前回の講座は、最近の新築住宅の7割以上を占める乾式工法(サイディング張りやALC等)の外壁下地について解説しました。今回は、モルタルを下地とした湿式工法の外壁下地についてみていきます。
前回の講座は以下ご確認下さい。
乾式工法は、工場生産された”新建材”と呼ばれる「規格化された部材」を工具を使って留めていく作業です。それほど熟練度の必要がなく一定の仕上げが可能となります。一方、湿式工法は左官やタイルなど、職人が材料を現場で調合・加工しながら作業していく仕上げで、一定の技能訓練が必要でもあり天気や温湿度にも影響される工事です。
目次
通気層のない湿式工法
伝統工法の木造住宅の外壁は、その地域でとれる地元の材料を使い、顔見知りの地元の職人さんが作業をしていました。その頃の外壁の多くが『竹木舞』を編んで、粘土質の赤土に藁スサなどを混ぜて練り、荒壁の下地をつくっていました。
画像は、広島市西区で施工した注文住宅の一部の壁を、和風の聚楽壁にした施工例。外壁部分では断熱性能が劣るため、このような土壁(真壁)ではなく、柱間に断熱材を充填する『内断熱』の外側にラス板を張りますが、装飾的に室内壁で採用した特殊な事例です。
ラス板下地
今の住宅は、通常柱の外側に直接タイベック®などの『透湿防水シート』が張られて、防水層が確保されるのが一般的です。湿式工法の下地(下塗りおよび中塗り)は、昔のような土壁はなくなり、セメントと砂を原材料とするモルタルで施工されるケースがほとんどです。
モルタルを鏝でしっかりと押さえつけて塗るためには、下地に一定の強度が必要で、杉板などを薄く加工した『ラス板』を隙間を開けて釘で打ち付けていきます。
壁内の雨水の浸入は、ラス板の上にアスファルトの防水紙を張ることで躯体内への雨漏りを防ぎます。
防水層アスファルトフェルト
ラス板を張り終えたら、防水層としてアスファルトフェルトでカバーします。屋根の防水として張るアスファルトルーフィングと同じで、透湿防水シートよりも少し厚みのある材料です。
サッシ周りは別途防水テープでガードします。
ワイヤメッシュ張り
防水層のアスファルトフェルトの上に、モルタルの下塗りが簡単に剥がれ落ちないように、金網(ワイヤメッシュ)を張っていきます。
モルタルは乾燥収縮などでひび割れが発生しやすく、特に開口部などのコーナー部分は斜めに補強のメッシュを追加します。モルタルは下塗りで一度乾かし、ひび割れを埋める形で中塗りを塗り重ねていきます。また建物の出隅部分は、欠けやすく、モルタル下地の厚みを揃えるためにも、コーナー材でカバーします。(下記画像参照)
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通気層を確保した湿式工法
湿式工法による外壁は、下地のモルタル自体の重量があり、強風や地震などで建物が揺れると他の外壁よりも追従性に劣るため、建物自体にクラックが入りやすい工法です。またモルタル自体は水分を含む材料なので、アスファルトの防水層があっても、壁体内に雨水侵入のリスクは低くありません。昔のような土壁であれば時間を経て乾き、湿気の保有量も大きいため、壁体内結露は起こりませんでしたが、雨水の浸入や結露の発生は、構造躯体にダメージを与えかねません。
湿式工法の二次防水
そこで、サイディング張り等と同様に、構造躯体をタイベック®などのハウスラップ(透湿防水シート)で包み、胴縁などで通気層を設けた上にラス板を張り、さらにアスファルト防水層とワイヤラス(メッシュ状の金網)で二重の防水層(二次防水)をつくるケースも増えてきました。
上の写真の反対面でラス板、アスファルトフェルトに金網を張ったモルタル下地の写真も紹介します。
モルタルを下塗り、中塗りと約20ミリの厚さで下地づくりをし、この現場では白い漆喰仕上げとしました。
バルコニーの通気層
通気層の目的は、外壁から侵入した雨水を逃がす経路(二次防水)とともに、壁体内(構造躯体内部)に熱がこもることで室内に暑さが伝わったり、壁体内結露によって躯体の劣化が進まないよう、空気の流れをつくります。
