前回の講座では、主に「長期保証」について学んでいただきました。私は長期の”保証”よりも、むしろお引き渡し後の定期点検の中身とメンテナンス対応のほうが大切だと思います。現実的には、着工前にどのような「設備」や「仕様」を選ぶかで、将来のメンテナンスも変わってくるのです。前回の講座は以下復習して下さい。
目次
定期点検
しかし「長期保証」でも学んでもらった通り、住宅建築は複数の大工・職人たちによる数か月にわたる屋外作業で造り上げるため、”天候や作業者のスキルによって品質に影響が及ぶ”のが実態で、うっかりミスや材料の発注ミス、未熟な職人による不具合などが潜んでいる可能性は否定できません。だからこそお引き渡し後『10年間の瑕疵担保保証』が義務付けされ、それ以上の長期保証があることを業者選択の判断材料の一つにもなっているのです。
建物に欠陥があった場合に、施工者が10年間は無償で直す義務を課した『瑕疵担保保証』も、原則「主要構造部」と「雨漏り」の不具合です。事象が発覚しなければ気づかないため、通常入居後に1年・2年・5年・10年といった間隔で、施工者側が定期点検を行います。
1年点検のポイント
お引き渡し後1年が経過する前に、家を建てた施工者側から1年点検のお知らせハガキが届くと思います。点検内容は、それぞれの会社によって異なりますが、大きく分けて(1)外部周り、(2)構造躯体、(3)室内内装、(4)建具、(5)設備に関して、社内規定に応じてチェックしていくと思われます。それぞれチェックポイントを記載します。
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外部回り
1年程度で劣化する部分は少ないので、まずは1年でも不具合が表面化しやすい『基礎モルタル』(基礎巾木とも言います)のクラックや水染みなどの確認をします。基礎モルタルは、コンクリート基礎を保護するために最終仕上げで薄くモルタルをコテ塗りするもの(画像)で、乾燥収縮による表面の微細なクラックであれば強度に影響はありません。
ただし基礎換気口周りでクラックが大きく、基礎本体にまで及んでいる場合には、地盤沈下(不同沈下)等の懸念もあり、詳細調査が必要です。
また内部結露によって水染みなどが生じていると、土台が湿潤状態になってシロアリ被害のリスクもあり、室内から床下に潜っての点検も必要です。劣化具合としては、外壁のコーキング(シーリング材充填箇所)や雨樋などの紫外線による劣化が早い材料は要確認です。
タイル張り等であれば、浮きや目地等を確認していきます。北側の壁にカビやコケ類などが生じるようであれば、ヒートブリッヂなども疑われ、壁内部で結露している懸念もあるため、構造材の含水率やサーモグラフィーによる温度分布確認など、詳細調査をすることをお勧めします。 -
構造躯体
構造躯体の確認は、主にボルトナットの緩みと、断熱材の欠損が生じていないか、構造躯体に雨漏りや結露などの跡がないかの確認です。表面からは見えないので、点検口から床下や小屋裏に入って目視します。
ボルトナットの締め忘れは論外ですが、木造の場合は乾燥収縮で木が痩せるため、ナットが緩むケースがあります。「スプリング・ワッシャー」と呼ばれる、バネ付の座金(画像)など緩み止め機能のあるものもありますが、ひと通り確認していきます。結露や雨漏りによって木材が湿潤状態になっていると、シロアリが好む環境になるので、木材の水染みやカビの発生、蟻道も確認します。 -
室内内装
室内は、おもに壁や天井がクロス貼りの場合、クロスの剥がれやよじれの確認です。子供たちが小さければ、破ったり落書きの跡などもあるかも知れませんが、必要に応じて補修をします。
床が無垢材の場合は、樹種によって傷がつきやすく、また乾燥収縮によって冬は隙間が、夏は湿気で木材同士が押し合って不陸が生じる場合があります。お引き渡し時に保証書などと一緒に渡されている床材のメンテナンス資料に応じて、オイル拭きやワックスがけなど、適切なメンテナンスを行います。
内装に関しては、おおむね1~2年と保証期間が短いので、保証が切れる前にカバーできる範囲はみてもらいましょう。 -
建具
