性能で選ぶ
ハウスメーカー選びの中で、最初は外観のデザインやモデルハウスの印象、そして営業マンとの相性で進むケースが少なくありません。有名なメーカーなので大きな性能差はなく、どの会社を選んでもそんなに大きな失敗もしないだろうという安心感がブランド力です。車や家電がそうであるように、基本的な機能・性能には大差なく、自分のこだわりや個性とマッチするメーカーを選べば大丈夫だと思うでしょう。しかし複数の会社で話を聞き、興味を持って突っ込んで聞いていくほど、訳が分からなくなっていくのが住宅という「オーダー受注生産品」です。
営業マンとの相性や企業の知名度といった、実際にあなたがお金を負担するマイホームには全く影響を与えない「主観的・情緒的」要素ではなく、出来るだけ「客観的・冷静」に比較できる選択肢と判断するための情報を集めようとすると、それぞれの工法や会社の考え方によって、同じお金を負担しても建物の性能に違いが出てくることに気づきます。営業マンは「自社の家が最高!」と洗脳されているだけで、他社の仕様や性能には無頓着、建築の知識も乏しいということが次第に分かってくるでしょう。
住宅性能評価制度
工法や価格の違いに関わらず、建物の性能を客観的に評価する指標として、国による公平な評価制度が生まれました。それが『住宅性能表示制度』と呼ばれ、国土交通省管轄による第三者評価機関によって、設計段階と施工後の二段階で建物の評価が得られます。
詳しくは業界団体の(一社)住宅性能評価・表示協会でご確認下さい。
現在以下10分野に関して評価の物差しが用意されています。
- 構造の安定(耐震等級・耐風等級・耐雪等級・地盤または杭の許容支持力・基礎の構造)
- 火災時の安全(感知警報装置・退避安全対策・脱出対策・耐火等級)
- 劣化の軽減(劣化対策)
- 維持管理更新への配慮(維持管理対策)
- 温熱環境(温熱環境・エネルギー消費量)
- 空気環境(ホルムアルデヒド対策・換気対策・室内の化学物質濃度)
- 光・視環境(単純開口率・方位別開口比)
- 音環境(透過損失等級)
- 高齢者等への配慮(高齢者等配慮等級)
- 防犯(開口部の侵入防止対策)
構造の安定(耐震性能等)
地震や台風などの自然の力に対する建物の強度です。
特に地震の多い日本では『耐震等級』が重視され、「等級-1」から「等級-3」まで工法に関わりなく、国が定めた基準で建物の強さを選べます。従って木造だろうが鉄骨や鉄筋コンクリート住宅であろうが、大手のハウスメーカーでも小さな工務店でも、構造計算をして共通の物差しで等級を指定すれば、地震に対する危険性や倒壊・損傷のリスクは同じと考えて構いません。
もちろん熊本地震をみるように、建築基準法に合致し新しい耐震基準で建てられた住宅でも、倒壊した新しい建物もあれば大きな被害を免れた老朽化した建物もありました。私も震災3か月後に現地の益城町に入り、専門書等でも詳細確認しましたが、地震動の周期と地盤の関係や、建物の柱や耐力壁の上下階の位置関係(専門的に「直下率」といいます)によって被害に大きな差が出ていました。
コストパフォーマンスや間取りの自由度を考えると、どのメーカーを選ぶにしても『耐震等級-2』で構造計算書を添付してもらえば安心でしょう。プラス火災保険で地震保険を付ければ、津波や土石流災害等の心配のない地域であれば、老後も心配なく暮らせると思います。
むしろ建物自体の倒壊や損傷よりも、震災後の生活の復旧などを考えて、単に「耐震」だけでいいのか、それとも揺れをある程度吸収する『制振』の装置を付けるか、さらに建物自体に地震の揺れを伝えないようにする『免震』まで取り入れるかは、予算との兼ね合いです。ここでは詳しくは触れませんので、ご興味があればそれぞれのキーワードで検索して下さい。
劣化の軽減(耐久性や可変性)
建物は長期に亘って使われ、風雨や紫外線やシロアリなどの害虫類にもさらされるため、部材の劣化や交換などの対策が必要です。劣化に関しては工法によって材料が異なるため、それぞれの構造材に対しての基準が定められています。木造ではシロアリ対策、鉄骨造では防錆措置、コンクリート住宅ではセメントの種類や鉄筋のかぶり厚さなどです。
劣化等級は「等級-1」から「等級-3」までの3段階で、最高等級の3の場合、三世代(75~90年程度)まで長持ちするような対策が講じられているという評価が得られます。性能表示制度が出来た後に定められた『長期優良住宅』は、100年住宅とも呼ばれ、福田内閣の時代に構想されました。設計段階だけでなく、入居後のメンテナンス計画まで提出し国の承認が得られて、登録もされるので、長期優良住宅仕様として、補助金を得るのも賢い方法です。
上記の写真は、木造住宅の劣化対策の事例。
土台は人体に影響のない防蟻処理として『ホウ酸』を塗布し、基礎部分の換気は熱交換型の第一種換気システムで床下の温度・湿度をコントロールできるようにします。基礎換気口もなく『基礎断熱』として気密パッキンを施工しているので、シロアリが侵入する隙間もなく、侵入しても生存する環境にない状態をつくります。
維持管理や可変性も、建物寿命よりも早く傷む設備配管に関して、さや管やヘッダー配管など、交換が容易な配管工事を行っています。この写真の現場は『長期優良住宅』として国から補助金を得た注文住宅の事例です。
温熱環境(省エネルギー対策)
国の政策としての「地球温暖化対策」だけでなく、入居後に負担する光熱費の削減、四季を通じて快適な環境で暮らせる性能、そして寒さに起因する血圧で生じる病気や自宅内での事故、暑さに起因する熱中症の予防など、建物の高気密・高断熱化は、新築時で重要な要素となってきました。
大手ハウスメーカーも『エコファースト』や『世界一あったかい我が家』などと積極的にアピールしていますが、なかなか性能を体感し比較する機会が得られず、個人差もあることから、共通の物差しとして省エネ基準がつくられてきました。性能表示制度では、基準がつくられた年によって「等級-1」から「等級-4」まで4段階に分けられていますが、世界と比較して最高等級の「等級-4」でもまだ国際的には断熱性能が低いとされています。
建物からの熱損失の割合を測る指標としてUa値や、建物の気密性を測るC値といった基準もありますが、専門的なことは詳しいサイトがあるので、ここでは『建物の燃費』という考え方を説明してみたいと思います。ドイツをはじめヨーロッパではかなり普及している『エネルギーパス』という、住宅の燃費を表示する証明書を発行しています。
下の画像は、ドイツの「パッシブハウス研究所」が認定している建物の燃費を計算するソフト『燃費ナビ』で、大手ハウスメーカーの展示場モデルを計算によって比較したもの。パッシブハウスジャパンのサイトで確認することが出来ます。
『パッシブハウスジャパン 建物省エネ×健康マップ』
このマップを見ると、戸建てでは最大手となる積水ハウスの鉄骨モデルは、かなり断熱性能が低く、環境に与える負荷も健康に与えるリスクも相対的に大きいということが分かります。実際に省エネを謳い文句に大手ハウスメーカーが出展している住宅展示場のモデルでは、屋外の室外機の数にビックリしたのは、私だけではないようです。
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1.の構造の安定と3.劣化の軽減、5.温熱環境です。