建物の部位で最も過酷な環境になる屋根。
氷点下にまで下がる真冬から、太陽熱に照らされて60℃以上の温度で焼ける真夏、そして紫外線にも晒され、雨や風、振動なども常に受け続けます。さらに内外の温度差によって屋根下地等に結露も発生しやすく、雨を漏らさないように丁寧な施工も求められます。
今回の講座では、屋根の防水や遮熱など基本的な部分を学んでいきましょう。
前回の講座は『接合金物と中間検査』です。
目次
屋根の防水工事
トップライトの納め
狭小地や北面の家など、暗くなりがちな室内を明るくする方法として、トップライト(天窓)が良く利用されます。屋根に開口部を設けることは、雨漏りの原因にもなりやすく、トップライト周りは二重の捨て貼りを行います。
画像のように、ルーフィングは上下の重ね代100mm以上、左右の重ね代200mm以上を確保し、雨が軒先側に流れていくように重ねていきます。トップライト周りは枠の内側までルーフィングを立ち上げ、隅角部にピンホールが出来ないよう丁寧に施工します。
屋根勾配が3寸(3/10)未満の場合は、雨漏りのリスクが高まるため、トップライト以外の方法で採光を検討しましょう。
壁立上がりの取り合い
最近はZEH(ゼロエネルギー住宅)をはじめとして、屋根に太陽光パネルを搭載する割合が増え、少しでも屋根面積を増やすために、屋根の真ん中に棟を設けず、段違いで屋根をずらすケースも登場してきました。
2階が載らない部屋の屋根(下屋と言います)も、屋根が壁の立上がりで止まるので、壁を伝って雨が浸入しないよう、ルーフィングを立ち上げます。ルーフィングは角でカットして繋ぐのではなく、連続して折り曲げて250mm以上の立ち上げを設けます。その上から壁の防水シート(タイベック等の透湿防水シート)を張って、水切りを設置、雨が入り込んでも外に排出できるようにします。
谷の取り合い
屋根の「谷」というのは、2階の部屋に凸部があり、壁が”入り隅”になっている上部で、軒先が直角に交わっている部分。雨が降ると、水が集まってくる部分で、屋根材も斜めにカットする必要があるため、最も雨水が浸入しやすい個所です。
アスファルトルーフィングは、斜めにカットすることなく十分に重ね代を取って、防水の連続性を保ちます。溝が出来る谷の部分は、屋根から流れ込んだ雨水が軒先の雨樋に集められるよう、板金で谷樋をつくります。
屋根の遮熱工事
これまでの住宅は、屋根の下の小屋裏で換気をし、天井裏に断熱材を入れるというケースがほとんどでした。最近では居室の天井を高くとる勾配天井も好まれ、屋根で断熱するケースも増えました。
屋根断熱の場合は小屋裏の換気が出来ず、西日の暑さで熱せられた屋根が断熱材に伝わって「保温」され、夜になっても天井付近に熱気がこもるという現象も増えています。断熱性能を高めるほど、暑さが逃げず熱帯夜になるのです。
遮熱ルーフィング
ルーフィング材でも様々な機能が付加された商材が登場しました。画像は建材メーカーのフクビの『遮熱ルーフエアテック』という屋根防水シートです。
メーカーカタログによると、野地板の表面温度を6~8℃程度下げる効果があり、アスファルトルーフィングに比べて湿気を通す”透湿効果”も高いため、屋根部分での結露のリスクが低減できます。
重量も一般のルーフィングの3分の1程度なので、作業性もいいのがメリットです。
アルミ蒸着シート二重屋根
野地板にアルミ蒸着シートを敷き詰めた上に、胴縁により空気層を設け、その上にさらに合板下地にアスファルトルーフィングを張るという二重構造の屋根を採用した事例。
アルミサッシやアルミ鍋で分かる通り、アルミは直接熱を伝えやすいという性質(=熱伝導率の高さ)がある一方で、熱を反射しやすい材料(=輻射熱のカット)でもあるので、ペアガラスと同様”移動しない空気層”を設けることで、屋根からの輻射熱を室内に入れないという発想の商品でした。
