新しく住宅取得を考え始めた時、多くの人が『庭付きの注文住宅』をまず最初に思い浮かべます。予算や利便性を優先するため、建売住宅や分譲マンションにする人もいますが、買えることなら「自分の土地」の上に注文で家を建てることが理想です。
しかしこれまでの人生で土地を買った経験のある人は、すでに自宅を持っている人以外はわずかです。いかにネット社会になって、情報がタダ同然で入り不動産情報も容易に集められると言っても、戸建て住宅用で手頃な土地を見つけて購入の意思決定をするのは、プロでも容易ではありません。
建売りや分譲マンション、そして大規模に造成されて土地だけでも販売するというチラシ広告が入っているような不動産物件であれば、比較も判断も容易です。しかし今やそんな物件はほとんどなく、仮に条件のいい土地があっても『建築条件付き分譲』として、指定のハウスメーカー・建築会社でしか家を建てられないという、自分たちの希望通りにならない不動産物件ばかりです。
このページでは、ある段階までは自力で土地を探し、十分知識を得たうえで自由設計の注文住宅を建てるための流れとヒントをお伝えします。
土地探しのスタート
なぜ自分たちが住みたいと考えているエリアで手頃な価格の不動産物件の入手が困難かといえば、土地の購入は『椅子取りゲーム』か『混んでいるフードコート』のようなものだから。駅に近いとか買い物や病院などが近くに揃っているエリアは、すでに椅子に座っている人が大半で、空いているように見える席も荷物などが置かれて席は確保されてしまっているのです。席が空くまで立っておくか、「相席」で詰めて座るしかありません。
混雑するショッピングセンターの駐車場であれば、車を誘導する係員も、空きが出たらセンサーが反応して『空車』を表示してくれる電光掲示板も用意できるから、来場者は待っているだけで案内してくれますが、不動産の物件情報はルールに従い順番に待っている訳ではなく、不動産情報が一元管理できて誰でも情報にアクセスできるわけではないのです。
しかし一方で、フードコートの席や駐車スペースは用が済んで空いても、本人たちは何も告げず去っていくだけ。土地はそのまま放置していたら固定資産税や相続税が掛かるから、出ていく時は「この土地の利用者を探しています」という『募集の告知』を必ず行います。そのタイミングとどこにその告知をお願いするかが分からないから、土地探しをお客さんから依頼されたプロでも、土地を見つけるのは容易ではないのです。
不動産業界基礎知識
このページをご覧になっている方で、すでに住宅展示場に行き、複数のハウスメーカーに土地探しの依頼をした方もいらっしゃるかも知れません。土地がなければ住宅建築が出来ないので、提携先の不動産仲介業者からの情報を提供してくれますが、違うメーカーの営業マンが同じ土地情報を持参してくることも少なくありません。なぜか同じ物件なのに扱っている不動産業者が異なり、場合によっては価格も違うケースさえあります。
戸建て用地の不動産取引において、基本的にはプレイヤーは4者となります。
以下それぞれ解説していきます。
-
プレイヤー(1)『売り主』
まずは土地を所有している売り主です。
大半は個人の方で、農地や駐車場(空き地)または古家(アパート含む)が建っているケースもあります。100坪を超えるような土地は、個人には売りづらいから、メーカーに勧められて賃貸アパートを建てるか、建売業者など不動産売買を目的とした法人に売却されます。基本的には「自分の土地を売ることをご近所には知られたくない」というケースが多いため、最初は「広告不可」「ネット掲載不可」からスタートしがちです。特定の不動産業者に内密で売ってもらうように伝え、ある程度の期間はその業者に売却の一切を任せます。その相手が「プレイヤー(2)」の仲介業者です。
「多少時間が掛かってもいいから、出来るだけ”高く売って欲しい”」のが売り主のニーズです。
-
プレイヤー(2)『売り主側の仲介業者』
売り主側から売却を依頼された『不動産仲介会社(宅建業者)』
業界用語で「元付会社」とも呼ばれますが、通常この会社は売り主と「不動産専任媒介契約」を結び、看板や広告を準備し問合せ状況などを定期的に売り主に報告する代わりに、売り主側から他の不動産業者には声掛けできない制約条件を付けます。「お宅だけに任せるから、その代わりにしっかり買い手を探してね!」ということで、指定流通機構(西日本レインズ等)への物件情報登録なども行う義務が生じます。専任媒介契約を結んだ時点で、物件価格の「3%+6万円」の仲介手数料を得ることがほぼ確定します(より高い確率で得るためには「専属専任媒介契約」の締結が必要)。仮に不動産価格2千万円が売却出来れば66万円の仲介手数料です。しかし専任媒介契約を結べる機会はそれほど多くないのが通例で、より多くの仲介手数料を得たいと考えます。
