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二世帯住宅のトータル価格を抑える5つのヒント【若本修治の住宅取得講座ー11】

戦後の日本は主要都市が破壊され「住宅不足」から戦後復興がスタートしました。
昭和三十年代にはプレハブ住宅メーカーが次々と生まれ、昭和43年には住宅不足は解消したものの、その後も年間100万戸を超える住宅が毎年供給されました。所得倍増計画による経済成長と、戦後生まれの『団塊世代』の旺盛な持ち家志向によって、全国でマイホームを持つ家族が増えたのです。

今や、日本全国で800万戸の住宅余りになり空き家も増えてきました。
すでに住宅は十分過ぎるほどの数があるものの、建物自体は老朽化し、現在の耐震基準に満たない住宅も増えています。土地神話によって土地価格が上昇し、郊外にスプロール化した戸建住宅も、通勤や買い物には不便となりました。住宅取得も徐々に「都心回帰」が顕著で「都市近郊」の利便性の高い地域で求めるようになってきたのです。

持ち家志向が高かった団塊世代では「核家族化」が進み、その子供たち(団塊ジュニア層)が自分の家を持ちたい年齢になった頃には地価も沈静化したものの、デフレ経済が続き、収入のアップも見込めなくなったのです。自分たちが育った実家があるのに、高騰した土地価格を負担して新たに注文住宅を建てるのはリスクだと考えた人たちが、古くなった実家の建て替えと併せて『二世帯同居』で土地代を浮かす二世帯住宅が次第に増えてきました。

そんなニーズに合わせて、大手ハウスメーカーも二世帯住宅の商品を出し、今も二世帯住宅を検討する人が数多くいらっしゃいます。私も数多くの二世帯同居の相談に応じて、様々な二世帯住宅建築のサポートを行っているので、これから検討される方向けにポイントをまとめてみました。

二世帯住宅はなぜ高くなるのか?

すでに住宅展示場に行って各ハウスメーカーのカタログを集め、実際に話を聞かれた方もいらっしゃると思います。二世帯住宅を建てる多くの方は、親が所有している土地で実家を解体して”家を建替える”ケースがほとんどなので、土地負担がない分建物建築費は子世帯の負担となることが一般的です。

恐らく自分たちが当初予定していた以上に建築費が掛かると言われるケースのほうが多いため、なぜ価格が高くなるのかその理由を探ってみたいと思います。

最低床面積が大きい

二世帯住宅といっても、(1)玄関も分けて違う所帯の住宅とする『完全分離型』と、(2)LDKや浴室など生活空間は分けるものの玄関は1つとする『部分供用型』、そしてあたかも「核家族」のように(3)水回りも含めた家族の生活空間はひとつで、寝室や子供部屋などのプライベート空間だけ個々に設ける『同居型』に分かれます。アニメのサザエさんの磯野家のような大家族の家ですね。いずれにしても住む人の人数が多いので、個室の部屋数が増えて最低床面積は単世帯の住宅よりも大きくなります。

特に、生活空間を世帯で分ける場合は、玄関は共用でもそれぞれの世帯で25坪程度の床面積、部屋数は確保したくなるため、建物が50坪を超えるケースが多いようです。核家族の単世帯であれば5~6人家族でも通常は40坪前後で収まります。

解体費用や水道引込みなど
付帯工事費用の増額

二世帯住宅を建てる場合、古くなった自宅を売却して新たに土地を買い求めるケースでも、古い家が建っている中古住宅を買って建替えるというケースがほとんどです。建物解体費用はもとより、昔の家は水道も13ミリの配管で十分なケースが多く、新しく建てる家は以前よりも給水個所が多いため24ミリの給水引込みや水道メーターにやり替えとなり、付帯工事も大きくなりがちです。

解体費用も、廃棄物の種類によって細かく分別し、マニフェストをつけて最終処分場まで管理されるため、作業の手間や運搬費用が割高になっています。木造で解体しやすい条件であっても、古い建物の床面積×3万円程度の費用は予算化しておいたほうがいいでしょう。最低でも100万円の予算です。

営業のバイアス

自分たちは建築費を抑えたいと思っても、すでに土地を所有していて「土地代の負担がない」となれば、どうしても財布のひもが緩みます。情報収集のために行った住宅展示場の営業マンや設計事務所、工務店でも二世帯住宅を計画していると告げると、その時点で『優良見込み客』として、土地なし客と比較して建築費のグレードが上がります。

