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大震災でも壊れない木造一戸建ての耐震性と安全性【若本修治の住宅取得講座ー14】

そろそろ自分たちの家を持ちたいと考え始め、住宅展示場や住宅雑誌で情報を集めると、必ず「当社の工法は地震に強い耐震構法です!」といった耐震強度を謳うメーカーや営業担当者と出会います。今住んでいる家の不満や不安が「耐震性能」にあるのだったら、優先順位も『地震に強い家』になるでしょうが、各社の営業攻勢によってそれまで気にも留めていなかった『耐震性』や『省エネ性』が、急に家づくりの中心課題になってしまう方も少なくありません。

今回の記事では、各社から話を聞けば聞くほど混乱し、じゃあ「実際自分たちが家を建てる時に、何を注意すればいいの?」と、”核心”だけ知りたい人向けに、耐震性を中心とした一戸建て住宅の安全性について解説していきたいと思います。

 木造住宅の耐震性の重要ポイント

Wakamoto
RC造や鉄骨造、2×4工法など、様々な工法の違いによる耐震強度はネット上でたくさんの解説があります。また「耐震」と「制振」「免震」の違いもここではあえて解説せず、最も戸数が多く不安もある木造住宅についてまとめました。

世界有数の地震国である日本では、大きな震災があるたびに耐震基準構造計算などが見直され、今や工法による耐震性能の差はほぼなくなりました。工法の差よりも、住宅性能評価制度に基づく『耐震等級』で1~3のどの強度を選ぶかで、建物の耐震強度の差が出ると考えたほうがいいという時代です。

ちなみに『耐震等級-1』は、阪神淡路大震災クラス(数百年に一度)の巨大地震でも建物が倒壊しないレベルの強度が基準となっています。あくまで「震度7近くでも倒壊しない」というだけで、震度6くらいでも「損傷」はあるとお考え下さい。

地震保険で直せば住めるレベルの損傷で済むから、地震による建物倒壊で圧死する人が出ないような基準が建築基準法で定められ『耐震等級-1』とされています。その強度よりも計算上1.25倍の強さを『耐震等級ー2』そして1.5倍の強度の建物が『耐震等級ー3』と定めています。

では、あなたがお願いしようとしている住宅会社、ハウスメーカーが「当社は『耐震等級ー2』以上の建物が標準仕様なので安心です!」と説明されたからといって、それが本当に安心かどうかは商談の段階では分からないから厄介です。

柱の直下率を確認しよう!

下の画像は、私がプランの相談を受けた時に、お客さんが持参された他社の間取りです。
私たちが思ってもみないような斬新なプランを頂いたので、参考にしてもらえますか?」と言われ、1階LDKの広さやインナーテラスが魅力的だと説明を受けました。見た瞬間に「この間取りだと巨大地震ですぐに倒壊する」と直感的に感じたプランです。

相談者がスマホで持参した間取り。主な「通り芯」を赤いラインで上下階結び、2階の主要な柱を青い四角で示して、1階に赤い四角でプロットすると、直下に柱がないことが分かる。

図面をスマホで撮影したプランだったので、画像がゆがんでいますが、2階の柱位置の主要な「通り芯」を線引きし、1階のプランと重ねてみました。部屋の角や部屋の出入り口など、2階の柱位置をブルーの四角で囲み、1階プランに重ねて四角を赤にしてみると、1階と2階の柱位置が全くずれていることが分かると思います。

建築知識のない一般の施主は、このプランを見ただけでは気づきませんが、このように加工してみると一目瞭然。加工方法さえ分かれば、素人でも確かめることが可能なのがこの『柱の直下率』です。

柱に墨付けされた通り芯の位置番号。

元々大工さんたちは、この「通り芯」から柱の位置を決め、間取りをつくっていました。通り芯は、「数字の番号」と「いろはにほへと」の組合せで、一番手前の角の柱が『いの一番』です。京都の住所が住居表示ではなく「通り」と「筋」で分かるのと同じです。

今は、プランを「通り芯」から描き始めるのではなく、いきなり間取りソフトやCADで描くから、上下の柱の位置に関係なく部屋の配置が可能となりました。まったく建築の勉強をしていない営業マンや、建築学科を卒業したばかりで実務経験のない設計の新人が、忙しい先輩の建築士に代わって、間取りをつくることが出来るのです。

上記のプランは年間200棟以上の注文住宅を手掛けている、TVコマーシャルを放映している住宅会社でしたし、全国で年間数千棟の供給実績がある「カンナ社長」で有名なハウスメーカーのプランも、同様に危ない間取りで契約を迫っていました。

耐力壁の配置をみよう!

