家づくりを考え始めた多くの方が、まず『住宅総合展示場』に行き、出展メーカーのモデルハウス見学から情報収集をされます。住宅雑誌やインターネット、チラシで目にした近所で開催される完成見学会や分譲住宅の内覧会でも情報を集めてみるものの、やはり多くの人たちが訪問し、複数の住宅会社の建物を一度で体験して比較できるのは、総合展示場のほうが気楽です。
雑誌やネットで資料請求すれば、自宅住所を書かなければ資料を送ってもらえないし、総合展示場であれば「個人情報だから」と自宅記載を拒否することも可能です。いくつかのハウスメーカーのモデルを見せてもらい、印象の良さそうな住宅会社だけ連絡先を教えればいいと考えるのです。しかも出展メーカーはほぼテレビCMで良く知っている大手ハウスメーカーがほとんどで、信頼できそうです。実はそこに落とし穴もあるのですが、それは最後に触れましょう♪
今回の記事では、まず住宅展示場に出展しているハウスメーカーを中心に、注文住宅を建てる場合の住宅会社の選び方を書いてみます。
ハウスメーカーの選び方
ここで一口に「ハウスメーカー」といってもいくつか分類があるので、別の記事『ハウスメーカーと工務店の違い』をご紹介しておきましょう。
工法で選ぶ
ハウスメーカーの中で、工場生産比率が高く、独自の部材開発・設計により国土交通大臣の認定を得ているような住宅会社を『プレハブメーカー』と呼びます。
プレハブは「プレファブリケーション」の略語で、鉄骨系や木質パネル系などメーカーによって工場出荷時の部材にも大きな違いがあります。また特殊な工法を手掛けず、標準化された『オープン工法』で構造躯体を組む木造軸組み系やツーバイフォー系のハウスメーカーなど、木造住宅を手掛ける住宅会社も増えてきました。以下主要な工法と代表的な住宅メーカーを整理してみます。
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軽量鉄骨系プレハブメーカー
肉厚3~6mm未満の比較的薄い鉄骨(鋼材)を使い、地震等の横揺れに対しては「ブレース」と呼ばれる斜め材をタスキ掛けに取り付ける。工事現場の仮設事務所や、児童数が増えすぎて設置される仮設校舎(教室)などを思い浮かべてもらえば、イメージがよく分かる。木造の筋交いと同様に、斜め材のブレースがなければ建物は揺れやすく、柱も木造在来工法並みのピッチで入っていることが多い。 「鉄」は強い材料と思いがちだが、鉄(スチール製)でできた橋や街灯など身近なものを思い浮かべてもらえば、実際には揺れ(振動が伝わり)やすく錆が生じて、火災で高温になるとグニャリと曲がって元に戻らない性質がある。各社「防錆技術」や「耐火被覆」によってマイナス面をカバーしているが、熱伝導率の高さと揺れの大きさを考えると快適性は木造にも劣る。それは、代表的メーカーのアパート入居経験者の多くはすでに経験済み。
【代表的メーカー】積水ハウス,ダイワハウス,三洋ホームズ -
軽量鉄骨ユニット系メーカー
ブレースにより横揺れを防ぐ軽量鉄骨系に比べ、太い柱と梁を溶接することで大空間をつくる「ラーメン構造」で、長方形のユニットを工場で製造し、トレーラーなど大型トラックで現場まで運ぶ工法。コンテナを積むイメージで考えると分かりやすい。昔の「田の字型」の日本家屋と同じで、一定の柱ピッチで襖や障子を開け放てる「大空間」は確保できるものの、間取りはパターン化しやすい。 基礎を見ると鉄骨ユニットが設置されるコーナー部分が独立基礎となっていて、どこに柱が来るのか一目瞭然。やはり鉄骨は『ヒートブリッヂ』となって外気温と室内の温度差が大きい季節には、壁内部が露点温度になりやすい。壁体内に湿気が進入しないような「ベーパーバリア(防湿層)」の施工が甘いと、鉄骨に結露が生じ、繊維系断熱材であれば水分を含んで垂れ落ち、断熱効果がさらに失われるという悪循環になりやすい。
