前回の講座は、先行工事が必要な換気システムについて解説しました。第三種換気システムは、完成間近での取付けで大丈夫ですが、ダクト配管のある第一種換気システムは、断熱材や下地のプラスターボード施工前に本体のセットやダクト配管の工事を済ませておく必要があります。前回の講座は以下ご確認下さい。
今回は断熱工事についての解説ですが、壁と天井(屋根)の断熱は分けて説明していきます。今回は天井面の断熱です。
目次
なぜ天井面の断熱が大切か?
冬、室内を暖めても寒い家や、夏、エアコンで冷やしても寝苦しい家は、壁の断熱材よりも、天井裏から熱が逃げたり入ったりしていると考えたほうがいいでしょう。なぜなら、天井裏と比べて壁の断熱材は施工しやすく、隙間が生じる懸念が少ないから。また暖かい空気は上昇して天井などの隙間から逃げやすく、夏は壁以上に屋根が熱せられて、小屋裏で熱が溜まります。
天井断熱
天井面を断熱する場合に、どこで断熱をするかで大きく2つに分かれます。天井裏に繊維系の断熱材を敷く『天井断熱』と、屋根の垂木に沿って整形板の断熱材を張るか発泡系の断熱材を吹付ける『屋根断熱』の方法です。
まずは、繊維系の断熱材を天井裏に敷き詰める「天井断熱」の事例を紹介していきます。
繊維系断熱材
繊維系の断熱材で代表的なのは「グラスウール」や「ロックウール」です。
それぞれの断熱材の特性や特徴は、多くのサイトで紹介されているので省きますが、天井下地の「野縁」の上にセットしていくのが一般的です。画像の通り、幅425mmの袋入りの断熱材を、布団のように敷き詰めて、その下からプラスターボードで塞いで天井を仕上げていきます。
間仕切り壁部分は電気の配線などもあって、天井と繋がっていますが、壁の両面にプラスターボードを張るので、部屋の空気が直接天井裏に抜ける訳ではありません。しかし断熱材自体はどうしても多少の隙間が生じ、熱は逃げやすくなります。
羊毛系断熱材
自然素材系の断熱材で、断熱性能だけでなく調湿効果のある『羊毛断熱材』は、家族にアレルギーなどがあって漆喰などの自然素材を使った健康住宅を志向する人たちに選ばれます。
ロックウールなどの繊維系断熱材と同様、やはり天井下地の野縁の上に載せるという形でセットされます。天井裏から見ると、まるで厚い雲のようにふわふわした状態で、繊維系断熱材よりも冬は暖かそうに感じます。
袋に入ったロックウールよりもずれにくく、隙間も出来にくい印象ですが、ずれてしまうと断熱効果が半減します。またウールのセーターと同じ素材なので、冬暖かいものの工事金額としては高価です。
セルロース系断熱材
新聞の古紙などを機械で粉砕し、綿状に加工して天井裏に吹込む『セルロースファイバー』も自然素材系の断熱材です。こちらは上記のようなロール状の断熱材ではないので、野縁の上に敷き詰めるのではなく、プラスターボードを貼った天井裏に、”雪”のように降り積もらせます。
バージン・パルプであれば白い綿あめのような状態ですが、新聞のインクなども混じった古紙なので、綿ボコリが降り積もっているような印象となりました。厚みを20cm以上にすれば隙間もなくなり、ほとんど熱も逃げなくなります。断熱材の厚みによって熱損失(熱の移動時間)が変わってきますので、厚いほど断熱性能が高まります。
屋根断熱
最近増えている「勾配天井」は、高い天井が部屋を広くみせ、多くはトップライトなどを設けて、明るい人気の空間が実現できます。またロフトや小屋裏収納を利用する場合も、基本的に断熱は屋根面で行います。
繊維系断熱材
屋根断熱の場合も、ロックウールやグラスウール等の繊維系断熱材が使われますが、天井断熱のように小屋裏に換気可能な空間があるわけではなく、また室内側と屋根の温度差が激しいため、断熱材に湿気(水蒸気)が入ると内部で結露しやすい環境になります。