しかも、出来るだけ経費を掛けずに売れるのが利益を最大化できるから、電話一本で購入の打診が出来る「建売業者」や取引のある「ハウスメーカー」、そして「同業の不動産業者」などから声掛けしていきます。自分の息が掛かった業者が買う意思を示せば、売り主から頂戴する仲介手数料以外にも、業者側からの紹介料(キックバック)や『建築条件付き土地販売』などに加工して、さらに稼ぐことが可能です。
また自ら購入者を探せば、「買い手側」からも仲介料が得られる『両手数』という倍額の手数料になります。その場合、買い手がつかないような割高な売却価格を設定し、数か月”たなざらし状態”で売り主が値段を下げるのを待って、その間に自らお客を探すというケースも少なくありません。財閥系を含む東証一部上場の不動産会社さえ、そのようなことをしていると週刊誌に大々的に報じられたケースもあります。 日本では「両手数」自体は違法ではありませんが、弁護士が加害者と被害者の間で調整役を果たすようなもので、双方から手数料を得ることは『利益相反』になりがちです。プロの倫理が問われるから、米国では自主ルールで買い手側に別のエージェントを立てるのが一般的です。
-
プレイヤー(3)『購入希望者』
3番目のプレイヤーは土地探しをしている「購入希望者」であり、最終的には『買い主』となるあなたです。利便性の高いロケーションで、日当たりや眺望が良く、静かで出来るだけ広い敷地を少しでも安く買いたいのがニーズです。
しかしそんないい土地であれば、売り主側は「より高く売りたい」のが人情であり、売り主についている仲介業者側も同じです。これまで取引がなく、一度きりで将来継続的に利益が享受できない個人相手に、いい物件を優先的に提供する道理がありません。
チラシや不動産広告に掲載しても売れなかった物件が安くなったら「お買得の物件がありますよ!」と、ようやく一回きりの商談相手にも物件情報が渡されるのです。基本的に、売り主側には購入希望者のニーズに配慮する相手はいません。 -
プレイヤー(4)『買い主側の仲介業者』
残る4者目は、土地探しをしている「購入希望者」に不動産情報を提供する不動産仲介会社(宅建業者)。こちらは『客付け会社』と呼ばれる不動産の売買仲介を行う一般の不動産会社です。 上記に書いたように、売り手側の仲介業者とは別の不動産会社に仲介に入ってもらうのが基本です。仲介手数料の上限が法令で決められているだけなので、本来なら価格競争があっても良さそうですが、売買仲介の場合はほぼどこも同じ仲介手数料を請求されます。だから基本的にはどの仲介業者に頼んでも負担する費用も、購入する物件自体が変わる訳でもありません。
客付け会社は、指定流通機構に掲載されている情報をもとに、資料請求や問合せがあったお客さんに、条件に合致する不動産情報を提供しますが、どの業者でも公開情報にアクセスできるので、同じ情報が複数の会社から送られてきます。不動産サイト(ネット)や住宅情報誌(紙媒体)に掲載されている情報も、大多数はこのような公開情報です。情報のタイムラグが価格差を生じさせ、手頃な物件はすぐに購入者が現れて予約が入ります。これは人気のフードコートの席や入庫待ちの駐車場を思い浮かべてもらえば分かります。
では、売り物件の情報元である「専任媒介契約」を結んだ不動産業者にあたることが出来れば、と考えがちですが、日本の不動産業界は体質も閉鎖的で情報も透明性が不十分です。元付でも客付でも、負担する仲介手数料は同じなので、あなたの味方になってくれるような情報力・交渉力のある客付専門の仲介業者を選びましょう。
信頼できる不動産会社と担当者とは
不動産取引の透明性・公平性が高いアメリカでは、まるでAmazonの書評のように、不動産購入者の評価による不動産エージェントの評判がネットで公開されています。プロ野球選手が大リーグでの挑戦や移籍でエージェントを使うように、不動産取引もどのエージェントに頼んで物件の交渉や取引成立のナビゲートをしてもらうか選ぶことが可能です。
このような仕組みもなく、自立した優秀な不動産エージェントもいない日本では、自分の味方になってくれる不動産会社、営業担当者選びからすでにハードルがあります。アメリカの不動産エージェントは、外資系の保険会社の営業担当者や弁護士などと同じく、組織には属していても独立性が高く、誰に頼むかで安心感が変わってきます。しかし日本の場合は所属する会社ごとで体質が異なり、誰に頼んでも大差ないのが実態です。
とはいえ、住宅建築が前提での土地購入であれば、建築法令等の知識があるかどうかは重要です。
前面道路の幅員や所有権、道路斜線やがけ条例など、実際に建築にあたって建物の配置やボリューム、外観などに影響を及ぼす制約が発生する場合は少なくありません。新築の住宅建築を考えているのに『再建築不可』という不動産を紹介する仲介業者もいるから、ハウスメーカーのOBなど建築に携わった経験のある『宅地建物取引士(以下「宅建士」)』に頼んだほうが無難です。経歴などを尋ねることをお勧めします。
