これから家を建てようという方向けに、建築の素人でも分かる「注文住宅の建築プロセス」を公開していくWeb講座。第一回は、戸建て住宅を建てるプロセスで最初に着手する『地盤調査(地耐力検査)』について解説していきます。
実は、大手ハウスメーカーや工務店など、住宅建設を行っている建築業者でも、地盤や基礎といった「土木工学」に関しては業者任せで、専門的知識が欠けているのが現状です。だから施主も当然のように建築をお願いする住宅会社にお任せするしかありません。しかし基礎的な知識だけでも身に付けていなければ、契約段階で信頼できる業者か、見積価格が適正かを見破られないまま、割高な建築費を負担してしまうケースもあるのです。
業者探しをしている段階、そして請負契約の前に、是非この講座で正しい地盤調査の方法とタイミングを学んで下さい。
目次
地盤調査のタイミング
地盤調査の目的は、対象となる建物が「どのくらいの荷重」で、敷地の「どの辺りに掛かる」のか?という条件に対して、その土地の『地耐力』を計測して、建物が傾いたり沈下しないかの判定をすることです。
つまり建物が載る位置やおおよその重さが分からなければ、調査はやり直しです。
当初のプランから建物位置や大きさが変わっても再調査です。
土地購入時の調査
私が注文住宅建築の相談を受ける時にも、相談者から「土地を買う前に地盤の調査をしてもらったほうがいいでしょうか?」とか「他のハウスメーカーに行くと、無料で地盤調査をしてくれると聞きました」といった話をお聞きします。
まず”土地を買う前”は、地盤調査を行うことは出来ません。なぜならその土地はまだ「売り主の土地」であって、他人の敷地に測定の機械を搬入するのは常識としても出来る作業ではありません。買い主側は不安だから調べたいのでしょうが、地盤が悪いと分かれば価格交渉の材料として使われます。それが分かっている売り主側が許可する道理はないのです。
上記の写真は、大手ハウスメーカーの分譲地。自社が所有している土地なので、『地耐力調査済(=地盤調査済み)』としていても全く問題はありません。しかし「売地」なので、土地契約後に購入者がどこに駐車場を置き、どこに建物を配置するのか、自由設計で決めるとしたら、この地耐力調査は「参考データ」でしかないのです。
地盤調査箇所
では実際には、敷地のどこを計測するのが正しいのでしょうか?
それは、建築する建物の設計がほぼ終わり、役所への建築確認の申請を行う前の段階で、その建物の四隅(4か所)と建物の中心部分(1か所)の計5か所の地盤強度を測ります。建物の平面形状が変形している場合は、建物中央部から放射線状に四方に線引きした最長部の4点が、バランスよく建物荷重を支える地盤強度があるかどうかで判断出来ます。
従って、土地契約の段階はおろか、間取りを検討する段階で、工事の契約前に「当社は無料サービスで地盤調査を行います」という作業を行っても、全く同じ建物配置で工事を行わない限り、地盤保証も出ない”無駄な作業”です。さらに鉄骨造や木造といった構造でも建物荷重が変わるほか、二階建てか三階建てになるのか、屋根は瓦を載せるのか、太陽光パネルまで載せるのかで荷重は変わるのです。
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地盤調査の方法
地盤の強度を測定する方法はいくつかありますが、個人の住宅で最も一般的なのは『スウェーデン式サウンディング試験(SS試験)』と呼ばれる方法と『表面探査法』と呼ばれる測定方法です。
それぞれ少し詳しく説明していきます。
スウェーデン式サウンディング試験(SS試験)
先端がスクリューになったロッド(鉄の棒)を、一定の「おもり」を載せて機械で回転させながら貫入していきます。25cm沈むごとに回転数と音などを調べ、土の抵抗値を測定します。
ゆっくりと回転しながら、ジワジワと沈んでいく場合もあれば、ほとんど抵抗なくスッと落ちるように沈んでいく地層、そしてガリガリと音がしながら、いくら回転しても沈んでいかない「空転する」層もあります。測定する人が、その感触やスピード(回転数)で「砂質土」か「粘性土」か「礫質土」といった地下の土質を判定していきます。
ロッドは1m程度の長さのものをボルトで継いで伸ばしていき、概ね4m程度から深くて10mくらいの深度の土の状況と地下水位等を推定・把握します。宅地造成された水平の土地でなければ測れないことや、ロッドを貫入した数センチの範囲しか計測できないため、埋設物によって誤差が生じる可能性がある測定方法です。
表面探査法(レイリー波)
