前回の講座は『地盤調査(地耐力検査)』について解説しました。
以下クリックしてもらうと、第1回の講座を復習できます。
第2回の講座は、地盤調査の結果、地耐力不足が指摘された場合の『地盤補強工事(地盤改良)』の解説をしていきます。地盤改良が必要とされると、少なからぬ費用も発生するため、大まかでも工事費の目安もお伝えします。ただしこの講座は、最も建築されている木造一戸建てを対象としています。
目次
地盤補強工事の必要性
私が自宅建築の相談を受けた広島県廿日市市の方は、JR駅前の区画整理によって一旦既存の自宅を立ち退きし、その後の自宅の再建築で、複数の地元優良工務店から建築業者を選べる『住宅CMサービス広島』を利用されました。私が2002年から提供しているサービスです。
区画整理の土木工事は、大手スーパーゼネコンの土木部門で施工され、大型ダンプや大型重機が入って、都市計画道路の整備や新しい区画で宅地造成が行われました。新しく大量の土も搬入され、市役所の完了検査を受けて相談者は土地の引き渡しを受けました。海に近い訳でもなく、ほぼ平地で宅地の表面はしっかりしていましたが、実際には地盤改良が必要となったのです。
この事例のように、日本の誇る土木技術で新しく造成され、役所の完了検査を受けて引渡しされた”宅地(=住宅を建てる前提の土地)”でさえ、表面的に固く見えても地表の下は軟弱地盤があるケースは少なくありません。ガレージのある木造二階建て住宅で、大きなベタ基礎になりましたが、地盤補強なしでは建物が沈下するリスクがあるという判定です。
地盤補強が必要な地耐力
地耐力とは「支持力」と「沈下」の2つの要素からなる地盤の強さです。
例えば10kN/m2という支持力は、1m2あたり10kN(キロ・ニュートン)の荷重に耐えられる地盤ということで、約1トンの重さを支えるという強度です。2000年以降、地盤調査を行うことが義務付けられたので、これから新築する人は、昔のように地盤沈下で建物が傾き、ドアの開け閉めが出来ないといったことはほとんどないでしょう。
地盤調査と地盤保証はほぼ「セット」となっているため、地盤補強せずに建物が傾いても保険で修復できることがほとんどです。しかし地震などの自然災害は免責になっているため、保証の範囲などはしっかりと説明を受けておきましょう。通常、調査と保証を併せても10万円以下の負担で済みます。(地盤改良・補強工事に掛かる工事費は別途です)
地盤調査結果で分かった地耐力で、30kN/m2以上の固さがあれば、基礎形状は『布基礎』と呼ばれる、建物中央部に鉄筋やコンクリートがない”土の状態”の基礎でも可能です。20kN/m2に満たない場合は、以下の表の通りくい打ちによる地盤補強が必要です。
がけ地の地盤補強
地名で「谷」や「沼」「田」などの漢字がつく地域は、地盤が緩いと考えられます。地盤改良を行わないと、建物の荷重だけでじっくりと『不同沈下』が進み、じわりと建物が傾いていきます。しかし傾きは『アンダーピニング工法』といった建物をジャッキアップする方法もあり、修復はそれほど大変ではありません。
東日本大震災や熊本地震で倒壊や全壊した建物で、地盤に起因する被害が多数出ました。特にひな壇造成された擁壁が崩れ、建物の倒壊に至ったケースです。
上記画像のような”ひな壇造成”された土地は、仮に大きな震災や大雨によるがけ崩れの発生があった場合、石垣や擁壁が崩壊すると建物自体も大きな損傷を受けます。地盤沈下で傾いた建物以上に修復は容易ではありません。熊本地震によって、強固な石垣が崩落して床下があらわになった『熊本城』の櫓が衝撃的でしたが、基礎が宙に浮いた状態で建物がゆがみ、倒壊の危険性も生じます。その場合には近隣の建物にも被害が拡がります。
このような石垣による擁壁は、残念ながら役所によっては安全な強度があると認められず、地域の条例で定められた『がけ条例』といった建築規制により、くい打ちなどの地盤補強か深基礎によって基礎強度を高める追加工事が要求されます。基本的に、補強なしではがけ下から”30度勾配の範囲内(自然に崩落が止まる安息角)”には、自分の敷地であっても建物を建てられないといった制限が掛かるのです。
https://e-sumaile.net/start/aseismatic-structure/2#i-4
水害と地盤補強
近年、巨大地震だけでなくゲリラ豪雨による洪水や水害も増えています。2015年に発生した茨城県常総市の鬼怒川堤防決壊や、2017年の福岡県朝倉市の土石流被害など、普段は危険だとは思わない地域で、数多くの家が流される災害が発生しています。2014年の広島市の土砂災害のように急傾斜地の災害危険地域でなくても、いつ災害に見舞われるか分からないのです。