毎日のように開け閉めする内装のドア、引戸は、ヒンジやドアクローザーなど、スムーズに開閉できるよう調整をしてもらいます。ちゃんと施錠が出来るか、日頃の使い勝手などについても伝えましょう。特に、クローゼットなどの折れ戸は、建付けが狂いがちで指を挟んだりするケースもあるので、気がついた点があれば施工者にフィードバックして下さい。
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設備機器
キッチンや洗面化粧台などの水回り設備のほか、アンテナや通信、火災報知機などの弱電設備、照明やエアコンなどの家電設備など、多くの設備機器が、施工者の保証・メンテナンスというよりも製造メーカーによる保証が中心です。おおむね1~2年程度の短期保証がほとんどでしょう。不具合だけでなく、使い勝手で気づきがあれば、定期点検の時に施工者側に伝え、メーカーにフィードバックしてもらうことをお勧めします。
例えば、セルフクリーニングできるエアコンを吹抜けに付けたところ、7~8年くらいで故障し、結局手の届く場所に付け替えたケースや、トイレ一体型のタンクレス洗浄便座の場合、基盤の取り換えだけで済めばいいものの、10年も経てば部品が無くなり便器をすべて取り換えるといったケースも出ています。
住宅金融の公的機関『住宅金融支援機構』が、入居後の住まいの保守管理に関して、サイトで情報提供しています。『マイホーム維持管理ガイドライン』や『マイホーム点検・補修記録シート』などもPDFでダウンロードできるので、施工者側のチェックと併せて自らもチェックされるといいでしょう。
https://www.jhf.go.jp/loan/hensai/hosyu_kanri.html
メンテナンス
100年住宅と呼ばれた『長期優良住宅』は、計画時に長期修繕計画の添付が義務付けられました。補助金を得るためには、工事途中に構造見学会を開催するなど、近隣にも啓蒙する役割も求められています。優良な住宅のストックを形成していくためには、新築時の品質や性能だけでなく、適切なメンテナンスが欠かせないことを国としても推奨しています。
建物の耐久性維持
従来、木造住宅は自分の山に生えた木材を伐採・乾燥させ、地元の大工さん・職人さんたちの手を借りて1年以上の年月を掛けて建てていました。支払いは基本的に現金で、一度家を建てたら何世代にもわたって家族が住んできました。私が生まれ育った山口県の生家も、実家に届く課税明細書を見ると『農家住宅 明治24年』という建築年次が記載されていて、120年を超えて現役で人が暮らす家が使われてきたことが分かります。
本来、どの国でも住宅は世代を超えて維持・管理しながら、長く使われることで地域の景色もつくってきました。明治・大正時代の古民家や商家、洋館など、普通の市民が暮らした建物であっても、100年程度の耐久性を維持できることは歴史が証明しています。それは昔の建物が長い庇・軒による日射・雨掛かりの軽減や、風通しの良い間取りによって外気と室内の”湿気や温度変化”が少なく、構造体が比較的乾燥していたということもあるでしょう。木造の建物には湿気が大敵です。
戦後は、住宅ローンが登場し、プレハブメーカーも設立され、建物は新建材が使われ閉鎖的になって、壁の内部には湿気がこもりやすい状態になりました。室内と戸外の温度差によって壁内部が結露、構造体が腐朽したりシロアリ被害に遭うなど、昔の建物よりも耐久性が低くなったのです。基礎コンクリートを使うことになって、床下にも湿気がこもりがちとなり、また砂の品質やかぶり厚さ不足などによるコンクリートの劣化なども早まって、日本の住宅の寿命は「30年程度」とされてしまいました。
物理的耐用年数の維持
住宅の劣化・風化は、外部環境にさらされることでの「紫外線」「風雨」「温度変化」による劣化や変形、色褪せと、長短期荷重の負荷が掛かることでの「金属疲労」「緩みや変形」「耐力減衰」、そして素材自身の「経年変化」および害虫などの「食害」による劣化などに分類されます。
形あるものは、すべて崩壊に向かいますが、化学反応によって結合している有機物や工業製品と、自然界の力で結合している無機物、天然素材では、耐久性や耐用年数は異なってきます。人工の加工品であってもレンガやタイル、漆喰、施釉瓦などの無機物は、長い耐用年数が見込まれます。無垢材の木材も、十分な乾燥状態が保てれば、木の樹齢の長さと同じくらい、伐採後耐久性が続くとも言われ、適切な材料選択と劣化の回避を心掛ければ、長寿命の住宅も可能です。