あったかさを売り物にしているメーカーもあるが、木造のほうがコストを掛けずにより断熱性能を高めやすい。
【代表的メーカー】トヨタホーム,セキスイハイム,パナホーム -
重量鉄骨系メーカー
肉厚6mm以上の鋼材で構造躯体を組む住宅。
必ずしもユニットではないため、比較的柱の配置は自由で間取りの自由度も高い。柱と梁をボルト接続する『ラーメン構造』で、基本的に柱と梁だけで荷重を負担する。マンションやビルほどの柱の太さはないものの、戸建て住宅としては柱が太いため、相対的に室内が狭くなり、施工性も含めて狭小地には向かない。また、重量も木造や軽量鉄骨に比べて重いため、躯体を支えるための基礎も大きくなって、建物自体の荷重はかなり大きくなる。その分必要な「地耐力」も大きくなって、軟弱地盤や盛り土など十分な地盤強度が得られない立地では、地盤改良工事が他の工法よりも大掛かりとなり、見積時よりもコストアップに繋がる可能性が高い。
さらに熱伝導の大きな鉄の使用割合が多いため、外壁には100mm以上のALC(軽量気泡コンクリート)を張って熱損失を低減させなければ、夏暑く冬寒い住宅になってしまう。外壁の厚み分も敷地に余裕がなくなる要因になり、持ち出しのバルコニーがある場合はより構造躯体に熱が伝わりやすくなる。法定耐用年数は長い。
【代表的メーカー】旭化成ヘーベルハウス ※パナホームや積水ハウスなども一部商品ラインナップあり -
在来木造系メーカー
いわゆる『木造軸組み工法』と呼ばれる在来工法の家を建てるメーカー。
一般の材木屋に流通している柱や梁を使い、大工さんたちが組み立てる住宅。横揺れに対しては、斜め材の「筋交い」や面材の「構造用合板」等を使い、構造材に「集成材」や「LVL」といった従来の無垢材の欠点を補う材料も増えている。接合部は金物工法を使用するなど、耐震性は向上しているものの、二階建て住宅では「4号建築物」という構造計算までしなくていい特例がある。費用負担をしても、構造計算と住宅性能評価制度の「構造等級」は明示してもらうことを勧めたい。構造等級は2または3(建築基準法の1.25倍~1.5倍の強度)として、耐火性能も『省令準耐火』以上の指定をしたい。
木造は耐震性能や耐火性能が低いイメージがあるものの、性能表示制度に基づく等級をクリアすれば、同じ等級の鉄骨プレハブ住宅と性能は変わらない。断熱性能は高めやすい。
【代表的メーカー】住友林業,一条工務店,東日本ハウス,アキュラホーム,タマホーム,積水シャーウッド -
枠組み壁工法系メーカー
輸入住宅系の『2×4(ツーバイフォー)工法』および『木質パネル工法』のメーカー。
「モノコック構造」と呼ばれる建物の外殻全体で横揺れなどの地震力を分散する家。軸組み工法が骨組みの強さで力に耐える「フレーム構造」に対して、外側の殻全体の強度で耐えることで、外部からの力が接合部に集中しないため、ねじれに強い。「モノコック構造」は、安全性と軽量化を重視する自動車などでも数多く採用されている。基本的に『プラットホーム工法』として、1階の床をつくって1階壁パネルを起こし、2階の床をステージのようにつくってから2階の壁をつくる「床勝ち」なので、『ファイヤーストップ』と呼ばれる壁内部の空気を閉じ込めやすい。そのメリットは、壁体内の気密性のアップや火災の安全性の向上などが見込め、比較的安価に高い性能を得ることが可能。
しかし壁によって強度を保っているため、将来のリフォームでは壁の位置の変更が容易ではないなどの制約条件もあり、また釘の強度によって建物の変形を抑えているため、一旦変形したら歪んで元に戻らない。巨大地震でも倒壊のリスクは非常に低い。
断熱性能も壁の厚みが4インチの場合は、他の工法よりも断熱材の厚みが薄く、構造材を2インチ×6インチにするか、外張り断熱にするなどの断熱強化の工夫は必須。