家づくりをするまでは聞くことのない建築の専門用語。その中でも耐震性能で最も重要なキーワードが『耐力壁(たいりょくへき)』です。一戸建て住宅の耐震性能は”耐力壁の配置にある”といってもいいくらい、地震や台風などの横揺れに建物が変形しないための重要な壁です。木造では柱間に斜めの構造材『筋交い(すじかい)』が入っているのですぐに分かります。

上の画像は、玄関入口近くに配置した耐力壁の構造体です。軽量鉄骨造でも「ブレース」と呼ばれる同様の斜めの鋼材が入っていますが、このような耐力壁が、建物の外周だけでなく、家の中心部の間仕切り壁にも適切に配置されていることで、建物にかかる横方向の荷重による変形に耐えることが可能となります。

もっと分かりやすく説明すると、住宅会社から出された平面プランを四分割して、それぞれの区画ごとにバランス良く「上下・左右」に耐力壁が配置されているか、そして建物中央部にも複数の耐力壁が配置されているか、確認して下さい。営業段階の間取りプランでは、正確な耐力壁の位置は不明かも知れませんが、引込みの引戸がある壁を除いて、窓や開口部のない91cm以上の黒塗りの壁を外周以外で色塗りしてみると見当がつくでしょう。

冒頭の「柱の直下率」を確認したプランでは、1階の中央部分にほとんど耐力壁がないことも分かります。
1階に耐力壁が少ないということは、より水平移動が大きく、屋根荷重も支えて家具などもある2階が地震に揺さぶられたら、どのようになるか、建築知識がない素人でも想像がつくのではないでしょうか?

筋交いは図面上「▼」で示され、壁の両側に記号があれば「タスキ掛け(X字)」のダブル筋交いとなり、壁の片方にしか表示がない場合は、右斜めか左斜めだけの「片筋交い」です。ダブル筋交いのほうが強いものの、変形に耐えるため大きな「引き抜き力」が掛かり、ホールダウン金物というアンカーが必要となります。

壁倍率とバランス

お祭りでお神輿を担いだり、体育祭で騎馬戦をした時や胴上げなどをイメージすると、周りを屈強な担ぎ手が支えていても、一部に力が弱い担ぎ手がいてちょっとバランスを崩せば、一気に弱い部分に荷重が集中して崩壊するという経験やイメージが浮かびます。戸建て住宅も同様に、いくら高い『壁倍率』を誇って外周を固めても、大きな地震が来ると弱いところに一気に荷重が集中するのです。

柱の受け持つ荷重は「垂直荷重」で、重さを支えます。
耐力壁が受け持つ荷重は「水平荷重」で、壁の横への変形に耐えると説明してきました。1階は広~いリビングが希望でも、ある程度の壁を設けて1階と2階の柱の位置が6割程度重なっていたら安心なような気がします。しかし実際には、耐力壁で建物を固めるほど、基礎や土台から建物を引き抜こうとする「上向きの力」建物がよじれる「回転力」も掛かるのです。体験的には急ブレーキで前に倒れそうになる『慣性の法則』が建物にも掛かります。

大きな地震でテレビが飛んで来たり、冷蔵庫が動き、家具が倒れてくるのも、慣性の法則です。昔の日本の家のように、束石などの石の上に土台や束を置くだけで、太い柱や梁、重い瓦で上から押さえていただけだったら、大きな地震でも冷蔵庫と同様に、位置がずれるだけで済んでいました。台風や竜巻でも同様です。

