前回の講座では、バルコニーの防水工事について詳しく解説しました。以下クリックすると復習が可能です。
屋根やバルコニーは、太陽の熱や紫外線を正面から受け止め、雨も同様に直接叩きつけます。だから他の部位よりも劣化が激しく、少しでも表面材に割れがあったり、仕上げ材の下に水が浸み込むと「雨漏り」が発生してしまいます。
しかし、雨漏りの原因で意外と多いのが「窓周り」からの雨水の浸透です。
今回の講座は、外壁と窓周りの防水工事をご紹介していきます。
目次
サッシ取付け
外壁面で最も雨水浸入の可能性がある個所はサッシと外壁の取り合い部分。サッシ枠を取り付ける「柱」や「まぐさ」との間に隙間が生じて、雨が浸み込む状況にならないよう、しっかりと防水テープを張ります。サッシ周辺は雨水の浸入だけでなく、漏気もあるため、気密を確実にするためにも丁寧な施工が欠かせません。
先張り防水シート
日本のサッシは柱や構造用合板よりも外に枠が取り付けられる『半外付けサッシ』がほとんどです。サッシ枠にフィン(みみ)が回っていて外壁側からスクリュー釘で留めます。
画像は「ウェザータイト」と呼ばれる先張り防水シートを施工してサッシ枠を取り付けているところ。防水だけで考えれば、画像の黒い先張りシートをせず、サッシ枠のフィンの上から通常の防水(ブチル)テープを張っても問題はありません。
しかし、サッシ本体のコーナー部分のパッキン不良により雨が浸み込むケースもゼロではありません。だからサッシの下に防水層を設けておくとより確実です。
防水テープ
サッシの下枠に防水テープが張られたら、次は縦枠に沿って垂直に防水テープを張ります。そして最後にサッシの上枠に防水テープを張った後、外壁の防水層である『透湿防水シート』(商標名:タイベックなど)を重ねます。
重ね順が大切で、水下から水上に向かって、つまり重ね代から水が物理的に入っていかないように下から順に張っていきます。
仕上の外壁が、最近多い乾式工法の「サイディング張り」であれば、通気層を設けて、胴縁の上に外装材が張られるため、外壁材の裏に回った水も基礎の水切り部分に伝って流れだします。しかし、漆喰やそとん壁といった『左官仕上』の場合は、雨漏りのリスクが高まり注意が必要です。
左官仕上の防水工事
外壁を左官仕上にする場合、昔は「竹小舞」に藁やすさ入りの土壁を塗り重ね、最後の仕上げに漆喰塗りをしていました。その後、モルタル下地になって、ラス板と呼ばれる木摺り(きずり)を一定間隔をあけ横張りした上にワイヤーメッシュを張って、厚さ20ミリ程度のモルタルを塗るという『モルタルリシン仕上げ』も増えました。
しかし、モルタルの厚みでは、昔のように湿気をコントロールする土壁ほどの厚みはなく、壁内部で結露したり、雨が浸み込んだ場合十分湿気が排出出来ないリスクがあります。また乾燥収縮や地震などの建物の揺れによって、左官の外壁にクラックが入る浸水リスクもあるため、透湿防水シートの上に「通気層」を設けたうえで、ラス板を張ってさらに防水紙のアスファルトフェルトを張るという『二次防水』とするケースが増えてきました。
画像のサッシ脇にシルバーに光っているのが防水テープで、左官の表面がクラックで割れても、壁体内に雨水の浸入をガードします。換気口などの貫通部も雨水侵入や漏気がないように、しっかりとウェザータイトで塞ぎます。
外張り断熱
外壁の下地に面材(構造用合板)がある場合と無い場合、そして左官下地にする場合など、施工法によって窓周りの防水手順が変わってきます。サッシも「半外付け」だけでなく「外付け」や「内付け」など種類によっても異なります。欧米の住宅は、入居者が変われば窓も取り替えるケースがあり、交換が容易な「内付け」の木製サッシや樹脂サッシが良く使われます。
内付け窓にすると、外壁から少し窓が引っ込んでいて、窓周りにレンガのコーナー材やケーシング(窓飾り)が回って彫りの深い表情になりますが、雨の多い日本で木造住宅では、安全のためにほとんどの施工者が半外付けのサッシを採用し、お客さんにも勧めます。
外張り断熱やW断熱も、高断熱化の流れで一定数増えてきました。特に外張り断熱は断熱材自体で水密性があり、テープで目張りするため、防水効果や気密性も高まります。
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外壁の防水層