土地を探してもらうことをお願いし期待するよりも、むしろ自分が土地情報を探し、候補地に対しての意見をもらってその回答力によって経験や能力を把握していくという形がいいでしょう。ただし「建築業者もご紹介します」という話があった場合は、紹介された業者から紹介料のキックバックがあり、建築費に上乗せされる可能性があることは知った上でご検討下さい。
各都道府県に『宅建協会』や『全日本不動産協会』などの業界団体があり、その組織の理事や各委員会の委員などをされている地元の不動産会社を私はお勧めします。概ね地元の不動産事情に精通し、会員への法令順守の啓もうや社員教育などに力を入れており、社長自身が不動産のビジネスに従事しています。全国チェーンの大手企業サラリーマン担当者よりも、情報量や交渉力は豊富です。
土地探しの基本とコツ
ネット上では「建築をお願いするハウスメーカーや建築会社を決めてから、一緒に土地探しをしましょう」と書かれているケースを良く目にします。しかし基本的にはまずは自分で探すところからスタートです。今はネット社会でもあり、チラシや住宅情報誌に掲載されている物件は、アットホームやHOME’S、YAHOO不動産など、オンラインでも出ています。
自分で探してみることで、探している地域の不動産の相場観も養えますし、実際に建築中の現場も意識するようになります。該当エリアで扱いの多い不動産業者さんや建築工事を請け負っている住宅会社なども知ることが出来るでしょう。ただ漫然とネットで情報収集するのではなく、自分たちの土地探しの条件などは書き出しておいて下さい。当社が相談者にお渡ししている『土地探し要望シート』の一部を参考にご紹介します。
希望エリアを絞る
多くの方が「交通の利便性」か「学校区」で住みたいエリアを探します。
通勤のための公共交通機関の駅や路線、実家へのアクセスを考えた立地、そして子供たちの進学を考えて学校区を決めるなど、まずは探す地域を絞ります。最初の段階では柔軟性を考え、3つくらいの希望エリアで物件情報を収集してみましょう。
希望条件を整理する
希望条件には(1)地理的・地形的要因と(2)環境要因、そして(3)人的要因の3つに分けてみました。
ハザードマップに示された災害危険地域も気になるところですし、周辺の交通量や前面道路の幅員、近隣のお店や公共施設、病院なども入居後の生活で重要な要素です。何を優先すべきかもイメージ出来たら、実際に「売り土地」で出ている物件情報を判断する基準も明確になるでしょう。近隣の坪単価の相場が分かれば、どのくらいの広さの土地が取得可能かも分かってきます。
NEXT:建築条件付とは
建築条件付きとは
探しているエリアでは、比較的立地条件が良く、手頃な価格の物件ほどこのような条件が付けられます。多少高くても売れる確率は高いものの、仲介手数料はそれほど変わらないから、土地価格を安めに出して建築費の中から利益(紹介料のキックバック)を増やしたいというのがほぼ9割超です。
ケーススタディで理解する
なぜ魅力的な物件ほど建築条件付きの物件が多いのか、ケーススタディで考えてみます。
2000万円の土地仲介のみの仲介手数料 2000万円×3%+6万円=66万円(税別)
<ケースー2>土地を5%安くして建築条件を付けた場合
(1) 不動産仲介料 1900万円×3%+6万円=63万円(税別)
(2) 建築紹介料 2200万円×2%=44万円 ※キックバック 【合計】107万円(税別)
<ケースー3>土地契約後に「建売りにしたほうが安くできる」と説得された場合 ※違法行為
土地価格2000万円+建物価格1800万円=3800万円×3%+6万円=120万円(税別)
「土地だけではローンが組めないので、安く建築できる業者で建売りにしたらローンが通りやすい」などと巧妙に説得する業者あり。契約を「建売住宅」に差し替えるので、宅建業法違反となる。
悪質な業者であれば「ケース-3」のように親切を装い、自社の仲介手数料を最大化する取引に誘導する事例もあります。
街並みの景観を守るために、同じ業者さんに施工してもらいたいというケースや、建築業者が購入した土地で、まとめ買いで安くなった分、自社に施工を頼んで下さいというケースもあります。その場合は施工場所もまとまっていることから、施工費もコストダウンが期待できますが、それほど良心的な業者は、購入者に不利になるような条件を付けないと考えたほうが確かです。
上記の看板の事例では、大規模な宅地造成をした開発業者が、大手ハウスメーカーの営業力と商談スタッフの人数を頼りにして、大手3社の建築条件付きで土地販売した事例。建築条件付は「特命で工事発注する」ようなもので、公共事業でイメージすれば「競争原理が働かない」割高な工事費負担をさせられるということ。購入者にとれば仮にその会社に依頼したいと思っても、価格の自由度もプランの柔軟性も少ない取引となります。