しかし今の住宅建築は、コンクリートの基礎に土台を緊結する「アンカー」で固定します。横荷重も耐力壁で固めると、その場所には大きな慣性の法則が働き、柱を引き抜く上方向の力が掛かるため『ホールダウンアンカー』という大きな金物と、筋交いプレートと呼ばれる平金物で固定されます。1階は直接基礎に埋め込むホールダウン金物で固定されますが、2階の筋交い(=耐力壁)がある柱位置が実は問題になるのです。

上記の画像は、アメリカ西海岸で建築中の住宅を視察した時の2階の写真です。米国では2×4工法(枠組み壁工法)で、構造用合板を外周に張るため、筋交いの耐力壁のように、特定個所に荷重が集中することはなく、力が分散する『モノコック構造』です。しかし日本と同様、巨大地震がある西海岸の建物は、日本以上に耐震性能に配慮しているようです。画像左端の外周部と同様の大きさの1・2階を貫通する金物が、中央部分の間仕切り壁にも、枠材をサンドイッチする形でダブルで施工されていました。

このように、2階に引き抜き力が掛かる耐力壁には、セットで1階にも耐力壁がない場合、柱が載った梁や桁に大きな変形の応力が掛かります。この現象で、熊本地震で『耐震等級ー2』の建物が倒壊したようです。だから、現実には構造計算もなく、壁量のバランスも考えない『耐震等級ー2』では、安全で建物倒壊しないとは言い切れないのです。

床剛性もチェックしよう!

この『床剛性』という言葉も聞きなれない専門用語です。
柱や壁は、主に垂直(縦)方向の力で変形しないように保ちますが、水平方向にも変形する力が掛かるため、水平剛性を高めることも重要です。一般的には床剛性と呼ばれますが、実際には筋交いのような斜め材は『火打梁』と呼ばれるコーナーに配置される小さな構造材だけといっていいほど、水平剛性はあまり考慮されないで日本の住宅は建てられました。

下の画像は、大手ハウスメーカー数社でプランを検討していた相談者が持参したプランです。鉄骨系のプレハブメーカーは、工場で製造したユニットをトレーラーで現場に運搬するから耐震性能は安心ながら、プランが面白みに欠けるため、自由度の高いハウスメーカーで大きな吹抜けのあるちょっとオシャレなプランを作成してもらっていました。

このプランを見ると、いかに床剛性が大事だということが分かります。

あえて「柱の直下率」は示しませんが、吹抜け周辺の2階廊下や書斎、各居室の柱の下には、屋根荷重まで載っている2階の柱を受ける支えはありません。中庭に面してシースルーのカッコイイ階段があり、一面ガラス張りだということも分かりますが、ここは「胴差(どうさし)」と呼ばれる梁と同様な”横架材”1本で繋がれるのだと想像されます。

半ば建物は南側と北側の2つに分かれ、横架材と廊下で繋いでいるとイメージすると、ここに巨大地震が襲い建物を揺らすと、吹抜け部分が大きく変形するということが容易に想像つきます。この吹抜けが床だったら、それほど変形しないこともイメージできるでしょう。これが『床剛性』です。

もっとイメージしやすいように説明すると、大きな家電製品を買った時の段ボール箱が分かりやすいでしょう。段ボール自体が『モノコック構造』で、荷重を壁で受ける「2×4工法」と同様に”面で力を分散”します。段ボール自体の1枚の強度は弱くても六面体になることで強度が高まるのです。

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逆にいえば、段ボールも上下(=水平面)にフタをしてガムテープで固定するから形が崩れないのであって、建物も床剛性が低ければ、強い荷重で建物が変形してしまうのです。サッカーボールなども同様ですね!