【代表的ハウスメーカー】三井ホーム,スウェーデンハウス,東急ホーム,三菱地所ホーム
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コンクリート住宅
建設現場で鉄筋や型枠を組んで、生コンを流し込む『鉄筋コンクリート造(RC造)』ではなく、工場で製造されたPCコンクリートパネルをクレーンで吊り、ボルトで留めていく工法。厚みも荷重もあるため、高い耐久性・耐震性・遮音性がある。もちろんシロアリや錆なども発生しない。 一方で、重量鉄骨造の外壁に使われる『軽量気泡コンクリート(ALC)』と比較して、コンクリート密度が高く衝撃にも強いものの、蓄熱容量が大きく、夏の日射や冬の冷え込みを躯体に蓄えやすい。しっかり断熱をしないと熱を奪われてエネルギーロスが大きくなる懸念もある。壁によって荷重を支えるため、間取りの自由度は高くない。
構造躯体の火災の安全性は極めて高い。とはいえ外部開口部(サッシ)から火災が進入した場合は内装次第で室内は延焼するので、過信は禁物。
【代表的ハウスメーカー】大成パルコン,百年住宅(ウベハウスを吸収),レスコハウス
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Next:ハウスメーカーの選び方-2 価格で選ぶ
価格で選ぶ
ネットや実際にモデルハウスに行ってカタログをもらい価格を聞いても、坪単価の幅も大き過ぎて「自分たちの用意した敷地」では一体いくらくらいの建築費が掛かるのか、具体的にはイメージできません。
住宅展示場に行くと、販売する側の営業マンによって建築予算を導き出されます。勤務先や年収等を聞かれ、概算見積金額を出されても、それは「返済可能な最大限の住宅価格」を提示されたに過ぎないかも知れないのです。そうなると、依頼する会社や工法による違いではなく、談合における「天の声」と同じで、その金額を目指した限りなく100%に近い各社の見積が提出されるだけでしょう。
まずは、復習のために「坪単価」や「建築本体価格」について解説したページを紹介しておきます。
『注文住宅の予算把握と交渉術(1)注文住宅の建設費』
主要ハウスメーカー10社の1棟あたり平均価格と坪単価(2015年)
あなたがモデルハウスで話を聞く営業マンは、定価のないオーダーによる注文住宅で、ご要望や敷地条件によって大きく価格変動がある場合、自慢げに「当社はかなりお高いので、その予算を組むことが出来ますか?」とお客さんを選ぶようなことをするでしょうか?総合展示場でも雑誌の資料請求ページでも、自社だけでなくライバル各社が商談のチャンスを狙っているのです。
少なくとも、坪単価を伝えた途端に多くの人が去っていくより、土地を確認するなりプランだけでもつくるといった次の商談機会を残せるような価格説明を行うでしょう。しかし主要ハウスメーカーの多くは上場企業で売上や利益などの統計データは開示され、業界紙やシンクタンクなどでも各社の業績や業界全体の傾向を調査・分析しています。今回は住宅業界の出版社で各社の取材を行っている『住宅産業新聞社』のデータで、各社の実態を見ていきましょう。
このデータは、各社が坪単価表示している『建築本体価格』ではなく、別途工事や付帯工事なども含めて、戸建て住宅を建築する施主と交わした工事請負契約の年間総合計を、その年の総受注棟数で割った数字。つまり契約1棟あたりの平均単価で、各社の中央値です。上は平均よりも1千万円以上の契約はあるでしょうが、この平均額よりも1千万円低いケースは考えられません。面積によって価格は下がっても、平均坪単価はハウスメーカーの場合はそれほど変動の要素が少ないと思われます。
雑誌や展示場で話を聞いて、自分でざっくりと計算したよりも、かなり高いイメージを持ちませんか?
