前回まで、注文住宅の建築プロセスを工事工程ごとに解説してきました。いよいよ今年10月には消費税も8%から10%に上がることが決まっており、金額の大きな住宅取得では、家を買ったほうがお得なのか、それとも賃貸のままのほうがいいのか、大いに迷うところでしょう。
そこで今回の講座では、”持ち家派”と”賃貸住宅派”のどちらにとっても、自分たちの将来を考えた住まいのあり方を意思決定するための「判断材料」を提供したいと思います。前回は、中古住宅のリフォームか?建て替えか?という比較をしましたので、こちらも参考にご覧下さい。
目次
持ち家の構図
現在50歳代以上で、家族を持っている人のほとんどは、通勤に時間が掛かっても、自宅を持つことがステータスであり、最低限“中流の生活が出来ている”という実感が、生活の安心感に繋がっていました。土地神話やバブル経済も経験し、住宅取得は「個人の財産の形成」でもあって、ローンが終わる頃には子供たちの養育費も無くなり、生活も楽になると考えて住宅ローンを組んだのです。しかし現実は・・・。
持ち家とは
経済的な比較をすれば、戸建住宅であれ分譲マンションであれ、持ち家をキャッシュで払える人はほとんどいないから、住宅ローンという長期の借り入れを月々返済していく金額が、ほぼ”毎月の住居費負担”ということです。賃貸住宅との比較対象は「月々の家賃と住宅ローンがそれほど変わらないのだったら、買ったほうがお得では?」という考え方になる人が多数派でしょう。家賃支払いはオーナーの資産形成にしかならないのです。
現在の住宅ローンは、毎月の返済額をこれまで負担していた家賃と比べるから、出来るだけ長期で月々の負担額を抑える「35年ローン」が一般的です。ということは、持ち家派は“その建物に住む権利を最長35年間の分割で支払う”というのが住宅ローンのトータルの返済金額となります。これは建売りでも分譲マンションでも、注文住宅や建替えであっても、構図としては一緒です。
もちろん、賃貸住宅では発生しない『固定資産税』や、将来的に修繕費用やリフォーム費用などの支払いがあるとしても、住宅ローンの返済が終われば、月額負担は賃貸の家賃に比べてわずかです。人生100年時代という”長寿命化”と、生産労働人口が減っていく”年金の財源不足”といった未来を考えると、若くて元気に働けるうちに、将来収入が不安定になっても安心して住み続けられる住まいを確保しておこうというのが持ち家派の発想です。
持ち家のメリット
- 生活音など隣近所にそれほど気をつかわなくていい。(プライバシーを守りやすい)
- 生活の自由度が高く、家族も喜ぶ。(リフォームなども自由)
- 売らない限り、引っ越しをしなくていい。
- ローンを支払い終えたら、住居費負担が小さくて済む。
- 自宅を持っているというステータス感。
持ち家のデメリット
- 支払いが長期に亘り、収入が不安定になっても負担は下げられない。
- 近隣との関係が悪化しても、容易に転居できない。
- 移転のため途中で売却したら、ほぼ「売却損」が発生。(売却金額よりローン残債が多い)
- 自然災害などでの被害は、基本的に自己責任・自己負担。(火災保険等でカバー)
- 家族構成の変化で、将来無駄な部屋が出やすい。(柔軟性が少ない)
- 家を継ぐ家族がいないと、将来お荷物になる可能性がある。(相続発生時等)
スポンサーリンク
賃貸住宅の構図
そんな親たちの状況を見て「住宅取得をしてローン返済に縛られるよりも、賃貸暮らしで家賃も住む場所も自分達で選べる自由を選択したほうが、自分らしく生きられるのでは?」という人たちが増えてきました。非正規雇用が増え、シェアリングエコノミーの発達もあって、「自家用車も不要」だという”所有欲のない”人たちが増えているのです。
賃貸住宅の家賃設定
賃貸暮らしは、収入や家族構成によって、自由に部屋を選べるという印象があります。安い物件もあるので、負担が少ないように感じますが、現実には、賃貸経営は10年程度で建設投資が回収できるような利回りで家賃設定をされるから、自分たちが住む賃貸の部屋を「10年間で分割支払い」しているのと変わりません。
