前回まで、木造住宅の建築プロセスを学んできました。基礎のコンクリート打設まで紹介し、今回は「番外編」として鉄骨プレハブメーカーを中心に、大手ハウスメーカーの基礎をみていきます。前回の講座は以下ご確認下さい。
住宅建築の現場は、家電や自動車などの”工場内で完成品まで生産する”既製品とは異なり、基本的に敷地内にさえ入らなければ、公道からいつでも誰でも建築作業の様子を目にすることが出来ます。プレハブメーカーであっても、工場出荷後は現地に運搬して、取り付け作業・組立は衆目の中で行われるのです。
特に基礎工事は、ペットのお散歩や近所のジョギング、買い物帰りでも目にすることが出来る建築作業です。
目次
『布基礎が標準?』大手ハウスメーカーの基礎工事
鉄骨プレハブS社の基礎
業界最大手のSハウスは、ブックスタンドのようなスペーサーの上に立上がりの鉄筋を配置し、木造の梁のように長方形の縦長の断面の基礎を造っていました。年代によって形は異なるものの、外周には基礎換気口を開け点検用の人通口もあります。しかしフーチン(底盤)などは無く、開口部補強もしていないようです。
上記の写真は、広島市郊外の複数の大型団地で新築されていたS社の基礎工事。散歩していたら誰でも見ることが可能です。最近では、基礎のヘアクラックのクレーム防止のため、ポリオレフィンを基材とする養生シートを張って、強度も担保しているということです。
建物中央の土の部分は、防湿コンクリートを流し込むので、完成したらベタ基礎に見えますが、鉄筋は入っていません。上に載る構造躯体が軽量鉄骨なので、木造よりも歪みにくく、基礎部分は「面」で強度を出す必要はないという構造設計になっているのでしょう。
逆に木造よりも躯体の荷重が大きいため、立上がりの高さを優先し、鉄骨の柱が立つ位置と柱が立たない位置の基礎立上げは、かなり高さに違いが出ていました。このようにメリハリをつけることで、住宅1棟あたりの基礎工事における鉄筋量・コンクリート量が「必要最小限」に出来て、外注費を圧縮、高い収益性を実現させているのだと感じます。
鉄骨プレハブD社の基礎
戸建住宅よりもアパート建築や流通店舗の工事が多いDハウスの基礎も、Sハウスと同様の基礎です。大型建築を手掛けているからか、私が見た物件では鉄筋はSハウスよりも太い印象で、建物中央は防湿フィルム施工後、モルタルを流し込むのは他社と同じです。
S社のようなヘアークラック対策は見られず、外周りには「基礎換気口」もないため、土台となるC型チャンネルや基礎水切り部材に、外部の空気を入れ替える換気機能があるのだろうと想像されます。点検のための「人通口」はS社よりも狭く斜めに隅切りしているので、開口部の欠損を最小化する設計なのでしょう。
2×4工法Sハウスの基礎
輸入住宅とは言えないものの、北欧の国名をハウスメーカー名にしたSハウスは、米国で主流の2×4(ツーバイフォー)工法の木造住宅です。金額が高いため、それほど目にする機会はないかも知れませんが、画像はやはり広島郊外の大型団地での工事の様子。私が運営している注文住宅の地元工務店入札サービスの『住宅CMサービス広島』を利用して家を建てられている現場の数軒隣で、棟上げの足場から撮った画像が上から俯瞰した写真です。
基礎は「逆T字型」の布基礎で、フーチン(底盤)あり。ベースのコンクリート打設後に立上げ部分の型枠を組んでいたようなので、工程は二回に分けて「打継部分」も生じています。
中央部は鉄骨系プレハブ住宅と同様、鉄筋は組んでおらず土がそのままの状態です。外回りに「基礎換気口」はないので『基礎パッキン工法』で通気を確保していると考えられます。
カラフルな色の長方形の総二階が外観上の特長。独立した木製のバルコニーがアクセントになっているため、外部に独立基礎が用意されていました。小さな人通口はDハウスと同様です。
この枠組み壁工法は、2×4部材と構造用合板の組合せによる”パネル工法”なので、「面」で強度を確保する『モノコック構造』で耐震性を誇ります。しかし地盤面の布基礎は、ベタ基礎よりもかなり強度は劣り、シロアリの侵入や湿気の上昇など、別途対策が必要です。
在来木造AホームとI工務店の基礎
地域密着型の中小工務店と同じ、在来木造住宅を手掛けるローコスト住宅のAホームと高断熱住宅のI工務店は、共に『布基礎』で中央部に土が見える基礎でした。まずはAホームの現場写真です。
鉄筋を支える樹脂製の補助材が、型枠と鉄筋の間のスペーサーとしても機能し、誰が施工しても既定のかぶり厚さが確保できるようです。フーチン(底盤)と立上げのコンクリートは一体打ちで行うことで、コンクリートミキサー車やポンプ車の配車コスト等の圧縮をしていると想像されます。
基礎スラブ(中央部)は土を残して、鉄筋やコンクリートを使用しないことでもコストダウンに繋げているのでしょう。年間数千棟の着工実績があるメーカーなので経費削減効果は大きいと思われます。
続いて、今や木造住宅ではトップのI工務店の基礎配筋の写真です。
こちらもAホームと同様な治具を使い、布基礎を施工していました。当社サービス利用者の建築現場の隣で、このI工務店の社員が建築した別の物件では、ベタ基礎でスラブも鉄筋を組んでいたので、地盤強度や契約金額による基礎グレードで、布基礎かベタ基礎か分けているのかも知れません。