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壊れた理由で安全性を考えよう

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実際に2016年4月に発生した熊本地震で、耐震等級ー2の建物が倒壊し、大手ハウスメーカーが建てた軽量鉄骨のプレハブ住宅も2棟倒壊が確認されています。大手プレハブメーカーは、テレビや新聞等のマスメディアの大スポンサー(広告主)なので、都合の悪い情報は社会問題にならない限り報道されませんが、なぜ倒壊したのか考えることが予防策に繋がります。

震災発生3か月後に、被害の大きかった益城町から西原村に向かう途中で撮影した風景。

16万棟を超える住宅被害を出した熊本地震は、震災後の熊本県の調査結果で建物全壊が8,651棟半壊が32,478棟でした。しかし一方で、建物倒壊が直接原因となる圧死などの死亡者は37人で、2014年に広島市郊外を襲ったゲリラ豪雨による大規模土砂災害の死者数(74名)の半数です。

亡くなった37人の方々が住んでいた家屋やアパートの数は34棟。そのうち建築時期が特定できた25棟の建物で、旧耐震基準から建築基準法が改められた昭和56年6月以降(震災時に築35年)に建てられた建物はわずか2棟。人命を失った建物は、そのほとんどが旧耐震基準の老朽化した建物だったことが分かります。

築15年以上の建物は、すべて旧耐震基準だった『阪神淡路大震災』では、建物倒壊による圧死も多かったものの、それ以上に数時間後に発生した火災による死者で負傷者を助けられなかったことも被害を拡大させました。

また東日本大震災も、地震による建物倒壊の犠牲者は50人にも満たず、その後発生した津波による死者・行方不明者が圧倒的な数でした。震災の建物倒壊が直接の要因となる犠牲者は減少しています。

つまり、熊本地震のような震度7クラスの巨大地震が、2日後にまた繰り返された結果で犠牲者を増やしたものの、1981年以降の「新耐震基準」や、2000年の『住宅品質確保促進法(通称:品確法)』のタイミングで新たな告示がされた「2000年基準」では、地震倒壊による犠牲者は極めて少ないということです。

これから新築を建てる方は、前出の「柱の直下率」や「耐力壁のバランス」等がでたらめでない限り、地震で命の危険にさらされることはまずないと考えてもいいでしょう。そうなれば、将来予測できない大きな地震に対して、どこまで耐震性能や建物損傷の予防や復旧の保険・保証に費用を投じるかということです。

耐震等級の基準は、実は『地域地震係数』と呼ばれる補正によって、熊本県や福岡県などは巨大地震が発生しにくいとされています。熊本の補正値は「0.9」なので、1.5倍の強度(耐震等級-3)でも実際は1.35倍なのです。

頭が重い(重心が高い)建物

熊本地震で衝撃的だった映像の一つに、歴史ある『阿蘇神社』の楼門の倒壊がありました。あれほど太い木材を使い、腕のいい宮大工が手抜きすることなく、長い歴史に耐えてきた建物です。私自身とても気になったので、震災から約二週間後の2016年5月2日に現地を訪れてみました。さぞかし周辺の住宅も倒壊や大破していて、参道の道路も地割れや隆起で通れないかも知れないと思いながら現地に到着してビックリです。

阿蘇神社の駐車場や、その周辺の建物はほとんど無傷で、境内脇の老朽化した家屋や古いブロック塀さえ被害が感じられないのです。そのすぐ向こうで、阿蘇神社の楼門や拝殿の屋根が折り重なって倒壊しているのが見えたのです。以下当時の駐車場周辺の写真を掲載します。

阿蘇へのアクセスは、大分県日田市から熊本県小国町の黒川温泉に宿泊し、やまなみハイウェーから阿蘇のカルデラに降りて行きました。途中、がけ崩れによる通行止めや、屋根瓦の落下によるブルーシートを架けた民家などは目にしたものの、このエリアでは大破や倒壊した建物はほぼない状態です。

この状況を見ると、倒壊の原因は”建物自体の荷重”と”屋根が大きく重かった”ために重心が高く、横揺れに弱い構造だった可能性が高いと言えます。現地で社殿復旧の奉賛を行いましたが、震災前の楼門の写真を見ると、そのことが改めて感じさせられました。

戸建住宅においては、阿蘇神社の倒壊は「特殊な建物の事例」です。しかし、ゼロ・エネルギー住宅(ZEH)普及による『ソーラーパネル搭載』や、メンテナンス性を重視した「瓦屋根の採用」そして、気候変動による「豪雪の荷重」など、屋根に大きな荷重が載る一戸建ても少なくありません。

