タイトルに「やさしい」と付きながら、工事の専門的な用語・技術内容も含まれるため、少し難しいと感じるかも知れません。とはいえ、学校を出たばかりの新人の現場監督が知っておくべき最低限の工事の流れなので、数千万円も負担する施主もこのくらいの知識武装はしておいてもいいでしょう。前回は基礎の耐圧盤(スラブ)の配筋とコンクリート打設でした。以下復習のページです。
今回の講座は、基礎工事の「後半工程」として、立上がりのコンクリート打設とアンカーボルトの取付けについて見ていきましょう。
目次
ホールダウン金物とアンカーボルト
まずは、型枠の位置を墨出しし、かぶり厚さを確保しながら型枠を組んでいきます。かぶり厚さは「スペーサー」と呼ばれるプラスチックの補助材があるので、今では確実に有効寸法を確保できるようになりました。
このような部材がない頃は、鉄筋がゆがんで主筋がへびのように曲がりくねっている現場もありました。立上がり部分の内側の型枠を組む前の状態は下の写真を参照ください。
水回りの部屋から給排水管が通る場所に『スリーブ』という配管スペースを埋め込みます。スリーブには、かぶり厚さ確保と補強のため「ひし形」に鉄筋で囲い、コンクリートが入らないようガムテープ等で塞ぎます。
耐力壁位置に入れる『ホールダウン金物』
コンクリート基礎は、単に上からの建物荷重を支えて、地盤に力を分散させるだけではなく、土台をしっかり固定する役目も担います。特に、強い横揺れ地震に耐えるために設ける『耐力壁』の位置には、柱を引き抜こうとする力も働くため、柱や土台が抜けないようにアンカーで固定する必要があるのです。
左上の画像で、基礎のコーナー部分に立っている「亜鉛メッキ」のボルトが、ホールダウン金物と呼ばれるアンカーボルトです。
他のアンカーボルトは、土台をナットで締め付けるだけの長さしか不要なので、この基礎の鋼製型枠からほとんどボルトの頭が出ない位置に収まります。しかしこのホールダウン金物は、土台の上に載る「通し柱」が抜けないように、土台の上まで貫通して柱を固定するため、太さも長さも別格です。
耐力壁やホールダウン金物については、別の講座で詳しく解説しています。
重要なアンカー位置
基礎と土台をボルト締めする「アンカー」は、船の錨(イカリ)と同じで、土台が横ずれしたり浮かないために、基礎コンクリートに埋め込まれます。つまり「コンクリートを打つ前」に埋め込んでおくのですが、実は位置が重要です。
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アンカーのかぶり厚さ確保
鉄筋と違ってめっきで錆びにくいアンカーも、かぶり厚さの確保が必要です。すでに鉄筋を格子状に組んでいる中に差し込むので、ヘタすると鉄筋と干渉して斜めにしか入らないとか、正確な高さに揃わないといったことがありました。最近は、右上の画像のようにアンカーを取り付ける治具があるため、鉄筋にアンカーを縛り付けることもなく、独立して寸法確保が可能になっています。
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土台の継手位置や柱位置
木造住宅の土台は、3.5寸(10.5cm)か4寸(12cm)のヒノキ材または防腐処理された集成材が使われるケースが多く、3~4mで継手がきます。アンカーボルト位置は、継手に重なったり、継手から離れてしまうと、十分な押さえが効きません。
また柱や間柱位置にボルトが来ても、ナット締め出来ません。そのため現場監督は「基礎伏図」のアンカーボルト位置と「床伏せ(土台・床組み)図」の継手や柱位置など、レイヤーを重ねて位置に間違いがないか確認が必要です。
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アンカーボルトの高さ
昔はアンカーボルトが土台の上に突き出て、座金を挟んでナット締めをしていました。最近はアンカーボルトと土台の高さは揃い、ナットを土台に埋め込むような形となりました。
