玄関の土間にタイルを張って玄関ドアの下枠も埋め、コンセントやスイッチプレートなども取付いた段階で、基本的に建物内部と外気は遮断されます。換気や配線等で外部に開けた穴なども、雨や風の進入がないようコーキング等で埋められます。この段階で、実際に外気と遮断されているかどうか、機器によって数値を計測するのが『気密測定』です。
目次
建物の気密
昔の日本の建物は、雨戸やふすま、障子などの建具で仕切られていたので、風通しを優先し、空気も湿気も自由に動いていました。「壁に耳あり障子に目あり」と言われるくらい、空気も音も漏れ放題が日本の建物だったのです。
その後アルミサッシが普及し、外部に面する開口部の隙間は減っていきましたが、床下や小屋裏など目に見えない箇所には多くの隙間がありました。これは施工精度というよりも、土台や柱などの構造物を乾燥させ、シロアリや腐朽菌に冒されないために、風が動くようにしていたのです。床下や小屋裏の換気が大切なのは、湿気を溜めず熱の移動も促すためです。
気密と結露の関係
木造住宅にとって、耐久性に関する最大の敵は『湿気』です。特に木材の『含水率』が重要で、含水率の低い乾燥した木材は、強度も強く長持ちをします。なぜ建築時には乾燥していた木材が湿気を帯びるかといえば、それは”温度差によって発生する結露”が主な原因です。
昔のように、室内も戸外も温度差が変わらないような家は、冬に建物内で結露することはありませんでした。冬は囲炉裏や練炭で暖を採り、梁・桁や天井、屋根の茅葺なども煙でいぶしていた(=燻製状態)ので、キクイムシや腐朽菌の発生も抑えられていたのです。その後、アルミサッシやガラス窓になって、ある程度外気を遮断し、室内でストーブを使うようになってきたら、目に見えるところでサッシや窓ガラスに結露が発生するようになりました。しかし目に見えない小屋裏や壁の中でも結露が発生し、木材が湿潤状態になってシロアリや腐朽菌にやられていたのです。
気密とは”空気の動き”を止めること
湿度の変化は「水蒸気の移動」です。『結露』は自然現象ですが、一定の条件下で発生します。それは『湿り空気線図』で示された物質の表面温度が「露点温度」になれば、水蒸気が水に変わるのです。室内から壁の中に入った水蒸気が、窓や外気近くで冷えて露点温度になれば、壁内部のどこかで結露します。この現象は冬に限らず、エアコンで冷やし、湿度が高くて外壁が熱を持つ夏でも発生するのです。(「夏型結露」または「逆転結露」といいます)
以前解説した断熱工事での気密処理も再確認して下さい。
気密と換気の関係
結露が本当に問題になるのは、サッシなどの”目に見える場所”ではなく、壁内部や床下、天井裏など”目に見えない場所”に発生する「湿潤状態」です。そこにはカビの発生や木材腐朽菌、シロアリなど建物の耐久性や、家族の健康被害を起こす発生源となるのです。
湿気の元となる水蒸気は、気圧や温度変化で自由に動き、室温の低い場所では「相対湿度」が高くなります。気温によって空気中に蓄えられる水蒸気量が異なるからです。つまり結露の抑制には水蒸気を常に移動させ、室内の温度変化を平準化することです。窓を開けての自然換気ではその状態をコントロールできないから、機械的な換気が必要になるのです。
「隙間」は換気の大敵
窓を開けての自然の換気ではなく、暑い時期や寒さの厳しい冬、花粉やPM2.5などが飛散し窓を開けたくない季節に、きちんと温度や湿度をコントロールできる換気をするためには、空気の入口と出口以外に全く隙間がないことが理想です。ホースやストローでも、小さな穴がいくつも空いていれば、どれだけ吸い込んでも途中で空気が入り、機械式ポンプでも十分に吸い上げられません。吸えば「負圧になる状態」が、水や空気を吸い上げるのです。
出来るだけロスを少なくして、小さなエネルギーで「計画した給気口」から外気を取り入れ、きちんと室内全体にきれいに新鮮空気を循環させ、「計画された排気口」から汚れた空気を出すために、建物の気密が大切なのです。
まとめ
気密の必要性は、生活では見えない壁の内部や床下・天井裏などに、水蒸気が入り込まないよう隙間を塞ぐこと。それは見えないところの”結露防止”に繋がります。そして小さなエネルギーで確実性の高い換気をすることで、室内での湿度や温度差を小さくして、カビやダニの発生を防ぐことです。結果的に、建物の耐久性が高くなり、住む人の健康被害も防ぐことに繋がるのです。
気密測定
気密測定は、JIS規格で定められた方法により、国家資格を持った『気密測定技能者』が機械計測したデータが正式な結果として認定されます。日本では、室内の空気を強制的にファンで外に排出して気圧分布を測る『減圧法』によって計測することがほとんどで、室内は負圧になります。ちなみに米国では「加圧法」だったので、玄関ドアの開け方にも関係しているかも知れません。
気密数値の目安
建物の気密は『相当隙間面積』という指標で比較されます。
基準値は、温暖な地域と寒冷地では異なりますが、C値という値で示され単位は「cm2/m2」です。つまり床面積1m2当たりにどれだけの隙間(cm2)があるかを、圧力の測定と床面積の割り算で算出します。
本来の目的を果たすためには、地域に関係なく『C値=1.0cm2/m2』以下の隙間を目指したいところです。この場合数値は小さいほど性能が高いことを示します。隙間が寒さを意味しないのであれば「少々隙間があってもうちの地域は温暖だから」という問題ではないのです。また逆に隙間がなく(=気密状態)ても熱が逃げるのは、栓をして空気が漏れないガラス瓶をイメージすれば分かります。
気密測定の方法
気密測定は、メガホンの化け物みたいな機材で、家の中の空気を強制的に排出するため、機械設置する窓はファンが回る排出口のみ穴をあけて、その他の箇所は空気が漏れないようにビニールやテープで目張りをします。そして外部に面しているすべての開口部(玄関ドア・勝手口・サッシ等)を閉めて鍵を掛けます。(通常の密閉状態)
気圧差と排出される風量を5回程度連続して計測し、数値をグラフにプロットしていきますが、温度や風にも影響されるため外気温や室温もセンサーで計測します。グラフがきれいな直線で斜めに伸びれば、建物全体が均等に気密性能があることが分かります。
気密測定結果
気密測定には、一般的に5万円程度の測定費用が掛かります。結果はプリントアウトされ日時や温度なども記載されるので、書類のねつ造はあまり考えられませんが、施主が立ち会っていない場合には、何度かやり直しをしたり、通常の生活では塞がない引違い窓等に目張りをするなど、数値を良く見せるケースも少なくないようです。
目の前で器械に表示された測定結果を見て、プリントアウトされた数値を確認すると、多くの施主がそれまでの緊張した面持ちから一気に笑顔になり、安心してお引越しが楽しみになります。記念撮影されるご家族もたくさんいらっしゃって、我が家に愛着が湧くようです。
▼いよいよ役所の完了検査、施主検査を経てお引渡しです。
住宅は、間取りも床面積も異なり、邸別のこの数値も現場によって変わってくるからこそ、施工精度や建物の品質の目安になるこの気密測定は、お引き渡しの検査と併せて実施することをお勧めします。