こちらの現場では、屋根材をオーストラリアから輸入した『コロナ』を葺き、屋根断熱を『セルロースファイバー』の吹込みとしました。コロナはガルバリウム鋼板の下地に、ファイバーシングルと同様に「色砂」を吹付けたもので、軽くて耐久性の高い屋根材です。
断熱パネル
工場で断熱材のパネルを製作して、クレーンで吊って、垂木に嵌め込んでいく工法もありました。
発泡系の断熱材と野地板合板がパッケージになっていて、断熱材と合板の間に通気層があり、軒から入った空気が棟に抜けていくことで、結露の原因となる湿気や内外の温度差を抑えて、遮熱効果も高めます。
工場生産の安心感はありますが、それほど現場作業の簡略化にはならず、コストが高いため、今では新しい部材も登場して、屋根下地・防水工事と、室内側の断熱・遮熱工事を分けて行うケースがほとんどです。
石膏ボード
和風住宅を手掛ける工務店で、野地板の上に厚さ12.5mmのプラスターボードを敷き詰め、その上にアスファルトルーフィングを施工した事例もありました。
プラスターボードはご存知の通り”耐火性能”があり、バーナーであぶってもすぐには火の熱が伝わりません。雨に濡れると脆いものの、比較的安い材料で遮熱効果も認められるため、和瓦の屋根下地に使用しました。
和瓦の場合は、乾式工法では瓦の隙間で通気が出来るため、屋根下地には熱がこもりにくく、屋根荷重が大きい分、垂木も太く軒下の通気層の確保も容易なので、小屋裏の換気量も他の屋根材より大きくなります。
閑話休題屋根にソーラーパネルを載せる場合、屋根の仕上げをした上に架台を組んでソーラーパネルを載せる場合と、屋根一体型でソーラーパネル自体が屋根材になるケースがあります。
画像は『屋根一体型』のソーラーパネルを載せた事例の屋根下地。アスファルトルーフィングを敷き詰めた後に、薄いガルバリウム鋼板を重ねていき、その上に屋根いっぱいに太陽光モジュールを載せていきます。
ソーラー自体が熱を反射したり吸収するため、夏の小屋裏は遮熱効果がありますが、冬が北側の屋根よりも暖かくなりやすく、小屋裏の換気をしている場合に、野地板や垂木等に結露が生じてカビが生えるケースも出ています。
また、ソーラー発電は温度が高過ぎると発電効率が落ち、パネル下に通気がなく熱くなりやすい屋根一体型ソーラーは、屋根と分離したソーラー発電よりもKwあたりの発電量が落ちると専門家が指摘しています。
小屋裏の結露防止
雪の多い寒い地域では、軒下から入り込んだ冷たい空気が、天井裏から漏れる暖かい空気で結露し、雨漏りのようになるケースが少なくありません。また融けないまま屋根に残った雪から水滴が漏れ、つららになって天井を突き破る『すがもれ』という現象もあり、室外とはいえ屋根の断熱や結露防止は意外と重要です。
透湿ルーフィング
屋根の防水で最も一般的に使われるアスファルトルーフィングは、安価で実績も豊富ですが、ほとんど湿気を通しません。また熱による変形や低温時の硬化など、屋根下地の耐久性が必ずしも高くないため、改良製品も登場してきました。
画像はセーレン(株)という国内企業が開発した『ルーフラミテクト』という製品。アスファルトルーフィングに比べて重量は約5分の1で、透湿性は約200倍との触れ込みです。
道路のアスファルトをイメージしてもらえば分かる通り、真夏には溶けて柔らかくなり、野地板にも張り付いてしまうため、将来の廃棄処分を考えると、このような薄いシート状の製品は分別回収や焼却処分の容易さで選ばれます。
遮熱透湿シート
透湿にプラスして、遮熱機能を追加することでさらに結露のリスクを下げるルーフィングもあります。
画像は米国デュポン社が開発した『タイベック・ルーフライナー』という製品。輻射熱の反射率が高く、湿気だけでなく有機ガスも透過させる素材なので、合板から出る揮発性物質、ホルムアルデヒド等も素早く輩出できるとメーカーは謳います。
次回は、屋根のこう配や屋根材、施工方法について学びます。