いよいよ今回から木工事に入ります。
基礎コンクリートの養生期間が終わり、型枠を外して外部周りの給排水配管工事などを行ったら、現場に木材が搬入されます。土台や大引きといった床の構造材と断熱材、そして分厚い床合板が運ばれてきます。
最近では『根太レス工法』とか『剛床』と呼ばれる特厚合板で1F床を”ステージ”のようにつくる工法が増えており、昔の家のように「根太(ネダ)」を格子状に組んで、普通合板を敷くことは減っています。施工性だけでなく、床鳴りの防止や気密性の向上、床下や壁内の結露緩和など、施工者にとっても様々なメリットがあり、厚さ24~28ミリ程度の分厚い合板で床剛性も確保しています。
目次
土台敷き
基礎には、土台を緊結する「アンカーボルト」と柱に緊結する「ホールダウン金物」が埋められ、基礎天端から飛び出しています。土台自体は、湿気に強くシロアリに喰われにくい桧やヒバをプレカット加工されて搬入されますが、アンカーボルトの穴は現場で加工するので、まずはそれぞれナンバリングされた土台を取り付け箇所に配っていきます。
建物の角は、概ね「通し柱」と呼ばれる4寸(12cm)角×長さ6mの太い柱が立つので、柱が引き抜かれないように他のアンカーボルトよりも太くて長い『ホールダウン金物』があります。上記画像のように、それぞれのアンカー位置を確認しドリルで穴開けをして、ボルトを土台に貫通させます。土台が配置されると基礎コンクリートの天端は見えなくなります。業界用語で「土台敷き」と呼ばれる作業です。
なお、ホールダウン金物等の詳しい解説は以下の記事を参照ください。
基礎パッキン(換気部材)
土台は湿気を避けなければならないため、基礎コンクリートに直接置かずに、通常は『基礎パッキン』と呼ばれる”黒い樹脂製の緩衝材”をアンカーボルトの位置にセットして、その上から土台で挟みます。
雨や結露などによって湿気を吸うコンクリートと土台の縁を切り、基礎パッキン同士を離して設置することで、外気が通り抜けて床下の換気が全方向出来ます。土台自体にも常に風が当たるので乾きやすい状態となります。
目的は「床下や土台の乾燥」であり、劣化の可能性のある樹脂を間隔を開けて置き、建物荷重が掛かることに疑問を持つ方もいらっしゃいます。会社によって、鋼製のものや連続したもの、コンクリート基礎側に「換気口」を設けるケースなど、別の材料や工法としているところもあります。
右の画像は、基礎に外気が全く入らないように、気密シートを土台に張っている現場。床下は1階と同様に機械で換気され、床下の空気が1階にも循環します。
毒素のある防蟻剤は使えないので、土台の樹種や防蟻剤にも配慮が必要です。
気密パッキン
床下(基礎内部)は”乾燥状態に保つ”ということが最優先されますが、床下で断熱して床材仕上げ出来る部屋は、冬に外気が入り込んでも大丈夫なものの、外気を入れたくない床下もあります。
玄関や浴室は、床下に外気が入ってくると足元が寒くなり、湿度の高い夏は結露のリスクも高まるため、通気・漏気しないように『気密パッキン』と呼ばれる材料が使われます。
左上の画像が気密パッキンで、親指で押さえている白い部分は断熱性能を高める発砲スチロールです。ちなみに最近の浴室は、ユニットバス自体が”魔法瓶浴槽”や”カラリ床”など、断熱処理がされて冷たさを感じない仕様になっています。
継手・仕口
土台は動かないように連続して、その上に柱や間柱、大引きなどが載るため、土台同士をつないだり、柱を差し込む部分など、プレカット工場で事前に加工されて搬入されます。『腰掛け蟻継ぎ』など、昔の大工・棟梁たちが考案した継手や仕口によって、くぎや接着剤がなくても木材同士を継ぐことが可能です。
間柱の位置などもプレカットされて溝が出来ているので、土台を配る場所さえ間違えなければ、その後の構造躯体を組む「建て前(=棟上げ)」はスムーズです。
ただし、継手位置とアンカーの位置が干渉したり、離れすぎていると問題になるので、床伏図の継手位置と、基礎伏図のアンカー位置はきちんと整合させておくことが必要です。このようなチェックを行うのが現場監督の仕事です。
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床断熱施工
床下断熱工法
上記でも説明した通り、日本の大半の住宅は基礎内部(床下)に外気が入り込んで、空気が入れ替わる『基礎換気工法』が採用されています。大手のプレハブメーカーもほとんどが基礎換気口を設けて、冬は冷たい外気が床下に入り込みます。
