【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-23】壁の断熱施工

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前回の講座は、天井面の断熱施工でした。
以下、前回講座の復習が可能です。

【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-22】屋根および天井の断熱施工

2018.07.28

今回は、壁の断熱施工について学んでいきます。

Wakamoto
断熱で最も重要なのは「空気が動かないこと」です。魔法瓶や複層ガラスが熱を伝えにくいのは、ステンレスやガラスという素材が熱を伝えにくいのではなく、中に閉じ込めた”静止空気”や”真空状態”が、熱の移動を抑えるからです。

静止空気層をいかにつくるか?!

住宅展示場に行くと、省エネの話や性能の比較など、各社が他社と”差別化”するために、材料や施工方法の違いなど、各社の強みや特徴を聞かされます。特に最近は省エネ性能を数値化し、断熱性能の高さをアピールする会社が増えています。

断熱の性能は、使われる断熱材の違いや断熱材の位置(外張りか充填断熱か?)、データによる計算結果よりも、現実にはいかに「壁内を移動する空気を止めるか」が最も重要です。高い気密も、壁の中に空気が入って動かないことを確かめるため機械による計測が重要なのです。

断熱材に水蒸気が浸入しないように全面に防湿シートを張った現場。
空気も動かないよう気密テープで隙間を塞いでいる。

充填断熱(内断熱)

断熱材の役目は、その材料自体の熱伝導率が低いことを競うのではなく、あくまで断熱材があることで”空気を動きづらくする”ことです。グラスウールの原材料がガラスであり、ロックウールは鉄炉スラグなどから生成された鉱物繊維だと聞けば、材料自体が細い繊維ではなく溶かして固形にすれば熱伝導率が高いということが分かるでしょう。

発泡系の材料も、ウールやセルロースファイバーも、乾燥した空気を大量に含み動かない状態に保つことで断熱性能が高まります。だから壁内に湿気や空気が入らない状態をつくり、壁内に閉じ込めた空気(=断熱材)が動かなければ、熱が伝わる3つの要因の1つ「対流」が起こりません。

熱の伝わり方熱が伝わるのは大きく3つに分けられます。

  1. 熱伝導・・・物質を熱が伝わっていく状態。フライパンの柄が熱いのは熱伝導です。伝わるスピードは素材の熱伝導率に影響されます。
  2. 対流・・・温度差によって移動する熱。液体や気体などが温度差で動くから、お風呂のお湯を沸かした時に均等ではなく上のほうが熱くなります。
  3. 輻射熱・・・放射線によって熱源から離れた物質でも起こる温度変化。遠く離れた太陽光が、ガラスで隔離された室内を暖めます。たき火が暖かいのも輻射熱です。

壁の断熱で重要視されるのは、2.の「対流」です。もちろん断熱材自体、1.の熱伝導もありますが、熱が伝わるのに時間が掛かることと、室内側の壁下地に、耐火性能のある石膏ボードを張るので、一定の断熱材の厚みがあれば影響はわずかです。

また3.の輻射熱は、断熱材自体の蓄熱容量が大きく、断熱層が熱くなったり冷たくなると、放射線が放出され暑さや寒さが体に感じます。壁よりも屋根・天井が影響を受けやすく、夜寝苦しいのはこの「輻射熱」の影響です。

人が感じる「体感温度」は、実際の室温と建物内部の表面温度(ガラス面や壁面の温度)の平均値だと言われます。冬の室温が22℃でガラスの表面が8℃だったら、ガラス側に向いた皮膚の体感温度は15℃に感じるということです。だから夏はエアコンで室温を冷やしていても汗がにじむのです。

無機繊維系の充填断熱

最近の住宅の床構造は、厚み20ミリを超える特厚合板を土台に直接載せる『剛床工法』がほとんどですが、以前の住宅は土台と同じ高さで「大引き」という太めの床組みの上に「根太」を交差させ、根太間に床の断熱材を挿入していました。この部分に隙間が生じ、床下の空気が壁の内部に入る要因となって、暖房で室内を暖めても壁の中に上昇気流が発生し、床下の冷たい空気が吸い上げられていたのです。

このような状態で、壁に気流止めをせず床下から湿気を帯びた空気が断熱材に中に入っていくと、外気温と壁内部の温度差によって結露が生じ、対流と熱伝導によって断熱性能が損なわれていたのです。

