住宅建築の長期保証を考える|若本修治の住宅取得講座-22

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家づくりを考え始めて、住宅展示場や住宅情報誌で情報を集め始めると気になるのが、各社で異なっている『長期保証』と『アフターメンテナンス』。自動車や家電製品と違い、容易に買い換えなどは出来ず耐久性が求められるから、保証の長さや入居後のメンテナンス対応は気になるところでしょう。今回の講座は、特に「長期保証」について考えていきます。

Wakamoto
日本人は「長期保証」や「テレビCMを流している」といった”会社規模”や”ブランド力(知名度)”による安心感で購入の意思決定をしがちです。企業に対する信用力といってもいいかも知れませんが、一方で「検査偽装」や「不祥事の隠ぺい」のニュースは、業界を代表するような有名企業、大企業でも数多く発覚しています。残念ながら、最も容易に隠ぺい・偽装できるのが住宅業界といっても過言ではありません。

公的検査・性能評価

まず、住宅建築では役所によるチェック機能があります。
建築着工の承認を得る『建築確認』によって、建築基準法や関連法規に適合しているか、着工前に審査をします。その後、指定確認検査機関が「中間検査」や「完了検査」を行い、『検査済み証』が発行されたら入居が可能となります。昔の建売住宅は、この「検査済み証」を受けずに違法建築のまま引き渡すといったことも数多くありました。

あくまでも”法令に適合しているかどうか”の審査であり、木造二階建て住宅に関しては、耐震強度のチェックも建物性能の評価もありません。また施工業者とのトラブルなどに関しても関知しないので、役所は「確認しましたよ」というだけの存在です。

住宅性能評価制度

阪神淡路大震災など、未曽有の自然災害で発覚する違法建築や欠陥住宅に対して『住宅品質確保促進法』(通称「品確法」)という法律が2000年に施行され、その中の柱の一つとして『住宅性能評価制度』が生まれました。任意の制度ですが、構造や工法、地域に関わらず、全国的に建物に求められる基準を定め、第三者機関が設計段階の審査と施工中の検査を行い、建物の性能を評価することが出来るようになりました。

この『住宅性能評価制度』を利用することで、建物の設計や建築中の現場の情報が第三者に共有され、仮にお引き渡し後に欠陥やトラブルなどが生じた場合に、迅速・低価格(1万円)で「指定紛争処理機関」で紛争の相談対応が可能です。

また新築住宅に関しては、引き渡し後10年間の瑕疵(隠れた欠陥)に対して、請負業者に補修する責任が明記されました。ただし「構造耐力上主要な部分」の不具合と「雨水の侵入(雨漏れ等)」という、構造躯体に大きなダメージが予想される施工ミス・不具合のみの保証で、クロスの剥がれや外壁材の劣化などは、各メーカー・施工者が謳う短期の保証期間しかカバーされません。

瑕疵保証・瑕疵保険

品確法によって、10年間の瑕疵保証は義務付けられましたが、その後に発生した『リーマンショック』や『消費増税』などの経済不況による住宅会社の倒産など、施工者側の経営状況によって義務が果たされず、消費者が泣き寝入りするという事件・事故が多数発生しました。

そこで、瑕疵保証の期間中に請負工事を担当した施工者が破たんしても、他の施工者が引き継げるよう、契約金額に応じた『供託金』を積むか『保険金』を支払うかによって、消費者を救済する制度が出来ました。

工事請負契約の時に、瑕疵担保責任の説明が義務付けられ、重要事項として施主(契約者)自身も、しっかり目を通して理解したことをチェック・署名を求められます。保険自体は施工者側が保険法人に支払いますが、保険証券は施主に届きます。
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画像は、豪雨の際に水切りから雨水の浸入があった広島市南区の住宅。調査や足場架け、補修の費用まで、保険会社の調査員が来てチェックし、補修費用に保険料が支払われます。(施工者にモラルハザードが起こらないよう一定の免責金額あり)