実際に2013年から日銀の総裁が交代し、デフレ脱却のために低金利政策で緩やかに経済成長しているとはいえ、私たちの財布が大きく膨らんだわけでも、デフレが解消して物価が大きく上昇したわけではありません。消費税増税によって駆け込み需要はあっても、その反動による落ち込みで物価は一部の嗜好品・高級品を除いて下落や安定しているはずです。
業界大手積水ハウスの1棟あたり平均価格の推移(2010~14年)
私たちの記憶では、2014年4月に消費税が5%から8%に上昇する直前は、駆け込み需要もあって景気はプラス状態、物価も順調に上昇しました。しかし民主党政権時代の2012年12月までは『失われた20年』と言われ、東日本大震災以前から物価は下落気味でした。恐らく公共事業の予算も縮小していたことから、建設費も上昇の兆しはなく、東日本大震災の復興や2020年東京オリンピックの決定で、建築費が上昇し始めたのは8%への消費増税のショックが収まった2015年以降でしょう。
その間の大手ハウスメーカーの建築価格の推移を、戸建て住宅No.1企業の積水ハウスの株主向けIR情報から以下抜粋しグラフ化してみました。
デフレ気味だったこの期間に、400万円近く同社の注文住宅の価格は上昇していたということです。主要10社の2015年の平均価格で積水ハウスは3,700万円ですから、消費増税ショックの不況の折でも、さらに単価を伸ばしていたのです。ちなみにこの間の請負型住宅建設部門の売上高は、2013年度の5,176億円から2014年度4,270億円、さらに2015年度は3,937億円と総額はマイナス成長なので、1棟あたりの単価を上げるのは全社を挙げて必達目標だったのでしょう。40坪の建物だとして、坪10万円もの上昇です。
これは皆さんが企業にお勤めであれば、当然の企業論理であり非難には当たりませんが、一般に価格が分からない注文住宅は「価格操作が可能」だということも示しています。たまたま予算のあるお客様に、カタログ価格よりも高い住宅のオプションを採用頂いたとか、立地条件が良く眺望が素晴らしいからつい建物が広くなって建築費が膨らんだという「特殊事例」ではありません。年間で1万棟を超える同社の戸建住宅購入者が、毎年100万円近くの価格増を知らないまま、提示される見積価格を交渉しても、前年よりもかなり割高の住宅を買ってしまったというデータです。
1社だけであれば、ブランド力と営業力のある積水ハウスだからということになるため、上記の主要10社の2010年のデータとも比較してみましょう。
主要ハウスメーカー10社の1棟あたり平均価格と坪単価(2010年)
2010年といえば東日本大震災が発生する前、長期に亘るデフレで住宅着工戸数も2009年に年間100万戸を大幅に割り込み、業界に激震が走りました。民主党政権に変わっても新築着工の先行きは見えず、耐震偽装に端を発した『構造計算厳格化』の流れに住宅業界も苦しんでいた時代です。
2015年と比較してみると、平均価格の順位が4位以降かなり変動しているのが分かります。
【解説】
2010年から2015年の6年間で最も平均価格が上昇したのはパナホームの724万円。坪単価でも11万6千円UPしています。上位3社も毎年100万円程度住宅単価が上がっていったことが分かります。一方で「当社は高いですよ!」という営業が出来ていた重量鉄骨のヘーベルハウス(旭化成ホームズ)が、意外にもほぼ横ばいで価格は上昇しておらず、重量鉄骨を建てられる客層が限られてきていることも予想されます。
ほぼ横ばいのトヨタホームと、わずかだけの上昇にとどまっているセキスイハイム(積水化学工業)は、営業力の弱さによって価格でしか戦えていないことが要因かもしれません。トヨタホームのグループに入ったミサワホームも昔のような勢いは感じられません。
