【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-11】棟上げと上棟式

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家づくりのステップも、いよいよ自分たちが発注した建物が姿を現す『棟上げ』です。大工たちは「建て方」とか「建て前」とも呼び、祭事が行われる場合には「上棟(じょうとう)式」と呼び名が変わります。

朝のスタート

Wakamoto
棟上げの日は、概ね作業開始が午前8時です。その前に朝礼や清めの塩・お酒が建物の四方に盛られ、土台や資材に掛けられたブルーシートが取り去られます。

現場の前の道路にセットされたレッカー車(クレーン車)のエンジン音が、作業スタートの号砲となり、一斉に大工さんたちが1階の柱を立て始めます。棟上げの当日は、夕方まで一気に屋根下地と雨仕舞まで行い、翌日雨でも大丈夫なように応援の大工さんたちも入って、みるみるうちに構造体が組みあがっていきます。平均的に8人程度の大工が手分けして作業していきます。

建物四隅の盛り塩

まずはブルーシートが外され、建物の四隅には塩が盛られて清めのお酒が撒かれます。工事の安全を祈願し、画像のように土台に掘り込まれたホゾ穴に、柱を立てていきます。

土台を留めるアンカーボルトは、根太レス工法になってからはボルトが土台の上に出ることはなく、厚さ24ミリの特厚合板で半分が隠れます。柱の引き抜け防止のために埋め込まれた「ホールダウン・アンカー」だけが土台を貫通して見えており、隅の柱が立てられた後、ボルトで柱と一体化されます。

土台の下に見えている黒いギザギザのものは「基礎パッキン」で、外気と床下が通気出来るような換気機能と、木材が直接コンクリートに触れない緩衝材の役目を果たします。基礎パッキンを使わない工法もありますが、ここでは省略します。

スタート10分で立つ1階の柱

朝8時スタートから10分もすれば、1階の柱はほぼ全てホゾ穴に差し込まれ、柱が林立します。このままではグラグラするので、すぐに梁や桁などの”横架材”と呼ばれる水平の構造材にロープ架けをし、レッカーで吊られて柱の上部が繋がれていきます。

建物角に立つ長い柱は、他の柱よりも太めの『通し柱』。2階まで貫通する柱で、胴差(どうさし)と呼ばれる横架材が二方向から差し込まれ、ボルトで繋がれます。

他の柱(管柱/くだばしら)よりも、ちょっと頭一つ飛び出ているのは、階段部分の柱です。柱や横架材は、事前に墨で番付されて、どこに使われる材料か番号が振られているので、大工たちが手際よく仕訳して、まるでプラモデルを組み立てるように骨組みを組みあげていきます。

クレーンの活躍

棟上げがスピードアップされたのは、根太レス工法により1階床に特厚合板が張られ作業ステージが出来たことと、構造材のプレカットが進んだこと、そして終日クレーンが活躍し、構造材の吊り上げ・材料分配、上階への運搬が容易になったことが挙げられます。

左の画像を見ていただくと分かる通り、作業開始後から30分も経てば、すでに梁や桁などの横架材は柱のホゾ穴に組込まれて、2階の床下地となる大引きなども次々と組まれていきます。

地下足袋を履いた大工さんたちは、軽快にバランスを取りながら構造材の上を歩き回り、掛矢(かけや/木製の大きな木槌)で継手を嵌め込み、高さを均したり、ボルト締めで足元がぐらつかないよう締め付けていきます。

お昼休み

多くの施主が、お昼休みにはご夫婦で現場に来られ、お弁当やお茶などを用意して大工さんたちを労います。前日までは足場で囲われただけの現場が、あっというまに2階の柱や横架材まで組みあがっている状態を見て、多くの施主がビックリされます。

午前中の作業進捗

建物の大きさや当日の気候などにも影響されるものの、概ね午前中の4時間で2階の梁や桁などは繋げられて、2階の軒桁の高さまでは構造材が組みあがります。すでに2階の床も構造用合板が敷き詰められているので、お弁当や飲み物を用意する時には、1階は室内のイメージです。

左の画像は6月初めの晴天時の棟上げです。ソーラーパネルを搭載するZEH(ゼロ・エネルギーハウス)ということもあって、屋根面積を最大化する”片流れ屋根”でしたが、お昼にはすでに2階どころか、小屋組みの小屋束や母屋、屋根下地の垂木まで一気に進みました。

作業の区切りがいいところまで、多少時間超過でも作業を進め、足場から1階に降りて施主ご家族と対面。施主のあいさつや棟梁紹介などを経て、施主とお昼を共にします。

お昼の仕出し弁当

施工者によっては、昼食の用意を辞退するところもあり、施主も棟上げ当日現場に顔を出さないケースもありますが、お休みをとってでも一世一代の家づくりの一大イベントは、立ち会いたいという施主が大半です。施主の両親も来られ、豚汁やおみそ汁など、大きな鍋で用意されるケースもあり、大工さんたちと一緒に食事をすることで、家づくりの一体感を醸成します。

