前回は新築の間取りを考える8つのポイントのうち1~3をお伝えしました。
まず第1は「敷地条件を把握しよう」でした。そして第2は「建物の配置を考えよう」、第3が「建物の外観をイメージしよう」でしたね!下の画像をクリックすると、復習することが出来ます。
今回は、建物本体について考えて行きましょう。
目次
耐震と耐久性
柱の直下率と耐力壁
震度7の地震に二度も襲われた熊本地震では、2000年以降に施工された新しい耐震基準の家でも倒壊した事例が出て専門家を驚かせました。
調査が進むにつれ、1階と2階の柱の位置(上下階の柱が重なる率を「直下率」といいます)や、耐震性能に重要な壁の位置(筋交いのある壁を「耐力壁」といいます)が上下階でずれているなど、間取りに起因する倒壊も数多く見つかりました。
1995年に発生した阪神淡路大震災を受け、一戸建住宅でも耐震基準が厳しくなり、長期優良住宅の普及で木造住宅でも構造計算を行って『耐震等級』を明確化するケースが増えました。
逆にそのことで業界側が過信し、住宅展示場のモデルハウスでも1階にほとんど柱のない大空間のLDKや、大きな吹抜けのある間取りが増えているのです。構造材も集成材やLVLといったJIS規格で高い強度の部材が一般化し、金物工法も多様化して「当社は大空間がつくれますよ!」というのが各社のウリになっています。鉄骨系プレハブ住宅よりも間取りの自由度が高いことがセールスポイントになって受注が拡大したのです。
しかし、建物の垂直荷重は柱を通じて基礎に伝わっていきます。2階の柱が屋根荷重を支え、その重みが1階の柱に伝わるのです。2階に寝室や子供部屋があれば、間仕切り壁の中に何本もの柱があり、小屋裏の梁や桁、小屋組みから屋根材、さらにソーラーパネルや雪の重みも分散して支えます。その荷重はまた1階の梁や桁を通じて頑丈につくられた基礎に伝えますが、1階に柱のない大空間があれば、梁(「横架材」といいます)だけが上階からの荷重を受けてたわみます。
身近な事例でお神輿や追い山をイメージしてみて下さい。
背中に重~い荷重が架かっているのに、さらに地震の横揺れでゆさぶられるとどうでしょう。担ぎ手で一番力の弱い人のところに一気に荷重が架かって崩れるように倒れるのではないでしょうか?さらに地震では縦揺れもあり、柱を引き抜こうという「上向きの力」さえ掛かるので、筋交いのある耐力壁は、圧縮力も引張力の双方の強い力でお神輿の上下動のような衝撃を与えます。2階の耐力壁の下に柱も耐力壁もない1階の間取りは、大きな地震による危険性が高まるのです。
床剛性とバルコニー
20帖以上の広いLDKの上に、子供部屋や寝室などがある場合、少なくとも壁の位置がずれている場合には注意しましょう。必ずしも「危ない間取り」とは言わないまでも、柱間の距離と梁の太さはプロにチェックしてもらいましょう。しかしもっと注意が必要なのが、リビング階段にして大きな吹抜けを設けたいというケースです。
大きな吹抜けがあると、そこには柱も壁もないので、垂直荷重には問題がないように思えます。しかし今度は地震や台風による強風など、「水平力に対する強度」を考えなければなりません。水平力は梁に直角に掛かるとは限らず斜めからも掛かるので、構造的には角に『火打ち梁』という部材で強化しますが、床がある場合の大引や根太、そして床下地の合板がある場合に比べて、吹抜け空間は変形しやすいのです。
もっと分かりやすく説明すると、家電製品などを買った時の「段ボール箱」をイメージして下さい。上のフタを外すと段ボールは簡単に変形します。しかしフタをしてガムテープで固定するとかなり力を掛けても変形しません。これが「水平剛性」というもので、住宅では『床剛性』と呼ばれます。
最近は2階にLDKや「キッズリビング」という広い階段ホールで子供たちが遊んだり勉強する共有スペースを希望されるケースも増えてきました。その時にバルコニーは「2階の床仕上げと段差なく」外と繋がっているようにして欲しいという要望も頂きます。バルコニーは基本的に外部空間で、雨が溜まる可能性もあるので、見た目は段差なくしても構造的には床仕上げとの高低差が必要です。