Next:ハウスメーカーの選び方-3 性能で選ぶ
性能で選ぶ
ハウスメーカー選びの中で、最初は外観のデザインやモデルハウスの印象、そして営業マンとの相性で進むケースが少なくありません。有名なメーカーなので大きな性能差はなく、どの会社を選んでもそんなに大きな失敗もしないだろうという安心感がブランド力です。車や家電がそうであるように、基本的な機能・性能には大差なく、自分のこだわりや個性とマッチするメーカーを選べば大丈夫だと思うでしょう。しかし複数の会社で話を聞き、興味を持って突っ込んで聞いていくほど、訳が分からなくなっていくのが住宅という「オーダー受注生産品」です。
営業マンとの相性や企業の知名度といった、実際にあなたがお金を負担するマイホームには全く影響を与えない「主観的・情緒的」要素ではなく、出来るだけ「客観的・冷静」に比較できる選択肢と判断するための情報を集めようとすると、それぞれの工法や会社の考え方によって、同じお金を負担しても建物の性能に違いが出てくることに気づきます。営業マンは「自社の家が最高!」と洗脳されているだけで、他社の仕様や性能には無頓着、建築の知識も乏しいということが次第に分かってくるでしょう。
住宅性能評価制度
工法や価格の違いに関わらず、建物の性能を客観的に評価する指標として、国による公平な評価制度が生まれました。それが『住宅性能表示制度』と呼ばれ、国土交通省管轄による第三者評価機関によって、設計段階と施工後の二段階で建物の評価が得られます。
詳しくは業界団体の(一社)住宅性能評価・表示協会でご確認下さい。
現在以下10分野に関して評価の物差しが用意されています。
- 構造の安定(耐震等級・耐風等級・耐雪等級・地盤または杭の許容支持力・基礎の構造)
- 火災時の安全(感知警報装置・退避安全対策・脱出対策・耐火等級)
- 劣化の軽減(劣化対策)
- 維持管理更新への配慮(維持管理対策)
- 温熱環境(温熱環境・エネルギー消費量)
- 空気環境(ホルムアルデヒド対策・換気対策・室内の化学物質濃度)
- 光・視環境(単純開口率・方位別開口比)
- 音環境(透過損失等級)
- 高齢者等への配慮(高齢者等配慮等級)
- 防犯(開口部の侵入防止対策)
1.の構造の安定と3.劣化の軽減、5.温熱環境です。
構造の安定(耐震性能等)
地震や台風などの自然の力に対する建物の強度です。
特に地震の多い日本では『耐震等級』が重視され、「等級-1」から「等級-3」まで工法に関わりなく、国が定めた基準で建物の強さを選べます。従って木造だろうが鉄骨や鉄筋コンクリート住宅であろうが、大手のハウスメーカーでも小さな工務店でも、構造計算をして共通の物差しで等級を指定すれば、地震に対する危険性や倒壊・損傷のリスクは同じと考えて構いません。
もちろん熊本地震をみるように、建築基準法に合致し新しい耐震基準で建てられた住宅でも、倒壊した新しい建物もあれば大きな被害を免れた老朽化した建物もありました。私も震災3か月後に現地の益城町に入り、専門書等でも詳細確認しましたが、地震動の周期と地盤の関係や、建物の柱や耐力壁の上下階の位置関係(専門的に「直下率」といいます)によって被害に大きな差が出ていました。
コストパフォーマンスや間取りの自由度を考えると、どのメーカーを選ぶにしても『耐震等級-2』で構造計算書を添付してもらえば安心でしょう。プラス火災保険で地震保険を付ければ、津波や土石流災害等の心配のない地域であれば、老後も心配なく暮らせると思います。
むしろ建物自体の倒壊や損傷よりも、震災後の生活の復旧などを考えて、単に「耐震」だけでいいのか、それとも揺れをある程度吸収する『制振』の装置を付けるか、さらに建物自体に地震の揺れを伝えないようにする『免震』まで取り入れるかは、予算との兼ね合いです。ここでは詳しくは触れませんので、ご興味があればそれぞれのキーワードで検索して下さい。