独占禁止法による制限
建築条件付の土地取引は、本来「個人の資産」である土地を、購入して所有権移転後にはどのように利用し、どこの設計者に依頼しようが施工者をどこに決めようが個人の自由であるべきです。契約自由の原則を阻害するような「抱き合わせの販売行為」に関しては『独占禁止法』に触れるとされていますが、業界ルールとして以下の回避策で独占禁止法を逃れているのが実態です。
-
契約の有効期限
概ね3か月間で設計や仕様決めをし、工事請負契約を締結する。
-
停止条件
期限内に請負契約が交わされない場合は、契約自体がなかったものとして、手付金・仲介手数料他一切のお金を返金する。
-
請負者の制限
建築を請け負う業者は、その土地の売り主(子会社含む)かその代理人でなければならない。
建築条件付を解除できるか?
気に入った土地で、建築会社も自分で探さなくていい『建築条件付』取引は、概ね「セットプラン」と呼ばれる推奨プランが用意されています。建売りと違って、実際に建物が建っている訳でも、役所に確認申請が提出されている訳でもなく、推奨プランが気に入らなければ、自分たちの希望を伝えて自由設計の家をつくることは可能です。
しかし指定の住宅会社・工務店が、実際に自分たちの希望を叶えるような設計や性能・仕様が出来るかどうかは契約時点では分かりません。そこで3か月程度の期間でプランの作成や見積をお願いし、何度プランを書き直しても設計力がないとか経験値が浅くて不安だという場合は、土地契約自体を期限内に解除すれば、土地契約自体なかったことに出来ます。
とはいえ、また一から土地探しを再スタートし、入居時期が遅れて家賃を払い続けるのもバカらしいことです。売り主と指定の建築業者が別の法人の場合、仲介業者の目的は「ひとつの不動産物件での手数料収入の最大化」なので、建築業者からキックバックされると想定される金額を割り増し負担することで、建築条件を外してもらえる可能性もあります。
NEXT:古家付住宅が狙い目
古家付住宅が狙い目
全国で空き家が800万戸を超え、平均の空き家率は13%になっています。
つまり建物は建っているものの、使われていない住宅も数多く眠っており、タイミングによっては安く購入することが可能です。
中古物件を探そう!
冒頭でも書いた通り、利便性が高くロケーションのいい場所にはすでに住民が住んでいて、なかなか新しい住民が土地を購入することは困難です。しかし既成市街地でも人口減少と高齢化が進んでいて、建物が老朽化した中古物件は意外に多いもの。更地ばかり検索しないで、中古住宅も探せば選択肢がかなり広がります。
中古物件の判断基準
中古物件探しも、あくまで「新築を建てるための建築用地」の選択肢を増やすため。だから、通常の中古住宅取引のようなインスペクションや瑕疵保険云々は気にする必要はありません。以下、物件情報を見る時の判断材料を列記してみます。
-
築年数
出来るだけ古いほうがお勧め。目安は昭和55年以前の建物。
昔の耐震基準なのでリフォームで住み続けるのはお勧めできない。
例え土台から上を大規模な耐震補強しても、基礎や地盤の強度が弱いと、熊本地震で倒壊した新しい建物のようになる。 -
構造
既存の建物は解体することが前提なので、木造を選ぼう。
一般的な木造の戸建住宅は100万円前後の解体費用を予算計上。
(機械で壊せるか、建築廃材の搬出路に2トントラックが通行できる程度確保できるかなど条件によって変わる) -
入居者の有無
入居者がいても売る意思があれば大丈夫。
ただし高齢者で引っ越す場合、物理的に部屋が狭くなり、家具や家電を引っ越し先に持って行けず、売買代金が入らなければ処分費も持っていないケースがあり、ごみ処理の覚悟は必要。解体費用も含めて価格交渉しよう。 -
権利関係
登記簿謄本で複数の所有者が存在しないか、銀行等の担保設定が残っていないかの確認が必要。
-
境界確認
昔から住んでいる場合、隣地境界があいまいだったり境界ブロックが境界線の真ん中に造られているケースがあり。道路の境界も実態とは異なるケースもあるので、公図や測量図でも確認したい。
築年数が古い中古住宅は、ほとんどが高齢者が住んできた建物です。そこで生まれ育った子供たちも独立し、実家を継ぐ人がいない状況だと想像されます。金銭的余裕がなく自宅を手放す人が多いため、近隣との関係も含めて周辺の状況把握をしておいたほうがいいでしょう。
上下水道等のインフラはすでにあるので、付帯工事費は抑えられる可能性があり、また液状化が懸念される低地でなければ、地盤も安定している可能性が高いのが古家付の中古物件です。
老朽化した木造アパートは盲点!