バルコニーの手摺り壁も室内側の暑さには影響は及ぼさないものの、結露防止のため、湿気が溜まらないよう通気層を設けます。笠木と呼ばれる手摺り上部のカバー部分に、通気層の空気が逃げる排気加工を施します。
土台水切りの通気層
壁の下地に防水層や通気層を設けても、空気がどこから入り、侵入した雨水がどこから排出されるのか、一般の施主は「?」となるのではないでしょうか?ご安心下さい。今は、土台部分に画像のような「水切り」という板金を取り付けています。壁表面の雨水が土台や基礎を濡らさないようにし、下側に通気用のスリット穴(給気口)があって、下から空気を取り込み、二次防水(透湿防水シート)まで侵入した雨水も、水切りを伝って排出されます。
クラック防止
左官仕上の宿命として、外壁のクラック(小さなひび割れ)の発生があります。元々左官仕上の家は、日本では『真壁』と呼ばれる柱や梁・桁が露出していたため、漆喰等の左官仕上は柱が区切りとなっていました。海外でも『ハーフティンバー』と呼ばれて、日本と同様外壁に木の構造が見える建物が数多くありました。
しかし戦後の新築住宅の多くが、外部から柱が見えない『大壁』となりました。それでも昭和四十年代まではモルタル壁の家が多く、”目地”をとったり”見切り材”を入れて、クラックを防止していました。モルタル自体はクラックが入っても、その上から吹付ける『リシン』や『ボンタイル』といった塗装でクラックを埋めていたと言ってもいいかも知れません。
モルタル下地漆喰仕上げ
仕上はまたの機会に詳しく解説しますが、せっかくなので前出のワイヤメッシュの防水下地以降、モルタル下塗りおよび漆喰仕上げをした画像もご紹介しておきます。
大きな壁面が、目地も見切りもなく、真っ白な漆喰で仕上がりました。柿渋と撥水剤を混ぜ、汚れ防止対策も施しています。
そとん壁®のノンクラック工法
最近、人気の建築家、設計事務所が採用し、一部の人たちに人気が出ている『そとん壁』。正式名称は『スーパー白洲そとん壁®』といい、鹿児島の桜島の噴火などによって噴出されて堆積したシラス(珪酸)を主成分とした左官材料です。
シラスはマグマの超高温で焼成された天然のセラミックなので、撥水性や防塵性など、優れた性能と和洋を選ばず、独特な質感が好まれているようです。施工事例の下地づくりをご紹介します。
一次防水(専用「透湿防水シート」張り)
通常の左官下地は、上記で説明した通り「アスファルトフェルト」に「ワイヤメッシュ(金網)」を張って、その上にモルタル下塗りを重ねます。そとん壁の施工が豊富な富士川建材グループの施工現場では、ノンクラック工法の下地づくりで、独自の専用防水シートを下地に使っていました。
この現場では、構造躯体の外部にフェノールフォームの外張り断熱材を張り、防水テープで目張りして「透湿防水シート」で包んだ上で、胴縁で通気層をつくり、ラス板を張った上にさらに画像の”ラスモルタルノンクラック工法”の透湿防水シートを重ね張りします。画像に下地の一部が見えているので、重ねが分かります。
ワイヤメッシュ張り
そとん壁でも専用のワイヤメッシュを張ります。防水層がいつもの黒やグレーではなく白い透湿防水シートなので、見慣れている左官の現場とは少し違和感を覚えます。
掃出し窓は”半外付けサッシ”を付けていますが、しっかりとサッシ周りの防水テープ(黒い部分)を四方に貼り、雨の浸透がないように丁寧に施工します。通常の仕上げよりも壁厚が厚くなるので、基礎幅や窓枠の納まりなど、十分に注意が必要です。
そとん壁の仕上がり
上記の「透湿防水シート」を張った同じ壁面のそとん壁仕上がりの画像と、バルコニーの手すり上部にアルミの笠木を取り付けている”手摺り壁の厚み”が分かる画像を掲載します。
こちらの現場は、ざらざら感のある粗仕上げで、つるっとした金鏝仕上げの外壁よりも、少し陰影のある質感を選ばれました。雨樋も通常の塩ビ製ではなく、ガルバリウム鋼板製(タニタハウジングウェア製)にこだわりました。いずれも耐候性の高い長く使える材料です。
では、次回は一旦室内に戻り、大工工事となる天井や壁の下地を解説していきます。