新築の間取りを考えるシリーズの最終回となりました。
前回の第二回は、第4「耐震と耐久性」、第5回が「省エネ性能と間取りの関係」そして第6回は「家族が楽しく過ごせる平面計画」をご説明しました。前回の記事は以下ご確認下さいね!
住宅の価値は「機能」「性能」「デザイン」と言われます。
この「間取りシリーズ」ではデザインは取り上げません。デザイン以前に「発注者」(=施主)としてプロに依頼するために、自分たちの要望を整理することが大切です。デザインや性能はある程度プロ任せにしなければ、相手もプライドあるいい仕事をしてくれません。
目次
機能的なプランニング
建物外部の動線
前回は、家の中の「家事動線」と「生活動線」を考えてみました。
今回は車や自転車、徒歩で帰宅した時や朝出掛ける時の「建物外部の動線」を考えてみましょう。
例えばジョギングが趣味な人であれば、汗だくのまま玄関から入ると、主婦にとってはイヤかも知れません。勝手口から入りそのままシャワーを浴びて着替えるという動線も、注文住宅であれば可能です。また、魚釣りが趣味のご主人では、釣って来たお魚の処理やクーラーボックスや釣竿をどこで洗って収めるか、駐車場位置との関係も重要でしょう。キャンプが趣味の家族は帰ってからのキャンプ道具の収納など、家族によって生活動線は千差万別です。
さらに宅配業者や郵便配達の人に敷地内にあまり入って欲しくない人もいるでしょう。道路近くに門扉を設けて宅配ボックスや郵便受けを配置すると、朝困ってしまうケースも生じます。また新聞の投函で外気の冷たい空気が家の中に侵入する隙間も生まれるので、断熱も含めて考えたいですね。
効率よい収納計画
主婦に人気の資格として『整理収納アドバイザー』を勉強する人が増えてきました。インテリアコーディネーター資格はちょっと難しくてハードルが高いけど、趣味と実益を兼ねて学ぶには手頃な資格です。さらに『ライフオーガナイザー』やもう少し専門的な『住空間収納プランナー』といった「片付け」や「収納計画」を仕事にする人たちも増えています。
ポイントは「使う頻度」と「使う場所」によって、どこに何を収納するか決めること。仕舞いやすさや取り出しやすさを考えると、収納の奥行きや高さも大事な要素です。「断舎離」という言葉も流行りましたが、新築計画では、何を新居に持って行き、何を捨てるのかも考え、新しい家でも利用する家具は、寸法なども測っておきましょう。花嫁道具として頂いた婚礼ダンスが全て並ぶ部屋の広さを確保したいという相談も、間取りに大きく影響してきます。
収納は、室内をいつも片付いた状態できれいに見せるために必要です。出来るだけモノを持たず、シンプルな生活をする人もいますが、子供たちもいて掃除や片付けの時間があまり取れない場合もあるでしょう。そんな時、特にリビングの近くで、来客があった時にすぐに隠せるスペースがあれば、友達が遊びに来ても安心です。テレビの壁面の裏に4帖程度の収納部屋を配置し、両脇にドアのない開口部を設けておくと、急な来客でも目隠しすることも可能です。
子供部屋の考え方
家を建てる動機に「子どもたちが学校にあがる前に」とか「子どもを伸び伸びと育てたい」といった『子供重視』で注文住宅を選ぶ方が数多くいらっしゃいます。上記プランもそのような希望の相談で作成した2階のプラン。出来るだけ個室にこもらず、家族に隠し事なくオープンに育てたいという両親のご要望で、3人のお子さんたちの部屋は4.5帖の狭さです。寝場所はロフトにしたので、プラン的には屋根形状や勾配も関わってきます。
年齢の離れた子供のいる家や、性別が異なる兄妹に個室を用意するケース、敢えて個室はつくらず広い部屋を家具で仕切るプランなど、子供部屋もご夫婦の考え方によって千差万別です。兄弟はすべて「公平にしたい」として、部屋の広さだけでなく、日当たりなどの条件も揃える場合もありますし、吹抜けに面して1階のリビングと小さな室内窓で繋がっている子供部屋も楽しい間取りです。