一戸建て住宅を入手したいから、中古住宅も「売り物件」ばかり探しがちです。しかし実は「賃貸物件」の中でもお宝物件が眠っているケースがあるのです。それが老朽化して入居者の少ない『木造賃貸アパート』です。
昔の賃貸アパートは、敷地内に駐車場も用意していない建物が数多くありました。上記の画像もそのようなアパートの一つです。
昭和の時代に建てられた賃貸アパートは、郊外にスプロール化する前から賃貸ニーズがあった地域です。地域密着型のスーパーや地元商店などもあり、比較的利便性の高い場所なので、地価自体は下がりにくい場所だと想像されます。
すでにアパートを建築した家主ご本人は現役を引退され、すでに亡くなられて親族が相続されているケースがほとんどでしょう。周りも高齢化して、古い建物が多いエリアなので、若い世代の人たちが現地に行くと「衰退しつつある街」のイメージを感じるかも知れません。しかしそこが狙い目で、老朽化した建物と街の雰囲気で価格交渉によって安く土地取得できる可能性があるのです。
相続したアパートのオーナー自体、すでに近隣に住んでおらず大都市圏で暮らし、わずかな賃料収入を得ていたとしても、古い入居者が退去するとなかなか新しい入居者が入りません。建物を壊して更地にすれば、解体費用も掛かる上に固定資産税や都市計画税が跳ね上がり5倍程度の負担増になるから、当面放置しているというケースが良くあります。
木賃アパートの背景と購入のポイント
このような木造アパートは、長く住んでいる高齢者や低賃金の人たちがほとんどです。
家主としては、新しい入居者に入ってもらいたいものの、大規模リフォームなどの再投資も出来ず、今の入居者が自ら退去するのを待ってから活用方法を考えています。しかし古い賃貸契約では、借主(入居者)の権利が強く「正当事由」がなければ入居更新をせざるを得ません。正当事由があっても、次の生活のために引っ越し費用や移転補償をしなければならないため、老朽化に任せて放置しているケースが多いのです。
入居者募集の告知をしている老朽化した木賃アパートを見つけたら、賃貸管理している不動産会社に状況を聞いてみましょう。
入居者が1人か2人程度であれば、交渉して立ち退いてもらうことは可能です。家主自身の自己都合であれば、入居者はこれまで支払ってきた賃料もあり、移転補償を出来るだけ多くもらわないと退去しないという「感情」が働きます。
しかし「アパートも持ちこたえられないから売却予定です」となれば、家主の家計も苦しいのではないかと理解し、新しく住宅ローンを組んでこの老朽化したアパートを買う若い人たちに大きな負担を掛けずに引っ越そうかという感情も芽生えます。
家賃自体安いので、数か月分の家賃負担や引っ越し費用を補償として申し出ても大きな負担にはなりません。その分、不動産価格の値引き交渉も可能です。
NEXT:土地契約から決済まで
土地契約から決済まで
以下が、土地を見つけて具体的に外部のプロに依頼する一般的な流れです。
順を追って解説していきます。
土地購入のフロー
-
買付証明(購入予約)
土地が気に入ったら、売り主側に「購入意思」を文章で伝えます。
この時点では自分たちの代理人として仲介業者(買い主側の不動産エージェント)を決めて、事前に敷地周辺の調査や法的な制約等を確認してもらいます。あまりのんびり構えていると、他の方に先に予約されてしまう可能性があるので、先に物件を押さえましょう。売り主側も買い主側も、法的には何の拘束もされないのでキャンセルも自由ですが、先に文章(「買付証明書」)で購入意思を伝えた相手が優先交渉先となります。
必ずしも相手が売りたい価格に合わせる必要はなく、ご自分たちが「この金額だったら買う」という強気の価格で交渉も可です。とはいえ後から購入意思を伝えた別の購入希望者が、元の売却希望価格で買うという申し出があれば、優先交渉権は高いほうに移る可能性が大です。
この段階では、一般的に手付金等のお金の準備は不要です。建売りや分譲マンション等では「予約」として申込み証拠金が必要となるケースもありますが、土地の場合は比較的早い段階で契約に進むので、契約時に手付金を支払います。
-
住宅ローン「事前審査」
土地をキャッシュで買える人は別ですが、土地代程度の現金を持っていても「住宅ローン」を組む方がほとんどでしょうから、金融機関に融資の事前審査をお願いします。優先順位として、給与振り込みや公共料金の引き落としなどで利用している金融機関の『住宅ローンセンター』に行って相談して下さい。平日の3時までしか空いていない銀行も、住宅ローンセンターは土日も営業しています。