特に住宅展示場に出展しているハウスメーカーにとっては、土地を所有して逃げることがない見込み客が向こうからやってきて、しかも親世帯はすでに仕事から引退しているので、いつでも世間話の相手として営業を受け入れてくれるケースがほとんどです。この優良見込み客を逃がしたら、営業会議でこってり絞られるから、頼んでもいないのに敷地の調査地耐力検査参考プランの作成から概算見積まで、訪問理由をつくって積極的にアプローチしてきます。

普通はお金を請求されることはありませんが、会社としては人件費も外注費も掛かっているから、どのくらいの売上が予定されて利益確保の計算までして営業攻勢をしているのは間違いありません。親世帯と子世帯と、意見の衝突や要望の食い違いは日常茶飯事だから、何度も設計変更し、仕様選びもとん挫することは織り込み済みの予算が計上されるのです。

だから、ハウスメーカーで二世帯住宅を建てる場合は特に、親世帯と子世帯の生活時間の違いから好みの違いなど、ほぼ『完全自由設計』となるため、メーカーの標準的な坪単価や建築本体工事では収まりません。オプションや特注工事、造り付け家具などコストアップ要因が次々と発生するのが二世帯住宅です。

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平屋の家でも似たような状況となります。
以前書いた平屋の間取りと建築費も参考にして下さい。

平屋の間取りと建築費【若本修治の住宅取得講座ー10】

2018.02.21

NEXT:二世帯住宅の価格の内訳を考える

二世帯住宅の価格の内訳を考える

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ではもう少し細かく建築費の内訳までみていきましょう。
大きく1.完全分離型、2.一部共用型、3.同居型に分けて解説していきます。

完全分離型二世帯住宅

他人同士が住む賃貸アパートと同様、それぞれが完全に行き来できないよう、玄関からすべて分離して建物自体は1棟になった住宅。左右分離と上下分離があり、左右分離では土地の広さが、上下分離では外部階段が必要となるケースがほとんどです。

上下分離型二世帯住宅の事例。間口が狭いため2階への外部階段を正面に設置している。

写真の二世帯住宅は、繁華街にお住まいだったご家族の建替え事例。防火地域で一般的には鉄骨造や鉄筋コンクリート造で考えるところです。しかしコスト面や柱や壁の厚みで居室面積が小さくなるのを避けるため、木造で計画しました。しかも合計100mを超えると防火の規制がより厳しくなるため、上下階とも50m未満に収めるよう、階段は外部に設けて各階15坪未満の間取りとしています。

この建物を前提にコストアップした部分を見てみましょう。
それぞれが2つ必要な部分がプラスになります。

(1) 玄関ドア 約20万円プラス

(2) キッチン 約50万円プラス

(3) ユニットバス 約40万円プラス

(4) 洗面台 約5万円プラス

(5) 給湯器(エコキュート) 約40万円プラス

(6) 外部鉄骨階段(取付け費含む) 約60万円プラス

(7) 室内階段 約15万円マイナス

(8) 床面積増加分(LDK12帖+浴室・洗面4帖) 約400万円プラス ※8坪×50万円

(9) 内部建具ほか二世帯増額調整 約20万円プラス

【合計プラスマイナス】約620万円のプラス

トイレは単世帯の二階建て住宅でも2階設置の事例が多いことを考え、トイレ以外の水回り機器が2台設置で差額を計算しました。もちろんご家族の身体的理由やご希望で特殊工事やオプション工事が発生すればもっと差額は大きくなるでしょう。換気システムを含めた空調機器や照明器具も増えますので、上記金額を基本として余裕を持った予算確保をお勧めします。

一部供用型二世帯住宅

玄関だけ共有して、室内階段で上下階で世帯を分けて、それぞれのフロアにキッチンも浴室・洗面も設置するケースもあれば、キッチンまで共有して、お風呂や洗面などは別々にするなど、家族関係によって変わってくるのがこの「一部供用型」の住宅です。

奥さん(娘さん)の実家を建替えて同居する場合には、キッチンはお母さんと一緒にするケースが多く、ご主人(息子さん)の実家の土地で家を建てる場合には、嫁と姑との関係もあって、少なくとも生活空間はすべて分離してお互いあまり干渉しなくて済むような間取りにするケースが多いようです。いずれにしても、コストアップ要因は床面積増住宅設備機器の追加価格が大半です。