長期保証

工事自体に関する保証や保険は、『完成保証』(お引き渡しまでに施工者が倒産しても他の施工者が完成させる)や、工事中に近隣へ迷惑を掛けた場合の損害賠償や現場の資材・工具等の盗難事故、工事中の火災などをカバーする『工事総合保険』などがあります。数千万円の家づくりをお任せするに足る”信頼出来る相手”しか契約しないでしょうから、完成までに不安があるような事態は生じないでしょうが、入居後の不具合に対する保証は将来の不安や暮らしに直結します。

ハウスメーカーの長期保証の実態

どのような商売でも、相手が完全に信頼し心配がない場合には、私たちは保証を求めるということはありません。車を買う場合も家電製品の購入でも、通常使用で壊れたら、無償で直してくれるのが当たり前で、問題は「何年後まで無償で直してくれるか?」だけでしょう。メーカー保証とは別に販売店(例えば家電量販店など)が別に保証を付けているのは「当社から買って下さい!」というお願いの対価として、保証と引き換えに年会費や個人情報の登録が得られるからです。

販売店の場合は、①将来の買い替え需要、②他の取扱商品の購入、③顧客の購買行動把握によるお勧め商品のDM発送リストの整備、といった”次の売上の期待”があるから、メーカーとは別に「独自の保証」を勧めます。つまり、企業にとって将来の経済的メリットがあるからこその「保証」で、経済的デメリットが上回るような保証はどの会社も及び腰で、少なくとも営業が向こうから言い出すことはありません。

他の商品やサービスと違って、リピート購入(=次の売上見込み)のない住宅や不動産の保証「法令上の義務」か「他社と差別化のための営業戦術」しかないのです。「自信があるから」ではなく「選んでもらうための方便・差別化戦略」だと考えたほうがいいでしょう。

保証内容と長期保証のカラクリ

大手アパートメーカーの『満室保証』や『家賃保証』といった「サブリース」の仕組みが、アパートメーカーの都合のいい契約になっていて、事実上破たんしているということを新聞報道などでご覧になった方もいるかも知れません。「ある一定の条件をクリア」すれば「保証範囲を限定」して、長期の保証をするというのが、住宅業界の常とう手段です。
(アパートの場合は、10年毎に指定の大規模修繕を実施すれば満室保証をするが、修繕を断れば保証契約が切れたり、家賃満額の保証ではなく、家賃減額が条件となるなど)

  1. 住宅の保証内容

    基本的には法令で義務付けられた瑕疵担保責任と同じ『主要構造躯体』の不具合と『雨水侵入の防止』に関して、延長保証です。雨樋や外壁のコーキングの劣化、キッチンやお風呂など設備の不具合などは、それぞれ1年から5年程度の短期間の保証が一般的です。

    細かく免責事項が書かれていて、造成に起因する建物の傾きや大規模災害などは対象外となるため、施工ミスを認めた時のみ無償で修繕対応してくれます。実際に施工ミスを認めるかどうかは施主側はコントロールできません。相手は有能な顧問弁護士が対応します。

  2. 延長保証の条件等

    10年間に無料点検は何度かありますが、延長保証の条件として「有償の点検」と「メーカー指定の有償の維持工事」を行った時のみ(例えば150万円の外壁塗装工事を保証期間内に実施)といった、企業側に優位で一定の売上が見込める条件がついています。契約約款によく目を通し、営業マンにもきちんと確認して契約しましょう。

  3. 実際に保証が必要な期間

    入居後に建築の知識のない入居者が不具合に気づくほどの状態は、通常3年程度で症状が現れます。思ったよりも「暑い・寒い」とか、当初の説明よりも「部屋が暗い」といった快適性は、保証の対象にはなりませんし「建物が揺れる」とか「天井にシミが出ている」といった”瑕疵を疑う症状”が出た時のみ、仕方なく無償で直すケースがほとんどです。