この時点では実際にその銀行から借り入れするかどうかは決めず、実際の自分の支払い能力を審査してもらいます。金利の変動に関わりなく、各金融機関によって概ね3%程度の金利になっても返済可能か、返済負担率から借り入れ可能な額を査定してくれます。土地代だけでなく概算の建築費も試算して、総額を出したうえで自己資金を引き、融資希望額を申請します。
少し余裕を持った額で申請しておかなければ、後で建築費が予想外に増えた場合、再審査となり希望額が借入れできなくなる可能性もあります。事前審査の額よりも実際の借入額が少なければスムーズに運びます。同時に2行程度で事前審査してもらうのは構いませんが、タイミングが大きくずれたり、それ以上複数行で比較すると、与信調査を行っている『信用保証会社』に調査履歴が残り「この人は他行で断られた人かも?」と思われて否決されるケースもあるようです。
注文住宅の坪単価や価格の目安が知りたい方は、私が書いた『注文住宅の予算把握と交渉術』をお読み下さい。
-
土地契約
土地契約に際して、事前に『重要事項説明』を受けます。「宅地建物取引士」が自分の免許証を提示し、物件の概要やお金の支払い、瑕疵担保責任等を書面を交付して説明します。
契約は基本的に「売り主」と売り主側の不動産会社(宅建業者)そして「買い主」と同じく買い主側の不動産会社(宅建業者)の4者が一堂に会して契約書に署名・捺印し、収入印紙に割り印を押します。所有者(売り主)が遠方で立ち会えない場合、事前に契約書を送り仲介の宅建業者が対応するケースもあります。
概ね物件価格の1割程度の現金を契約手付金として用意し『領収証』を発行します。手付金が1千万円を超えるような高額の土地の場合は、保全措置(弁済保証)を業界団体の保証機関が行いますが、個人の戸建住宅ではせいぜい2~300万円程度の準備で契約締結です。仮に住宅ローンの審査が通らないなど契約がキャンセルになった場合も間違いなく返済されます。
全ての土地代を払い込む『決済日』と、住宅ローンの審査が否決された場合にキャンセルできる期限『住宅ローン特約』などは特に注意して実行日を決めましょう。土地契約後に住宅のプラン作成や住宅ローンの本申し込みをするので、契約から決済までは1か月以上、出来れば2か月程度の余裕期間をみてもらったほうがいいでしょう。
-
建物プランニング
原則、土地の契約をして初めて敷地に立ち入ることが可能です。
よく「土地を買う前に地盤調査をしてもらいましょう」と書かれているページも目に入りますが、あくまで土地代金を支払って所有権移転するまでは売り主の土地です。無断で勝手に他人の土地に立ち入ることは出来ないのが原則ですが、契約を交わして以降に事前に了解を得れば立ち入って測量や草刈り等をすることは可能です。
ただし地盤調査(地耐力検査)については、建物の形状と配置が決まって、建物の四隅と重心の荷重が敷地のどこに掛かるのかが分からないうちに計測しても無意味です。地盤調査自体は5万円程度で可能であり、早く調査してもプランが固まってから計測しても検査結果も改良費用も変わらないので、施工者が決まり確認申請を提出する段階で構いません。
建物のプランニングに関しては、以前書いた『新築一戸建ての間取り8つのチェックポイント』をご覧下さい。
-
住宅ローン「本審査」
建物のプランニングで、ようやく自分たちが住む家の形がイメージ出来てきますが、自由設計の注文住宅なのでなかなか「一発OK!」とはいかず、しっくりくる間取りになるまで何度かプランを出してもらうでしょう。住宅ローンの本審査には、可能であれば施工をお願いする住宅会社と交わした『工事請負契約書』を用意するか、最低でも設計図書と見積書が必要です。
フラット35の場合は工事予定金額が分かる見積書と、確かに購入予定の土地で家の建築をするという設計図があれば、本審査も可能ですが、銀行によってプロパー融資で「契約書も必要」という金融機関もあります。従って、少なくとも土地決済(土地代金の残金精算)日の半月前(15日前)には、ほぼプランと見積書が揃い、必要書類を揃えて銀行に融資審査をしてもらう必要があります。
-
つなぎ融資申込み
『つなぎ融資』とは、土地代金精算のための短期融資です。