上記の画像は、2×4工法(枠組み壁工法)の現場で床断熱をした写真。在来木造(軸組工法)でもほぼ同じように、土台や大引きの間に”発泡系の保温材(断熱材)”が落とし込まれます。上部で資材の段ボール箱を納めている場所は、浴室になる部屋の床下で、この場所はユニットバスを設置するので断熱材をいれることが出来ません。
浴室の気密・断熱については、上述の通り「気密パッキン」を使いますが、詳しくは以下の記事を参考にして下さい。
基礎断熱工法
コンクリートは、石と同じで「熱しにくく冷めにくい」という『蓄熱容量の高い』材料です。鍋釜などの調理道具を思い浮かべれば分かる通り、アルミのヤカンと南部鉄瓶、石窯でお湯を沸かした場合の沸騰までの時間と冷めるまでの時間で「蓄熱容量」や「熱伝導」が実感できます。
冬の基礎は、床下に冷たい外気が入り込むだけでなく基礎コンクリート自体が冷え切って、熱を奪っていくため、床下を断熱しても1階と基礎の温度差分、熱損失が続き足元が冷たくなっていきます。
そこで特に寒冷地では、基礎コンクリート自体が外気の影響を受けにくいように『基礎断熱』を採用しています。基礎立上げ部分だけでなく外周から90cm程度の範囲まで、コンクリートが冷え切って冷気を発生させることがないよう、厚い断熱材をコンクリート自体に張ります。
北海道のような寒冷地では、シロアリもいないため基礎コンクリートの外側に断熱材を張りますが、シロアリが断熱材を喰い散らすリスクがあり、夏の湿度が高い西日本では、基礎コンクリートの内側に断熱材を張ります。
上記画像のように断熱材でコンクリートを囲うことで、床下は外気の影響もコンクリートが出す冷輻射の影響も最小化でき、真冬でも床下は15℃以下に下がることがなくなります。1階の室温との温度差が少なくなり、床から奪われる熱損失が圧倒的に小さくできるため、冬の床の冷たさが緩和されます。また浴室の床下も室内側になるため、さらにお湯が冷めにくくなります。
床下と縁を切る「床断熱工法」は、長く住み続ける中で断熱材が経年劣化し、痩せてズレ落ちたり、隙間から冷気が入るケースもあるようです。
右の画像は、床断熱や床合板が張られていない浴室の床下から、床断熱の入れ方を確認した画像。ギリギリの寸法で押し込んだため、少しダレ気味になっているのが分かります。楽に入るように5mmでもカットすれば、今度はスカスカで隙間から冷気が入ったり、痩せてズレることもあります。
基礎断熱にすれば、床下の断熱は不要になり、床下は暖房や冷房が入っていない室内環境に近づきます。地中熱の影響を受けるので、夏は涼しく冬も冷えない環境です。相対湿度は高くなりがちなので、換気や結露対策は必要です。
床合板張り(根太レス工法)
土台敷きの最終仕上げは、床に特厚合板を張り、舞台のような「プラットフォーム」をつくることです。米国で建築現場の生産性を高めるために開発された『プラットフォーム工法』(2×4工法の改良版)を軸組み工法でも取り入れて、その後の工事の作業性だけでなく、床下と縁を切ることで気密性・断熱性も高めました。
従来は「柱勝ち」と呼ばれる施工方法で、柱を先に建ててから床の根太組みをしていたため、大工にとって作業性が悪いだけでなく、床下の空気が壁を通して上昇気流が発生していました。その結果、壁の断熱効果も低く、火事になった場合に壁の内部を火が走って延焼が拡がっていたのです。
このような「床勝ち」と呼ばれる剛床にすることで、壁内の空気の移動も止めることが出来、火災の延焼も防げます。つまりペアガラスと同様に、動かない空気層をつくることで、断熱効果が高まります。
雨対策のブルーシートを架けて、数日後の棟上げに備えます。
柱勝ちの現場現在の住宅建築現場は、ほとんど『根太レス工法』で床勝ちになってきましたが、2000年頃はまだ柱が先に建てられる『柱勝ち』工法が一般的でした。棟上げ後に床の根太が組まれるため、大工さんたちも足元を注意しながらの作業です。
さすがに足を踏み外すことはありませんが、とび職のように土台や大引きの上を跨がなければ移動できず、棟上げ後も床がない状態なので、根太を組む作業や合板をカットする作業など、作業手間がかなり掛かっていました。
もちろん2階の床も出来ていないので、落下事故の危険性もある中での作業でした。右の画像の通り、床剛性を確保するため『火打土台』という斜め材も入れるなど、材料も手間も掛かるのが「柱勝ち」の工法です。