そのため左画像のように、アンカーボルト自体はしっかりと既定の深さ、基礎に埋込めるようになりました。以前は深さにバラつきがあったのです。※柱脇の2本のボルトはホールダウン金物。
昔の住宅建築は、法律もゆるく施工も「経験値」でされていたため、アンカーボルトもまだコンクリート打設直後の柔らかいうちに、田植えのようにボルトを差し込むということもされていました。位置や高さにバラつきが生じ、アンカーの効力が不十分な現場もあったのです。
土台と継ぎ手の位置をしっかりと確認しなかったために生じた画像も参考にご紹介しておきます。このような場合、設計の引き抜き強度が担保出来る「ケミカルアンカー」という事後対応ででも補強するしかありません。
立上がりコンクリート打設
基礎天端の高さやアンカーボルトの取り付け位置などが確認出来たら、コンクリートミキサー車を呼んで、生コンを打ち込みます。基礎スラブの時と同様に、しっかりバイブレーターで振動を与え、鉄筋の裏側までコンクリートが行き渡るように撹拌します。
特に、すでに乾いている基礎スラブと新しく打ち込んだコンクリートの『打継(うちつぎ)部分』は、バイブレーターが不十分だと小さな隙間が生じ、シロアリの進入口や、大雨の時の水の浸透も懸念されます。傾斜地で基礎の打継部分が地面の高さよりも下がるケースでは「止水板」など、水が入らないように防水処理も必要です。
基礎天端のレベル(水平)出し
基礎立上げ部分の型枠は、バイブレーターで振動させてもズレたり、広がったりしないように、上端を治具でクリップ止めしています。その合間を縫って、コンクリートを流し込むのに、長~いホースがついたポンプ車で上から生コンを流し込みます。
左上の写真のように、まるで川にブリッジが掛かっているような状態で、スコップやコテで均すには作業性が悪いので、バイブレーターをかけることでドロッとした半液状化状態にして、均一の高さにしていきます。
この段階では粗い表面のコンクリートに、仕上がりの高さを確認する作業を行います。以前は使い捨ての木製型枠に、高さ位置を墨付けしたり、面取りのコーナー部材で揃えて、金コテ仕上げをしていましたが、今では様々な治具があり、水平器などで正確に「レベル」を出してから、天端均しの作業をしていきます。
セルフ・レベラー流し込み
着工前の下準備でつくった『丁張り板(水盛り・遣り方)』から基礎天端の高さを追い、粗仕上げのコンクリートの上に『レベラー』と呼ばれる柔らかいモルタルを流します。
コンクリートの天端には、一定のピッチで仕上げの高さが分かるような印があるので、その高さになるまでレベラーを注ぎます。
この作業の精度が低く、右奥と左手前の基礎天端が2cmでも狂っていたら、建物自体が傾いて建ってしまいます。だから、液体のようになめらかで、自然に水平になる「セルフ・レベラー」でミリ単位の狂いもないような水平な基礎をつくります。
コンクリート養生
コンクリートはセメントと水の「水和反応」によって徐々に凝結します。
その後硬化する過程で、熱を発して急速に水分も失われていきます。そのまま放置すると中途半端な段階で水和反応が止まり、十分な固さが得られないため、乾燥する速度を抑制する必要があります。
これを『養生(ようじょう)』といい、太陽の日射をカットするだけではなく、型枠に数センチの水を張って打ったばかりのコンクリートの天端に水を溜める『湛水養生(たんすいようじょう)』や濡れたシートでカバーして散水する『湿布養生(しっぷようじょう)』といった湿潤状態を維持します。
養生期間は、外気温などによっても変わってきます。特に真夏の日差しや真冬の凍結時などは、注意が必要です。
ベタ基礎完成!
既定の養生期間を空けたら、型枠を外し基礎が完成です!
地元工務店の基礎はほぼ100%「ベタ基礎」です。しかし、なぜか大手は逆にほぼ100%「布基礎」が採用されています。
▼次の講座は「番外編」
実際にご近所の現場で自然と目に入る大手ハウスメーカーの基礎工事を、私が撮った写真をもとに解説していきます。