自然素材でナチュラルな雰囲気をつくった3階LDK。壁は時間的余裕のあるお父さんが漆喰塗をされました。

画像の事例は奥さん(長女)の実家を建替えて三階建ての二世帯住宅建築をしたケース。
1階は親世帯の生活が完結するように、キッチンや浴室・洗面などすべて配置し、居室はLDK+和室。2階は両世帯の個室と納戸など就寝する部屋が並び、見晴らしのいい最上階に娘さん家族のLDKを計画しました。浴室と洗面はお互いの生活時間にずれがあるので共用で1か所でOKです。皆の就寝は2階なので、真夜中や早朝に風呂に入っても気になりません。最上階にLDKを計画すると、勾配天井なども出来て開放感が得られます。

(1) キッチン(カップボード含む) 約100万円プラス

(2) 床面積増加(LDK20帖) 約500万円プラス ※10坪×50万円

(3) 外部サッシや内部建具ほか二世帯増額調整 約40万円プラス

【合計プラスマイナス】約640万円のプラス

キッチンを別々にするケースでは、親世帯は昔のようにキッチンを「壁付」にしてダイニングテーブルを並べて置く間取りでも、DK(ダイニングキッチン)6帖とL(リビング)6帖の12帖(=6坪)は床面積が増えてしまいます。設備機器を除く建築と仕上げのみで建物坪単価を50万円で考えても、床面積増加分+それぞれの住宅設備機器がプラスされます。

こちらの家で、仮に浴室・洗面も別々で設置していたら、床面積増加分の建築費が約100万円住宅設備機器の追加が約60万円で、単世帯の住宅よりも800万円ほど負担増になっていたでしょう。親の土地を利用する対価として、800万円分の建築費負担を若い子世帯が返済していくと考えれば、土地価格によって損得勘定の計算は成り立ちます。後は、孫の面倒を見てもらうことなども含めて、同じ敷地で済む家族間の関係やメリット・デメリットで判断して下さい。

完全同居型

完全同居型の二世帯住宅は、核家族化が進む前には普通だった「大家族」の家です。

大人の部屋が複数必要で、1階に広めの和室と床の間・仏間空間など床面積の増加以外には、コストアップ要因はほとんどありません。とはいえ、親の土地を使わせてもらう遠慮や気遣いから、親が現役世代にはやりたくても時間やお金で我慢した趣味の部屋を作ってあげるという親孝行の表し方もあるでしょう。

また、将来体が不自由になった時のことを考えて、廊下幅を広げたりトイレを広めにつくったり、玄関アプローチにスロープを設けるなど、バリアフリー化にもコスト増要因は出てきます。

画像のご家族は、奥さんのご両親が実家の土地・建物を売却して、ご夫婦の職場がある広島県内に移住してきた事例。男の子ばかり4人の孫に囲まれ、おじいちゃんは趣味のジャズを思い切って楽しめるオーディオルームを、ばあちゃんは師範代にもなっているお茶の教室が出来るよう、和室に炉を切って生徒さんたちも訪ねてこられる独立した部屋もつくりました。

部屋の広さ+それぞれの用途に応じた防音性能や和風仕上等のグレードアップ分がプラス要因です。

完全同居型の場合は、土地や建物が大きくなりがちで、固定資産税等が『小規模住宅用地』としての要件(200m以下の部分で標準課税の6分の1に軽減)を満たさず、一部負担増になるケースがあります。建物については税計算で減価償却されることもあり100坪クラスの大邸宅や店舗併用の二世帯住宅でなければ大きな負担にはならないでしょう。

NEXT:二世帯住宅の共用部分と独立部分

二世帯住宅の共用部分と独立部分

前ページの「価格の内訳」で見てもらった通り、二世帯住宅の建築コストのポイントは、お互いが『独立した家庭』として、それぞれの家族が必要な部屋や住宅設備機器をすべて世帯ごとに揃えるのか、それともいくつかの機能や空間のみを共用するのかで工事金額は大きく変わってきます。設備機器の費用よりも、むしろ部屋を確保することでの床面積の増加分が100万円単位でコストアップに繋がります。

生活時間を考える

例え家族や親子だと言っても、血のつながった実の親子であれば気にならないことでも義理の父母であれば、すべての生活が一緒で筒抜けなのは心配です。特に家庭内のちょっとしたことがストレスに感じるのは女性のほうが多いのではないでしょうか?全く価値観や相性が合わないのであれば、同じ屋根の下はおろか、同じ敷地内でも一緒に住まないほうがいいでしょうが、生活時間が異なれば、やはり嫁か姑のどちらかにストレスが溜まりがちです。

