【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-16】バルコニー防水工事

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前回の講座は建物の耐久性に影響がある防蟻処理(シロアリ対策工事)について説明を行いました。以下のバナーで前回の講座の復習が出来ます。

【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-15】シロアリ対策工事

2018.06.08

今回の講座では、多くの日本の住宅で取り付けられ、雨漏りやメンテナンスに課題の大きい「バルコニー」の防水工事について解説していきます。バルコニーの主な目的は、洗濯物や布団などを干すための”屋外空間”ですが、ランドリールームで洗濯・乾燥させるアメリカでは、ほとんどバルコニーを見ることはありません。

アメリカ人にとっては、衣類は乾燥機にかけるほうが殺菌や清潔さが保てて、日本のように花粉や中国からのPM2.5、黄砂などが飛んでくる汚染された外気にさらし、しかも紫外線に当てて繊維を劣化させるような『物干し』は、不思議な光景に映っているようです。畳や書類なども色焼けし劣化することは誰でも知っているのに、衣類では無頓着です。

また洗濯をした時、下着類は隠すとしても、家の中のプライベートな生活が表から見えるバルコニーでの洗濯物干しは、アメリカ人にとって防犯面も含めて信じがたい光景で、住宅地の景観にもマイナスだと考えられているのです。

米国オレゴン州ポートランド市の近郊で撮ったアメリカの一般的な住宅。道路から見える建物のシルエットも住宅の価値に大切な要素で、道路との高低差や外構の緑、ファサード等計算されたデザイン。バルコニーはおろかコンクリート擁壁やブロックフェンスなど景観のマイナス要素は使わない。

Wakamoto
話が少し脱線してしまいましたが、日本では今のところ「バルコニーは不要」という方はほとんどいらっしゃいません。バルコニーベランダは、建物からせり出している屋外空間で、屋根同様、風雨や紫外線にさらされるため、将来のメンテナンスも含めた防水性や耐久性が求められます。

バルコニーの下地づくり

昔の家の物干しと言えば、広~い庭がある田舎では庭に物干し台を置いて、物干し竿に洗濯物を干すのが一般的でした。都市部では屋根の上に「物干し台」を後から造って置いたり、既製品のアルミ製ベランダを後付けするケースがほとんどで、床に雨が溜まるという心配は不要でした。アパートなどに付けられている”持ち出し式”や”自立式”のベランダも、多くがアルミ製で独立した製品を取り付けるので、荷重以外は建物本体には影響を及ぼさず、建物への雨水の浸入を気にする必要はほぼありません。

しかし現代の一戸建て住宅では、既製品のアルミ製ベランダを取り付けるケースは少なく、建物と一体化したバルコニーがほとんどです。

しかも「完全に雨ざらし状態」という屋根のないバルコニーは少なくなり、一部でも屋根下で通り雨があっても洗濯物が濡れないようなバルコニーを希望される方が増えてきました。共働きが当たり前となり、家人が留守中に洗濯物を干して外出しているケースも少なくありません。

上記画像は、普段は2階の部屋や廊下も日差しを入れて明るく、お天気が悪かったり太陽がまぶしすぎる時には手動で屋根を架けることが出来る「オーニング」を取り付けた事例。SKシンクと呼ばれる洗濯用の流しも用意しました。床のグレーの部分が防水層です。

水勾配と出入り口の高低差

建物と一体化したバルコニーは、出来るだけ水はけを良くして、水が溜まらずすぐに乾くようにしたいもの。だから降った雨はすぐに排水溝に流れて、外に排出されるような設計が必要です。

室内からの出入り口はバルコニー防水の仕上がり面から、最低でも120mmの段差を確保し、仮にバルコニーに水が溜まっても室内に浸水しないように高低差を付けます。そしてより外側に向かって水が流れていくような勾配を取ります。水はけのよい勾配は1/50以上となっているので、1mの奥行きがあれば2cm以上の高低差を確保するということです。

排水とオーバーフロー対策

バルコニーに降った雨は、水勾配によってバルコニーの手すり側のコーナー部分に集められ、排水管から外に排出されます。排水管には「目皿」などのカバーで枯葉やゴミが詰まらないように配慮しますが、ビニール袋などが飛んできて塞いでしまうケースもあるでしょう。だからもし気づかずに雨が溜まったとしても、サッシを超えて室内に浸水するような”プール状態”を回避する策が必要です。

画像は下地の段階の排水位置付近の写真です。手摺りや笠木などが取りつく「腰壁」側の防水立上がりは25cm以上確保し、オーバーフロー管は出入り口のサッシ(掃出し窓)の高さを超えない低い位置に配置します。ホテルのバスタブが湯があふれないように、浴槽上部にカバーのついた排水口があるのと同じです。

防火対策

バルコニーは建物の外部で、周辺で火災があった場合には延焼の可能性もあるため、屋根と同等の耐火性能が必要です。通常は構造用合板の下地床の上に防火板(ケイ酸カルシウム板等)を張り、ビス頭や目違いによる段差・突起がないように下地処理します。

画像は下地の合板で、このままでは耐火性能がないので、前項の画像のようにケイ酸カルシウム板(シロに近い薄いグレーの防火板)を張るか、不燃塗装などで防火性能を確保して仕上げの防水塗装(FRP防水など)を施します。

遮熱や断熱対策

最近はバルコニーの下にリビングなどの居室があるケースも増えてきました。このようなケースでは、雨漏りの防止はもちろんのこと、夏の日射による暑さ対策や、冬の熱損失防止のために、遮熱や断熱の対策が必要です。宙に浮いた持ち出し式のベランダでは不要な対策作業です。

