住宅会社の選び方(ハウスメーカー編)【若本修治の住宅取得講座-8】

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価格で選ぶ

Wakamoto
工法がある程度分かっても、問題は実際に自分たちが負担する工事代。
ネットや実際にモデルハウスに行ってカタログをもらい価格を聞いても、坪単価の幅も大き過ぎて「自分たちの用意した敷地」では一体いくらくらいの建築費が掛かるのか、具体的にはイメージできません。

住宅展示場に行くと、販売する側の営業マンによって建築予算を導き出されます。勤務先や年収等を聞かれ、概算見積金額を出されても、それは「返済可能な最大限の住宅価格」を提示されたに過ぎないかも知れないのです。そうなると、依頼する会社や工法による違いではなく、談合における「天の声」と同じで、その金額を目指した限りなく100%に近い各社の見積が提出されるだけでしょう。

まずは、復習のために「坪単価」や「建築本体価格」について解説したページを紹介しておきます。
『注文住宅の予算把握と交渉術(1)注文住宅の建設費』

主要ハウスメーカー10社の1棟あたり平均価格と坪単価(2015年)

あなたがモデルハウスで話を聞く営業マンは、定価のないオーダーによる注文住宅で、ご要望や敷地条件によって大きく価格変動がある場合、自慢げに「当社はかなりお高いので、その予算を組むことが出来ますか?」とお客さんを選ぶようなことをするでしょうか?総合展示場でも雑誌の資料請求ページでも、自社だけでなくライバル各社が商談のチャンスを狙っているのです。

少なくとも、坪単価を伝えた途端に多くの人が去っていくより、土地を確認するなりプランだけでもつくるといった次の商談機会を残せるような価格説明を行うでしょう。しかし主要ハウスメーカーの多くは上場企業で売上や利益などの統計データは開示され、業界紙やシンクタンクなどでも各社の業績や業界全体の傾向を調査・分析しています。今回は住宅業界の出版社で各社の取材を行っている『住宅産業新聞社』のデータで、各社の実態を見ていきましょう。

平均価格の高い順で並べると、7社が3千万円超えの坪単価80万円越えが分かる。

このデータは、各社が坪単価表示している『建築本体価格』ではなく、別途工事や付帯工事なども含めて、戸建て住宅を建築する施主と交わした工事請負契約の年間総合計を、その年の総受注棟数で割った数字。つまり契約1棟あたりの平均単価で、各社の中央値です。上は平均よりも1千万円以上の契約はあるでしょうが、この平均額よりも1千万円低いケースは考えられません。面積によって価格は下がっても、平均坪単価はハウスメーカーの場合はそれほど変動の要素が少ないと思われます。

雑誌や展示場で話を聞いて、自分でざっくりと計算したよりも、かなり高いイメージを持ちませんか?
実際に2013年から日銀の総裁が交代し、デフレ脱却のために低金利政策で緩やかに経済成長しているとはいえ、私たちの財布が大きく膨らんだわけでも、デフレが解消して物価が大きく上昇したわけではありません。消費税増税によって駆け込み需要はあっても、その反動による落ち込みで物価は一部の嗜好品・高級品を除いて下落や安定しているはずです。

業界大手積水ハウスの1棟あたり平均価格の推移(2010~14年)

私たちの記憶では、2014年4月に消費税が5%から8%に上昇する直前は、駆け込み需要もあって景気はプラス状態、物価も順調に上昇しました。しかし民主党政権時代の2012年12月までは『失われた20年』と言われ、東日本大震災以前から物価は下落気味でした。恐らく公共事業の予算も縮小していたことから、建設費も上昇の兆しはなく、東日本大震災の復興や2020年東京オリンピックの決定で、建築費が上昇し始めたのは8%への消費増税のショックが収まった2015年以降でしょう。

その間の大手ハウスメーカーの建築価格の推移を、戸建て住宅No.1企業の積水ハウスの株主向けIR情報から以下抜粋しグラフ化してみました。

同社が手掛ける住宅事業の中で、個人向け一戸建ての「請負型事業」のデータ。

デフレ気味だったこの期間に、400万円近く同社の注文住宅の価格は上昇していたということです。主要10社の2015年の平均価格で積水ハウスは3,700万円ですから、消費増税ショックの不況の折でも、さらに単価を伸ばしていたのです。ちなみにこの間の請負型住宅建設部門の売上高は、2013年度の5,176億円から2014年度4,270億円、さらに2015年度は3,937億円と総額はマイナス成長なので、1棟あたりの単価を上げるのは全社を挙げて必達目標だったのでしょう。40坪の建物だとして、坪10万円もの上昇です。

これは皆さんが企業にお勤めであれば、当然の企業論理であり非難には当たりませんが、一般に価格が分からない注文住宅は「価格操作が可能」だということも示しています。たまたま予算のあるお客様に、カタログ価格よりも高い住宅のオプションを採用頂いたとか、立地条件が良く眺望が素晴らしいからつい建物が広くなって建築費が膨らんだという「特殊事例」ではありません。年間で1万棟を超える同社の戸建住宅購入者が、毎年100万円近くの価格増を知らないまま、提示される見積価格を交渉しても、前年よりもかなり割高の住宅を買ってしまったというデータです。

1社だけであれば、ブランド力と営業力のある積水ハウスだからということになるため、上記の主要10社の2010年のデータとも比較してみましょう。

主要ハウスメーカー10社の1棟あたり平均価格と坪単価(2010年)

2010年といえば東日本大震災が発生する前、長期に亘るデフレで住宅着工戸数も2009年に年間100万戸を大幅に割り込み、業界に激震が走りました。民主党政権に変わっても新築着工の先行きは見えず、耐震偽装に端を発した『構造計算厳格化』の流れに住宅業界も苦しんでいた時代です。

2015年と比較してみると、平均価格の順位が4位以降かなり変動しているのが分かります。

5年間で500万円以上の価格上昇したのは4社(太字)でほとんど横ばいは2社(赤字)

【解説】
2010年から2015年の6年間で最も平均価格が上昇したのはパナホームの724万円。坪単価でも11万6千円UPしています。上位3社も毎年100万円程度住宅単価が上がっていったことが分かります。一方で「当社は高いですよ!」という営業が出来ていた重量鉄骨のヘーベルハウス(旭化成ホームズ)が、意外にもほぼ横ばいで価格は上昇しておらず、重量鉄骨を建てられる客層が限られてきていることも予想されます。

ほぼ横ばいのトヨタホームと、わずかだけの上昇にとどまっているセキスイハイム(積水化学工業)は、営業力の弱さによって価格でしか戦えていないことが要因かもしれません。トヨタホームのグループに入ったミサワホームも昔のような勢いは感じられません。

このようなデータで各社の推移をみていくと、企業努力とか製品購入者の高い要望に応えるためのコストアップは感じられません。低金利による100万円あたりの返済額の低下や、着工棟数の落ち込みを客単価でカバーした様子が伺われ、他の輸出産業のような国際的競争のない「営業トーク」で数字を操作できる業界の実態が垣間見えるようです。

Next:ハウスメーカーの選び方-3 性能で選ぶ

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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。