屋根荷重や小屋裏を支える柱がなければ、将来リフォームをして間仕切りを新しく造ったり、壁を取っ払うのは自由で、費用もそれほど掛かりません。考えがまとまらない場合は広い部屋をつくって、住み始めてから考えてもいいでしょう。1階と違って2階は荷重の負荷が少ないので、勾配天井にするなど大空間が造りやすいのです。
最後の8つ目のポイントをみていきましょう。
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将来に備えるプランニング
子供たちの成長も、親が考えるよりあっという間です。そして自分たちも年齢を重ねた将来、実家の両親の状況や自分たちの老後もイメージしてみましょう。
バリアフリー考
新築でも、首都圏から実家のある街にUターンし、実家を二世帯住宅にしたり、同じ敷地内の離れや木造アパートを建替えて新居にされるケースも増えてきました。もちろん三十代の方も、故郷の両親や自分たちの老後も考えて、バリアフリーやユニバーサルデザインを採用するケースが増えています。
「バリアフリー」と聞くと、段差をなくしたりスロープを付けたり、手摺り用の下地を入れたりといったイメージがありますが、「高齢者用の住宅」をイメージするより、玄関アプローチでベビーカーを楽に押せるとか、子供が角で頭をぶつけないといった、子供や健常者でも暮らしやすいプランが望まれます。
実際に自宅で車椅子で過ごすという想定はかなり低い確率でしょうし、私の父は脳こうそくで片麻痺になっても、明治時代に建てられた古い段差のある家で16年間過ごして亡くなりました。体が不自由になるのは、手なのか足なのか、右半身か左半身か、実際に発症しないと分からないので、その時にリフォームで対処すればいいのです。
却って「少しくらいの段差がある」家は、注意をして移動し、リハビリになるケースもあり、古民家を改修したグループホームは、施設で生活するよりも、お年寄りが元気で動き回るそうです。2階の床や階段がギシギシと床鳴りすることで、夜間に徘徊するお年寄りも介護職員に気づかれ、愛嬌をふりまくといった人間らしさも垣間見れるのです。
間取りの可変性
今の日本では「家は3回建てないと満足のいく家にならない」という状況ではありません。最長35年の住宅ローンを組み、恐らく新築で建てて20年後も同じ家に住み続けているでしょう。しかし8歳の長男が社会人になって28歳だったら恐らく家を出ていて、住んでいる家族構成が変わっているのが普通です。
アメリカの場合、10年以上同じ家に住み続けていると「あの家族は何かあったのでは?」と言われるくらい、家族構成の変化で家を移り住んでいきます。ライフスタイルというのは、ライフステージによって家族構成も収入も、趣味さえ変わってくるのが普通なので、今の自分たちのライフスタイルに合った中古住宅を探し、リモデリングするというのがごく一般的です。だからそれほど間取りの可変性は問わず、壁式構造の2×4工法で躯体はそのまま利用出来るのです。
これから家づくりをする人は、あまりにも家族だけの特殊なこだわりで間取りを考えず、家族構成が変化しメンテナンスに費用が掛かり始める時期に、売却することも考えたほうがいいでしょう。つまり新築時と同世代の人たち、同じような家族構成の「より多くの人」が、使いやすくて魅力的だと思う間取りにすることです。対象となる人たちが多いほど、より高く売却が可能で、生活の自由度も高まります。
それは全く間取りが動かせないということではなく、出来るだけ広い空間が確保できる『オープンプランニング』で間取りをつくり、間仕切り壁を動かしても構造的に安全な「構法」を選ぶこと。大スパンでも可能な建築工法であれば、間取りの自由度もリフォームのしやすさも高まります。
子供たちの独立後
