初めての家づくり成功応援ブログ

【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-33】階段の取付け

前回の講座は、窓周りの造作窓枠の取付けについて学んでいただきました。
以下復習です。

【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-32】開口部周りの造作

2018.09.25

今回は上下階をつなぐ『階段』の取付けについて学んでいきます。

Wakamoto
階段は、家の中でも転倒事故が発生しやすい場所でもあり、また1階で火災が発生した時に2階・3階への延焼の経路にもなって、冷暖房などエネルギーも逃げやすい経路です。リビング階段では、部屋を印象づける存在でもあり、単に機能だけではない工夫やデザインが必要です。

回り階段

日本で最もポピュラーな階段は、途中に踊り場があって折り返している『回り階段』です。最小面積で1坪内に収まり、階段下収納が設けられることがほとんどです。昔の大工さんは「階段を架けられて一人前!」と言われていましたが、最近は建材メーカーの工場でプレカットされたセット階段が増えました。

仮設階段と本施工

階段の施工は意外と工事工程の後半になり、それまでは梯子仮設の階段を使って、作業を進めます。事例は、上記完成写真の現場で、大工さんが自らつくった仮設の階段を利用している工程と、本階段を施工している時の画像が比較できます。広島市西区の事例です。

最近は『リビング階段』が多くなっていて、工事用の仮設階段も邪魔になりませんが、狭い廊下からしか上がれない『独立階段』の場合は、仮設階段も窮屈で、画像のようにアルミ製梯子が利用されるため作業効率は低下します。

玄関ホールからすぐ階段がある現場。ちょうど階段材を受ける『ささら桁』を施工しているところ。作業用通路の確保も作業性に影響する。

踏板と蹴込み板

階段は、足がつく水平面を『踏面(ふみづら)』といい、垂直面を『蹴上げ(けあげ)』と呼びます。踏面の床材を『踏み板』といい、厚み3cm程度の集成材が使われます。最近は『ストリップ階段』とか『シースルー階段』という、蹴上げ部分は素通しで、蹴上げ板で塞がないという要望も増えています。ただし階段下収納を設ける場合は、やはり目隠しのため「蹴上げ板」を挿入するのが一般的です。

画像は階段取付けを側面と裏側からみたところ。建材メーカーによる工場加工で、パーツが揃っていることが分かります。蹴込み板は、蹴破らないことと踏み板の荷重を受けるために補強がされています。プレ加工やパーツがなく、大工が階段を組んでいた頃は、特に回り階段を架けるのが腕や技術の見せどころ。和室の造作と同様、大工の技能が分かる個所です。

安全性が高い踊り場のまわり方

通常、回り階段は1坪の空間に納め、方向転換する踊り場もフラットではなく、2段か3段にするケースがほとんどです。踏み板は三角形となって、回る外側の踏み板は広くなりますが、内側は狭くなり踏み外す可能性が高まります。

画像は広島市西区での建築事例。やはり安全に回りたいというご要望から、2階降り口の段数を減らし、踊り場は2カ所ともフラットにして緩やかな勾配としました。踊り場から下は少し段数を増やしたものの、階段をターンしているので油断は減っていて注意するだろうという考えで踊り場の位置を割り振っています。

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敷地や予算が限られると、どうしても階段は狭い空間に押し込めてしまいがち。しかし子どもの安全や高齢者になった時のことも考えて、勾配や段差、踊り場の配置などを考慮することが大切です。また床材を1階と2階で変えた場合、階段の色をどちらに合せるかも意外と重要です。

安全な直線階段(踊り場あり)

高齢化して多少身体に障害が出ても、自宅に住み続けたいと、床の段差や廊下の手すり等の『バリアフリー仕様』だけでなく、階段も緩やかで転倒事故のない”踊り場のある階段”を要望されるケースも増えてきました。

踊り場造作とささら桁

踊り場のある直線階段を架けていく場合は、階段自体の長さが長~くなるため、リビングに設けることはほとんどなく、基本的には広くて長い廊下が必要となります。昔の住宅は、玄関を開けると玄関ホールの正面に廊下と階段があるという間取りがほとんどでしたが、最近は広い玄関ホールがつくれないコンパクトな家が増え、冬の寒さなどもあって『リビング階段』が増えました。