右の画像は、旭化成ホームズ(株)がカタログとして発行している『鬼怒川復旧レポート』からの、堤防決壊で流されずに押し留まった「白い家」です。テレビニュースでも何度も紹介されて記憶にある人も多いでしょう。
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地盤補強工事の種類
地盤補強には数多くの種類がありますが、比較的採用事例の多い代表的な工事は以下の通りです。
表層改良工法
軟弱地盤がそれほど深くない場合に採用される工法。表層から2m程度の範囲で土を掘り起こし、セメント系固化剤を混ぜて固めます。ローラーで平坦に転圧することで、基礎下の「面全体」が安定した土に変わり、地震にも強い地盤となります。
左の画像は、高台を開発した新しい分譲地で、低いブロック擁壁の脇が地耐力不足で表層改良を行ったケース。比較的安価で工期も短く、概ね50万円以下の工事で済むでしょう。
セメントの撹拌で発生する六価クロムが問題になるため、その対策は必須です。
柱状改良工法(コンクリート杭)
軟弱地盤が地中5m以上と深く、その下に固い地盤があるという場合に採用される工法。大きなドリルで地面に穴をあけながら、液状化したセメント系固化剤を注入していきます。30cm以上の太さのコンクリート杭が基礎に沿って並び、建物全体を支えます。
コンクリート杭の本数と深さによって工事費に差が出てきますが、概ね50万円以上~100万円台が目安です。
水で液状化した柔らかいセメントを注入する工法なので、低振動・低騒音の工事が可能。
砕石改良工法(砕石杭)
柱状改良工事の一種で、地下水位が高い場所など、セメントが固まりにくく液状化の可能性がある地盤で採用されることが多い工法。セメントを使用しないので、六価クロム汚染の懸念もなく、天然の砕石なので、将来土地を売却する場合も地下埋設物として撤去が不要というメリットもあります。
柱状の太さや本数等は、コンクリート杭による柱状改良工事と同様で、工事費も同程度か若干高いくらい。砕石の隙間から水を通せるため、液状化で杭の形が崩れるリスクが抑制され、半永久的に強度を保つことが出来る工法です。
しかし砕石自体は固まらないため、砕石に圧力を掛けながら穴が崩れないよう、施工には細心の注意が必要です。
小口径鋼管杭工法(鋼管杭)
柱状改良と同様、軟弱地盤が地中深く、強固な地盤がある『支持層』まで8m程度ある場合に採用される工法。直径が120mm程度の小口径の鋼管パイプを地面に貫入させていきます。施工時に掘削土や泥水が発生せず、数多くの鋼管が撃ち込まれます。
柱状改良よりも杭のピッチが狭く杭の数が多いことから、パイプ周りの「摩擦力」とパイプ先端の「支持力」、そして地盤自体の「地耐力」によって建物を支えます。パイプの長さが4~5m程度で収まることは少なく、長くなりがちで本数も多いため、柱状改良よりも割高になるケースが多いようです。概ね100万円前後から200万円未満が目安だとお考え下さい。
地盤が液状化した場合は、鋼管製のパイプも同じ場所で直立したままというのは考えにくいため、最近では砕石杭を選ぶケースも増えています。
シート工法
不織布を縦横に重ねて敷地全体に敷き込み、ハンモックのような効果で建物荷重を分散する工法。
画像の土地は、元々農地だった場所で全体的に地耐力が弱く、限られた費用での地盤改良を検討していた時に地盤改良業者から勧められた新しい工法です。埋立地の空港滑走路や高速道路などでも利用されているという工法で、大型重機も不要で騒音もなく、低コスト・短工期となります。
土壌汚染のリスクもなく、将来の撤去も容易です。目安として30万円~50万円程度の改良費用で収まるでしょう。
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まとめ
雪の上のスリップ事故を考えても、車のボディーを強化して運転手や同乗者を守るよりも、雪の接地面が滑らないようなスタッドレスタイヤ(冬用タイヤ)の性能を選んだほうが安くて効果的です。同様に、地震での揺れを考えた時に、建物の耐震性を高めることはもちろんのこと、より効果があるのは”実際に揺れる場所”の改良工事です。
それぞれ、立地によって土壌の質や地層の傾き、地下水位の高さや、造成による土地の加工など、それぞれに地盤の固さや揺れやすさなどが異なるため、地盤調査(地耐力検査)結果を踏まえて、適切な工法を選んで下さい。
地盤改良業者も、改良工事を得るために安価な「地盤調査」を呼び水(=販売促進)にする業者もいるため、建築業者任せで選ばず「セカンドオピニオン」として、別の業者さんからも情報を得たほうがいいかも知れません。
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