住宅ローンの残債が多くて、なかなか中古で売却できないというのも日本の現状。子供たちはすでに実家を離れて昔の子供部屋は「倉庫と化している」という家も少なくありません。これまでは、少なくともお盆とお正月は帰省するから、孫を連れた「子世帯家族」が泊まれるよう、部屋を確保していました。
これまでの「帰省ラッシュ」は、実家におじいちゃんやおばあちゃん、親戚が集まるから、年に一回くらいは故郷に戻っていました。子供たちはお年玉ももらえ、盆踊りなどで楽しく親の故郷で過ごしました。しかし新しい家を建てて20年後、祖父母も親戚もいないその家に、故郷を離れた子供たちが果たして帰ってくるのか・・・?仮に年に1~2回帰って来たとしても、ホテルの宿泊とディナーの費用を家族分負担してあげたほうが、建物をそのまま維持するより経済的なのは間違いありません。
住宅を「投資」と考えるアメリカ人は、中古住宅の売却だけでなく、空いている部屋を近くの大学生などに貸して賃料を得るということも少なくありません。シェアリングエコノミーで有名になった民泊の『エアービー・アンド・ビー』(Airbnb)も、元々英語圏の人々は「bed and breakfast」と呼ばれる、個人の家や別荘を一時的に旅行者に貸すのは珍しくありませんでした。それをネットで世界中にサービスを拡げただけで、長期のバケーションを取る欧米人は、留守中でも他人に貸してキャッシュを得るというのは特殊なことではないのです。
いつまでも空き部屋が出ている家をそのまま所持して、固定資産税などの負担を続けるのか、それとももう少し柔軟に売却や一部賃貸なども出来るように選択肢を増やしておくのか、今や新築時に考えておきたいところです。でなければ、夫婦が五十代や六十代に突入し、住宅ローンが残っている段階で収入が減ったり、環境が変わった時に、さらに追加負担が生じるというケースも想定できないわけではないのです。
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まとめ
実際には立地条件や施主の希望、建築予算などによって、そして一番は「頼む相手」によって全く変わってくるのが間取りです。
会社のパンフレットもホームページの制作も、発注者(=家だったら施主)が「私たちは知識がないからすべてお任せします」と言われるのが一番困るのです。専門的知識は無くても、自分たちの意志だけは整理しておきましょう。
建築コストと坪単価
私たちはスーパーでの買い物以外にも、生命保険や損害保険、スマホのキャリア(通信業者)など、あらゆる商品やサービスで、支払うお金の対価を比較して購入します。企業側は、同じ条件で簡単に比較されると、価格の安いほうに流れ利益が確保できないので、独自の契約条件や期間の設定、複雑なオプションやめまぐるしく変わるキャンペーンなどで、販売員でさえ申込用紙にチェックを入れて行かなければ、いくらの負担になるか出せないサービスが数多くあります。
自社のサービスでさえそんな状況なので、他社のサービス体系や価格体系はほぼつかめないのが現実。だからネット上の価格比較サイトが、最も最新情報が更新されて、同じ条件での比較や特長の違いを明確にしてくれます。ちなみに私も「広島地区限定」で、個人が戸建て住宅で「入札を行う」という相見積サービスを平成14年から運営しています。
戸建て住宅は、個人が負担する額も、選択肢も比べ物にならないほど桁外れに多いのに、十分な比較も価格交渉も出来ないまま、相談相手であるプロが「何となく信頼できそう」とか「熱心さが感じられる」「有名なメーカーだから」といった、間取りや建物の品質に全く影響を与えない「感覚」でしか依頼先を選べていません。
坪単価も、その中に含まれている工事の内容も、会社によってバラバラで、業界の標準はないのです。ここまで読んでもらって分かるように、同じ坪数(床面積)でも外壁の延べ長さ(=平面形状)によって使用される建材の数量も、施工する職人の手間も変わってきます。だから「坪単価が安いから」という理由で建築業者、ハウスメーカーを選ぶのはやめましょう。依頼先や仕様・設備が同じであれば、建物の形状がシンプルなほどコストは抑えられますが、今回のテーマは「間取り」なのでこのくらいで・・・。