    主要構造部や雨漏りは、小さな工務店を含めどの住宅会社でも10年間の無料修理が義務付けられているので、法的に逃れることは出来ません。しかしその他の深刻な不具合に関しては、調査結果で企業側の施工ミスを施主側が立証しない限り理由をつけて逃げることが多く、企業側に責任を認めさせるのは容易ではありません。

    よほど異常気象によるゲリラ豪雨や巨大台風の襲来、液状化を伴う大地震でも来ない限り、地盤沈下なども10年以内には症状が出るから、法的には瑕疵保証は10年となっています。それ以降は基本的に『経年劣化』の影響が大きく、民法上でも20年を超えれば不法行為でさえ「時効」になるから、無料補修は困難です。だから20年を超える長期保証は、有償工事など何か”負担増”との引き換え条件となり、購入者側の実質メリットはありません。

保証以上の安心とは

大手ハウスメーカーの中には、最長60年保証を謳う会社もあるようです。企業の知名度や保証の長さで、少しくらい高くても「お得だ!」と感じる人もいるでしょう。

しかし、考えてみて下さい。30年前に鐘紡の破たんや20年前に日本航空が産業再生機構で半ば国有化され、10年前に東芝が証券取引所から「管理銘柄」に指定されるなど、誰も想像もしなかったことでしょう。人口が減少し、空き家が1千万戸に届こうとしている今の日本で、あれほどの販売コスト、営業マンの雇用を維持しているハウスメーカーが、10年後さえ健全経営していると言い切れる経営の専門家はいません。(私も中小企業診断士という経営マネジメントの専門家です)

残念ながら、大手ハウスメーカーの母体や本業は、ほとんどが建設業ではなく、本業と相乗効果のある『相互補完事業』が住宅事業で昔は”稼ぎ頭”でした。日本の大手電機メーカーが、ほとんど白物家電や情報家電、通信端末の完成品は海外移転や事業撤退を余儀なくされ、事業売却や部品製造に特化して、アップルやサムスンなどの外国企業に部品供給しているように、住宅業界でもいつまで完成品を販売できるかは不透明です。

Wakamoto
実際、私の実兄は山口県で木造軸組みNo.1という触れ込みで、超大手の製紙メーカー子会社の住宅会社で家を建てました。中堅の製紙メーカーが敵対的買収でニュースになった時「ホワイトナイト」としてM&Aの阻止に動いたほど、資金力も信用力もある会社です。その会社の子会社は、パルプを扱う親会社の木材調達力や地元での信用力、経営体力などを考えると、信頼できる依頼先だったのでしょうが、築後10年も経たないうちに住宅事業から撤退し、残ったのは「今後のメンテナンスは柳井市の○○リフォームが引き継ぎます」というハガキ一枚でした。

施工プロセスの記録とチェック

紙っペラの保証書営業マンのセールストークよりもむしろ、瑕疵が生じないような「正しい施工」と、住宅会社とは直接利害関係がない「外部によるチェック」で、施工段階の履歴が”画像で残る”ことのほうが安心ではないでしょうか?大手自動車メーカーや鉄鋼メーカー、免震装置のメーカーなどで、社内検査の不正と隠蔽が発覚したように、社内の独自検査に透明性がないことのほうが問題や不安を広げます。

不具合が発覚した後の保証や無料補修も重要ですが、そのような事態が発生しないことが何よりの安心です。そのための選択肢は大きく以下の3つです。

  1. 設計・監理を分離

    設計段階から設計事務所に相談するか、基本設計だけ住宅会社にお願いし、実施設計と現場監理を設計事務所に業務委託するという方式。整形地で普通の住宅を建てたい場合は、設計段階から設計事務所を利用すると、自己主張の強いデザインになる懸念(=建設コストUP)や設計料負担が小さくなく、基本的に現金支払い(住宅ローンには組込めない)ため、実施設計と監理のみ依頼するほうが経済的。
    建築費の5%程度の負担で、同一企業による設計・施工よりも安心感が高まる。見積金額まで比較・チェックするためには、複数の会社の相見積(入札)が必要になるが、ここではあくまで「保証に伴う工事の安心」のみ記述。

