前回は、2回にわたり乾式工法の外壁仕上げについて解説しました。以下『窯業系サイディング』と『軽量気泡コンクリート(ALC)』という代表的な外装仕上げについて解説しています。
「湿式工法」はいわゆる左官仕上で、主要な仕上げ材は『しっくい』や『そとん壁』など、左官職人がコテを使って仕上げしていきます。
目次
漆喰仕上げ
しっくいは、消石灰を原料に、接着剤として海藻(フノリ)やワラ・スサなどの繊維系材料に水を加えて混ぜ、左官職人が塗っていきます。
下地モルタル
湿式仕上げの下地は、基本モルタルの下塗り・中塗りを塗り重ねていき、最終仕上げとして厚み数ミリの漆喰を表面に塗ります。
基礎工事のようにプラント工場で調合し、生コン車で現地に搬入するのではなく、小さな手動のミキサーで袋に入った左官材料を現地で混ぜ、職人のペースで塗っていきます。下地づくりの詳細は以前の講座をご確認下さい。
コテ塗り仕上げ
現場敷地内で材料を配合し、しっかり撹拌して練り上げたら、バケツや木製の鏝台に少量の漆喰を移し、鏝で塗っていきます。画像の現場では、柿渋を混ぜているので塗りたての時は少しピンクがかった色で、数日経つと見慣れた真っ白な壁になっていきます。
漆喰の「硬化」と「効果」
湿式の左官仕上は、施工中は柔らかく、次第に空気中で硬化して、漆喰は石灰岩に戻っていきます。無機質でもあり経年変化しにくい材料なので、ひび割れだけ気を付けておけば長期に亘って壁の白さが維持できます。ただし、軒の出が少なく雨掛かりが多いと、瓦屋根や地面ではねた汚れや水分によって汚くなり、カビも生えるので、材料に撥水剤を混ぜるなど雨対策が必要です。
施工直後「柔らかい」という性質を利用して、お引渡しの時に一部の外壁や外構に漆喰を塗り、家族の手の形を残すといったセレモニーをするケースもあります。小さな頃の子供たちの手の形が残ると、「柱の傷は一昨年の~♪」のように、子供たちが成長してもその家の歴史や家族との思い出が残ります。
Tips漆喰は、日本だけでなく海外でも広く使われてきました。耐火性能も高く形が自由になり、厚塗りも可能です。
左官職人たちは、技術を磨き遊び心を満たすために、鏝絵なども盛んになり、民家や土蔵でも開口部周りや破風周りなど、様々な左官の造形が楽しめます。『伊豆の長八美術館』を検索してみると、日本人の左官技術の奥深さに驚くでしょう。
画像は、東広島市西条町の県道沿いで見掛けた民家の蔵です。特別な重要伝統的建物群保存地区などではない、普通の風景にこのような遊びが残っているのが日本の建築技術で、過疎地の原風景です。
そとん壁®仕上げ
一部の建築家や設計事務所が好んで使うようになり、漆喰とは質感の異なる『そとん壁』も左官仕上として人気が出てきました。鹿児島の桜島や霧島などの噴火から堆積した『シラス(珪酸)』を主原料とした左官材料です。
下地づくり
漆喰と同様、モルタルの下塗り・中塗りで乾燥させ、最終仕上げにそとん壁を塗ります。
そとん壁の詳しい下地づくりは、以前の解説で復習して下さい。二重の防水層をつくります。
工事金額
漆喰仕上げもそとん壁も、左官仕上の作業自体はほぼ同じです。
しかし漆喰仕上げがほぼ真っ白な外壁になるのと比べ、そとん壁は色のバリエーションがあり、また仕上げパターン(表面の質感)も豊富に選べます。櫛引や掻き落としなど、表面に凹凸やざらざら感のある「厚みを感じさせる」仕上げも、漆喰よりも外壁の表情が豊かになります。
しかし、問題は見積金額です。材料自体はそれほど高くなくても、作業手間や工期の長さなどで施工費用が嵩みがち。実際にそとん壁を施工した広島市佐伯区の事例で、他の外装材も見積した工務店の外装費用を比較してみます。建物の床面積は32.1坪の注文住宅です。
下地をモルタルでつくるか、無塗装の窯業系サイディングでつくるかで、金額は変わってきますが、最大の金額差でも50万円程度であり、概ね外壁の下地+そとん壁で200万円程度だということが分かります。(もちろん建物規模や外壁の凹凸によっても変わってきます)
材料と素材づくり
そとん壁も、漆喰と同様現場にセメント袋のような材料を搬入し、職人が現地で配合・撹拌して、ペースト状の左官材料をつくります。
仕上がり具合
そとん壁は、多少ムラがあるくらいが好まれますが、カラーサンプルで確認して決定した色や仕上がり具合と、実際に現地で出来上がった壁とは頭の中で描いたイメージとギャップがあるケースがあります。それは、サンプルの確認が人工の照明下で30cm程度の大きさ、手を伸ばしたくらいの距離で見るのと、近隣に様々な色の建物があり、太陽光の下で距離を離して見る建築現場では違って見えるのが普通です。
完成
左官仕上は「和風の家」と思いがちですが、無機質の材料でもありコンテンポラリーなデザイナーズ系デザインでも似合います。特に乾式工法の「窯業系サイディング」や「軽量気泡コンクリート」のように、材料の規格寸法によって、目地が浮き出てしまうと、せっかくの外観デザインが台無しになってしまうと感じる方には、湿式の左官仕上がお勧めです。
デザインを問わず、どのような建物でも左官仕上は可能です。
▼では、次回は内装仕上げの『開口部周りの造作』を学びましょう。