いざ自分たちの家を建てようと思いたった時、多くの人は何気なく住宅展示場に行くか、SUUMO(リクルート社が発行している住宅情報誌)のような住宅雑誌を買い、どのような会社があるのか情報収集するのではないでしょうか?調べ始めると、その地域で注文住宅を建ててくれる住宅会社が、TVコマーシャルを流している大手のハウスメーカーだけでなく、地元でもしっかりした数多くの工務店がいい家を建てていることに気づかされるでしょう。
今回の講座では、住まいづくり専門コンシェルジェとして数多くの住宅建築のコンサルティングを行ってきた私が、工務店とハウスメーカーのどちらを選んだらいいか、判断材料を提供します。ハウスメーカーといっても20社以上ありますし、工務店であればその数倍の会社がありますが、まずは二者択一で絞っていきましょう。ハウスメーカーと工務店の違いが分からない人は、第5回の講座『注文住宅の依頼先の基礎知識とその違い』で復習して下さい。
目次
「チェーン店」か「オーナー店」か
外食チェーンの代表的業態の『ファミレス』。小さなお子さんや両親、友達同士など、どのような家族・団体でも対応でき、安心して入れる飲食店がファミリーレストランですね!
代表的なファミレスをイメージしてみれば、大手ハウスメーカーも同様だと分かります。つまり料理の”当たり外れが少なく”メニューや料金に”一定幅のバリエーションがあり”、接客やサービスも標準化されていて悪い印象は抱かないけど、決して「ビックリするほどおいしい」訳でもなく「とってもリーズナブル」という支払いでもないのです。
ハウスメーカーが建てる家
ファミレスをイメージしてみると、和食も中華も、イタリアンなどの洋食もあり、それぞれのお店の個性や味付け、素材のこだわりなどはあっても、基本的に食材の仕入れやメニューは本部で一括管理し、セントラルキッチンで商品開発・調理をされます。
ハウスメーカーの家も、建物のスペックやデザインは概ね本社の商品開発部が決め、工場生産された部材を建築現場で組み立てるため、お客さんの要望やオーナーの好み、「季節の旬」などといった、その場の雰囲気や立地条件、窓から見える景色などで変化する、お客さんごとの建物への影響やワクワク感といった、家づくりの楽しさを味わうことはほとんどありません。
ハウスメーカーが重要視するもの
ハウスメーカーで最も重要視するのは”お客さんの建築予算”です。そして勤務先をまず知りたいのです。なぜなら、商談の最初に対応してくれる担当者が「当社でいくらのお金を使ってくれるご家族か?」に最も関心がある営業マンだから。どのような間取りや外観の家を設計しようかとデザインに関心が高い建築士でもなく、災害に強く断熱性能もいい家をつくりたいと施工技術を勉強している工務担当者でもないのです。
だから、面談の最初にアンケートを求められ、施主がどんな家を建てて、どのような暮らしを描いているかよりも大切なのは、施主の個人情報・属性を聞き出すことです。勤務先や年収によって、その会社でどのグレードの家をどのくらいの床面積で建てられるのかが、大枠で決まります。頭金や親からの援助などがなければ、ローン限度額でも希望の家が建たない可能性があるから、まずは建築予算の把握が営業マンの第一の仕事なのです。
上記の画像は、同じ通りに並んでいる同じ大手ハウスメーカーが同時期に建築した戸建住宅です。区画(街区)全体をこの会社が買占め、建築条件付きで販売した宅地で、担当した営業マンが違っていたのか、予算によって変わったのか、まったく街並みや調和を感じられない通りになりました。施主の好みとはいえ、設計主体で進められた街並みや外観ではなく、営業主体で契約金額だけ確保出来ればいいとつくった街並みは、同じ有名企業が設計施工しても、このようになるという事例です。決して展示場の雰囲気は得られません。
ハウスメーカーの建築コストと価格のカラクリ
