いよいよ今回から仕上げ段階に入ります。
外壁の仕上げが出来ると、足場も取れて住宅らしくなります。
今回は、外壁仕上げの中でも新築で7割程度の住宅で採用されている『窯業系サイディング』について、施工をみていきます。窯業系サイディングは、大分類として『湿式工法』としてくくられ、最近では『通気工法』と呼ばれる通気層を設けて金具留めする『引っ掛け工法』が主流です。いくつも工法があって混乱しますが、下地の造り方により工法が分かれます。下地の詳しい解説は以下でご確認下さい。
窯業系サイディングは、セメントを主材料として繊維質原料と混和材を混ぜ、『窯』で高温処理されて板状に加工された外装材です。概ね15ミリ~20ミリ程度と薄く軽い材料ですが、耐震性や耐火性能に優れ、デザインのバリエーションも多くて安価なので、平成以降の住宅では数多く使われています。
目次
無塗装サイディングボード
無塗装の窯業系サイディングは、正確にいえば「仕上」ではなく「塗装下地」ですが、乾式工法の外装材として比較的定番のサイディングです。
一般的に使われている石目調や木目調、タイル調などのデザインが施されている化粧サイディングは、ボードのジョイント部分に「目地」が入り、コーキング(シリコン)打ちが欠かせません。目地を好まない方やコーキングの劣化が気になる方、外壁に輸入住宅のような装飾(窓枠や柱周りのケーシング等)を施したい場合には、このような無地のサイディングに塗装仕上げ(ジョリパットやベルアートなど左官系吹き付け材含む)が一般的です。
ジョイント目地処理
サイディング同士の接合部分は、通常『相じゃくり(合いじゃくり)』と呼ばれる”段違い加工された端部”を重ねて、隙間をつくらず振動や収縮を吸収します。セメント系なので、木材や金属ほど伸び縮みしないため、目地部分はパテをあてて目地が目立たないよう肉付けし、サンドペーパーで平滑に塗装下地をつくります。
画像はバルコニーの手摺り壁を無地サイディング(通気工法)で下地をつくっている画像と、接合部の目地および釘跡にパテ埋めした写真です。漆喰塗やそとん壁のような厚みのある左官仕上は出来ませんが、石目調の吹付や左官風の櫛引き仕上、鏝ムラ仕上など、粘着性の高いジョリパットなどの材料で、外壁をオリジナルな表情につくることが可能です。
吹付塗装仕上げ
最もポピュラーで安価な仕上げは、リシン吹付けと呼ばれる”セメントに細骨材と顔料を混ぜ”て、エアーガン(スプレー)で吹付ける仕上げ。昔はアクリル系が主力でしたが、紫外線や振動による劣化で割れやすく、少し伸び縮みする『弾性リシン』も普及してきました。そのほか『スタッコ仕上げ』や『リシン掻き落とし』『ローラー仕上げ』など、多様な質感の仕上げが増えています。
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化粧窯業系サイディング(塗装済み商品)
最も普及している窯業系サイディングは、工場で塗装仕上げされた製品です。単に柄がついているだけでなく、タイル調や木目調など質感も本物に近づけるため、表面に凹凸があり自然光によって陰影が出るような製品が人気です。下記の画像のように厚みがあるほど高級感があり、割高となります。
塗装済みの窯業系サイディングは、デザインパネル方式になっており、多様なデザインから選べます。長尺の1枚もののパネルなので、施工性も良く熟練の技術が不要で、重量も軽い外装材です。
外装タイルとの比較上記の画像は、仕上がってしまえば1枚1枚細いタイルを貼っていったような質感があります。断面の切り口を見れば、繊維質の素材を”型に合わせて高温圧縮された材料”だと分かりますが、表面の塗装仕上げも精緻で、目地を埋めてしまえば一般の施主ではサイディングとは気づかないでしょう。
右の画像は、無地のサイディングにタイル用のモルタル系接着剤を塗り、その上にタイル職人が本物のタイルを1枚1枚貼っている現場。外壁面の一部だけデザイン的に使いたい場合、本物のほうが将来に亘り劣化が少なく、メンテナンスコストが抑えられます。
引っ掛け工法(金具留め)
窯業系サイディングで最もポピュラーな施工方法は、通気層を設けて『金具留め』をする施工法です。
画像の通り、専用のアタッチメント(留め金具)があり、透湿防水シートとサイディングの間に15ミリ程度、基礎水切りから入ってきた空気が小屋裏まで抜ける『通気層』があります。サイディングの厚みは概ね15ミリから20ミリ程度です。バルコニー手摺りから見下ろした写真で躯体とサイディングの間に空洞があることが良く分かります。サイディング自体が中空になっている製品もあります。