コスト優先であれば、カラーベストアスファルトシングルガルバリウム鋼板などの”軽い屋根材”を使用します。また屋根荷重が大きいことを承知であれば、やはり二階建て以下の木造住宅(4号建築物)でも、構造設計事務所にて構造計算をしてもらい、計算に基づく壁量や接合金物の選定が不可欠です。

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構造計算の費用は木造戸建ての場合で20~30万円程度でしょう。地震保険に入るよりも安心で経済的かも知れません。

地盤に起因する倒壊

震災から3か月後の7月に、前回訪問できなかった益城町の現状確認に出掛けました。阿蘇から熊本市や被害の大きかった益城町への道路は、阿蘇大橋の崩落によりう回路を通って行くしか方法がありません。やはり途中ブルーシートを架けた震災でダメージを受けた家は点在しているものの、益城町の交差点に入ってから景色が一変、倒壊家屋があちこちに無残な姿を晒したままでした。

私は事前に業界専門紙『日経ホームビルダー(日経BP社)』の熊本地震特集を精読し、震度7の前震(4月14日)と本震(4月16日)の2日間で、外観の被災状況の変化を分析した記事から、GoogleEarthで場所を予測して現地に向かいました。その記事は、同じ自治会エリアの57棟の建物の築年数や前震での建物被害、本震後に倒壊した建物などを図表で表したもの。不思議なことに、建物の築年数の分布よりも、限定的なエリアで新しい建物も倒壊し、被害が集中していたのです。

私は「場所によって建物の損傷に差が出るのは、もしかしたら、建物の老朽化や耐震性よりも、地盤に起因する可能性が高い」という仮説を立てて、実際に現地に足を延ばしてみました。

下記の画像は、同じ町内会ながら、外観からはほとんど大きな被害が確かめられなかった街路に立ち、駐車場の隙間から築10年程度の住宅も含めてほとんどの建物が倒壊したお隣の街区(50mも離れていないエリア)を撮った写真。手前の建物も決して新しくない昭和の建物ですが、古いブロック塀も損傷を受けておらず、その向こうの傾いた建物との対比は、同じ震度7の地震が襲ったエリアとは思えないほど、明暗が分かれていました。

その後のマスコミ報道などを見ていると、阿蘇の噴火によるシラス台地の上に、豊富な水源からの地下水がこの周辺の大地の下を流れているということで、木造の建物の固有周期(建物の揺れやすさ)と地震動が重なり、一定の周期で振幅幅が大きくなった可能性があるという解説もありました。背の低い木造の戸建住宅は「短周期」であり、地面の揺れと周期が一致すれば共振(強振)するというのです。

仮に地盤が建物への損傷の影響を強めたとしたら、土台から上にあたる構造材の強度や接合金物の取り付け方法の基準を高め、耐震性をアップさせるための費用を割り増しするよりも、むしろ簡易な地盤調査(スウェーデン式サウンディング試験)を改めて、もっとボーリング調査などの詳細な土質調査を行ったうえで、地盤改良と基礎設計を高めたほうが安全性が増すということになります。

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実際に、雪道でのスリップ事故で、車のボディの強度や安全性能(エアバック等の装備品)に多額な費用を掛けて備えるより、凍結面でも確実に「止まる」「曲がる」ようなスタッドレスタイヤだけ取り換えれば、少ないコストで未然に事故を防げるという論理と同様です。

粘り強さのない建物

スポーツの世界で一流となる選手は『体幹トレーニングを行う』と言われます。
つまり体勢を崩されそうになっても、すぐに次の動作に戻れる体のバネの強さ、しなりの強さがケガも防ぎ、長く現役で活躍できるというのです。これは戸建て住宅も同じで、耐震性(=体の硬さ・固さ)だけでは普段は頑丈でも、想定外の力が掛かった時に大きなダメージが残ります。

私も黒帯を持つ「柔道」をイメージしてみましょう。いかに屈強な体でも、体が硬く突っ立っているだけであれば、足元を止められて体勢が崩されれば”そこを支点”として回転の力が働き、容易に投げ飛ばされます。慣性の法則と遠心力が働く状況です。