金融機関と「金銭消費貸借契約」(通称:金消契約/きんしょうけいやく)を結びます。通常、住宅ローンは、融資対象となる”建物が完成し、銀行が担保設定を登記”してから、初めて融資が実行されます。返済のスタートも、入居後以降に元利均等で月払いとなります。しかし、土地の所有権移転時に、土地代の残金を払い込まなければ土地は自分のものになりません。現金で賄えない分は「つなぎ融資」として、銀行から短期(1年以内)で借り入れます。
基本的には、住宅ローン金利よりも少し高い金利で、たとえば半年分の金利のみを先払いする形で土地代金の融資を実行する手続きです。土地と建物一体で住宅ローンを申し込めば、月々の支払いは完成以降で構わないということです。建築の契約後にも、中間金等で「つなぎ融資」の手続きを取る場合もありますので、何度つなぎ融資が可能か、金融機関にお確かめ下さい。
最近では、ローン金利の安いネットバンク、住宅ローン専門のモーゲージバンクなどもあり、ご自身で手続きをされる方もいらっしゃいますが、決済日に遅れないよう早めに手続きを開始して下さい。ネットバンクの中には、土地代金決済のための『つなぎ融資』は不可のところもあります。出来れば地元在住の住宅ローンアドバイザーや『モーゲージプランナー』などをネットで調べ、助言してもらうといいでしょう。
-
土地決済(所有権移転)
土地の売買は、お金の支払いと所有権移転登記は「同時履行」が原則です。
一般的には、つなぎ融資をお願いする銀行の支店の会議室等を借りて、契約時と同じ関係者4者と銀行担当者、そして登記手続きをする司法書士が待機し、土地代金の振込依頼をします。金銭授受が確認出来たら、同日中にその土地を所轄する法務局で、委任状を預かった司法書士により所有権移転登記の手続きを行います。この手続きを終えて、晴れて契約した土地はあなたの所有として法的にも認められます。登記簿謄本は後日準備してお渡しされます。
所有権移転が出来て、初めて地盤調査や地鎮祭などを行うことが可能となります。
アパート建築や駐車場利用など、収益目的は金利の高い別のローンになることもあって、土地決済の時点で戸建て住宅の設計図と見積書が要求されます。それを理由に「先に契約を結ばないと土地決済が出来ない」とスピード契約を迫る悪質な営業マンもいますが、土地と建物のローンを2本に分けて、建物はじっくり検討することも可能です。
NEXT:いつ建築業者に打診するか
いつ建築業者に打診するか
ある程度購入したい土地の目星がついた段階で、宅建免許を持つ不動産会社に声を掛け、物件の詳細調査(「デューデリジェンス」といいます)をお願いして、土地売買の仲介を依頼します。ではどの段階で建築業者に声掛けすればいいのでしょうか?
私がネット上で調べると「最初に自分たちが建てたい家を実現してもらえそうな建築会社を探し、そこに土地探しも一緒にしてもらったほうがいい」という経験者のコメントが数多くありました。その対象は、大手のハウスメーカーの場合もあれば、木造系で高気密高断熱等に強い工務店や、デザインセンスのいい設計事務所など、いずれにしても「住宅建築のパートナーを先に決めましょう」という意見です。
住宅建築をどこに頼むか、どの段階で相談するかは個人の自由ですが、300組以上の住宅建築の相談対応をしてきた私の経験から、出来るだけ最後まで施主側に「選択肢」があり、自分が意思決定できる状態を確保することが賢い家づくり、後悔のない住宅取得に繋がると思います。つまり最初から1社に絞らないほうが知識が増え、失敗が減るでしょう。
先に「建築依頼先を決める」ことの是非
土地探しをしている段階から、住宅建築に詳しいプロが寄り添って土地選びの助言をもらえたら個人にとっては安心です。土地購入の失敗のリスクは少なくなり、明るさや眺望などを確かめながら、予算オーバーしないようにいい土地が見つかるかも知れません。
先に建築依頼先を決めてしまうことのメリット・デメリットを整理してみましょう。
建築依頼先を早く決める「メリット」
-
建築的視点で土地の良し悪しの判断をしてもらえる
不動産の仲介業者だけだったら、どのような建物が建つのかが曖昧なまま進み、実際に希望通りの家が建てられないリスクがある。建築が分かるプロがいれば、そのリスクを回避できそう。
-
土地と建物の価格の適切なバランス