屋上空間として利用される『ルーフバルコニー』も同様に、階下の居室の天井裏が屋根のように通気や換気が出来ないため、しっかりとした断熱・遮熱が快適な空間づくりには欠かせません。

上記左の画像は、ルーフバルコニーの防火板下地にアルミの遮熱シートを施工しているところです。この上に二重に床をつくり、静止空気層を確保することで熱を階下に伝わりにくくします。上記右の画像は、外部に面したバルコニー下部の階下、1階リビングの天井裏に吹付けられたウレタン断熱です。この現場は壁の充填断熱は、高性能グラスウールの『アクリア(旭ファイバーグラス)』を採用しています。

バルコニーは洗濯物を干すだけではなく、家族の布団を並べて干したいというニーズが多く、幅や奥行が長くなりがちです。長くなるほど風や地震の揺れの影響を受けやすく、しっかりとした下地づくりが欠かせません。

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バルコニーの防水

下地が出来たら、いよいよ防水処理のステップに入ります。木造住宅のバルコニーは、概ね『FRP防水』か『シート防水』が採用されます。FRP防水は耐久性や耐摩耗性が高く、多くの木造住宅で使われていますが、硬くて紫外線には弱いため、下地が動いて表面が割れてしまうリスクがある10m(6帖)以上の広いバルコニーや屋上(ルーフバルコニー)では慎重な施工が求められます。

シート防水は、不織布にゴムアスファルトや塩化ビニルなどの高分子化合物を塗り込んで防水層にしたもので、面積が10mを超えるような広いバルコニーや屋上のルーフバルコニーなどで採用されます。

FRP防水

最近の住宅で最も採用されているFRP防水は、ガラス繊維強化プラスチックで、バスタブや小型漁船にも使われている軽くて比較的安価な防水方法です。ガラス樹脂のマットとFRP樹脂を重ね、仕上げにトップコートと呼ばれる着色剤の塗膜で紫外線から保護します。通常は『2プライ』と言われる二層構造で強化します。

ガラス繊維マット(1プライ)

防火板のケイ酸カルシウム板の下地の目違いや釘(ビス)頭が出ないように処理したら、まず一層目のガラスマット補強材にFRP樹脂を塗っていきます。

防火板のジョイント部分をコーキングし、プライマーを塗布してガラスマットを張りポリエステル樹脂を塗ります。画像のように薄緑色で塗っていることが分かります。

FRP樹脂(2プライ)

下塗りの1プライ(一層目)を終えて、重ねて二層目のガラスマット補強材とFPR樹脂を塗り重ねます。下地のケイ酸カルシウム板の色は次第に薄くなって、しっかりとFRP防水層が形成されているのが分かります。

画像のサッシは輸入品のオール樹脂サッシ(トリプルガラス)なので、国産のサッシと少し納まりが異なりますが、12cm以上立ち上げたサッシ部分に水が溜まっても室内側に漏水しないように、コーキング処理などが出来ているかも確かめます。

バルコニーの仕上げ

防水層をつくったら、耐候性を高めるための保護塗膜としてトップコートを塗ります。2階にリビングを設けた場合は、段差のないようにウッドデッキやタイルなどを敷き詰めて、テラス風に内外一体化したいというご要望もあります。

ポリエステル樹脂のトップコート

FRP防水層が出来たら、紫外線をカットするために表面仕上げのトップコートが塗られます。新築時は概ね硬さのあるポリエステル系の樹脂塗料が選ばれ、多くはグレーの色が採用されます。実際には別の色も選べるようですが、無難なグレーがほとんどです。

トップコートを塗ってから硬化するまでにしばらく時間が掛かり、この間はバルコニーは立ち入り禁止です。樹脂が化学反応を起こして硬化するので、かなり強烈なにおいがして、この日は防水業者さんだけが現場に入り、大工さんたちはお休みか別の現場に退避です。

ちなみにポリエステルのトップコートはカチカチに硬化するため、将来劣化して褪色やひび割れが生じやすく、その段階では少し伸縮性のあるウレタン系の塗料で塗り直します。

バルコニーのテラス化加工

通常、2階の室内の床高さと、バルコニーへの出入り口を跨いで外に出た高さは、下記の画像の通り構造材は同じ面(高さが揃う)になります。

画像の現場は道路に面した赤い線で囲われた部分がバルコニーになる場所で、室内側の境になる梁の位置では高さは同じです。玄関ポーチ上部も含めて広いバルコニーを希望されたので、道路に向かうほど水勾配が取れるように構造材も若干下げています。

2階にリビングを配置してバルコニーと一体化して使いたいという場合、1階のように床をフラットにしてバリアフリーで外に出ることは防水上困難です。下記画像の現場では、バルコニー側の構造材を少し下げて出入り口を跨ぐ高さを低めにできるようにし、バルコニー側の高さを調整してウッドデッキやタイルを施工すれば、室内からも続き間のように見えるようにしました。

ペニンシュラ型のキッチンから少しだけ段差を設けて、サッシの高さに外部のウッドデッキの床を揃えました。木材はイペという耐候性のある水にも強い材料で、外部で良く使われる天然木を使っています。通常1.1mの高さの手摺り壁をもっと高めに設計して、ご近所から見えないような坪庭的な空間が出来ました。

Wakamoto
景観を重視する分譲マンションでは、洗濯物を見えるところに干すことを管理規約で禁止しているケースが増えてきました。戸建て住宅でも室内干しをしたいというニーズも増えており、アメリカのようにバルコニーのない家も増えてくるかも知れませんね。

▼次回は外壁や窓周りの防水について解説していきます。

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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。