同様に柱の足元をホールダウンアンカーなどの金物で固定され、大きな衝撃が「筋交い」を襲えば、柱に比べて細長く捻じれやすい筋交いは、簡単に折れてしまうでしょう。強烈な「慣性の法則」によりホールダウン金物まで引き抜いてしまったことが、熊本地震の倒壊した建物から確認出来ました。

引き抜き防止のホールダウン金物が法律で規定されたのが阪神淡路大震災以降の2000年基準(新耐震基準の一部追加)。だから2000年以降の新しい耐震基準の建物も、熊本地震では複数倒壊しているのです。ではどうしたら「粘り強さ」のある建物にすることが出来るのか・・・。

一つの事例を紹介すると、筋交いの一部を『制振ダンパー』と呼ばれる部材に置き換えること。下記画像のスチール製の黒い斜めの材料「TRC-30A」がその部材で、1軒の建物に数か所、バランス良く耐力壁に取り付けました。内部には「特殊減衰ゴム」が内蔵され、地震エネルギーを熱エネルギーに変換することで揺れを吸収する仕組みです。

熊本地震は、震度6~7クラスの「前震」でくぎやビスの緩みが生じて、建物が変形している「ぐらついた状態」になりました。その後に第二波として震度6~7の「本震」が来るケースは過去に例がないほど稀な災害でしたが、結局瞬間的に大きな応力が掛かったのは、細い筋交いや接合部のクギやビスへの損傷でした。

つまり一番弱い部分へ瞬間的に大きな力が掛からないよう力を分散することや、部材自身にしなりや粘り強さがあるものを採用することで、繰り返しの揺れにも復元力が働きます。筋交いだけでなく、外壁下地に構造用合板やOSBを張ることでも、地震力を分担(分散)することが出来るのです。

右の画像は、筋交いを取り付けるプレートの一種で、この材料のしなやかさが、筋交いの割れや折れの防止に繋がります。

このように熊本地震の教訓が、新しい建材開発に繋がって、過剰な実験装置での「工法開発」で過大な費用を掛けなくても安全・安心な住宅づくりが可能な状況となってきています。

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安全に住むための優先順位

Wakamoto
ここまで読んでもらえた皆さんは、限られた自分たちの家づくりに掛ける予算を、どのように割振りすればいいのか知りたいところでしょう。正解はありませんが、地震はどこでも発生し得るから、優先順位と判断材料だけは自分たちで把握しておくことをお勧めします。

国がつくった安全神話の原子力発電所でさえ、福島第一原発で大事故が起こりました。
これだけの地震国で、100%安全はないとしても、せめて将来に亘って家族の生命と財産に大きなダメージが生じない程度の家づくりが求められます。震災時に必ず自宅にいるとは限りません。だからシェルターのような家をつくるよりもコストパフォーマンスで考えると別のお金の使い方をしたほうが、いいという判断も成り立ちます。

1.建物の立地条件

東日本大震災の津波被害や、広島市や福岡県朝倉郡等で発生した大規模土砂災害などは、建物の耐震等級に関係なく、立地条件によって大きな被害と悲劇を生みました。まずは『ハザードマップ』や『地域防災ポータル』等で自分が住もうとする地域の危険度を把握することです。

生命に影響を及ぼす災害は「地震」「津波」「竜巻」「土石流」「がけ崩れ」「水害」そして「火災」です。今や台風による強風や高潮で直接、建物内の人命に影響を及ぼすことはなく、その他「隕石の落下」や「航空機事故」「戦争」などは、立地を注意して避けられるものではありません。でもそこまで想定したい場合は建物内で解決しましょう。

例えばハリウッド映画で目にする通り、アメリカでは多くの家で地下があり、竜巻などでも逃げ込む空間を確保しています。水密性をしっかり担保出来れば、土石流や津波、大火災でも生き残ることが可能です。一部だけシェルターとして地下空間をつくるのも方法です。

画像の現場は、シェルターではなくドラムを演奏する防音室を半地下に造ったケース。スキップフロアにして、防音室の上に奥さんの家事や内職が出来るコーナーをつくったので、防音室の天蓋はコンクリートで固めました。防音ドアがリビングからと階段を下りた防音室入口に取り付けられたので、このドアに水密性を持たせれば、津波や水害など、数時間の脅威はやり過ごせます。