社会的陳腐化の回避
手入れのされていない築30年の住宅は、中古物件として内覧した時に、建物自体に魅力を感じることはほとんどないでしょう。立地条件の良さか、価格の安さが選ぶ理由になり、建物自体は新築時の10分の1の価値もないのが実態です。予算に限りがある人は、リフォームやリノベーションで住み続けるでしょうが、余裕のある人は耐震性能や省エネメリットも考えると、建替えを選択されます。
その時に、やはり住宅展示場や最新の住宅雑誌を見て、流行りのデザインや新製品を使うと陳腐化の速度が速く、35年ローンを組んでもローン返済が終わる前に”他人にとっては魅力のない住宅”として、また同じことを繰り返します。総合展示場に最新モデルが並ぶ中、10年前に建てられた展示場がそのまま使われていたらきっと「古臭いモデルハウスだね・・・」と感じるでしょうし、ハウスメーカーは撤退か建て替えを迫られるでしょう。
劣化対策等級
設計段階や施工において、耐久性の基準となる施工方法や等級が定められています。『耐久性・可変性に対する基準』として、主に構造躯体に対する「劣化対策等級」と、給排水の配管の交換など「維持管理対策等級」が、住宅金融支援機構の『フラット35S』や『住宅性能評価制度』などで指定することが可能です。
劣化対策等級は3段階、維持管理対策等級が2段階に分けられ、最も高い基準をクリアするのは「劣化対策等級-3」および「維持管理対策等級-2」の双方をクリアしていることです。詳しくは、住宅金融支援機構の該当ページをリンクしておきます。
https://www.flat35.com/business/standard/flat35s_taikyu.html
建物の資産価値維持
日本で出来るだけメンテナンスを避け、維持管理コストを掛けない理由は、建物を売却する時に確実に新築時よりも価格が下がっているからにほかなりません。自動車の下取りを考えても、プレミアムがついて値上がりする可能性があれば、丁寧に維持管理し、価格が下がる前に次の購入者に譲るでしょう。
欧米の住宅は、基本的に「適切な維持管理をしていれば、新築時よりも高い値段で売れる」のが当然な社会になっており、手を掛けることで、経済的メリットも得られます。だから8~10年くらいで家族構成が変われば高く売却して次の環境に移ります。家族構成や年齢の変化は「ライフステージの変化」だけでなく「生活スタイル」も当然変化するのです。
自分の建物だけでなく、お隣の芝刈りの管理状況から近隣の犯罪発生率、教育環境までが、不動産物件の値上がりに影響を及ぼすから、建物単体以上にロケーションや景観、行き届いた管理などに時間とお金を使い、近隣にも口出しするのです。
まとめ
欧米のように、入居した時よりも売却した時のほうが高くなっているという社会は、日本ではなかなか来そうにありません。しかし古い分譲マンションを見るように、長期の修繕計画を立てて適切な維持・管理をしていると、結果的に突発的な修繕費の支出は避けられ、良好な状態が維持できます。出来れば外構なども含めて景観の維持も努めたいですね!
筆者が住んでいる住宅地の画像もご紹介しておきます。新築時に入居して23年を経過し、大規模修繕も行いましたが、古びた印象のない人気が続く団地です。
では、今回の講座のワンポイントアドバイスです。
ワンポイントアドバイス
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施工者の定期点検の機会を活かそう!
⇒ 長期の保証よりも、入居後の適切な点検で短期保証の部材をチェックしよう。
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建物の耐久性の維持と耐用年数延期
⇒ 新築時の「劣化対策等級」と、耐久性の高い素材選びが耐用年数のキモ。
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物理的な耐用年数以上に社会的陳腐化を避けよう!
⇒ 将来の売却も念頭に、外観のデザインや周辺の環境を魅力的に維持すること!
では、また次回の講座をお楽しみに!