今回は、室内から外部に出て外壁の下地について解説します。
前回の復習(室内床張り)と、外壁下地づくりの前段階(透湿防水シート施工)は以下のリンクで確認して下さい。
部位ごとの説明ではなく工事工程で考えると、室内の床仕上を養生した上で、大工さんたちは一旦外壁下地の作業に移行します。外壁仕上げの施工者は、乾式工事(窯業系サイディングやガルバリウム鋼板張りなど)であれば専門業者さんによる材工工事、そして湿式工事(モルタル下地にタイルや漆喰仕上げ、塗装吹付けなど)であれば左官屋さんやタイル屋さん、塗装屋さんの仕事になるため、彼らが現場に入る下準備を大工さんが行います。
目次
窯業系サイディング
日本の新築住宅の7割程度が、外壁仕上げを『窯業系サイディング』と呼ばれる外装材でつくられています。セメント質と繊維質を主な原料として、厚み15~20ミリ程度の板状に成形した材料です。今回の講座では、その下地に関してみていきます。
木製胴縁による通気工法
外壁は、屋根に次いで紫外線や温熱変化によって劣化が進みやすい部位です。また日本は「地震国」なので、外壁は出来るだけ軽く、ひび割れが少なくて、一部でも取り替えられるような外装材が望ましく、比較的安価に条件を満たしている窯業系サイディングが多く使われています。
通気層による二次防水
この外装材は、材料同士を繋ぐジョイント(接合)部分をシリコン系のコーキング(シーリング)で埋めていきますが、紫外線で劣化していくため、将来ジョイント部分から雨水が浸入するリスクに備えておかなければなりません。防水下地として『透湿防水シート』を張っていますが、結露などのリスクもあるため、透湿防水シートとサイディングの間に20ミリ程度の空間(通気層)を確保する『通気工法』によって二次防水とする施工が一般的です。
通気層による温熱と結露対策
サイディングの裏側に回り込んだ雨水を、通気層を通じて排水するだけであれば、薄いベニア1枚の厚さ程度浮いていれば滴として流れていくでしょう。通気層のもうひとつの機能として、夏暑くなった外壁材の熱が断熱材に直接伝わることで、断熱材自体が熱を持つと、夜になってもなかなか冷めないため、通気層で空気の対流をつくります。
暖められた空気は自然と上昇するため、上記の画像のように軒天などを通じて小屋裏や屋根の通気層に抜けるように空気の出口をつくります。通気層内の空気が動くことによって、室内から壁体内に入った湿気が”透湿”防水シートから排出され、壁体内結露の防止にも繋がります。
通気金具工法による通気層確保
木製の胴縁による通気工法は、湿気や火災に対して強いとはいえず、また意外に施工手間が掛かるため、最近では窯業系サイディングメーカーが用意している通気金具が使われるケースも増えてきました。
引っ掛け金具
2000年代前半頃までは、建売りやローコスト住宅のサイディングは12ミリ程度の薄い材料を使い、専用釘による「脳天釘打ち」と呼ばれる釘留めで固定されていました。引き渡し後の経年劣化で、外壁材自体が反ったり、釘頭の位置が浮いて来て塗装が剥げたりし、10年も経たないうちにみすぼらしくなっていたため、材料の厚みを増し、金具で引っ掛けられるタイプのサイディングが使われるようになっています。
通気層が確保できる高さがある金属製のライナー(ジョイナー)に金具を取り付け、その金具にサイディングを引っ掛けていきます。木製の胴縁を使わないことで、腐ることもなく、また幅がスリムなので通気効率も高まります。
引っ掛け式のサイディングにすることで、大地震があった場合には外壁材が十分な耐力を確保できず、壁がずれて外れるといったことも生じます。しかし構造材自体を『耐震等級-3』で設計することで、外壁をわずかな損傷に抑えられることが熊本地震でも確認できていますので、外壁は「防水」と「遮熱」といった機能を重視して選択すればいいでしょう。地震への追従性の高さも、金具引っ掛け式のメリットです。
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レンガや樹脂サイディング
乾式工法の外装材で、窯業系サイディング以外では、日本では金属製サイディング(ガルバリウム鋼板など)が良く使われ、米国では樹脂サイディングや木質系シングル材(レッドシダーなど)が使われます。米国のシングル材は、日本の「下見板張り」や「檜皮葺き」のようなイメージですが、日本国内では防耐火の規制などから今ではほとんど外壁に木製の仕上げ材を使うことが無くなりました。
スライスレンガの下地
窯業系サイディングは、接合部のコーキングの劣化だけでなく、経年劣化で汚れも付きやすくなり、防水性能も落ちてくるため、塗装による吹き替えが必須です。新築時に柄のある”化粧サイディング”の場合、実はインクジェットで模様やパターンを印刷しているため、塗り替えたら全く印象が変わります。
耐久性が高く、新築時のイメージが数十年経ってもそのまま維持できるのは、タイルやレンガなど高温で焼成した外壁材。レンガ積みは「湿式工法」になり、材料費も施工手間も高くなりますが、表情はそのままで薄くスライスしたレンガを張る工法もあります。