劣化の軽減(耐久性や可変性)
建物は長期に亘って使われ、風雨や紫外線やシロアリなどの害虫類にもさらされるため、部材の劣化や交換などの対策が必要です。劣化に関しては工法によって材料が異なるため、それぞれの構造材に対しての基準が定められています。木造ではシロアリ対策、鉄骨造では防錆措置、コンクリート住宅ではセメントの種類や鉄筋のかぶり厚さなどです。
劣化等級は「等級-1」から「等級-3」までの3段階で、最高等級の3の場合、三世代(75~90年程度)まで長持ちするような対策が講じられているという評価が得られます。性能表示制度が出来た後に定められた『長期優良住宅』は、100年住宅とも呼ばれ、福田内閣の時代に構想されました。設計段階だけでなく、入居後のメンテナンス計画まで提出し国の承認が得られて、登録もされるので、長期優良住宅仕様として、補助金を得るのも賢い方法です。
上記の写真は、木造住宅の劣化対策の事例。
土台は人体に影響のない防蟻処理として『ホウ酸』を塗布し、基礎部分の換気は熱交換型の第一種換気システムで床下の温度・湿度をコントロールできるようにします。基礎換気口もなく『基礎断熱』として気密パッキンを施工しているので、シロアリが侵入する隙間もなく、侵入しても生存する環境にない状態をつくります。
維持管理や可変性も、建物寿命よりも早く傷む設備配管に関して、さや管やヘッダー配管など、交換が容易な配管工事を行っています。この写真の現場は『長期優良住宅』として国から補助金を得た注文住宅の事例です。
温熱環境(省エネルギー対策)
国の政策としての「地球温暖化対策」だけでなく、入居後に負担する光熱費の削減、四季を通じて快適な環境で暮らせる性能、そして寒さに起因する血圧で生じる病気や自宅内での事故、暑さに起因する熱中症の予防など、建物の高気密・高断熱化は、新築時で重要な要素となってきました。
大手ハウスメーカーも『エコファースト』や『世界一あったかい我が家』などと積極的にアピールしていますが、なかなか性能を体感し比較する機会が得られず、個人差もあることから、共通の物差しとして省エネ基準がつくられてきました。性能表示制度では、基準がつくられた年によって「等級-1」から「等級-4」まで4段階に分けられていますが、世界と比較して最高等級の「等級-4」でもまだ国際的には断熱性能が低いとされています。
建物からの熱損失の割合を測る指標としてUa値や、建物の気密性を測るC値といった基準もありますが、専門的なことは詳しいサイトがあるので、ここでは『建物の燃費』という考え方を説明してみたいと思います。ドイツをはじめヨーロッパではかなり普及している『エネルギーパス』という、住宅の燃費を表示する証明書を発行しています。
下の画像は、ドイツの「パッシブハウス研究所」が認定している建物の燃費を計算するソフト『燃費ナビ』で、大手ハウスメーカーの展示場モデルを計算によって比較したもの。パッシブハウスジャパンのサイトで確認することが出来ます。
『パッシブハウスジャパン 建物省エネ×健康マップ』
このマップを見ると、戸建てでは最大手となる積水ハウスの鉄骨モデルは、かなり断熱性能が低く、環境に与える負荷も健康に与えるリスクも相対的に大きいということが分かります。実際に省エネを謳い文句に大手ハウスメーカーが出展している住宅展示場のモデルでは、屋外の室外機の数にビックリしたのは、私だけではないようです。
Next:ハウスメーカーの選び方-4 人で選ぶ
人で選ぶ
住宅取得された方のアンケートや取材記事を見ると、多くの人が「信頼できる担当者だった」と、依頼先の会社やプラン以上に「人に恵まれた」から成功したと感じています。しかし多くの場合は「初対面の営業マン」の印象とその後の数回の打合せで「自分たちの家を任せよう」と意思決定しているのです。
