大震災でも壊れない木造一戸建ての耐震性と安全性【若本修治の住宅取得講座ー14】

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そろそろ自分たちの家を持ちたいと考え始め、住宅展示場や住宅雑誌で情報を集めると、必ず「当社の工法は地震に強い耐震構法です!」といった耐震強度を謳うメーカーや営業担当者と出会います。今住んでいる家の不満や不安が「耐震性能」にあるのだったら、優先順位も『地震に強い家』になるでしょうが、各社の営業攻勢によってそれまで気にも留めていなかった『耐震性』や『省エネ性』が、急に家づくりの中心課題になってしまう方も少なくありません。

今回の記事では、各社から話を聞けば聞くほど混乱し、じゃあ「実際自分たちが家を建てる時に、何を注意すればいいの?」と、”核心”だけ知りたい人向けに、耐震性を中心とした一戸建て住宅の安全性について解説していきたいと思います。

 木造住宅の耐震性の重要ポイント

Wakamoto
RC造や鉄骨造、2×4工法など、様々な工法の違いによる耐震強度はネット上でたくさんの解説があります。また「耐震」と「制振」「免震」の違いもここではあえて解説せず、最も戸数が多く不安もある木造住宅についてまとめました。

世界有数の地震国である日本では、大きな震災があるたびに耐震基準構造計算などが見直され、今や工法による耐震性能の差はほぼなくなりました。工法の差よりも、住宅性能評価制度に基づく『耐震等級』で1~3のどの強度を選ぶかで、建物の耐震強度の差が出ると考えたほうがいいという時代です。

ちなみに『耐震等級-1』は、阪神淡路大震災クラス(数百年に一度)の巨大地震でも建物が倒壊しないレベルの強度が基準となっています。あくまで「震度7近くでも倒壊しない」というだけで、震度6くらいでも「損傷」はあるとお考え下さい。

地震保険で直せば住めるレベルの損傷で済むから、地震による建物倒壊で圧死する人が出ないような基準が建築基準法で定められ『耐震等級-1』とされています。その強度よりも計算上1.25倍の強さを『耐震等級ー2』そして1.5倍の強度の建物が『耐震等級ー3』と定めています。

では、あなたがお願いしようとしている住宅会社、ハウスメーカーが「当社は『耐震等級ー2』以上の建物が標準仕様なので安心です!」と説明されたからといって、それが本当に安心かどうかは商談の段階では分からないから厄介です。

柱の直下率を確認しよう!

下の画像は、私がプランの相談を受けた時に、お客さんが持参された他社の間取りです。
私たちが思ってもみないような斬新なプランを頂いたので、参考にしてもらえますか?」と言われ、1階LDKの広さやインナーテラスが魅力的だと説明を受けました。見た瞬間に「この間取りだと巨大地震ですぐに倒壊する」と直感的に感じたプランです。

相談者がスマホで持参した間取り。主な「通り芯」を赤いラインで上下階結び、2階の主要な柱を青い四角で示して、1階に赤い四角でプロットすると、直下に柱がないことが分かる。

図面をスマホで撮影したプランだったので、画像がゆがんでいますが、2階の柱位置の主要な「通り芯」を線引きし、1階のプランと重ねてみました。部屋の角や部屋の出入り口など、2階の柱位置をブルーの四角で囲み、1階プランに重ねて四角を赤にしてみると、1階と2階の柱位置が全くずれていることが分かると思います。

建築知識のない一般の施主は、このプランを見ただけでは気づきませんが、このように加工してみると一目瞭然。加工方法さえ分かれば、素人でも確かめることが可能なのがこの『柱の直下率』です。

柱に墨付けされた通り芯の位置番号。

元々大工さんたちは、この「通り芯」から柱の位置を決め、間取りをつくっていました。通り芯は、「数字の番号」と「いろはにほへと」の組合せで、一番手前の角の柱が『いの一番』です。京都の住所が住居表示ではなく「通り」と「筋」で分かるのと同じです。