建物の外周の開口部にサッシを嵌め込み、サッシ枠のフィンに両面接着の防水テープを張ったら、建物全体をラップで包むように『透湿防水シート』でくるみます。スカートのように下から包帯を巻くようにタッカーで留めていき、10cm以上の重ね代を設けて、上に重ね張りをしていきます。
透湿防水シート
戦後、日本の木造住宅が「耐久性が低い」と思われていたのは、人間生活によって室内で発生した湿気が壁の中に入り、内外の温度差によって結露や蒸れた状態になって腐朽菌が発生しやすくなったからです。昔の家のように、木製建具や障子、雨戸のような”隙間”があった時は、室内も戸外も温度差や湿度差はなく、壁や柱も「土」や「木」といった湿気を大量に吸ったり吐いたりできる材料を使っていたので、壁の中が蒸れることはありませんでした。
アルミサッシの普及が、ちょうどヤッケや雨がっぱを着てスポーツをするように、内部で発生した汗や水蒸気が外に出にくくなり、内と外の温度差や湿度の差を大きくしてしまいました。だから壁の防水層も、単に水を通さない”雨がっぱ”ではダメで、雨は防いでも、より小さな分子である水蒸気は内側から外に自由に出ていく「透湿性」が求められます。ちょうどスキーウェアと同じです。
このような性能の家を大量生産するためには、米国で実績のあるハウスラップ『タイベック®』(デュポン社)を使うのが手っ取り早く、ポリエチレン製の超細長繊維をランダムに積層させた”高密度ポリエチレン不織布”が数多くの住宅建築現場で使われました。室内側からは「ベーパーバリア」という湿気が壁内に侵入ないような”防湿フィルム”でバリアを張り、壁体内に入ってしまった湿気は、出来るだけ早く”透湿性能”を持つ防水層で外に抜け出るようにします。
遮熱防水シート
外壁の隙間から入ってしまった雨水を、構造躯体内に入れない目的で張られるハウスラップ『透湿防水シート』ですが、メーカーが商品の付加価値を付けるため、別の機能を持つシートも登場しました。
トップメーカーのデュポン社が『タイベック・シルバー』という、アルミ蒸着した遮熱機能を付加したシートを出せば、国内メーカーのフクビをはじめ、サイディングメーカーも同様な商品を開発しました。
画像はフクビの『遮熱エアテック』と呼ばれる透湿防水シートです。このシートの上に通気層を設けるために「通気胴縁」と呼ばれる薄くて細い板を等間隔で縦に打ち付け、その上に外装仕上げをしていきます。
防水シートの劣化と水の浸透
構造用合板(面材)の下地に透湿防水シートを張る場合、どこにでも下地があるので、ホッチキス針のようなタッカーで「パチッパチッ」とシートを留めていきます。厚みのある防水紙、アスファルトフェルトであれば、タッカーで留めた箇所が破れて水が浸み込むリスクは少ないものの、薄い透湿防水シートの場合は、壁仕上げの裏に回った雨水が破れた穴から浸み込むリスクがあります。
面材なしでシートを張る場合は、下地は柱や間柱になるため、通気胴縁を同じ位置に取り付けることで穴をふさぐことが可能です。画像の通り基礎上部の土台水切り(L型の黒い金属)の下から空気が入り胴縁の間を風が上昇し、水滴は下に落ちて基礎部分に排出されます。
温度変化が激しく、湿気を帯びた空気が、シートの切断面に対して常にぶつかって動いている状態は、長期では劣化が避けられません。それを防ぐためには、上記の外張り断熱材のほか、より耐久性の高いシート(米ダウ社の「ウェザーメイトプラス」など)を使うといった、見えないところにコストをかける覚悟も必要です。
ステープルとプラスチックキャップ
米国に行って建築現場をいくつか見学すると、同じデュポン社のタイベック(Tyvek)を使いながら、シートの素材感も工具も違うので驚かされます。住宅は「資産」と考え、しっかりと手入れするアメリカ人にとって、欠陥や手抜き工事は大きな賠償責任が伴う「訴訟社会」でもあり、施工マニュアルや根拠となるデータ、腕が悪くても確かな性能や品質になる工具が発達しています。
画像の透湿防水シートにポツポツとグレーの丸い点は、日本のように単にステープル針で留めるだけでなく、プラスチックキャップでしっかり押さえるようにシートを張り、また日本のようなシート幅ではなく、継ぎ目がほとんどない大きなラップで家を包みます。
▼次回は窓やサッシについて考えていきましょう!