だから、断熱材の種類以前に、気流を止める、壁内部の空気の移動がない状態をつくることが最重要です。床断熱については、以下の記事で詳しく解説しています。

【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-9】土台敷きと床断熱

2018.04.26

では、ロックウールの断熱材の施工例をみていきましょう。不適切な施工でやり直しを指示した現場です。

上記の画像は同じ現場のビフォー&アフターです。ロックウール断熱材を壁に挿入していますが、筋交いや間柱などの構造材と断熱材に隙間があり、外部からの配線・配管も断熱材をずらしています。この状態では、壁内部に外気が浸入し空気が動きます。断熱材の意味を施工者に伝え、直してもらいました。

現場担当は和室の造作も出来るベテラン大工で、手抜きをした訳でも材料が足りなかったわけでもありません。昔は断熱材のない土壁に漆喰塗りだったから、熟練大工には正しい断熱材の入れ方の教育がされていなかったのです。材料を調達し、挿入しにくい筋交いの裏にも断熱材を入れても、正しい施工方法を知らなければ、材料も手間も効果を発揮しません。

外壁に面した壁には、コンセントや換気のための給排気口、電気工事などで、大工がきちんと断熱材を施工していても、設備業者が邪魔になるからと取り外すケースがあり、戻しても隙間には無頓着なケースがほとんどです。

発泡系整形板による充填断熱

ポリスチレンフォームやウレタンフォームなど、JIS規格工場で生産された整形板を壁内部に挿入する断熱方法。現実的には「断熱材」というよりも「保温材」といったほうがいいでしょう。

材料自体の熱伝導率は、繊維系断熱材よりも小さく熱が伝わりづらいため、同じ断熱性能であれば厚みを薄くすることが可能です。壁内部に挿入する場合、コンセントBOXなどに干渉せず、配線なども通しやすいため設備工事による断熱欠損が生じません。材料をカッターでカットして挿入するので、隙間はスプレー式のウレタンで現場監督が埋めていきます。

白い断熱材は「カネライトフォーム」で『A種押出法ポリスチレンフォーム保温板』です。ピンク色は「ネオマフォーム」で、材料自体の熱伝導率はポリスチレンフォームよりも高性能な『A種フェノールフォーム保温板』です。

断熱材自体は外壁側に寄せ、室内側に配線や配管のスペースが確保できますが、やはり気流止めが必要で、かなり手間が掛かる工法です。同じ材料を外壁側に張る『外張り断熱工法』のほうが、温熱環境や手間を考えると良さそうですが、外断熱にもデメリットもあるのでこちらの工務店では内側に挿入しています。

セルロースファイバーによる充填断熱

天井断熱でも解説したセルロースファイバーの壁への充填断熱は、材料自体が新聞の古紙を綿状にしたものなので、グラスウールなどの繊維系断熱材よりも”熱伝導”は少なく、またコンプレッサーを使い高圧で吹込むので断熱材の密度が高く”対流”も起こりません

画像はセルロースファイバー吹込みの現場。ビニールで袋詰めされた固形のセルロースファイバーを解きほぐして攪拌機に入れ、壁にタッカー留めした不織布に穴をあけてセルロースファイバーを吹き込みます。まるで掃除機のホースを差し込むような施工方法です。床に近い下のほうから充填していき、少しずつ上に差し込み直して吹込んでいくので、かなりの密度で入っていきます。

画像の通り、何か所も穴が開いた状態ですが、セルロースファイバーがこぼれ落ちることもなく、不織布が膨らんでパンパンになるほど充填されるので、大工さんが石膏ボードを張るのも力強く押さえてビス留めしないと押し戻されるほどです。二階建ての一般住宅で2トン程度のセルロースファイバーが充填されるので、断熱性能だけでなく”吸音効果”や圧縮力による”制振効果”も見込まれます。

ただし繊維系断熱材よりも蓄熱効果がある分輻射熱が発生するため、夏の西日による”日射対策”や、材料が湿気を吸う分”壁体内結露”の対策は必要でしょう。

現場発泡ウレタンによる断熱

屋根断熱と同様、壁にも現場発泡によるウレタン吹付の断熱が増えています。専門の断熱施工業者により比較的安価に気密性能や断熱性能が確保できるから、低炭素住宅やZEH住宅(ゼロエネルギーハウス)など、省エネ等級の高い住宅でも多く採用されています。施工する工務店にとっては大工が施工しなくていいというのもメリットになっているようです。

現場の吹付は、エアーガンでスプレーのように壁に向かって吹くと、急激に膨らみ隙間なく壁を埋めていきます。筋交いや間柱の厚み以上に膨らむことも少なくないので、石膏ボードを張る前にカッターで削って均していきます。

