大震災でも壊れない木造一戸建ての耐震性と安全性【若本修治の住宅取得講座ー14】

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壊れた理由で安全性を考えよう

Wakamoto
実際に2016年4月に発生した熊本地震で、耐震等級ー2の建物が倒壊し、大手ハウスメーカーが建てた軽量鉄骨のプレハブ住宅も2棟倒壊が確認されています。大手プレハブメーカーは、テレビや新聞等のマスメディアの大スポンサー(広告主)なので、都合の悪い情報は社会問題にならない限り報道されませんが、なぜ倒壊したのか考えることが予防策に繋がります。

震災発生3か月後に、被害の大きかった益城町から西原村に向かう途中で撮影した風景。

16万棟を超える住宅被害を出した熊本地震は、震災後の熊本県の調査結果で建物全壊が8,651棟半壊が32,478棟でした。しかし一方で、建物倒壊が直接原因となる圧死などの死亡者は37人で、2014年に広島市郊外を襲ったゲリラ豪雨による大規模土砂災害の死者数(74名)の半数です。

亡くなった37人の方々が住んでいた家屋やアパートの数は34棟。そのうち建築時期が特定できた25棟の建物で、旧耐震基準から建築基準法が改められた昭和56年6月以降(震災時に築35年)に建てられた建物はわずか2棟。人命を失った建物は、そのほとんどが旧耐震基準の老朽化した建物だったことが分かります。

築15年以上の建物は、すべて旧耐震基準だった『阪神淡路大震災』では、建物倒壊による圧死も多かったものの、それ以上に数時間後に発生した火災による死者で負傷者を助けられなかったことも被害を拡大させました。

また東日本大震災も、地震による建物倒壊の犠牲者は50人にも満たず、その後発生した津波による死者・行方不明者が圧倒的な数でした。震災の建物倒壊が直接の要因となる犠牲者は減少しています。

つまり、熊本地震のような震度7クラスの巨大地震が、2日後にまた繰り返された結果で犠牲者を増やしたものの、1981年以降の「新耐震基準」や、2000年の『住宅品質確保促進法(通称:品確法)』のタイミングで新たな告示がされた「2000年基準」では、地震倒壊による犠牲者は極めて少ないということです。

これから新築を建てる方は、前出の「柱の直下率」や「耐力壁のバランス」等がでたらめでない限り、地震で命の危険にさらされることはまずないと考えてもいいでしょう。そうなれば、将来予測できない大きな地震に対して、どこまで耐震性能や建物損傷の予防や復旧の保険・保証に費用を投じるかということです。

耐震等級の基準は、実は『地域地震係数』と呼ばれる補正によって、熊本県や福岡県などは巨大地震が発生しにくいとされています。熊本の補正値は「0.9」なので、1.5倍の強度(耐震等級-3)でも実際は1.35倍なのです。

頭が重い(重心が高い)建物

熊本地震で衝撃的だった映像の一つに、歴史ある『阿蘇神社』の楼門の倒壊がありました。あれほど太い木材を使い、腕のいい宮大工が手抜きすることなく、長い歴史に耐えてきた建物です。私自身とても気になったので、震災から約二週間後の2016年5月2日に現地を訪れてみました。さぞかし周辺の住宅も倒壊や大破していて、参道の道路も地割れや隆起で通れないかも知れないと思いながら現地に到着してビックリです。

阿蘇神社の駐車場や、その周辺の建物はほとんど無傷で、境内脇の老朽化した家屋や古いブロック塀さえ被害が感じられないのです。そのすぐ向こうで、阿蘇神社の楼門や拝殿の屋根が折り重なって倒壊しているのが見えたのです。以下当時の駐車場周辺の写真を掲載します。

阿蘇へのアクセスは、大分県日田市から熊本県小国町の黒川温泉に宿泊し、やまなみハイウェーから阿蘇のカルデラに降りて行きました。途中、がけ崩れによる通行止めや、屋根瓦の落下によるブルーシートを架けた民家などは目にしたものの、このエリアでは大破や倒壊した建物はほぼない状態です。

この状況を見ると、倒壊の原因は”建物自体の荷重”と”屋根が大きく重かった”ために重心が高く、横揺れに弱い構造だった可能性が高いと言えます。現地で社殿復旧の奉賛を行いましたが、震災前の楼門の写真を見ると、そのことが改めて感じさせられました。

戸建住宅においては、阿蘇神社の倒壊は「特殊な建物の事例」です。しかし、ゼロ・エネルギー住宅(ZEH)普及による『ソーラーパネル搭載』や、メンテナンス性を重視した「瓦屋根の採用」そして、気候変動による「豪雪の荷重」など、屋根に大きな荷重が載る一戸建ても少なくありません。

コスト優先であれば、カラーベストアスファルトシングルガルバリウム鋼板などの”軽い屋根材”を使用します。また屋根荷重が大きいことを承知であれば、やはり二階建て以下の木造住宅(4号建築物)でも、構造設計事務所にて構造計算をしてもらい、計算に基づく壁量や接合金物の選定が不可欠です。

Wakamoto
構造計算の費用は木造戸建ての場合で20~30万円程度でしょう。地震保険に入るよりも安心で経済的かも知れません。

地盤に起因する倒壊

震災から3か月後の7月に、前回訪問できなかった益城町の現状確認に出掛けました。阿蘇から熊本市や被害の大きかった益城町への道路は、阿蘇大橋の崩落によりう回路を通って行くしか方法がありません。やはり途中ブルーシートを架けた震災でダメージを受けた家は点在しているものの、益城町の交差点に入ってから景色が一変、倒壊家屋があちこちに無残な姿を晒したままでした。