従って、垂木間に挿入した断熱材に湿気が入らないよう、防湿フィルムを張ることが推奨されます。または袋入りの断熱材の使用です。
天井断熱の場合は、電気配線や照明器具などが断熱の欠損をつくるケースが少なくありませんが、屋根断熱では基本的に欠損が起こりにくい施工が可能です。しかし”垂木間”に挿入すると、垂木の厚みで断熱材の厚さが規定され、断熱材自体も熱が逃げる場所がなく”保温”(蓄熱)してしまって、夏は夜になっても「輻射熱」を生じる懸念があります。
屋根下地の野地板に結露が生じないように、通気層の確保も必要です。
整形板・規格品による断熱
JIS工場の規格寸法で製造された断熱材を現場でカットして屋根下地に挿入していきます。屋根の野地板と一体化して垂木間に挿入するパネル状の製品や、母屋間に入れるものなど多様ですが、分かりやすく言えば発泡スチロールを形にあわせてカッターで切り、詰め込むイメージです。
垂木間に挿入する断熱材と母屋間に入れるものは、断熱材の位置が変わってきます。真夏の日射に断熱材が蓄熱しないよう、通気層を設けたり遮熱シートで熱線をカットする工夫が求められます。一部アルミ箔のような銀色に見えるのが「遮熱シート」です。
現場発泡ウレタン吹付断熱
繊維系の断熱材や整形板を挿入する場合、どうしても若干の隙間があいてしまいやすく、隙間を埋めて気密を高めたり湿気の侵入を防ぐために、大きな手間が掛かります。しかもその作業は、専門業者さんではなく、多くの場合は木工事を専門とする大工さんです。
断熱材の挿入に熟練した大工の修行や技術は不要です。大工さん自体の日当や請負の坪単価から考えると、もっと単価の低い作業者でも十分です。最近は隙間なく充填出来て、専門業者が責任施工で行う『現場発泡ウレタン吹付』による断熱も増えてきました。特に天井の高い屋根部分は大工さんにとって作業性が悪く、少し離れたところから吹付をすると瞬時に膨らむウレタン断熱のほうが、作業も容易です。
広島市佐伯区のこちらの現場では、ウレタン断熱の下地処理として、屋根下地の野地板とウレタン断熱の間に『通気層』つまり、軒下から屋根の頭頂部に風が抜けるスリットのような空間をつくりました。画像のような垂木間に入れる「通気スペーサー」を使ったり「遮熱シート」や「不織布」など様々な材料で、通気層がつぶれてしまわないように下地をつくります。
断熱材施工後に、天井下地の「野縁(のぶち)」を組み、プラスターボードを張った上で、クロス張りや塗装、左官(漆喰やジョリパットなど)で仕上げます。天井野縁組の状態の画像の様子をご紹介しておきます。
セルロース系断熱材吹込み
天井断熱と同様、屋根断熱でもセルロースファイバーを採用するケースがあります。天井断熱の場合は、人工雪を撒くような感じなので断熱材自体は自然に降り積もった状態で密度は高くありません。屋根断熱の場合は、斜め勾配になった屋根の野地板と天井仕上げの隙間に断熱材を充填しなければならないため、ずれたり隙間が空かないよう、吹込む気圧を高めて高密度に充填します。
廿日市市で建築したこちらの現場では、屋根の野地板(合板)と天井下地の野縁との間に十分なスペースを空けました。アルミ蒸着の「遮熱シート」を張り、天井面には不織布を張って、この厚み分セルロースファイバーを高圧で吹込みました。
不織布を張った状態と、お引き渡しした状態を見ていただきましょう。
半円の装飾窓と勾配天井に、”現し”になった梁が特長的な空間になりました。明るさだけでなく、断熱性能も十分な快適空間です。
屋根に関しては、過去の講座で学べます。
▼次回の講座は、壁の断熱材について解説予定です。