今は、プランを「通り芯」から描き始めるのではなく、いきなり間取りソフトやCADで描くから、上下の柱の位置に関係なく部屋の配置が可能となりました。まったく建築の勉強をしていない営業マンや、建築学科を卒業したばかりで実務経験のない設計の新人が、忙しい先輩の建築士に代わって、間取りをつくることが出来るのです。

上記のプランは年間200棟以上の注文住宅を手掛けている、TVコマーシャルを放映している住宅会社でしたし、全国で年間数千棟の供給実績がある「カンナ社長」で有名なハウスメーカーのプランも、同様に危ない間取りで契約を迫っていました。

耐力壁の配置をみよう!

家づくりをするまでは聞くことのない建築の専門用語。その中でも耐震性能で最も重要なキーワードが『耐力壁(たいりょくへき)』です。一戸建て住宅の耐震性能は”耐力壁の配置にある”といってもいいくらい、地震や台風などの横揺れに建物が変形しないための重要な壁です。木造では柱間に斜めの構造材『筋交い(すじかい)』が入っているのですぐに分かります。

上の画像は、玄関入口近くに配置した耐力壁の構造体です。軽量鉄骨造でも「ブレース」と呼ばれる同様の斜めの鋼材が入っていますが、このような耐力壁が、建物の外周だけでなく、家の中心部の間仕切り壁にも適切に配置されていることで、建物にかかる横方向の荷重による変形に耐えることが可能となります。

もっと分かりやすく説明すると、住宅会社から出された平面プランを四分割して、それぞれの区画ごとにバランス良く「上下・左右」に耐力壁が配置されているか、そして建物中央部にも複数の耐力壁が配置されているか、確認して下さい。営業段階の間取りプランでは、正確な耐力壁の位置は不明かも知れませんが、引込みの引戸がある壁を除いて、窓や開口部のない91cm以上の黒塗りの壁を外周以外で色塗りしてみると見当がつくでしょう。

冒頭の「柱の直下率」を確認したプランでは、1階の中央部分にほとんど耐力壁がないことも分かります。
1階に耐力壁が少ないということは、より水平移動が大きく、屋根荷重も支えて家具などもある2階が地震に揺さぶられたら、どのようになるか、建築知識がない素人でも想像がつくのではないでしょうか?

筋交いは図面上「▼」で示され、壁の両側に記号があれば「タスキ掛け(X字)」のダブル筋交いとなり、壁の片方にしか表示がない場合は、右斜めか左斜めだけの「片筋交い」です。ダブル筋交いのほうが強いものの、変形に耐えるため大きな「引き抜き力」が掛かり、ホールダウン金物というアンカーが必要となります。

壁倍率とバランス

お祭りでお神輿を担いだり、体育祭で騎馬戦をした時や胴上げなどをイメージすると、周りを屈強な担ぎ手が支えていても、一部に力が弱い担ぎ手がいてちょっとバランスを崩せば、一気に弱い部分に荷重が集中して崩壊するという経験やイメージが浮かびます。戸建て住宅も同様に、いくら高い『壁倍率』を誇って外周を固めても、大きな地震が来ると弱いところに一気に荷重が集中するのです。

柱の受け持つ荷重は「垂直荷重」で、重さを支えます。
耐力壁が受け持つ荷重は「水平荷重」で、壁の横への変形に耐えると説明してきました。1階は広~いリビングが希望でも、ある程度の壁を設けて1階と2階の柱の位置が6割程度重なっていたら安心なような気がします。しかし実際には、耐力壁で建物を固めるほど、基礎や土台から建物を引き抜こうとする「上向きの力」建物がよじれる「回転力」も掛かるのです。体験的には急ブレーキで前に倒れそうになる『慣性の法則』が建物にも掛かります。