2階の床を支える梁や桁と連続性のない形で、バルコニーの床組みをつくるのは、構造的に複雑になり、防水も含めた耐久性にも影響が及ぶので、プロの助言を得ながら進めて下さい。
「張り」と「欠け」
間取りの制約事項として突如として登場するのが「家相」や「風水」です。
玄関の方角なども親から言われるというケースも良くありますが、昔から言われているのが建物の「張り」と「欠け」。建物の外周が凹凸になっている場合で、建物の角や真ん中がへこんで「凹状」になっているのが欠けと呼ばれて家相的には「凶」とされています。
逆に建物の角や中間が出っ張って「凸状」になっているのが張りと呼ばれ、方位によっては「吉」とされるケースもあります。いずれにせよ外壁の延べ面積が増え、熱損失も増えるので、建築コストやエネルギーロスを考えると凹凸のない平面的に四角い外周がコストパフォーマンスが高くなります。
家相や風水は詳しく書くとキリがないので、気になる方は専門家にご相談されるか、ネットで詳しく情報収集されることをお勧めします。
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省エネ性能と間取りの関係
外皮の延べ面積
平成25年に建物の省エネ基準が改正され、それまでの『熱損失係数』Q値から『外皮平均熱還流率』UA値へと評価方法や計算方法が変わりました。以前のQ値基準では、建物から逃げていくエネルギーを床面積で割って数値化していました。温暖化対策もあって、世界中で省エネ基準が厳しくなる中、今のUA値基準は、建物の外皮等面積(床だけじゃなく壁や屋根面積も集計)で割り、建物の省エネ性能を比較できるようになったのです。
専門的なことは判らなくても、同じ床面積なら出来るだけ真四角に近い平面プランが、同じ断熱材を使っても最も省エネの建物になり、凹凸が多く外壁の総延長が長い建物ほど、冬寒い家になるということです。中二階に蔵のような収納スペースのある家も、外壁の面積を大きくするので熱損失が大きくなります。
吹抜けのある間取り
住宅雑誌や住宅展示場でモデルハウスで大きな吹抜け空間を見ると、自分も吹抜けのある家に住みたいと思いますね。でも実際に吹抜けのある家に住んでいる友人などの話を聞くと「冬は寒いよ!」とか「2階にいてもリビングのテレビの音が筒抜けよ♪」「冬の光熱費が大変!」といった声を聞き躊躇する人も少なくありません。
住宅雑誌の室内写真は、超広角カメラで撮影されているので、とても広々とした空間に見えます。そして住宅展示場は一般の方が購入する住宅価格の3~4倍の建築費で建てられ、エアコンの室外機がずらり並んでいるような「お金を惜しまない」建物なのです。いわば「モデルハウス」は、プロのモデルに最高級の服とメーキャップを施したファッションショーを観ているのと同じで、手の届かない非日常の光景です。
なぜ吹抜けのある家が増えたかというと、洋風化が進む日本の家でも敷地に余裕があれば1階に和室を設けたいというニーズは衰えていません。将来親のどちらかが住むとか、自分たちが歳を取ったら1階だけで生活できるようにしたいと、普段はあまり使うことのない和室がつくられます。
また少子化で兄弟の数も減り、子供部屋はコンパクトになりつつあります。
だから2階の床面積は1階ほどの広さは不要となり、子ども達がリビングを通らずに自分の部屋に行ける間取りは人気がないため、リビング階段と吹抜けがセットになるというプランが住宅雑誌やモデルハウスで採用されやすいのです。ちなみに昔の住宅は吹抜けではなく2階を小さく造り、和室の上はすぐ屋根(「下屋/げや」といいます)があるという家のほうが大多数でした。このページのトップ画像が参考になるでしょう。
日射取得と日射遮蔽
この2つの言葉はかなり「専門用語」なので、詳しく知りたい方はネットで検索して下さい。ざっくりといえば「日射取得」は、冬の時期に窓から取り込む太陽熱です。冬は太陽高度が低くなりますから、南側に大きな窓を設けると、天気のいい日には部屋の奥のほうまで太陽が差し込み、窓ガラス自体が「パネルヒーター」のように部屋を暖めてくれます。この自然の熱エネルギーは寒い冬には貴重な熱源です。