機能性商品
窯業系サイディングが多用されるのは、製品自体の耐火性能と材料の取り扱い易さ(軽さ含む)、そして製品の安定性です。しかし、製品自体の耐久性や防塵性・防水性は決して高くなく、画像のような状態を避けるためにはメンテナンスは必須です。
そこで最近発売されている窯業系サイディングは、防塵性や耐久性に関して、様々な機能を付加した製品を発売しています。ちなみに現在の窯業系サイディングメーカーは独立系の『ニチハ』と、旧パナソニック電工と屋根材のカラーベスト(コロニアル屋根)で有名なクボタの外装事業部が一緒になった『ケイミュー(クボタ松下電工外装)』、そしてLIXIL(トステム)系の『旭トステム外装』の3社がシェアを分けています。
光セラ(光触媒)/ケイミュー
ケイミューが発売している光触媒によるセルフクリーニング効果を謳う『光セラ』は、高い防塵性能が特長です。光触媒が汚れを分解し、雨によって汚れが流れていくという説明ですが、基本的に外部で太陽光により有害物質を分解、雨の日に流れ落ちるので常に外装をきれいに保つことが出来るそうです。
10年以上経過観察した事例はまだ少ないため実際にどの程度の効果があるのかは不明です。TOTOが車の水垢防止の『ハイドロテクト』という技術を洗車場やガソリンスタンドで大々的にPRしていたのが「今は昔」の感があります。
画像は、有名プレハブメーカーの外壁の経年劣化と汚れです。大手ハウスメーカー自慢のオリジナル外装材ですが、大手であってもメンテナンスを怠るとこのような状態に陥ります。
マイクロガード/ニチハ
ニチハが発売している外壁表面に薄い水分子膜をつくって汚れを浮かせる『マイクロガード』は、光触媒とは異なり、太陽光がなく日射が望めない北側の壁や日陰でも効果が持続するというのが謳い文句。塗装面にプラチナコートを吹付けた上にマイクロガードをすれば、さらに超耐候性のある外装材になると自信たっぷりです。
こちらも10年経過した建物自体が少なく、私自身は実際の効果を確かめていません。
下記画像も、有名メーカーによる2×4工法の家で、下地の間柱(スタッド)が分かる汚れです。メーカーオリジナルの外装材ですが、外からの汚れの付着ではなく壁内部の結露により生じた現象だと思われます。
セルフッ素コート/旭トステム外装
旭トステム外装の窯業系サイディング「AT-WALL」のオプションとして、『フッ素コート』処理された外壁材。最長30年間の塗膜保証もあり、シーリングレス工法の『ガーディナル』シリーズも高耐久が謳い文句です。ガーディナルは1999年から実績があるとサイトで強調されていました。
画像は重量鉄骨系の有名メーカー。厚いALC外装材ですがやはり汚れは避けられません。バルコニーは恐らく建物とは違う施工者による後付けの木製で、窯業系サイディングが張られています。
コーキング(シーリング)
引っ掛け工法による金具留めは、地震による層間変形をある程度吸収し、外壁材の割れを最小化します。そのため材料同士のジョイント部分には、多少の遊び(隙間)と緩衝材となる柔らかい材料を挟むことが求められます。
画像のように、材料同士だけでなくサッシや軒天との取り合い部分も遊びを持たせ、「ガスケット」などのシール材(パッキン)を入れて硬い材料同士がぶつからないように緩衝材を挿入します。このシール材や金属製のジョイナーによって、目地の表面仕上げとなるコーキング(ゴムシール)が一定量で隙間なく埋めることが可能となります。
シリコンは、紙のテープでサイディングが汚れないように養生を行い、外壁の色と同系色の専用コーキングをガンで充填します。公園の遊具やベンチなどを見ても分かる通り、新品時には弾力性があるシリコンコーキングも、紫外線によって劣化し、次第に弾力性を失うため、5~7年程度では劣化状況の確認が必要です。
メンテナンス
窯業系サイディングの基材自体は、防水性が高くないため、メーカー保証を確認しながら防水塗膜で保護するなど適切なメンテナンスが欠かせません。施主にもはっきり分かるのは、外壁を手で触ってチョークのような白い粉が手に付く『チョーキング』という現象が発生したタイミング。すでにかなり外壁の劣化が進んでいる状況です。
▼次回は、その他の乾式工法の外装仕上げを解説する予定です。