画像の通り、レンガ自体に溝を切り、下地のガルバリウム鋼板に引っ掛けのスライド加工されているものは、材料自体も軽く、施工手間も少なくて見た目はレンガ積みそのものです。外壁下地に金属板を張るので層間変形しづらく耐震性能も高まります。またレンガ自体が外部の騒音を吸収してくれるようです。
樹脂サイディングの下地
輸入住宅で良く見られる、横ラインが強調された下見板張り風のサイディングを『ラップサイディング』と呼びます。本場アメリカでは、木製のシングル材をペンキで塗装するか樹脂のサイディングを使用します。金属板でも同様なデザインがありますが、汚れが付きにくく吹き替え(塗替え)が不要な樹脂サイディングをご紹介します。
下地の耐火性能
最近は窓も樹脂製が増えてきましたが、外壁に求められる性能は防水以上に耐火性能が必要です。樹脂サイディングは、簡単にいえば塩化ビニールを硬化したような材料なので、表面が燃えても下地自体に耐火性能を持たせることが求められるのです。
1枚目の画像は、準防火地域で通気層を設けた上に金属製のサイディングを張る準備をしているところ。狭小地の木造三階建てなので、将来の外壁メンテナンスを考えると、30年程度メンテナンスが不要の樹脂サイディングを仕上げ材として選びました。基本的な外壁性能は金属サイディングでクリアし、表情や維持管理コストの経済性から”塗装仕上げ代わり”の樹脂サイディングです。
2枚目の画像は、左側がスライスレンガの下地となるガルバリウム鋼板、右側の壁は外張りの付加断熱として『ロックウール』をサンドイッチすることで防火性能を確保し、この上に樹脂サイディングを取り付けていきます。完成したらどのようなイメージになるのか、2枚目の建物の完成写真もご紹介しておきましょう。
とってもシンプルな家が出来ました。
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ALC(軽量気泡コンクリート)
外装材としてのシェアはそれほど高くないものの、モルタルのような湿式工法の代わりに、高温高圧蒸気養生された軽量気泡コンクリート「ALC」があります。ざっくりといえば、火山の噴石で飛び出した”軽石”のようなもので、厚みの割に軽く、耐火性能や遮熱性能を併せ持ちます。主な製品は旭化成建材の「パワーボード」と住友金属鉱山の「シポレックス」です。木造住宅用は37ミリ厚の材料を使います。
直貼りと通気工法
ALCは、材料の中に気泡があり、断熱材と同様な性質があるものの、水を吸い湿気も通す材料なので、基本的に窯業系サイディングのような通気層を確保せずに施工することが可能です。通気層を確保することで、せっかくのALCの耐火性能が活かされない(通気層内を火が走って小屋裏に侵入)懸念もあり、木造でも耐火性の高い建物として以前は火災保険料も割安となっていました。
透湿防水シートの上に直接ALCを貼っている施工例と、胴縁による通気層を確保して、ALCを張っている事例を掲載しました。これは断熱材選びや室内側の防湿施工によっても変わってきますし、長期優良住宅などの補助金で指定された仕様によっても異なります。
壁体内結露の回避
木造住宅の耐久性で重要なのは、表から見えない”構造躯体”が強度を保ち続けること。そのための大敵が「湿気」であり「雨水の浸入」です。湿気によって木材腐朽菌の繁殖や、シロアリの餌食で土台や柱が劣化します。
外壁から侵入する雨水や雨漏りよりも注意が必要なのは、室内で発生した水蒸気(湿気)が壁の内部に侵入し、結露によって壁内が湿潤状態になること。基本的な考え方は、室内側に”ベーパーバリア”と呼ばれる防湿層をつくって湿気の侵入を防ぎ、外壁に近づくほど透湿抵抗の少ない(つまり湿気が放出しやすい)材料を使って、侵入してしまった湿気が外に出ていくように施工します。
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防湿層のある繊維系断熱材(ロックウール)などを使い、室内からの湿気の侵入をカット
仮に壁体内に湿気が入っても、透湿防水シートからALCを湿気が通過して、壁体内は露点温度に達しない。
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断熱材を調湿効果のある自然素材系(セルロースファイバー)などを使い、湿気を大量に保有できる
新聞紙と同様、自重よりも多くの湿気を保有でき、温度変化の少ない断熱材を利用して、壁体内で結露しない。
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透湿抵抗の高い発泡系断熱材(フェノールフォーム)などを外張りの付加断熱に使い、その外側に透湿防水シートと通気層を施工
壁体内に湿気が浸入しても、壁より外側に断熱層があることで、壁内部が露点温度にならず結露も発生しない。
ちょっと文章で書くと難しくなってしまいましたが、壁体内結露の回避だけでなく、断熱性能や気密性能も確保でき、一年を通じて快適な生活が可能となります。
壁の断熱について詳しくは、以下ご紹介しています。
次回は湿式工法の外壁下地をご紹介し、また大工さんには室内に戻ってもらって、壁や天井の下地組みなどをしていただきましょう。次回の講座をお楽しみに!