こちらの現場は、冬少し寒さが厳しい東広島市で、子供のいないご夫婦の注文住宅です。ご夫婦だけであれば、リビング階段よりも、階段は独立していたほうがいいようです。

踊り場のない直線階段であれば、2本の太い『ささら桁』で荷重を支える「シースルー階段」も可能ですが、踊り場がある場合は、基本的に踊り場部分を”ステージ”(平台)として柱や壁で支え、その上下に階段を架けていくという形が一般的です。もちろん鋼製のささら桁を特注し、鉄骨で荷重を持たせることも可能ですが、鉄は揺れやすいためやはり柱で支えて強固にし、下の空間は収納や装飾棚等として利用するのがお勧めです。

L型階段(踊り場タイプ)

やはり回り階段よりも安全性が高い階段を求めて、限られた床面積の中で『安全なリビング階段』を希望される方は、U型の回り階段ではなくL型の折れ曲がり階段を選ばれます。

ささら桁の形状

階段材を両端で受ける(支える)『ささら桁』は、大きく2種類の形状があります。のこぎりのように”階段状に刻んで”いて、階段の踏み板がささら桁の上に載るタイプと、ささら桁自体は”直線で長方形の板”を勾配に合わせて架け、ささら桁の間に踏み板が収まるタイプです。

後者は、ささら桁に溝を掘って踏み板を差し込むか、L型のアングルなどの上に踏み板を載せてビス留めするなど、前者の架け方よりも手間が生じます。また両サイドのささら桁間が踏み板の幅となり、踏み板の下は「空中」になるため、蹴込み板がなくシースルーの階段だと、少し恐怖感を覚えるかも知れません。

画像の現場は、広島市佐伯区で完成したL型のリビング階段。下の5段は「箱」をつくり、踊り場もしっかりと強固につくった後、上の階段は「はしご」のように2階に架け、ささら桁は直線としました。リビングであまり存在感を強調しない階段です。

階段下の利用

L型の階段は、踊り場を低い位置に配置するか、高い位置に配置するかで、階段下の使い方が変わってきます。一般的には「蹴込み板がある箱型階段」では収納スペースを、「蹴込み板のないシースルー階段」では、飾り棚や家具、開口部など、部屋の中でも少し印象的な使い方をされるケースが多いようです。

画像は、LDKの下に『半地下』(深基礎)の空間をつくり、2階に上がる階段の高低差を利用して、半地下に下りる入口を付けた施工例。広島市佐伯区でお引き渡しした住宅で、左側がキッチンで、半地下は食品庫としても利用する計画です。

廊下が板張りの写真は、建物解体時まで考えて、ビニールクロスだけでなく、プラスターボードも極力使いたくないという施主が、奥さんも子供も過去に階段から何度も落ちた教訓から、階段で落下しづらく怪我も軽微で済むようにと計画したL型階段と内装仕上げ。階段下は通路として利用した、安芸区府中町の事例です。

またもう一枚の画像の「窓に面したL型リビング階段」は、階段状のささら桁を造り、階段下はTV台を設置しました。2階の吹抜けから光を取り入れて明るさを確保するためのデザインです。広島市佐伯区でのお引き渡し事例です。

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L型の階段を希望される施主は、落下の危険防止だけでなく、階段自体の存在がインテリアの要素として大きくプラスに影響し、来客の目に触れるような位置につくることが多いように感じます。上部は吹抜け空間になるケースが多く、明るく開放的な階段が可能です。

スキップフロア階段

最近やはり増えているのが、スキップフロアになった階段。踊り場というよりは「オープンな書斎」のようなフロアが中間階に設けられ、リビングとの高低差が家の中に変化をもたらせます。