大きな地震でテレビが飛んで来たり、冷蔵庫が動き、家具が倒れてくるのも、慣性の法則です。昔の日本の家のように、束石などの石の上に土台や束を置くだけで、太い柱や梁、重い瓦で上から押さえていただけだったら、大きな地震でも冷蔵庫と同様に、位置がずれるだけで済んでいました。台風や竜巻でも同様です。

しかし今の住宅建築は、コンクリートの基礎に土台を緊結する「アンカー」で固定します。横荷重も耐力壁で固めると、その場所には大きな慣性の法則が働き、柱を引き抜く上方向の力が掛かるため『ホールダウンアンカー』という大きな金物と、筋交いプレートと呼ばれる平金物で固定されます。1階は直接基礎に埋め込むホールダウン金物で固定されますが、2階の筋交い(=耐力壁)がある柱位置が実は問題になるのです。

上記の画像は、アメリカ西海岸で建築中の住宅を視察した時の2階の写真です。米国では2×4工法(枠組み壁工法)で、構造用合板を外周に張るため、筋交いの耐力壁のように、特定個所に荷重が集中することはなく、力が分散する『モノコック構造』です。しかし日本と同様、巨大地震がある西海岸の建物は、日本以上に耐震性能に配慮しているようです。画像左端の外周部と同様の大きさの1・2階を貫通する金物が、中央部分の間仕切り壁にも、枠材をサンドイッチする形でダブルで施工されていました。

このように、2階に引き抜き力が掛かる耐力壁には、セットで1階にも耐力壁がない場合、柱が載った梁や桁に大きな変形の応力が掛かります。この現象で、熊本地震で『耐震等級ー2』の建物が倒壊したようです。だから、現実には構造計算もなく、壁量のバランスも考えない『耐震等級ー2』では、安全で建物倒壊しないとは言い切れないのです。

床剛性もチェックしよう!

この『床剛性』という言葉も聞きなれない専門用語です。
柱や壁は、主に垂直(縦)方向の力で変形しないように保ちますが、水平方向にも変形する力が掛かるため、水平剛性を高めることも重要です。一般的には床剛性と呼ばれますが、実際には筋交いのような斜め材は『火打梁』と呼ばれるコーナーに配置される小さな構造材だけといっていいほど、水平剛性はあまり考慮されないで日本の住宅は建てられました。

下の画像は、大手ハウスメーカー数社でプランを検討していた相談者が持参したプランです。鉄骨系のプレハブメーカーは、工場で製造したユニットをトレーラーで現場に運搬するから耐震性能は安心ながら、プランが面白みに欠けるため、自由度の高いハウスメーカーで大きな吹抜けのあるちょっとオシャレなプランを作成してもらっていました。

このプランを見ると、いかに床剛性が大事だということが分かります。

あえて「柱の直下率」は示しませんが、吹抜け周辺の2階廊下や書斎、各居室の柱の下には、屋根荷重まで載っている2階の柱を受ける支えはありません。中庭に面してシースルーのカッコイイ階段があり、一面ガラス張りだということも分かりますが、ここは「胴差(どうさし)」と呼ばれる梁と同様な”横架材”1本で繋がれるのだと想像されます。

半ば建物は南側と北側の2つに分かれ、横架材と廊下で繋いでいるとイメージすると、ここに巨大地震が襲い建物を揺らすと、吹抜け部分が大きく変形するということが容易に想像つきます。この吹抜けが床だったら、それほど変形しないこともイメージできるでしょう。これが『床剛性』です。

もっとイメージしやすいように説明すると、大きな家電製品を買った時の段ボール箱が分かりやすいでしょう。段ボール自体が『モノコック構造』で、荷重を壁で受ける「2×4工法」と同様に”面で力を分散”します。段ボール自体の1枚の強度は弱くても六面体になることで強度が高まるのです。

Wakamoto
逆にいえば、段ボールも上下(=水平面)にフタをしてガムテープで固定するから形が崩れないのであって、建物も床剛性が低ければ、強い荷重で建物が変形してしまうのです。サッカーボールなども同様ですね!

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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。