多くの人のイメージでは、工場で大量生産している『メーカー品』は、量産効果があって大量仕入れもするから、競争原理によって”コスパが高い”と思っているのではないでしょうか?つまり自家用車や家電製品等と同じく、1品生産のオーダー商品に比べて、工業製品であるプレハブ住宅は、工務店が雇っている建設労働者の生産性よりも、現場の作業効率も高く、小さな工務店が一品生産する注文住宅に比べて、品質や性能が高いのも当然で、その割には適正な価格で提供され、アフターや保証分、多少高くても「安心を買う」という人が多いようです。
しかし、住宅は家電や車、その他の既製品と違い、日本国内どこの誰が買っても、単体で同じ大きさ・性能・品質が約束され、価格も『標準小売価格』という参考になる価格情報が得られるというものではありません。建物を建築する立地条件(敷地形状やインフラ・道路付や現場作業性含む)、気候風土、家族の要望による部屋の広さや欲しい住宅設備、求める性能(耐震や省エネ等)、発注のタイミング等によって、価格変動要因が1軒1軒の依頼ですべて異なるのです。
また、他の製造業の量産品と比べて、価格を安くできない大きな理由があるのです。それは、ハウスメーカーが自前で抱えている『高額取りの販売部隊』と、全国に出展している『豪華な住宅展示場モデルハウス』の維持経費です。他の産業のメーカーに比べて、この2つの”固定経費”(会社の操業度・売上の変動に関係なく掛かる毎月ほぼ固定された支出)が突出しており、安くすれば数が販売できるような商品でもないため、いかに高く販売するかに知恵を絞っているのが住宅業界、大手ハウスメーカーなのです。
その上、家を建てる見込み客を見つけるのに、テレビでのイメージ広告のほか、実際に住所や名前を把握するための雑誌広告による資料請求やイベント開催費用、その後、見込み客ご家族との商談や敷地の確認、プラン作成、見積提出も、ほぼ無料で行われ、契約まで至らない莫大な作業量に掛かる人件費・外注費など、誰かが負担しなければならないのです。無銭飲食に近い、数多くの試飲・試食を勧めて、正規に食事をした家族に、お金を払わず試食した人たちの費用も請求されるようなものなのです。
さらに、ハウスメーカー自体が建設作業員や施工技術者を抱えている「直営工事」で、労働生産性を高く改善出来る訳ではなく、工事は下請け・孫請けに発注されるから、そのマージンも必要です。社会で働いている人であれば、どのくらいのマージンが抜かれているのか、ニュース報道などからでも想像がつくでしょう。
平均建築コストの推移を見てみよう!
経済や経営が分かる方は「ハウスメーカーは固定費が大きいため『損益分岐点売上』がかなり高く、相当な売上を維持しなければ赤字になる」ということが理解できると思います。しかし、実際に自分たちの建てる家が本当に割高なのか?営業マンによって値引きしてくれたり、キャンペーンで安く買える可能性もあるのじゃないかという期待もあるでしょう。
なぜなら、友人や身内であっても、同じ家はなく、実際に掛かった建築コストもほとんど比較できないから、自分の家が高くついたのか安かったのか、ほとんど誰も分からないのです。まるで初めての海外旅行が”無事帰国できたら満足”のように、住宅も”無事完成したら満足”なのです。業界新聞で調査した各社の平均坪単価や、ランキングなども出ていますが、そのデータ自体の精度も分からないのが実態でした。
そこで私が、とある大手ハウスメーカーのIR情報(株主・投資家向けの企業実績広報)から、上場企業として公開している実際のデータで2013年から2017年に掛けての同社の建築費の平均単価推移を見つけ、補足説明の加工をしたのが下の画像(表)です。
2013年はアベノミクスがスタートし、日銀が異次元の緩和をスタートさせた年。