  2. ホームインスペクターに依頼

    品確法に基づく任意の『住宅性能表示制度』(設計性能評価・建設性能評価)を利用することも、外部の検査機関を使うという意味で、コスパの高い「第三者のチェック」だが、建物の耐久性や快適性に大きな影響がある『防水工事』や『断熱工事』に関しての現場検査が弱点。設計の審査中心で現場検査の回数が不足するため、安心を得るためには専業の「ホームインスペクター」に建物診断(新築検査)を依頼すると、専門知識のない施主をカバーしてくれる。

  3. 住生活エージェントを利用

    複数の住宅会社、工務店をマッチングしてくれるサービス。ある程度の実績や運営年数があれば、各社の特長や実際に建てた人からの意見、クレーム情報などが入っており、工事中の第三者検査などの依頼をすることも可能。施工者側がクライアントになっているサービスもあるから、必ずしも「施工者と利害のない第三者」にならない懸念もあるが、設計事務所やホームインスペクターも住宅会社から仕事を得ているケースもあって完全な「独立性・中立の会社」は少ない。
    少なくとも、施工者側から仕事を得たり、施工者側に不利な判定をすることで経営的にダメージを受けるような業者でなければ、経験やネットワークを買いたい。地域密着型のサービスであれば、特定の業者を守ることのほうがかえって評判を落とし、代わりとなる施工者は複数登録しているから技術レベルの低い会社は淘汰される。

Wakamoto
ちなみに、私が運営している『住宅CMサービス広島』は、3番目の「住生活エージェント」であり、平成15年(2003年)から広島都市圏で、工務店選びから工事中の品質チェックまで総合的にサポートしています。
入札はあくまで「施主のご指名」で決まるため、談合も特定業者への誘導もありません。試合のマッチメイクのように、入札は「ルールがある真剣な試合」なので、施工者のレベルアップが図られるのです。

まとめ

変化の激しい現代では、自分たち家族の30年後の姿も読めず、勤めている会社の存続や、建ててもらった住宅会社が事業継続しているかも確信が持てない時代です。大規模な災害の懸念から、働く環境や家族構成の変化まで予測不能で、将来は違う建物に住んでいる可能性も否定できません。そんな中で、10年保証より30年、60年保証のほうが安心で、その分割高でも選んでしまうのが本当に正しい選択なのか、冷静に振り返ったほうがいいでしょう。現実、日本の住宅は平均築30年で建替えられているのです。

有名な大手ハウスメーカーも、実際に直接施工することはなく、子会社や協力業者に施工を依頼し、現実的には孫請けの施工店や職人たちが家を造り上げています。その職人たちも、自分たちの仕事が適正に評価され、適切な賃金が支払われているか、また施主家族の顔が見え「いい仕事を提供しよう!」というモチベーションがあるかどうかが、仕事ぶりに影響されます。残念ながら他の製造業とは違い、住宅建築の品質は、そんな「人びと」に支えられているのです。

では、今回の講座のワンポイントアドバイスです。

ワンポイントアドバイス

  1. 10年の「瑕疵保証」だけで本当に十分か?

    ⇒ 基本的に施工ミスによる不具合は10年以内に症状が現れる。

  2. 大手ハウスメーカーの長期保証は安心か?

    ⇒ 10年を超えると割高な指定工事をすることを条件に保証が延長される。

  3. 保証書以上の安心を得るためには

    ⇒ 不具合発生のない正しい工事と現場の外部チェックで、工事履歴を残そう!

では、また次回の講座をお楽しみに!メンテナンスや長期優良住宅などを解説予定です。

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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。