投資が回収されたら家賃が安くなることはなく、20年間住めば2倍の支払いで、その後も支払いは続きます。一方、自分たちが住む家を35年分割で支払えば、自分たちのものになるのが持ち家です。3倍以上の長期になるものの、裏返せば“住居費が同程度”だとすれば、賃貸の家賃は「家主さんに3倍程度のお金を払っている」ということに他なりません。
一生自分のものにならないばかりか、持ち家の同級生が住宅ローンの返済が終わる頃、高齢者に近づいた入居者を歓迎する賃貸オーナーは限られます。例え一定の経済力があっても避けられやすく、収入が減っていたら物件は選べないから若い頃にイメージした自由はないのです。高齢者施設に入るのも一定の資産が必要だから、賃貸暮らしはその覚悟と蓄えは欠かせません。
賃貸住宅のメリット
- 住む場所、負担する家賃の自由度が高い。
- 比較的利便性の高い地域を選ぶことが出来る。(持ち家では経済的に厳しい)
- 設備機器の故障や自然災害等の損傷も、負担する必要がない。
- 近所づきあいの煩わしさはない。(自治会・町内会等の役は避けられる)
- 相対的に経済的負担は少なくて済む。
賃貸住宅のデメリット
- 間取りの自由度は少ない。
- 相対的に部屋が狭く、明るさ等も期待できない。
- 音・臭いなどお隣の生活が双方で筒抜け。(近隣トラブルになりやすい)
- 収納が少なく、モノがあふれてしまう。
- 家賃を払い続けても、資産として何も残らない。(掛け捨ての保険と同じ)
- 高齢者やペット同居などでは、入居制限や物件選択が限定される。
- 相対的に断熱性能が悪く、暑さや寒さ、結露などに悩まされる。
スポンサーリンク
まとめ
現代の日本では、すでに800万戸を超える住宅が余っている状態で、今後人口減少に伴う新築着工減や優良賃貸物件の減少(アパート投資の抑制)が明らかになってきています。加えて自然災害の増加や甚大化、中長期的な地価の下落傾向などを考えたうえで、不動産を所有することに「将来のリスク回避」や「他の選択肢よりも経済合理性がある」かどうか、それぞれ個人の価値観や将来展望で変わってきます。
さらに工事現場の熟練職人の不足や、建築着工数の減少で、1軒当たりの建築単価は上昇していく確率が高いと考えます。だから”新築は相対的に割高”となって、中長期的には住宅の資産価値と住宅ローンの残債が逆転する『含み損』を抱えます。であれば、現段階では築浅で優良の中古物件が、最も経済合理性があるとも言えそうです。
▼以前、建築工事の見積のことを詳しく解説したページがあるのでご確認下さい。
持ち家か賃貸か以外の選択肢「持ち家」が”土地も建物も自らが所有”する形態で「賃貸」が”土地も建物も大家さん(地主)の所有”だとしたら、その中間である”土地は所有せず建物だけ所有する”という形態も、シェアリングエコノミーの時代に、これから有望な選択肢です。
このような所有形態は日本でも古くからありますが、あまりにも借り手(入居者)側の権利が強過ぎて、永遠に土地が地主に戻らないといった事例が相次ぎ、土地神話が続いた日本では、法人相手以外に土地を貸す地主はほとんどいなくなりました。しかし日本と同様な島国で、保守的な地主の多い英国では、地主が自らのお金を出すことなく、維持管理の手間も不要な「土地活用方法」として、100年以上多くの成功事例があるのです。英語で『リースホールド』(日本語では「定期借地権付き住宅」)と呼ばれる住まいの所有方法です。
日本の高級住宅街として有名な世田谷区の田園調布の開発で、大正から昭和のはじめにかけて世界中の優れた住宅地を視察した『田園都市株式会社』の渋沢秀雄氏(明治の実業家、渋沢栄一氏の長男)が参考にした英国ロンドン郊外の住宅地『レッチワース』は、99年間のリースホールドが一循環し、今でも100年前の街並みが現在の不動産価格で取引されています。「ガーデンシティ」という名称で世界中に知られている住宅地です。
現在の「シェアリングエコノミー」の時代が、100年前から続くリースホールドという住宅供給方式に、日本でもマッチし始めてきました。以前、私が書いたコラム『シェアリングエコノミーの衝撃』で、もう少し詳しく書いています。