不動産の営業マンは出来るだけ早く契約でき、仲介手数料自体も大きいに越したことがないから、予算オーバーでも南向きで環境のいい高い物件を勧めがち。土地代に費やした200~300万円を建築費で減額すると何かをあきらめるようになるから、コストバランスを考えた土地選びが可能。
-
条件が悪い土地でもアイディアがもらえる
住宅設計の経験が豊富であれば、北向きの敷地や狭小地、変形敷地でも、工夫次第で快適な住まいが出来る可能性がある。「匠」が登場するテレビ番組の見過ぎかもしれないが、そうすれば土地の購入費用は圧縮できる。
-
土地探しが楽しくなる
注文住宅用地は、更地や古家のある土地ばかりなのでマイホームのイメージが湧きづらい。魅力的な物件はすでに他人が住んでおり、いい物件が見つからないと徐々にテンションが落ちてきがち。十分な知識もないままに、不動産の営業マンに勧められる土地で数千万円もの購入を自分一人の意思決定でするのはさらに気が重くなる。雑誌などで目にする新居の夢を見ながら土地探しをするためには、先に建築依頼先を決めておいたほうが楽しく土地探しが出来る。
-
住宅ローンの申し込みなどがスムーズ
土地の購入時に、土地代金支払いのための資金調達が難問。
早めにプランを先行し、建築予算も把握できれば、融資実行もスムーズ。
建築依頼先を早く決める「デメリット」
ものごとにはメリットがあればデメリットも隠されているのが通例です。
-
住宅会社であっても「営業マン」じゃないの?
建築の知識や経験を有している建築士(設計者)や施工管理技士(現場監督等)は、実際に契約したお客さんの対応が優先される。海外視察でプロの通訳兼ガイドを頼めばその場でお金が必要だし、タクシーでの移動でも距離と拘束時間で料金がチャージされる。お金の支払いが約束されない無償サービスで、移動や調査に時間を費やしてくれるのは、基本的には「受注目的で給与をいただいている」営業マンしかいない。
-
ほぼ建築条件付になってしまう
ハウスメーカーの営業マンであれば、ある程度住宅建築の知識もあり宅建士等の有資格者も多い。提携先の不動産会社もあるから土地情報も持ってきてくれる可能性が高い。当初はその会社がいいと考えていても、プランが気に入らない、見積金額が高過ぎるとなってもその会社から逃げられなくなる。逃げられないようにすることこそ、営業マンの最も重要な仕事。
-
ほぼ確実に建築費が高くなる
公共事業で特命(特定の1社だけのご指名)であれば、間違いなく競争原理が働かない。
さらに土地探しに関しても、宅建業の許可を持っていて、正規の「仲介手数料」を得てサポートする業者であればその後の建築は分けて考えられるが、その約束無しに土地探しから付き合っていれば、上記の通り目に見えない間接経費はどこかの段階で誰かが負担しなければならない。正規の仲介手数料を払っても、競争原理が働かない状態であれば建築費が割高になり、無償サービスで時間拘束が多いほど、もっと高い建築費の負担を覚悟しなければならない。あなたが魅力と感じた施工事例は、その高額な金額を負担した家族の事例だから見栄えのいい家になっている。
特に設計事務所は、汎用品の建築部材を使わず、完成した時の写真映りがいいような特注の部材や造り付け家具を設計しがちなので、工事費自体も高くなりがちです。しかも設計料も掛かるため、土地価格を抑えなければ仕事が得られず、条件の悪い土地を選ぶから、さらに特殊な計画で建築費が割高になるという悪循環も見受けられます。
このような悪循環、デメリットを断ち切るためには、出来るだけ工事の契約をするまでは、施主自身が「複数の選択肢」を持ち、自分自身の意思決定で「業者選びが出来る余地」を持っておくことです。参考までに私が運営しているサービスのホームページの「助言」をリンクしておきます。
若本修治の住宅コラム『理性で家を買おう』-住宅CMサービス広島
まとめ
-
土地探しは「椅子取りゲーム」と心得る
どの椅子を取るか狙い定めなければなかなか取れない
-
建築条件付の土地は、条件を外せるか打診しよう
立地条件や敷地形状がいい土地は条件が付けられる
目に見えない手数料や報酬の負担と得られるメリットを比較する -
古家付の中古住宅が狙い目
特に空室がある老朽化した木造賃貸アパートはお宝物件かも?
-
土地の住宅ローンは注意が必要
本審査とつなぎ融資のタイミングは早めに!
-
建築依頼先選びとタイミング
タダで土地探しを依頼するのは結局高くつく!