2014年に消費税が5%から8%に上昇し、その前の駆け込み需要と反動減があったのがこの時期。物価が下落するデフレ状態を脱却するというこの時期に、このハウスメーカーでは毎年2ケタの建築費の上昇、つまりインフレ状態が続き、5年で1.5倍の平均単価になっている。2013年に6,126万円だったアパート建築費が、2017年実績で3千万円以上あがって9,396万円になっている。同社が供給している年間4千棟あまりのアパートの”平均価格”が、注文住宅1棟分上昇しているということだ。営業政策的に値上げしても、誰も気づかない。
工務店で建てる家
ハウスメーカーでは、余分な間接経費が高く、自分たちの予算では厳しいと考えた場合、選択肢は地域の工務店となります。しかし、冒頭に外食産業との比較で書いたように、工務店は地域に密着している飲食店、定食屋さんのようなものです。食堂でも、実際に食べてみなければ美味しいか、割安なのか評価できません。
とはいえ、個人の自宅を設計事務所に頼むのは、行った経験のない料亭で料理を頼むようなもので、多くの場合は設計料負担だけでなく、特注の仕様や別注家具などの製作が伴うため、相対的に建築費は割高になり、建築家の個性の強い住宅になるでしょう。
工務店が重要視するもの
注文住宅を手掛ける工務店が最も重要視するのは”自社の家を評価してくれるか?”ということです。自社がこだわっている材料や構法、耐震技術、断熱性能など、他社との違いを理解してもらい、お互いが信頼関係を築ける施主かどうかを、最初の出会いで気にしています。安いだけの家を求めているお客、他社と駆け引きしながら無料サービスを要求し、好条件を引き出そうという人には警戒心を抱きます。
多くの工務店は「造り手」であり「技術者集団」なので、最優先するのは”自社を信頼し、選んでもらった建築主”です。つまりまだどこに決めるか迷っていて、何度も無料の提案を要求したり優柔不断で振り回される相手に、それほどの時間を費やす余裕はありません。
また相談に対応する相手も、営業マンではなく工務店の社長自身か、建築のことが分かる担当者の場合が多く、見た目だけカッコイイ住宅や施工経験の乏しい特殊な要望などは、過去のお引き渡し後のトラブルやクレームなどの経験から、安全マージンを多くとるケースがほとんどです。つまり営業担当者のように、現場責任がなく簡単に「出来ます!」とか「お安くできるよう努力します!」といった前向きな回答より、「高くつきそうですが」とか「構造的にはあまりお勧めできません」といったネガティブな返事が多いでしょう。
優良な工務店の選び方
ひとことで工務店といっても、飲食店にフランチャイズ加盟した地元中小企業のお店があるように、規模もモデルハウスの有無も、価格帯やつくる家も千差万別です。
まずは”避けたほうがいい工務店”から説明しましょう。
建設業の許可を得ていない業者は論外として、元請けで注文住宅を手掛けている会社は最低限『建築士事務所登録』をしています。その登録がない会社は、職人集団の施工部隊で、ハウスメーカーの下請けなどをしている工務店です。
残った工務店の中で、マスコミ各社が運営している『総合展示場』に常設のモデルハウスを設置している出展企業は外しましょう。固定費負担や営業マン主導の家づくりは、大手ハウスメーカーと同じで、さらに住宅商品の開発力やデザイン設計力にバラつきが多いため、満足と不満のギャップが大き過ぎる懸念があるのです。
もっと詳しく工務店選びを知りたい場合は、以前書いた『住宅会社の選び方(工務店編)』をお読み下さい。私が運営している『住宅CMサービス広島』のことも触れています。
まとめ
私が「工務店とハウスメーカーのどちらを頼んだらいいですか?」と尋ねられたら、間違いなく地元工務店を選ぶようアドバイスします。よほど特殊な条件でない限り「木造の家」を勧め、「地元の優良な工務店」で建ててもらうことが”いい家を適正価格で手に入れる”王道です。
皆さんがTVコマーシャルで良く耳にする大手ハウスメーカーのほとんどが、実は鉄骨の住宅だけでなく、木造住宅のブランドや子会社を持っているのです。そしてその家を実際に建てているのは、名も知らない地元の工務店なのです。