前回の講座では、ユニットバスの据え付けについて解説しました。
建築の工程の中で、意外と早く設置されることが多いのがユニットバスです。
次の工程は床材の施工を先行するケースが多いでしょう。
日本の住宅では、木製のフローリングを選ばれるケースが多く、工務店に頼む注文住宅では、無垢材のフローリングを張り、プレハブ住宅や建売住宅では、建材メーカーが製造している合板の複層フローリングを張ることが多いようです。
目次
木質系床材
日本では、玄関で靴を脱ぎ、上がり框があるため、圧倒的に木質の床材(フローリング)が施工されます。特に戸建住宅の玄関ホールや廊下は、石やタイルなど他の材料で施工するケースは1%もないでしょう。
無垢フローリング(天然木)
天然の木材を板状に加工した無垢フローリングは、足触りも良く人気です。画像の断面を見てもらうと分かる通り年輪が見えており、”床の仕上となる室内床面”が木の表皮に近い場所になるよう加工されていることが分かります。裏に当たる下側には2本の溝が切ってあるので、上下(表と裏)を間違うことはありません。溝は「反り」の緩和や接着剤の横漏れを減らす効果があります。
また側面は『実矧ぎ(さねはぎ)』と呼ばれる凹凸の加工(本実/ほんざね加工)を施し、パズルのように差し込んで連結していきます。この凹凸があることで、床材が乾燥収縮する”遊び”になっていて、隙間があいても目立ちにくくなります。1枚1枚釘止めしていきますが、釘を隠すのもこの実矧ぎ部分です。
防音施工
マンションでのフローリング貼りは、上下階に違う家族が住んでいて、衝撃音がコンクリートスラブを通して階下に伝わるため、無垢材のフローリングを使うことはまずありません。L-40といった遮音等級をクリアするために、裏にゴムなどの衝撃音を吸収するマットが重ねられています。
一戸建て住宅の場合は、基本的に同じ家族が生活するので、それほど音に関して神経を配る必要はありません。しかし、二世帯住宅や子供が小さく走り回ったり、硬いものを落としたりする場合は、防音対策をするケースも少なくありません。主な対策は、床の下地合板の上にプラスターボードを敷くきますが、より遮音性能を高める場合は”鉛入りの防音マット”を敷くケースもあります。
2枚の画像のうち、右の壁側からフローリングを張ってきて下地が茶封筒のような色に見えるのがプラスターボードです。壁にはウレタン吹付断熱をしていることが分かりますが、断熱材を覆って壁下地をつくるのも、同じプラスターボードです。※フローリング上に薄いプラスチックカードが並んでいるように見えるのは、フローリングの隙間を調整するスペーサーです。
床が黒く鈍く光っているのが、鉛入りの遮音シートを敷いた二世帯住宅の現場です。シート自体も重量があり、振動を抑えます。こちらの現場は、壁も防音のためにセルロースファイバー断熱材を吹き込んでいます。素材に密度のバラつきや空隙などがあり、荷重が重い材料ほど遮音効果が高まります。
床材の種類
元々、木質系のフローリングは、靴を脱がない西洋の1階床で使われてきました。だからウォールナット(胡桃)やオーク(楢)など、家具にも使われる硬い広葉樹を加工して床に張りました。オークはウィスキーの樽としても知られる水に強い木材です。木目の美しさや色合いなどで、チークやメイプルなど、数多くのフローリング材が揃っています。
一方、日本家屋では、素足や足袋などで歩いていたため、畳以外の部屋(廊下や縁側、板間など)では、杉板など比較的柔らかい針葉樹が加工されて使われました。表面の温かみや、子供が転んでも痛さを感じない柔らかさで、スギやカラマツ、パイン材などを好む方もいます。和風で高級感を出すには、節のないヒノキを筆頭に、癖の少ないサクラを使うと和風住宅にもマッチします。和風で使う木質系床材は『縁甲板(えんこういた)』と呼ばれます。
加工や仕上げの種類
無垢材の良さは、木の繊維(導管)が無数にあることで、素足の汗や湿気を吸ってくれ、真冬でも冷たくならないことです。通常は、その特性を殺さないために、浸透性のオイル塗料(ドイツのリボスや国産の菜種油等の自然塗料)を浸み込ませます。