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よい間取りとは
この質問は、結婚相手を選ぶ時に「良い妻とは?」とか「良いダンナとは?」というのと同じで、その人の育った環境やこれまでの人との出会い、好き嫌いやタイミングなどで、例え同じ人でも変わってきます。総合展示場で見るモデルハウスは、「好きな芸能人」を答えるようなもので、好みの参考にはなってもそのまま手に入れることは叶いません。
でも今回の8つのポイントで自分たちが手に入れたい家のイメージを少しづつでも固めていくと、数多くのプランの中から、自分たち家族にあった間取りにたどり着く確率は高まります。少なくとも「変な間取り」で契約することはないでしょう。
多くの人が南向きの敷地で、明るい家を希望します。しかしロケーション(立地条件や眺望など)によっては、北向きの家でも工夫次第で快適に過ごすことも可能です。下の事例は、道路が北側にも南側にも面していた敷地で、私は北入り玄関を勧めたプランです。参考に南入り玄関のプランも作成しました。
南北の道路には「高低差」があり、北側の道路がバス停もある主要道路。歩道もあるので、駐車場をつくるには歩道の切り下げ工事も必要で、バックで駐車するにも気を遣います。一方敷地より一段下がった南側の道路は、幅員6mの生活道路。道路の向こうは崖になっていて、遠くまで眺望が望めます。
玄関を南側に配置することで、建物間口の約3分の1は南側からの明るさと、窓からの眺望を塞ぎます。駐車場と玄関までの高低差も大きいので、約10段ほどの階段が必要でした。しかも浴室・洗面やトイレを北側に配置すると、バス通りでもある北側には人通りも多く、トイレやお風呂に入っていても落ち着きません。通りにお尻を向けている建物となります。
最初、南入り玄関しか頭になかった施主ご夫妻も、実際に現地に立ち、双方の建物配置や間取りを比較して、私が勧める北入り玄関のプランを採用しました。まだまだ違うプラン、選択肢はあるでしょうが、納得のできる過ごしやすいプランにこのご夫婦は大満足です。
防犯・セキュリティ
家づくりで外せないのが、防犯に対するセキュリティ対策。防犯合わせガラスや窓格子の設置など、建物単体の対策も大切ですが、建物の外部や建物の配置、お隣との関係も重要です。例えば、外部の収納に脚立があったり、ドライバーなどの工具などがあれば、入居者本人の指紋がついた道具で、やすやすと窓ガラスを割ったり、2階の部屋から侵入が可能です。
人が隠れやすい場所があったり、隣から飛び移れる距離だったら、犯人は下見で侵入方法と逃走路をイメージできます。音や光は一時的な効果があっても、空き巣犯には想定済み。近隣でより侵入しやすそうな家や、ご近所との人間関係が希薄で、周囲の目が届かない家、人気が感じられない地域が狙われるのです。
将来の資産価値
注文住宅では「世界でたった一つ、自分たちだけの家」が夢かも知れません。自分たちの「ライフスタイル」にマッチした家は、建売りでは実現出来ないかも知れません。しかし、これまで書いてきたように、人はライフステージが変われば、住んでいる人の家族構成も変わり、身体能力も変化して、ライフスタイルも変わらざるを得ないのです。
だから、より多くの人が暮らしやすく、最大公約数の間取りが、将来売却する時に売りやすく、値段も下げづらい家となります。海外旅行で見つけたオシャレな家も、外国の旅行雑誌などで見掛ける素敵な住まいも、時代を経ても愛される「最大公約数」のデザインで、特別な間取りはありません。
憧れの「クイーン・アン」も「チューダー様式」や「スパニッシュ様式」も、”あなただけのデザイン”ではなく万人に好まれるデザインだから中古住宅になっても一定のマーケットがあり、資産価値が下がりにくいのです。