【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-31】外壁仕上げ-湿式工法(漆喰・そとん壁)

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前回は、2回にわたり乾式工法の外壁仕上げについて解説しました。以下『窯業系サイディング』と『軽量気泡コンクリート(ALC)』という代表的な外装仕上げについて解説しています。

湿式工法」はいわゆる左官仕上で、主要な仕上げ材は『しっくい』や『そとん壁』など、左官職人がコテを使って仕上げしていきます。

Wakamoto
昔の漆喰仕上げは、金鏝(かなごて)を使い熟練の職人が平滑でなめらかに仕上げていました。漆喰の伝統的な街並みの塀や蔵の壁、城壁を思い浮かべれば漆喰壁のイメージが湧くでしょう。しかし最近では、鏝ムラのある仕上げや、ざらつき感など、手作業を感じさせる風合いが好まれてきました。

漆喰仕上げ

しっくいは、消石灰を原料に、接着剤として海藻(フノリ)やワラ・スサなどの繊維系材料に水を加えて混ぜ、左官職人が塗っていきます。

下地モルタル

湿式仕上げの下地は、基本モルタルの下塗り・中塗りを塗り重ねていき、最終仕上げとして厚み数ミリの漆喰を表面に塗ります。

基礎工事のようにプラント工場で調合し、生コン車で現地に搬入するのではなく、小さな手動のミキサーで袋に入った左官材料を現地で混ぜ、職人のペースで塗っていきます。下地づくりの詳細は以前の講座をご確認下さい。

【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-27】外壁下地と通気層(湿式工法編)

コテ塗り仕上げ

現場敷地内で材料を配合し、しっかり撹拌して練り上げたら、バケツや木製の鏝台に少量の漆喰を移し、鏝で塗っていきます。画像の現場では、柿渋を混ぜているので塗りたての時は少しピンクがかった色で、数日経つと見慣れた真っ白な壁になっていきます。

昔の左官仕上は、壁の厚み全体が「土壁」で、下地の骨として『竹小舞』などで構成されていました。漆喰の表面はなめらかに仕上げられ、壁厚があるため、雨が染みても壁自体に十分な調湿効果水分保有が出来ていました。軒の出の深さも、雨や汚れ対策になっていましたが、今の左官仕上は”薄い表面塗り”ということが画像で分かります。

漆喰の「硬化」と「効果」

湿式の左官仕上は、施工中は柔らかく、次第に空気中で硬化して、漆喰は石灰岩に戻っていきます。無機質でもあり経年変化しにくい材料なので、ひび割れだけ気を付けておけば長期に亘って壁の白さが維持できます。ただし、軒の出が少なく雨掛かりが多いと、瓦屋根や地面ではねた汚れや水分によって汚くなり、カビも生えるので、材料に撥水剤を混ぜるなど雨対策が必要です。

施工直後「柔らかい」という性質を利用して、お引渡しの時に一部の外壁や外構に漆喰を塗り、家族の手の形を残すといったセレモニーをするケースもあります。小さな頃の子供たちの手の形が残ると、「柱の傷は一昨年の~♪」のように、子供たちが成長してもその家の歴史や家族との思い出が残ります。

Tips漆喰は、日本だけでなく海外でも広く使われてきました。耐火性能も高く形が自由になり、厚塗りも可能です。

左官職人たちは、技術を磨き遊び心を満たすために、鏝絵なども盛んになり、民家や土蔵でも開口部周りや破風周りなど、様々な左官の造形が楽しめます。『伊豆の長八美術館』を検索してみると、日本人の左官技術の奥深さに驚くでしょう。

画像は、東広島市西条町の県道沿いで見掛けた民家の蔵です。特別な重要伝統的建物群保存地区などではない、普通の風景にこのような遊びが残っているのが日本の建築技術で、過疎地の原風景です。

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日本の外壁では、漆喰が最もポピュラーで長い伝統を持つ外壁仕上げです。内部の左官仕上では、漆喰のほか「珪藻土(けいそうど)」や「聚楽(じゅらく)」等、内装用の左官材料があります。内装仕上げで紹介していきますね!