画像の事例は、安芸郡府中町でお引き渡ししたスキップフロアのある家です。この中間階は、敷地の高低差を利用して地下にドラム演奏も出来る『音響ルーム』を鉄筋コンクリートで造ることで出来た空間です。ミシン作業など多趣味の奥様が使う空間として、子供たちがリビングで遊んでいても邪魔されず、家族の様子が分かる中間領域です。

住宅展示場のモデルルームでも、見せるためのスキップフロアが増えてきました。上記事例のように、スキップフロアの階下が「ガレージ」とか「趣味の部屋」のように実用的な空間が望ましいものの、モデルハウスで見て「あんな風にして欲しい」という要望も受けるようになりました。

一般的な基礎高さの1階にスキップフロアをつくると、その床の下には一定の空間が確保できるものの、開口部の高さが確保しづらいため、余り有効に使えないケースがほとんどです。地下を設けず背面に本棚をつくった広島市安佐南区の施工例では、ギリギリ天井高さを確保してトイレを配置しました。

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いずれも勾配天井なり吹抜けなり、1階と2階が空間的に繋がって、音も冷気も障害なく伝わるので、特に断熱性能やエアコンの取り付け位置などは十分な配慮・計画が必要です。

直線階段

階高3mの高低差を一気に上り下りする『直階段』は、途中で躓いてしまうと1階の床まで転がり落ちてしまうので、正面にはぶつかったり転がったりしても大けがをしないような間取り、家具配置がお勧めです。

明るいリビングを希望され、出来るだけリビングを広く取りたいというご要望の場合、直階段はあまりスペースを取らずに吹抜けから明るい光をリビングに取り入れることが可能です。シースルー階段にすることで、明るさを阻害せず広くみせることも可能ですが、女の子がいるご家庭では、思春期にスカートで階段を上下する時の配慮も必要かも知れません。

力桁(ささら桁)

シースルーの階段(ストリップ階段)は、踏み板を垂直方向で受け止める『蹴込み板』がなく、踏み板に大きな荷重を掛けると「板材がたわむ」ため、両サイドにささら桁を設けるよりも、踏み板のたわみを最小化し、しっかりと人の荷重を太い材で受けるために、力桁(ちからげた)とも呼ばれる太い階段状に刻んだささら桁を使います。

直階段は、並行した2本のささら桁さえ水平・平行に取り付けてしまえば、同じ寸法の踏み板を載せて固定するだけなので、大工にとっても手間が掛からない階段です。回り階段は、踊り場も回っているため三角形の部材がきれいに回れるよう、高さや位置を調整し、蹴込み板まで取付け、補強しなければならないため、手間と技術が必要です。

階段数

一般的な建物の階高は、1階から2階の床面からの高さが3mとなっています。階段の1段の高さ(蹴込み板部分)は、階段に割けるスペース(長さ)と安全な踏み板の幅(奥行き)によって、緩やかか急こう配になるか決まってきます。

一般的な注文住宅では、縁起もあって「13」という数字を嫌い、階段の踏み板を14枚(14段)として、15段目が2階の廊下となる勾配です。つまり階高を15分割するから300cm÷15=20cm(1段の段差)となります。踏面の寸法は、大人の男性の足よりも少し小さめの奥行きですが、25cm前後確保できます。画像は広島市南区の現場です。

スチールで出来た『らせん階段』などもありますが、個人住宅では一般的ではないため、木製の階段をご紹介しました。いずれにせよ、日本の住宅の階段は、ほぼ例外なく”踏み板は木製”で、強度や変形などを配慮して『集成材』が使われます。
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欧米の住宅の室内階段は、木製よりもカーペットを敷き詰めるケースのほうが多いようです。床材の施工でも紹介していますので、興味のある方はそちらをご覧ください。

【施主が学ぶやさしい住宅建築講座-25】床材施工

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画像は、ちょうどリーマンショック直前の2008年9月、米国オレゴン州ポートランド郊外で見学した『ストリート・オブ・ドリーム』の最新モデルホーム。米国の住宅バブル最盛期に設計されたモデルなので、ちょっと建物規模やグレードは日本で参考になりませんが、階段はカーペットと木製が半々くらいの割合でした。

▼では次回は内装の木製建具取付けをご紹介していきます。