「日射遮蔽」とは、逆に夏の日差しを室内に取り込まないことで、冷房効果を維持すること。西側の部屋は窓を小さくするとか押し入れや収納などを設けることで、西日の影響を抑えます。しかしせっかくの南面は大きな開口部が欲しいので、いかに太陽熱の影響を抑えるか工夫が必要です。一般的には昔の縁側のように「干渉空間」を設けたり、軒やひさしを長くして影をつくります。
最近はトリプルガラスのサッシや樹脂窓など、高性能な開口部が増えています。ガラスの種類も、熱を取り込みやすく内側からは逃げにくい「高断熱型」の冬向きのガラスと、外の暑さが伝わりにくく室内にこもった熱は逃げやすい「遮熱型」の夏向きのガラスが用意されています。Low-eという特殊金属膜を内側と外側のどのガラスに張るかの違いと、ガラスの間に入れるガスによって性能が変わります。
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家族が楽しく過ごせる平面計画
家事動線を考える
新しい家を手に入れたい理由に「家族が増えて賃貸が手狭になった」とか「今のマンションは収納が少なくストレスが溜まる」といったことと併せて、特に奥さんが「もっと効率よく家事をこなしたい!」という希望が多く、私の相談でも”家事動線と収納を充実させたい”という相談が数多く寄せられます。
間取りを考える時に、キッチンと洗面所、お風呂は出来るだけ距離が近く、リビングを通らなくても直接ドアで繋がっていたいところ。扉も半畳分のスペースが無駄になる「ドア」ではなく「引戸」にすれば、物を抱えていても移動しやすくなります。その場合「耐力壁」では基本的に引戸に出来ず、また照明のスイッチやコンセントの位置も考える必要があるので、構造に影響してきます。
玄関から「シューズクローク」兼「パントリー」(食品庫スペース)を通って直接キッチンに入れるプランも人気です。また勝手口をどこにつけるかも重要で、キッチンから勝手口を通って出るプランよりも、アイロンがけなどの家事作業も出来る「ランドリールーム」や「ユーティリティ」をつくって、洗濯物を内干しするご要望も増えてきました。あまり使わない和室の代わりに、このようなスペースを充実させると、暮らしやすい我が家になります。
家族が集まる場所
今はリビングだけが家族の集まる場所ではなくなってきました。大きなダイニングテーブルを置いて、台所で食事の支度をしているお母さんの近くで遊んだり勉強したりという家庭も増えて来ています。ご主人や子供たちも料理をするので、アイランドキッチンに小さなカウンターを設けたいというご要望もあります。
また2階の廊下を拡げ、従来だったら納戸などの収納スペースにするような階段脇に「キッズリビング」を設けるケースも増えてきました。ここで眺めのカウンターを造作し、壁面には書庫などをつくって、兄弟姉妹が勉強を教えあったり、遊んだりできるフリーのスペースです。来客や大人同士が集い、リビングでパーティや大人の話をしている時に、子供たちが個室に入らず遊べる空間です。
上のプランも家族の集まる場所を重視したプランです。
帰宅から就寝まで
主婦の家事動線と併せて考えたいのが「生活動線」。車を駐車場に停め、玄関を入って靴を脱ぎ、コートや傘、鍵などの小物をどこに置き、着替えはどこでして、家でくつろぐか・・・。雨の日や、外で汗だくになった日など、自分たちの生活であり得る様々な想定を思い浮かべて下さい。田舎から泥付きの野菜をもらって帰ってくることもあるかも知れません。
まずは毎日の繰り返しで、それぞれの家族の帰宅から就寝までをイメージしましょう。玄関に入ってすぐに「手洗いをしたい」というケースもあるでしょうし、1階にクロークを設けることで会社から帰ってすぐに着替えを済ませて洗濯物を洗濯機に投函、2階の居室やWICに行くことなくリビングでくつろぎたいというニーズも良くあります。
また朝起きてからの行動もイメージしてみましょう。トイレの位置や階段を下りて洗面や朝食、朝刊のチェックやテレビの視聴から、着替えて外出するまで、同じ家族内でも行動パターンが異なることさえあります。冬の寒い朝、パジャマのままで新聞を取りに行くのに、ポストの位置も重要です。
建物外部の動線は、次の『7.機能的なプランニング』で詳しく考えていきますね!