一方で自宅でピアノ教室やヨガスタジオなど、キャスター付きの家具などを使い、床の傷が気になるため固めにコーティングしたいというケースもあります。その場合はウレタン塗装など、二液性で硬化する塗料等でツヤを出して仕上げます。無垢材の特長は失われますが、やはり表面から見ても厚みが感じられて「無垢材を使っている」ということが分かります。
その他、画像のような”なぐり加工”と呼ばれる仕上げは、重厚感や変化のある質感が、高級感を漂わせます。
複合フローリング(突板貼り)
無垢のフローリングの欠点を補い、価格的にも安価な木質系の床材として『複合フローリング』があります。表面の2~3ミリほど天然木の”突板”を貼った材料で、30cm幅程度の広めの板状に加工されています。
来客がある1階のLDKは、無垢のフローリングにし、洗面所やトイレなどは長尺シートやサニタリーフロアなどの水に強い樹脂系の床材、個室はコストを抑えて複合フローリングにするといった使い分けもあります。
無垢フローリングは幅75mmや100mmの材料を1枚づつ組んでいきますが、複合フローリングはベニア(合板)や木片チップを固めたMDF等を基材に、表面のみ天然木や木目調のシートを貼ったものなので、数枚分の板状のブロックで効率よく施工が出来ます。
表面も工場出荷時点でコーティング仕上されており、重歩行用の傷つきにくい仕上げもあるので、製品の安定性やメンテナンスのしやすさでは優れています。ただし湿気や汗は吸わず、冬は冷たくなるので、スリッパが必須となる床材です。
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サニタリー系床材
キッチンや洗面所、トイレなどの水回り空間は、水拭きが出来るような床材が好まれます。継ぎ目が多く、湿気などで動く無垢のフローリングは避け、湿気に強く継ぎ目の少ない床材のニーズが高いため、サニタリーフロアが建材メーカー各社から発売されています。
樹脂系床材
定番の長尺シートのほか、リノリュームやタイル状になった樹脂シートなどがあります。
キッチンはダイニングと繋がっていることが多く、フローリングのまま仕上るか、水に強く掃除が楽な床材を選ぶか迷うところです。画像の事例では、材料を貼り分けました。材料の厚みが違うことが多く、下地の厚みを調整して突合せするか、躓かない程度の段差に見切り材を入れて仕上るケースに分かれます。
自然素材系床材
無垢のフローリングも自然素材ですが、水回りの床ではコルクの床も好まれます。
画像は60歳代の施主が採用した「炭化コルク」の床材。トイレで介護も出来るよう広くして、床も冷たくならず柔らかさのある材料を求めた結果、汚れなども考慮してこの材料が選ばれました。
繊維系床材
日本では最近の家でほとんど使われなくなった絨毯やカーペット。ダニの発生を気にして避けられていますが、純毛(オールウール)の絨毯は、ダニやカビが発生しやすい環境になりにくく、欧米では多くの住宅で使われています。特に階段は分厚いウールを施工しているケースを良く見ます。
ロンドン郊外の一般住宅
参考事例として、ロンドン郊外の住宅地で築80年の家を訪問した時の室内の雰囲気や床材をご紹介します。
濡れたり汚れたりを避けたい場所には、ラグマットなどを置き、オシャレを楽しんでいることが分かります。階段の手すりや回り方まで、曲線が美しく、施主家族が家を大切にしていることが伝わってきます。窓のステンドグラスもいい感じです。
アメリカの一般住宅
米国に視察に行った時のフロリダ州の住宅とオレゴン州の住宅も、階段をあがった2階ホールや個室の床は絨毯でした。
米国では、階段を下りると玄関ホールという家が多く、1階の床は木質系でまとめ、階段の踏み板から蹴上まで、ふっくらとした厚みのある絨毯(カーペット)を巻き込んでいるお宅が多い印象です。2階のホールや廊下は概ね絨毯です。
建築中と完成後(モデルホーム)
アメリカの家の階段が、なぜ絨毯が多いのか、建築中の現場と同じ間取りで完成したモデルハウスを比較すると何となく分かります。事例は太平洋に面してカナダ国境に近いワシントン州です。
いかがでしょうか?
映画や舞台のセットと同じように、下地は頑丈でさえあれば、仕上げで隠せるというのがアメリカの家のようでした。平均7~8年で売却され、またインテリアを入居者好みにしていくアメリカでは、このほうが経済合理性があり、満足度も高いのでしょう。
▼次回は外壁の下地づくりを解説していきます。