まずは一週間の大まかな生活のリズムを家族ごとで整理していきましょう。
起床時間から朝食までの過ごし方、朝食後から外出までの時間の使い方と部屋への移動といったことを1日24時間の棒グラフ(ガンチャート)に落とし込みます。平日と休日(週末)でどのような傾向が現れるか、ざっくりと把握できると、例えばお風呂や洗面で時間が重なるのか否か、分けたほうがいいのか判断材料が揃います。

一番建築コストに影響するのが、キッチンを親世帯、子世帯で別々に設けるか、それとも共用で使うかです。キッチンを別々にすると、床面積が大きくなるのはもとより、カップボード(食器棚)からダイニングテーブル、冷蔵庫やキッチン家電なども全てが倍必要になります。料理をする時間帯が同じで、本物の母娘がキッチンを使うのであれば、キッチン周りをぐるりと回って2~3人でも調理が出来る『アイランド型』のキッチンにして、大家族で食事をするのもいいでしょう。

間口の狭い狭小地で二世帯住宅を建てた事例。母娘なのでキッチンは共有として、両面から使えるアイランドキッチンを採用。

親世帯の夕食の時間が早く、子世帯のご主人の帰りが遅いなど、食事の時間帯が大きく変わる場合は、リビングでのくつろぎ方や見るテレビも違う可能性が高いから、それぞれの世帯で別々にLDKを設けたほうがいいでしょうね。費用対効果と家族のライフスタイルで判断して下さい。

生活動線を考える

家族それぞれの生活時間が把握できたら、特に家事をする主婦の家事動線の重なりや距離などを考えてみましょう。
食事の準備から片付け、お掃除や洗濯はどのルートが効率が良く、洗濯物を干して部屋の中に取り込み、どこに吊るして片付けるか・・・。お風呂の準備から着替えやタオルの用意、ちょっとした移動でも、毎日のことになると間取りで家事効率が全く変わってきます。

キッチンの片付けとお洗濯を同じ時間帯で一気にしたいという「時間節約型」の主婦にとっては、動線が短いことが優先され、同じフロアの出来るだけ近い場所にキッチンと浴室・洗面を配置したいという希望を頂きます。

一方で、料理の準備から片付けまで、子供たちの様子を把握したいので、キッチンからほとんど移動することなく司令塔のようにキッチンからリビング全体を見渡したいというご要望も良くあります。お掃除や洗濯は、お皿などキッチンを片付けて少し休憩後にする場合は、浴室・洗面がキッチン近くにある必然性はありません。水分を含んだ洗濯物を2階バルコニーまで運ぶことを考えると、2階に浴室や洗面所、ランドリースペースを設けたいという要望も増えてきました。

2階に洗面・浴室とランドリースペースを設けた事例。バルコニーへの出入り口があり、洗濯物も目隠しの格子で視線や雨風を防げる。右側の白い内装ドアはトイレへの入り口

このような場合は、両親がお風呂や洗面の都度、2階に上がってくるということはあまり考えられません。だから2世帯で水回りを分離したほうがいいでしょう。階段を使うのもほとんど子世帯に限られ、お互い自由な時間にお風呂や洗濯などを済ませることが可能です。

プライベートの確保で考える

調理や食事は「男の料理教室」などもあって、家族以外の他人と一緒に食事することも、また男性がキッチンを使うことも少なくありません。しかし基本的には浴室や洗面は一人だけが使う家族のプライベート空間。米国では、ベッドルームの数と同じくらいバスルームかシャワールームを備えています。日本では不動産広告でも「○LDK」で部屋の数を示しますが、アメリカではベッドルームとバスルームの数が表示されるくらいです。

友人や仕事関係の人たちを自宅に招く機会が多いアメリカの住まいは、1Fはソーシャルな空間、つまりSNSのように個人の空間でありながら、限定的に開かれた社会性のある空間だとされています。プライベートな空間である個室やバスルーム等は切り離されて2階に分離されているのが一般的です。

そう考えると、キッチンやダイニングは家族に限らず友人たちも招いて料理を手伝ってもらう空間として、二世帯住宅でも家族みんなが使えるようにし、お風呂やトイレはそれぞれの個室に付属するアメリカ的発想もありでしょう。