地面を人工的に揺らす「起振装置」と、その揺れをキャッチする「検出器」で、地盤の性質の変化を把握します。検出器同士は50cm程度の一定の間隔で設置し、周波数ごとの振動の波の速度を測定することで、かなり高い精度で地中の様子が分かります。
特に「液状化」の可能性があるような軟弱地盤の場所はSS試験よりもより正確に「数値」で地盤の性質が把握できます。そのためSS試験が安全マージンを見て『地盤改良が必要』という判定が出るケースでも、表面探査法では検出データをパソコンで解析して、より地盤改良費を抑えられるケースが多いようです。
SS試験よりも調査費用が高額なため、実際にはほとんどの戸建て現場でスウェーデン式サウンディング試験が行われています。
地盤調査の報告書
現地で地耐力を測定し、数日後に解析結果と併せて、地盤改良が必要か否か、また必要であればどのような改良方法が推奨されるのか、報告書が提出されます。5か所の測定場所それぞれの測定結果も添付されます。
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まとめ
地盤調査の目的は、家を建てようとしている土地がどのくらいの建物を支える強度があるのかを把握するために、地盤の地耐力を計測することです。特に敷地内で地盤強度のムラがあれば、より柔らかい場所に荷重が掛かって建物が傾きます。この現象を『不同沈下(ふとうちんか)』と呼びます。
敷地内が均等に柔らかければ、あまり傾くことなく建物が沈むだけで、傾くほどの生活に支障はでないでしょう。地盤強度にバラつきがある敷地で、将来建物が傾かないためにも、敷地内のどこに建物が建ち、その建物の重さがどのくらいあるのかが重要です。それによって地盤補強の方法や基礎の補強方法が変わってきます。
つまり、建物の設計が出来ない限り、地盤調査は無意味といっても過言ではありません。
高台の場合
高台の造成で、山を削って平らな造成地をつくった場合、元の山があった『切り土』部分は比較的安定しています。一方で擁壁を築いて切った土を埋め戻した『盛り土』は、十分土が締め固まっていないので、柔らかい判定が出がちです。単に全体が柔らかいよりも、元々の地山と埋め戻した箇所が敷地内で分かれていると、土の密度が異なりさらに厄介です。
例えば、上記画像のような造成地は、人工的に擁壁をつくり、土を埋め戻して大型重機で転圧していますが、擁壁の間際は十分な転圧が出来ず地耐力が不足するケースが少なくありません。巨大地震で擁壁が崩壊しているのはこのような場所で、建物荷重が一気に掛かるからです。鋼管杭打ちなどの地盤補強をしておいたほうがいいでしょう。
低地の場合
平野部の低地の場合、昔の土地利用や近くに川があるかどうかなどで地盤の強度が変わってきます。問題になるのが地下水位の高さで、仮に建物を支えるだけの地盤強度が平時にあったとしても、巨大地震で「液状化」した場合は、建物が傾いてしまう場合もあります。
特に基礎が『布基礎』と呼ばれる、底盤が一体化されていない基礎で、建物の中心と重心のずれが大きな建築物の場合は、傾きやすくなります。荷重バランスの良い建物を設計し、敷地全体の土を表層1m以上入れ替えるなどの対策をすれば、液状化の心配は減少します。
地盤調査は間取りが確定してから
住宅展示場を持ち、複数の営業マンを抱えている会社は、家を建てる可能性のある”見込み客名簿1枚”を得るために、多大な経費をすでに負担しています。そして会社の固定費で「人件費」は大きな要素ですね。契約までの時間が掛かれば掛かるほど、そして契約できずに他社に逃げていく人が多いほど、会社は「回収できない経費を負担している」ということです。
そこで、まだプランが確定していない段階から契約を迫り「間取りは後からでも変更できます」とか「予算オーバーしないように、先に地盤調査も実施しておきましょう」というセールストークで、自社への契約の道筋をつくり、施主の内諾を得るのが営業マンの役目です。
地盤調査結果によっては、基礎の強度設計が変わる場合もあるため、役所への確認申請よりも前に「地耐力検査」を行っておく必要はありますが、それ以上に早く、土地の購入段階や間取りの検討段階で地盤調査を行う必然性はありません。半年前に調査したからといって強度が変わる訳でもなく、急ぐ理由は地盤改良費用の把握だけです。
次の講座は『地盤補強工事』です♪
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それは、契約を迫る口実としてあまりにも意味のないタイミングで地盤調査をする住宅会社が少なくないからです。あなたは『地盤調査済み』と書かれている分譲地を見て安心していませんか?