春日野』)
まさに劇場のS席と同じで、眺望を独占できるからこそ競争率が高まって、A席やB席も高く売れるのです。しかし実際に水平で一直線の土地は自然の地形ではありえず、相当な深さの「盛り土」になっているのです。当然、地盤は固くはありません。
活断層の過半数は知られていない
平成最後の年が明け、まだお正月気分で帰省ラッシュが始まった1月3日、地震速報が激震として伝播しました。熊本県和水(なごみ)町で『震度6弱』の直下型地震のニュースです。
幸い2016年の熊本地震のような被害はなく、建物の損傷も軽微でした。しかし専門家さえ驚いたのが、この地域には地震学者が確認している活断層はないのです。熊本県益城町のような『日奈久断層』や『布田川断層』といった既知の断層帯はないエリアでした。
まとめ
平成の30年間で、これだけ科学技術が発達し、スーパーコンピュータによる災害の予知・予測も飛躍的に高まりましたが、それでも『想定外』の被害が多発しています。益々災害の規模は大きくなり、災害後に規制の強化や災害の教訓が語られます。
しかし、行政による避難指示や、事前に配布された『ハザードマップ』に危険性が記載されていても、岡山県真備町や広島県三原市の船木地区など、地区が水没し逃げ切れなかった犠牲者が、多数見つかったことは”自分の身は自分で守る”と”平時から自分の住む場所の危険性を十分認識する”ということが重要だということが分かります。
新たに住宅を取得し、移り住むのであれば、探す段階で”物理的に災害に遭わない”場所を選ぶのが賢明で、もしリスクが残るのであれば、建物側でリスク低減の工夫も必要です。
人工的につくられた造成地は、開発したデベロッパーや工事を担当するゼネコンが、売れ残りがなく利益を最大化することを目的で、大規模なプロジェクトの資金負担と長期に亘る工事・販売センター運営のリスクを負っているということを頭の隅に入れて、過去の地形と現在の造成地を見比べて下さい。