ハザードマップの空白地帯はすでに住宅や商店が密集していて、なかなか新しい住人は相当なコストを積まなければ買えないでしょうが、建物の工夫でカバーすることは可能だという事例です。

2.安全な間取り

日本の注文住宅の問題は、建築知識の乏しい営業マンが、最初の商談で接触すること。契約できるかどうか分からない大量の見込み客を相手にして、取り敢えず無料プランで惹きつけようとするから、安全性よりもお客さんが喜ぶ「広~いLDKを確保した間取り」や「大きな吹抜け空間がある間取り」などが描かれます。

実際に確認申請などを提出する建築士であれば、危険な間取りだと気付くものの、今は営業マンやアシスタントの女性でもプラン作成できるCADソフトが充実しているため、簡単に間取りと完成予想CGが作成でき、見込み客への提案資料が揃うのです。床面積が分かれば、簡単な見積書と資金計画表もそれらしく自動作成できるから、そのまま契約を迫ることもあるのです。

少なくとも、前出の『直下率』や『耐力壁のバランス』はチェックして、間取りを決定しましょう。そもそも危険な間取りを平気で提案する業者は、例え大手ハウスメーカーであっても避けたほうが無難です。別の記事で「住宅会社の選び方」も書いているので、そちらを参考にして下さい。

住宅会社の選び方(工務店編)【若本修治の住宅取得講座-9】

2018.02.16

耐震的には、1階に多くの壁があるほど安心なので、立地条件や景色などによっては2階をリビングにするという間取りもアリでしょう。勾配天井で開放的なLDKや洗濯や物干しなど、家事動線も楽になります。

狭小地で明るいリビングを確保するため2階LDKにした事例。1階に居室があると壁量が増え、耐震性能の高い家になる。

Wakamoto
出来るだけ下層階の壁量を増やし、屋根の荷重を軽くすることが、地震に強い家に繋がります。もちろん家族にとって住み心地のいい家を優先することは言うまでもありません。

3.構造計算や地震保険など

立地および地盤強度、そして危険な間取りを避けることが出来れば、地震によって大きな損傷を負う確率はかなり低くなるでしょう。熊本地震で二度の震度7を経験した在来木造の家でも、耐震等級-3の建物ではクロスのよじれくらいで済んでいます。

巨大地震でも安心で安全性の高い家を手に入れるためには、工法を選んだり、大手の安心感で選ぶ必要は全くありません。かえって建築費が大幅にアップした上に、実際の震災で小さな損傷であっても補修費用が莫大掛かるといったことになり兼ねません。そもそも最初の投資コストが高ければ、その費用は建物のハードではなく、防災や減災、生活再建の備えに使ったほうが合理的で、生活の質を豊かにします。

住宅性能表示制度による『耐震等級』が同じであれば、鉄筋コンクリート造でも軽量鉄骨造でも、在来木造であっても地震に対する安心感は変わりません。むしろその強度をしっかり把握し担保するために構造事務所に「構造計算をしてもらうこと」こそお金を掛けたほうが賢明です。それは”1階が大空間の危険な間取り”で無理やり構造計算上安全な設計にするのではなく、先に安全な間取り自体をつくり、適切な壁バランスにすることが優先されます。

上記の画像は、木造二階建ての注文住宅のお引き渡し時に用意した『構造計算書』のページの一部。長期優良住宅で、これだけの厚みのある計算書を添付して審査機関でチェックされます。お引渡し日は梅雨後半の6月21日。蒸し暑くなる季節の午後1時過ぎに、エアコンがついていない状況で室温が25℃湿度が65%です。耐震性能だけでなく、気密性や断熱性が高いと、入居後も快適に過ごすことが可能です。

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あまりに耐震性や安全性にとらわれ過ぎて、過剰な性能を求めるより、もっと快適性や入居後の安心な生活にも目を向けたいですね!ご自身ではなかなか判断できないようでしたら、私が家づくりのサポートを行います。ただし広島市近郊の広島都市圏限定のサービスです♪

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