やはり注文住宅なので、どのような大工さん、職人さんたちが自分たちの家を建ててくれているのか、全く知らないまま任せるよりも、気持ちのこもった仕事をしてもらうためにも、最初に挨拶を交わして”顔の見える関係”になっていることをお勧めします。

恐らくプレハブで建てる大手ハウスメーカーでの家づくりや建売同様の”建築条件付分譲”では体験できない、家を建てている実感が湧く瞬間です。

昼食後の現場説明

昼食が終わって少し休憩したら、工務店の現場監督や営業担当者が、安全に留意しながら建築中の様子を案内します。最近では、2階に上がるにも鋼製の仮設階段があるので、容易に2階の構造も見ることが可能です。以前は2階の床もなく、脚立や梯子だったので、外側の仮設足場の細い通路を案内され、高所恐怖症の人は足がすくむ状況でした。

多くの施主が、基礎工事の直後に「やっぱりこんなに狭いのですね・・・」と、敷地に比べて建ぺい率で縮まった基礎の外周を見て少し落胆の言葉が漏れますが、棟上げのお昼には「こんなに大きなボリュームになるとはイメージできませんでした」と、建物の大きさに感激されます。

何度も打合せを重ねて自分たちが思い描いた間取りが、実際に目の前で体験できる瞬間です。

昔は、食事だけでなく「お祝いのお酒」も振る舞うケースがあったようですが、今は少量のアルコールでも酒気帯びで問題になり兼ねません。どうしても何か用意されたい施主は、缶ビールなどを準備し、希望される大工さんたちに持ち帰ってもらうという方法をとっています。

夕方までの作業と上棟式

Wakamoto
今では神事としての”上棟の儀”を挙げるケースはほとんどありません。神社から用意された「棟札」を棟木に打ちつける記念行事を施主に体験してもらう上棟式(イベント)を行ったり、近隣の方への挨拶として”餅まき”をするケースなど、工務店側から勧められて記憶に残る棟上げを愉しむといいでしょう。

小屋組みと野地板張り

午後から大工さんたちは手分けをして、建物の水平・垂直を確かめながら、「仮筋交い」という振れ止めの斜め材を釘で仮止めし、プレートやボルトなどを取り付けて固定していくチームと、屋根勾配に合わせて小屋束や母屋、垂木などの、小屋組み・屋根下地をつくっていくチームで夕方までに雨仕舞を済ませます。

昔の屋根下地には、10cm幅程度の杉板を、少し隙間を開けて垂木に打ち付けていました。瓦を載せることが多く、小屋裏の空気や湿気が抜けることを期待したのでしょう。

しかし現在では畳と同じ大きさの合板(野地板)を隙間なく敷き詰めるようになりました。軒下から垂木の間を通り、屋根勾配に沿って小屋裏を登っていく空気によって、この野地板が結露しないように通気させます。最頂部には”棟換気”をつけて、空気や湿気、熱の移動経路をつくります。

アスファルトルーフィング施工

野地板を張り終わったら、プレイヤーが交代し、大工たちは片づけを始めて今度は屋根屋の職人たちが屋根防水材の『アスファルトルーフィング』を敷き詰める作業に入ります。ロール状になった紙の包みをクレーンで屋根まで上げてもらい、開封後、軒先からタッカー止めして、10cmの重ね代を取りながら水上に敷き重ねていきます。

左の画像は、高台から広島市内が見下ろせるロケーションなので、屋上のルーフバルコニーを設けた現場。最上部の棟が一部切り取られて変形した屋根になっています。左側の野地板に軒先からグレーのアスファルトルーフィングを敷いているところです。

大工たちは建物外周にブルーシートを架けて、雨対策を施し、屋根はこのルーフィングで一旦雨仕舞を終えます。遮熱タイプのルーフィングや、雨音を和らげる防音のシートを施工するケースもあり、その上に後日屋根材が施工されます。

閑話休題

ご近所へのお披露目も兼ねて、敢えて餅まきをするケースも一旦その風習が途切れましたが、広い敷地では行なってみるのもお勧めです。工事着工挨拶も兼ねて、上棟と餅まきの告知をご近所に配り、夕方近くに集まってもらいます。

朝からレッカー車を据えるので、地元警察に「道路使用許可」も得ており、交通整理のガードマンに、周囲の安全確認をしてもらいながら、施主のご家族が上から餅やお菓子などを撒きます。

このようなご近所とのふれあいをやっておくと、工事スタート後の騒音の問題なども大きなトラブルになりにくく、工事業者も暖かく近隣に迎えてもらいやすくなります。

これで、無事棟が上がり、上棟の一日が終わります。
建物を養生シートでくるみ、看板シートを架けて解散です。

次の講座では、筋交いや建築金物取付けで、中間検査に備えます。

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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。