そとん壁®仕上げ

一部の建築家や設計事務所が好んで使うようになり、漆喰とは質感の異なる『そとん壁』も左官仕上として人気が出てきました。鹿児島の桜島や霧島などの噴火から堆積した『シラス(珪酸)』を主原料とした左官材料です。

下地づくり

漆喰と同様、モルタルの下塗り・中塗りで乾燥させ、最終仕上げにそとん壁を塗ります。

そとん壁の詳しい下地づくりは、以前の解説で復習して下さい。二重の防水層をつくります。

【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-27】外壁下地と通気層(湿式工法編)

工事金額

漆喰仕上げもそとん壁も、左官仕上の作業自体はほぼ同じです。
しかし漆喰仕上げがほぼ真っ白な外壁になるのと比べ、そとん壁は色のバリエーションがあり、また仕上げパターン(表面の質感)も豊富に選べます。櫛引掻き落としなど、表面に凹凸やざらざら感のある「厚みを感じさせる」仕上げも、漆喰よりも外壁の表情が豊かになります。

しかし、問題は見積金額です。材料自体はそれほど高くなくても、作業手間や工期の長さなどで施工費用が嵩みがち。実際にそとん壁を施工した広島市佐伯区の事例で、他の外装材も見積した工務店の外装費用を比較してみます。建物の床面積は32.1坪の注文住宅です。

下地をモルタルでつくるか、無塗装の窯業系サイディングでつくるかで、金額は変わってきますが、最大の金額差でも50万円程度であり、概ね外壁の下地+そとん壁で200万円程度だということが分かります。(もちろん建物規模や外壁の凹凸によっても変わってきます)

材料と素材づくり

そとん壁も、漆喰と同様現場にセメント袋のような材料を搬入し、職人が現地で配合・撹拌して、ペースト状の左官材料をつくります。

仕上がり具合

そとん壁は、多少ムラがあるくらいが好まれますが、カラーサンプルで確認して決定した色や仕上がり具合と、実際に現地で出来上がった壁とは頭の中で描いたイメージとギャップがあるケースがあります。それは、サンプルの確認が人工の照明下で30cm程度の大きさ、手を伸ばしたくらいの距離で見るのと、近隣に様々な色の建物があり、太陽光の下で距離を離して見る建築現場では違って見えるのが普通です。

色や風合いだけでなく、撹拌の具合によって骨材の混ざりが均質でない場合や、鏝ムラが気になるといったケースなど、クレームになりやすいのがこのような湿式仕上げの自然素材です。やり直しや上塗りは、重ねて手術した「美容整形」のようなものなので、機能・性能に問題がなければある程度のムラは、そこだけに意識をフォーカスすることなく許容するほうが気持ちよく住むことが出来るでしょう。

完成

左官仕上は「和風の家」と思いがちですが、無機質の材料でもありコンテンポラリーなデザイナーズ系デザインでも似合います。特に乾式工法の「窯業系サイディング」や「軽量気泡コンクリート」のように、材料の規格寸法によって、目地が浮き出てしまうと、せっかくの外観デザインが台無しになってしまうと感じる方には、湿式の左官仕上がお勧めです。

デザインを問わず、どのような建物でも左官仕上は可能です。

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今回は、湿式工法の仕上げについて解説してきました。左官職人は高齢化が進み、大手ハウスメーカーも外壁を左官で仕上げる会社は少ないため、徒弟制度で技術・技能を親方から盗んで身に付けた熟練職人は育っていません。価格はそれほど割高にはなりませんから、地元の工務店を選ぶ場合には、採用を検討したい仕上げです。

▼では、次回は内装仕上げの『開口部周りの造作』を学びましょう。

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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。