米国シアトル郊外のイサクワハイランドの分譲地に建つモデルホーム。メインベッドルームには夫婦だけの空間として立派なバスルームが必ず併設されている。

日本も昔は風呂のない家が多く、銭湯を利用していたことを考えても、今後の日本の家の進化形は、複数のバスルームやシャワーブースがあるという方向になるかも知れませんね!ちなみにアメリカでは洗濯物を外に干すという習慣がありません。黄砂やスギ花粉、PM2.5などで汚染が激しい日本でも、将来的には「ランドリールーム」を独立させ、室内で乾燥させる時代が来る予感もします。

NEXT:二世帯住宅の将来の活用方法を考える

二世帯住宅の将来の活用方法を考える

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大多数が親の土地を利用する二世帯住宅は、一人っ子で兄弟姉妹がいないのであれば新築時の問題は少ないものの、兄弟姉妹がいれば将来親が亡くなった時に相続の問題が発生するケースがあります。さらにその頃には子供たちも成長して家を離れ、二世帯住宅で生活するのは夫婦だけか、片方の親の2~3人になった時のことも考えておく必要があるでしょう。

相続トラブルを避けよう!

二世帯住宅を建てようと考えた時、お盆や正月に帰省してきた兄弟たちに伝えると、大反対に遭うケースがあります。仮に親の介護で長い期間大きな負担があったとしても、兄弟には相続の『遺留分の権利』があるため、一定の財産分与を請求され家族内で争うことになり兼ねません。(詳しくは専門サイトで検索して下さい)

実家の土地で新築を建てて多額のローンを負い、その後親が亡くなって相続税の支払い請求と建物のローン返済が重なるという最悪の事態は、かなりの資産家でなければ遭遇しません。しかし新築を建てる段階で親が子供たちに保有資産をきちんと伝えていないケースも多々あり、税理士等の専門家に入ってもらい資産の査定をしてもらったほうがいいでしょう。親の財産が少ないからといっても、油断は禁物。兄弟から『遺留分の減殺請求』をされたら、例え数百万円でも現金を要求されることになり兼ねないのです。

このようなケースで大手ハウスメーカーの展示場で相談してしまうと「じゃあ相続税対策も兼ねて敷地内にアパートを建てましょう♪」と、背負わないでもいい大きな借金でアパート経営をさせられるハメになりますので、ご注意下さい。すでに空き家の増加や人口減少でアパート経営はリスクの高い事業になっています。

最初に出口戦略を考える

米国人は、個人が住む住宅であっても「投資」という発想をします。
超長期に低金利でお金が借りられる住宅取得は、不動産という現物もあり、人生で最大で安全性の高い資産形成のチャンスだと捉えているのです。投資なので、当然一生持ち続けることはせず、将来の売却を前提に一定期間所有したら、いかに高いタイミングで売れるかを考えます。つまり『出口戦略』を明確にした上で物件選びをしているのです。

なぜなら一生のうちに結婚から出産、子育てから子供たちの独立に至るまで、家族構成が変わり、それに伴ってライフスタイルも変わるから。考えてみれば、住む人数が変わっても同じ家に住み続けるより、必要な部屋数に合わせて家を移るほうが合理的です。そのために将来高く売れるロケーションや街並みを重視して購入するから、映画で見るような素敵な住環境が維持できているのです。

築10年未満で売り出されているアメリカの住宅。街路樹も大きくなり街が熟成してくると購入時よりも高く売却できるのが当然だという国なので、しっかりとメンテナンスもされている。

日本ではまだまだそんな発想は定着していないので、最長35年の住宅ローンが終わる頃には建物は老朽化し、建物自体の資産価値もゼロに等しく、その後も手放すことなく固定資産税を支払いながら一生住み潰す方がほとんどです。

しかし例え自分が負担して取得した訳ではない実家の土地であっても、二世帯住宅という規模が大きく建築費も高い家を建てる場合、10年後、20年後、30年後の家族構成の変化を予測し、その時点での自分たちの収入や老後資金なども考えて、最初にシナリオを用意しておいたほうがいいでしょう。将来、自分の子供たちが後継ぎとしてその家に住んでくれるのか、それとも土地ごと売却して高齢者向け施設で悠々自適暮らすことを考えるのか・・・。