柔らかい材料で、構造材が痩せて多少変形しても追従するので隙間は生じず、高い気密性能が担保されます。また熱伝導率は低く、壁内で気流も発生しないので、壁体内結露のリスクや断熱性能の低下などは繊維系断熱材よりも優れているでしょう。ただし直接この断熱材に着火した場合に、有毒ガスが発生します。工事中以外では石膏ボードがあるので直接着火することは考えられませんが、外壁側が燃えた場合には火の勢いが増すので注意が必要です。

輻射熱はセルロースファイバーよりは少ないものの、やはり西日対策は必要です。

Wakamoto
書籍『いい家が欲しい』がベストセラーになり、「外断熱」(正確には「外張り断熱」)を売りにする著者によって、「内断熱」(正確には「充填断熱」)が性能が低く欠陥住宅になるというイメージが植えつけられてしまった読者もいたようです。しかししっかりと「静止空気層」をつくることで、基本的には外張りと充填の断熱性能の差はほとんどなくなりました。今は使われる材料や厚みによって計算結果で比較できます。

外張り断熱(W断熱)

柱や外壁下地の構造用合板よりも外側に断熱材を施工する『外張り断熱』は、構造材自体が蓄熱容量が大きなRC造(鉄筋コンクリート造)の場合はとても費用対効果の高い断熱方法です。構造体が外部の温度変化に影響されにくくなり、建物自体が室内の温熱環境に近い安定状態になるからです。

しかし、木造の場合は構造躯体の蓄熱容量が少なく、外張り断熱がそれほどコスパが高い(=費用対効果がいい)とは言えません。一般的な外張り断熱は、硬質ウレタンフォームなどの整形板を使い、柱と仕上げの壁材の間に挟まれるため、外壁仕上げの材料の荷重によっては、あまり厚みのある断熱材が使えないといったデメリットもありました。

そこで、最近では壁内部の充填断熱と併せて、外側にも”付加断熱”として外張り断熱も張る『W断熱工法』が少しずつ増加しています。ドイツをはじめとした北欧州地域の『パッシブハウス』では、断熱材の厚みが30cmにもなるW断熱に木製枠三重ガラスのサッシが一般化しています。

ボード状付加断熱(無機繊維系)

ヨーロッパでは「ミネラルウール」と呼ばれるロックウールをボード状に加工した外張り用の断熱材。火災にも強いので、断熱性能と併せて防火性能を高めるためにも使えます。

厚みは20ミリ~30ミリ程度ながら、外側に断熱材を張ることで、壁体内結露が発生しづらくなり、遮熱効果も生まれます。強く押さえれば、指でも沈み込み、押し跡が残るくらいの材料です。

より断熱性能を高めようとしたら、外側にも間柱や垂木のような芯材を桟のように取り付け、60ミリ~100ミリ程度のミネラルウールを桟の間に充填します。しっかりと固定された「桟」が外壁材の取付け下地となります。

ボード系断熱材(発泡プラスチック系)

整形板の硬質ウレタン断熱材等を外部に張ります。やはり厚みは20ミリ~30ミリ程度であれば外壁材に影響されず、基礎の幅もそれほど厚くする必要はありません。

画像は構造用合板の外側に、熱伝導率の低い高性能フェノールフォームの『ネオマフォーム』(旭化成建材)を張っています。厚みは20ミリながら、この外側に発泡コンクリートALCの外壁材『パワーボード』(旭化成建材)の37ミリを仕上げ材として張るので、W断熱の効果が高まります。

ネオマフォームのジョイント部分には気密テープを張ることで、気密性も水密性も高まり、さらに外側に透湿防水シート『タイベック』を張って二次防水層をつくります。胴縁で通気層を確保してALCのパワーボードを施工するから、外側の断熱層だけでも昔の住宅以上に高性能です。

ドイツの外張り断熱リノベーション

ドイツなど環境(地球温暖化対策)先進国では、既存のマンションも断熱改修工事で外張り断熱が採用されています。特にコンクリートやレンガなどの建築物は、外側に断熱材を張ることで、室内が非常に安定した”温熱環境”になります。

また古い躯体が紫外線や温度変化で劣化することがなくなり、真新しい外壁に生まれ変わります。画像はSTO社の厚み200ミリ程度の外張り断熱材を張ったドイツ南西部フライブルク市にある戦前の建物のリノベーション。

地震が少ない地域とはいえ、古い建物を老朽化や耐震性能不足等ですぐに建替えする日本とは、建物に対する考え方が随分異なるようです。

Wakamoto
足早に外壁の断熱材について学んできました。実際にはまだまだ断熱材の種類も、性能差も、施工技術も多様ですが、一般の施主はこのくらいの知識があれば十分です。

次回はユニットバス設置について解説していきます。

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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。