「一目惚れの恋愛」とまでは言わないまでも、数回のデートで婚約(=工事請負契約)を申し込まれ、トントン拍子で挙式の日取り(=お引渡し日)まで決められるようなもの。恋愛結婚では、周りの人たちにも紹介し友人や親族からの助言や印象も得られます。しかし、住宅取得の場合の営業マンは『婚約請負人』のようなもので、婚約に至るまでのエスコートを完ぺきにこなし、数多くの婚約者をつくるための教育訓練を受けているといっても過言ではありません。
つまり『結婚詐欺師』とまでは言わないものの、仕事として顧客心理を研究し、いかに効率よくエスコートできるか会社からも求められている人材が、あなたに婚約を迫ると考えて冷静に比較・判断されることを勧めます。「彼は本当に私たちを幸せにすると心から思っている人なのか?」ということです。
契約の時点では違約金を払えば逃げられます。しかし工事が着工し第三者のインスペクション(建築中の建物の詳細検査)に入ってもらって工事の精度が低く、当初の約束を履行しないとしても、この時点で出来ることは限られます。だから「信頼できそう」とか「熱心だ」という情緒や感情ではなく、人事の担当官として、採用面接するくらいのシビアさで相手を見極めて下さい。私がお勧めする人の選び方は以下の通りです。
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個人の経歴・職歴を把握する
営業担当者は、こちらの家族構成や勤務先、年収など、数多くの情報収集をしますが、こちらは相手の勤務先だけ。言葉の巧みさや淀みないセールストークよりも、もっと相手の担当者のことを知りましょう。最も聞きたいのは「なぜ住宅業界に就職し、今の仕事を続けているのか・・・?」
どこで生まれ育って、両親や家族はどのような人なのか?どのような家に住んできたのか?
そして最終学歴で進学した時に選んだ学部や学科。就職で選んだ業界とその理由。今の会社に勤め始めての経験年数や仕事の内容、これまで家づくりをお世話した方々の家族数や入居後のお付き合いの様子まで・・・。
その担当者が、仕事で大切にしていることや過去に契約したお客様を大切にしているかどうか、そのくらいのことは聞いてみるのです。趣味や出身地などで共通の話題が見つかるかも知れませんし、逆に相手の担当者もあなたと親密な関係になれば「契約数字を上げる対象」から、このご家族には社内でも優秀な設計者と現場監督を付けてあげたいという「大切なお客様」に変わる可能性も高まります。
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持っている公的資格を確認する
名刺には肩書や所属部署が書かれていますが、それは組織側が勝手につけたもの。
多くの住宅営業マンは『宅地建物取引士』の資格取得を会社から推奨され、住宅ローンの勉強のため『住宅ローンアドバイザー』などの資格も持っているかも知れません。しかしこれらの資格は「販売のための資格」であり、快適な住まいを提供するために学ぶ経験や知識は表していません。
出来れば『二級建築士』や『建築施工管理技士』などの、理系・技術系の資格を持った人が望ましいですね。それは、何も建築学科を卒業している必要はなく、本当にやる気があり、お客さんにいい家を引き渡したいと願う熱心な担当者は、営業担当であってもチャレンジし、合格できる資格です。
現場経験を積んで、会社から営業部門に異動するように辞令が出た人もいるでしょうし、自分の建築知識のなさでお客さんに迷惑を掛けると考え、資格学校に通った人もいるでしょう。口先だけの営業トークを磨く人よりも、やはりこのような「現場のこと、建築のことを学ぼう」という姿勢のある人を選びたいですね。