私は事前に業界専門紙『日経ホームビルダー(日経BP社)』の熊本地震特集を精読し、震度7の前震(4月14日)と本震(4月16日)の2日間で、外観の被災状況の変化を分析した記事から、GoogleEarthで場所を予測して現地に向かいました。その記事は、同じ自治会エリアの57棟の建物の築年数や前震での建物被害、本震後に倒壊した建物などを図表で表したもの。不思議なことに、建物の築年数の分布よりも、限定的なエリアで新しい建物も倒壊し、被害が集中していたのです。

私は「場所によって建物の損傷に差が出るのは、もしかしたら、建物の老朽化や耐震性よりも、地盤に起因する可能性が高い」という仮説を立てて、実際に現地に足を延ばしてみました。

下記の画像は、同じ町内会ながら、外観からはほとんど大きな被害が確かめられなかった街路に立ち、駐車場の隙間から築10年程度の住宅も含めてほとんどの建物が倒壊したお隣の街区(50mも離れていないエリア)を撮った写真。手前の建物も決して新しくない昭和の建物ですが、古いブロック塀も損傷を受けておらず、その向こうの傾いた建物との対比は、同じ震度7の地震が襲ったエリアとは思えないほど、明暗が分かれていました。

その後のマスコミ報道などを見ていると、阿蘇の噴火によるシラス台地の上に、豊富な水源からの地下水がこの周辺の大地の下を流れているということで、木造の建物の固有周期(建物の揺れやすさ)と地震動が重なり、一定の周期で振幅幅が大きくなった可能性があるという解説もありました。背の低い木造の戸建住宅は「短周期」であり、地面の揺れと周期が一致すれば共振(強振)するというのです。

仮に地盤が建物への損傷の影響を強めたとしたら、土台から上にあたる構造材の強度や接合金物の取り付け方法の基準を高め、耐震性をアップさせるための費用を割り増しするよりも、むしろ簡易な地盤調査(スウェーデン式サウンディング試験)を改めて、もっとボーリング調査などの詳細な土質調査を行ったうえで、地盤改良と基礎設計を高めたほうが安全性が増すということになります。

Wakamoto
実際に、雪道でのスリップ事故で、車のボディの強度や安全性能(エアバック等の装備品)に多額な費用を掛けて備えるより、凍結面でも確実に「止まる」「曲がる」ようなスタッドレスタイヤだけ取り換えれば、少ないコストで未然に事故を防げるという論理と同様です。

粘り強さのない建物

スポーツの世界で一流となる選手は『体幹トレーニングを行う』と言われます。
つまり体勢を崩されそうになっても、すぐに次の動作に戻れる体のバネの強さ、しなりの強さがケガも防ぎ、長く現役で活躍できるというのです。これは戸建て住宅も同じで、耐震性(=体の硬さ・固さ)だけでは普段は頑丈でも、想定外の力が掛かった時に大きなダメージが残ります。

私も黒帯を持つ「柔道」をイメージしてみましょう。いかに屈強な体でも、体が硬く突っ立っているだけであれば、足元を止められて体勢が崩されれば”そこを支点”として回転の力が働き、容易に投げ飛ばされます。慣性の法則と遠心力が働く状況です。

同様に柱の足元をホールダウンアンカーなどの金物で固定され、大きな衝撃が「筋交い」を襲えば、柱に比べて細長く捻じれやすい筋交いは、簡単に折れてしまうでしょう。強烈な「慣性の法則」によりホールダウン金物まで引き抜いてしまったことが、熊本地震の倒壊した建物から確認出来ました。

引き抜き防止のホールダウン金物が法律で規定されたのが阪神淡路大震災以降の2000年基準(新耐震基準の一部追加)。だから2000年以降の新しい耐震基準の建物も、熊本地震では複数倒壊しているのです。ではどうしたら「粘り強さ」のある建物にすることが出来るのか・・・。

一つの事例を紹介すると、筋交いの一部を『制振ダンパー』と呼ばれる部材に置き換えること。下記画像のスチール製の黒い斜めの材料「TRC-30A」がその部材で、1軒の建物に数か所、バランス良く耐力壁に取り付けました。内部には「特殊減衰ゴム」が内蔵され、地震エネルギーを熱エネルギーに変換することで揺れを吸収する仕組みです。

熊本地震は、震度6~7クラスの「前震」でくぎやビスの緩みが生じて、建物が変形している「ぐらついた状態」になりました。その後に第二波として震度6~7の「本震」が来るケースは過去に例がないほど稀な災害でしたが、結局瞬間的に大きな応力が掛かったのは、細い筋交いや接合部のクギやビスへの損傷でした。

つまり一番弱い部分へ瞬間的に大きな力が掛からないよう力を分散することや、部材自身にしなりや粘り強さがあるものを採用することで、繰り返しの揺れにも復元力が働きます。筋交いだけでなく、外壁下地に構造用合板やOSBを張ることでも、地震力を分担(分散)することが出来るのです。

右の画像は、筋交いを取り付けるプレートの一種で、この材料のしなやかさが、筋交いの割れや折れの防止に繋がります。

このように熊本地震の教訓が、新しい建材開発に繋がって、過剰な実験装置での「工法開発」で過大な費用を掛けなくても安全・安心な住宅づくりが可能な状況となってきています。

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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。