基礎換気口は、基礎立上げの上下中央部に開口がありました。温水による床暖房が標準なので、断熱は基礎では行わず、冬でも基礎内には外気が入り込む仕様のようです。
閑話休題基礎換気口や人通口は、基礎の連続性を断ち切り、構造的には「欠損」となる部分です。また外気を取り込むことで、夏の湿気や冬の冷気も呼び込むため、基礎内が結露したり、床や土台の木部が湿潤化しないよう、十分な換気と断熱対策が必要な部分です。
画像は上記と同じI工務店の基礎仕上がりで、施主はI工務店の現場監督(の自宅)だったので丁寧な仕事をしていました。
重量鉄骨のHハウスの基礎
化学メーカーのA社が、発泡コンクリートの外壁材販売のために重量鉄骨住宅のブランド『Hハウス』を全国展開しています。太陽熱などの暑さに対しては遮熱効果のある分厚い発泡コンクリートですが、断熱材よりもはるかに熱伝導がある材料なので、冬の寒さは構造躯体の鉄を伝わる冷気も室内に侵入して、思ったほどは暖かくない家だというクレームも耳にします。
重量鉄骨の荷重が載ることと、柱が太い鉄骨コラムなので、基礎立上げは柱位置に4本のボルトが並ぶほどの厚みのある基礎です。建物中央部で点検作業用の「人通口」は設けておらず、外周の「基礎換気口」と同じ寸法の開口部があるだけなので、給排水管のある水回りのみ、床下点検口からメンテナンスをすると考えられます。
構造躯体が鉄骨なので、木造の土台のように湿気やシロアリで傷むこともないという考えなのでしょう。とはいえ地面の土が見えていて、すでに給排水の配管もされているので、防湿コンクリートで配管を埋めることも出来ず、地面からの湿気の上昇をどう処理するのか、気になるところです。
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その他、準大手の全国ネットハウスメーカー基礎は?
複数の住宅展示場を持ち、年間数十棟しか実績がなければ、展示場を含む毎月の多大な経費は、たった数組の施主が負担しているということです。
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鉄骨系Pホーム(家電系)
他の鉄骨系プレハブメーカーとほぼ同じ「布基礎」に防湿シート。基礎の内側に断熱材を張りつけている。基礎スラブはなく人通口の補強(基礎梁)もない様子。基礎換気口は、水切り金物か建物側に設けて、独自の空気循環システムを採用。 -
鉄骨系Tホーム(自動車系)
ユニットで組まれた鉄骨躯体で、重量鉄骨の四角いフレームを重ねて並べる工法なので、中央部に鉄骨の柱が載る「独立基礎」があり。独立基礎と外周の立上がり以外は、間仕切り壁直下に基礎は不要で、中央部には立上がりがない。やはり基礎スラブのない「布基礎」で、フーチン(底盤)もほとんどない外周の立上げ(垂直)方向だけの基礎のように見える。
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鉄骨系Sホームズ(建材系⇒家電系)
軽量鉄骨系のプレハブメーカーとほぼ同じ「布基礎」で、外周に小さめの「基礎換気口」があり。点検のための「人通口」は小さく、人が通るのは厳しいくらい。中央の土の部分は、防湿シートを敷設し、上を防湿コンクリートで均す。 -
鉄骨ユニット系Sハイム(樹脂・化学系)
工場で組み立てたコンテナ大のユニット住宅を、トレーラーで現地に運び据え付ける工法。Tホームと同様、中央部はユニットの柱が重なる位置に独立基礎を配置、外周部以外の立上げは少ないため、床下点検は比較的自由に動ける。基礎換気口はなく「基礎パッキン」方式で、基礎天端に通気部材を置く。 -
木質系Mホーム
工場にて木質パネルを製造・出荷して、現地で職人さんたちが組み立てる工法。
ご多分に漏れず「布基礎」で防湿シートを敷設。人通口は、間仕切り壁の位置に基礎立上げをつくり、開口を開けている。外回りに基礎換気口の欠損はなく、黒い基礎パッキンを基礎天端に並べ、そこから床下の通気・換気を行う。 -
在来木造S林業
地元工務店が施工する基礎工事とほぼ同じで、砕石地業⇒防湿シート敷設、基礎スラブに配筋・コンクリート打設の後、立上がりの基礎型枠⇒コンクリート打ち。右の画像を見ると外周立上がり部分のフーチングの高さが低い(掘り方が浅い)ように感じる。この画像も当社サービスで建築中の敷地の隣でS林業が施工。足場の上から撮影。基礎換気口の開口はなく、基礎パッキンでの通気と考えられる。
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2×4(枠組み壁工法)Mホーム
地場工務店が造る基礎とほぼ同じ。防湿シートを敷設し、基礎スラブも鉄筋を組むが、外周のフーチン(底盤)の高さが深く、基礎に壁全体の荷重が載ることがイメージされる。左画像の赤い楕円は、型枠が木製でコンクリート打設中に膨らんだと思われ、施工精度は下請けの基礎屋さんに依存していることが予測される。