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自宅を建てる場合の優先順位を聞いてみる
住宅を販売しているプロが自宅を建てる時、何に注意して何を優先するのか聞いてみるのは参考になるもの。
すでに自宅を持っている人には、どこで建てたかを聞いてみると人となりが分かります。まだ賃貸に住んでいる人だったら、将来自分が勤務している会社で家を建てるかどうか聞いてみましょう。100%本心かどうかは不明ですが、その時に社内では誰に設計してもらい、現場監督や大工さんは誰を指名するか、そして家づくりの優先順位やこだわりたいところなどを聞いてみると参考になると思います。
Next:ハウスメーカーの選び方-5 実績で選ぶ
実績で選ぶ
「ハウスメーカーの選び方」の最後は、やはりその地域での『実績』です。
小売流通業の大手『イトーヨーカ堂』やコンビニ大手の『セブンイレブン』などは、物流(商品配送)や地方局のテレビCM、地域での知名度などで競合に対して優位になるために『ドミナント戦略』という”集中出店”をしてきたのはビジネス界では良く知られています。逆に言えば、物流の効率が悪く知名度の低い都道府県には、出店しないという戦略です。
一般の方は、ハウスメーカーも「工場生産による”量産効果”」で、製品コストが下げられていると勘違いしている人がほとんどです。しかし事業における最大のコストは「人件費(含む社会保険料等)」であり売上が減っても負担を減らせない「オフィスや店舗の固定費」です。
県内に複数の住宅展示場に出展していたら、その費用負担は莫大です。
ドミナント戦略をとらずにどの都道府県にも進出しているとしたら、さらに地元テレビ局でのCMや折り込みチラシなど、広告宣伝費も大きな負担です。自分たちの県下で年間どの程度の住宅着工をしているのか、調べてみたほうがいいでしょう。仮に100棟であれば、毎月の巨大な経費は10組を満たないお客さんが負担しているのです。
広島県内ハウスメーカーの着工ランキング(1~5位)
私が住んでいる広島県内で、2016年の大手ハウスメーカー上位5位の実績が、住宅産業新聞社の調査により、日経BP社から発表されていました。5位以下のメーカーの実績までは不明ですが、この実績数字を12で割れば、各社の1か月間の契約実績が予想できます。つまり一か月間に掛かっている県内すべての支店・営業所の経費は、すべてこの数字の「お客様の数」で賄っているのです。
県内で実績の多い会社は、少ない会社よりも固定費が十分賄えている分、値引き要請に対して「減額余地がある」と考えられます。また土地情報や「建築条件付き分譲地」なども下位メーカーよりも豊富でしょう。県内の支店・営業所に勤務している従業員数や、住宅展示場に出展しているモデルハウス数なども比べると実態がよく分かりますが、テレビCMを良く流している有名メーカーといっても、県内の実績とは連動しません。
県内で実績が低いメーカーは、経営効率が悪く、拠点や展示場維持のために、余分な経費が見積の中に含まれている可能性があるということも判断材料にすることをお勧めします。またメーカーの『長期保証』は、一般よりも短いサイクルで、割高な有料メンテナンスをする前提で組まれていることが多いため注意が必要です。実際には半額程度でできるものも、メーカー指定の工事をしなければ「保証は解約される」という事例もあるようです。
さいごに
この長い解説ページを最後までお読みいただいた方は、私が「大手ハウスメーカーをあまり勧めていない」ということが何となく分かったと思います。優秀な営業マンもいますが、やはり私がプロとして自宅を建築する場合に、お願いしたいハウスメーカーは皆無です。だから自分だったら「こんな方法で家づくりをする」と考案したのが2002年にスタートした『住宅CMサービス広島』です。