でなければ、老朽化した建物の修繕・リフォームや維持管理費の負担、そして固定資産税支払いと、子供たちへの遺産相続でまた苦労することになり兼ねません。

賃貸経営可能な
完全分離型二世帯住宅

このように考えていくと、建築費の負担が大きく家族構成の変化も大きな二世帯住宅を建てる場合、将来の環境変化に柔軟に対応できる計画が欠かせないことが分かります。大家族でキッチンもお風呂も共有する『同居型』であれば、将来使わなくなる部屋や物置化する子供部屋が出てきても、お盆やお正月に家庭を持った子供たちが孫たちを連れ帰って、家族・親族間の絆を確かめることもできるでしょう。

しかし伴侶のどちらかが亡くなった場合、独居老人の一人暮らしとなった上に孫たちも成人したら、冠婚葬祭や法事くらいしか家族が集まる機会はなくなり、大きな家は持て余してしまいます。それは決して50年先の問題ではなく、それほど遠くない未来の姿です。

イギリスをはじめヨーロッパの国々の住宅を視察すると、郊外では一戸建ての住宅を目にするものの、市街地である程度住宅が密集してくると『セミデタッチド』とか『デュプレックス』と呼ばれる連棟の建物、一棟二戸の長屋形式の建物が増えてきます。それほど所得が多くない中間層の一般市民が、家計に無理のない範囲で住宅を取得して資産形成するために考えられた建物で、賃貸ではなく多くは建物の所有権を持った持ち家です。

日本のように『土地の所有』にこだわることがなく、より利便性が高く将来高く売却出来そうな立地で、土地利用が効率的で外壁面積を最小化することで建築コストの圧縮とエネルギーロスが少ない住宅を求めます。結果的に住居費負担が抑えられ、光熱費も少なくて売却のリターンが最大化します。

経済合理性を考えれば、それが賢い選択だと数多くの国民が知っているから、新築偏重・大手ハウスメーカーで建てるという日本は、世界で特殊なマーケットです。それぞれ独立住宅を建て、1棟を将来戸建て賃貸として貸す選択肢もありますが、欧米の合理的発想で考えれば区分所有方式での連棟がお勧めです。

ロンドン郊外で20世紀初めに開発されたレッチワースに並ぶセミデタッチドハウス。築後90年以上経った連棟住宅が現在でも高く取引されている。東京の田園調布の街づくりで模範にされた有名な住宅地だ。

上の画像の英国の住宅も、ページトップで表示されている薄いブルーのアメリカの家も、中間的所得層の人たちが住んでいるセミデタッチドハウス(連棟住宅)です。つまり1つの屋根の下別々の世帯が住んでいる「二世帯住宅」で、入居者が親族か他人かは建物形態に影響されません。

日本でも昭和四十~五十年代には、自宅を下宿にして学生に部屋を賃貸するという形態は、学生の街を中心に良くありました。その後バブルで地価が上昇し経済的にも豊かになった日本は、核家族化でプライバシーを重視して1家族のみが一戸建てに住むスタイルが増えました。しかしこれからの未来を考えると、一部の部屋を学生に賃貸するとか、親世帯が亡くなったらリフォームして他人に賃貸するなど、将来の維持管理や住宅ローンの残債を賃貸人に負担してもらうという発想も必要でしょう。

欧米の国々では、長いバケーションの間に自宅を貸したり、利用していない期間の別荘で収益を上げる『B&B(Bed and Breakfast)』という宿泊施設利用が盛んでした。それを世界レベルでサービス化したのが『シェアリングエコノミー』で有名になった『AirBnB』というアメリカ発のベンチャービジネスです。
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上下階分離の二世帯住宅も含めて、将来赤の他人に貸してもしっかりと家賃が取れることを想定した二世帯住宅をするのは賢い選択です。防音やプライバシー確保など、親子間でも確保しておきたい機能や性能を有しておけば、将来の不安は和らぎます。
ちなみに賃貸契約は、期限のある『定期借家契約』で結ぶのが基本です。

NEXT:生活のトータルコストを把握しよう!

生活のトータルコストを把握しよう!

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そもそも二世帯住宅を検討する動機は、経済的負担を抑えられるというのが挙げられるはず。でなければ実家の近所の「スープが冷めない距離」に居を構えたほうがお互い気兼ねなく生活することが可能で、家族の関係にマイナスはありません。
このページではトータルコストを考えていきましょう。

二世帯住宅の建築に掛かるコストは、なかなか自分たちでコントロールは出来ません。
せいぜい発注可能な予算を自分たちではじき、建物の規模やグレードなどを選択して、複数の会社から相見積で見積を比較してみることくらいでしょう。広島近郊であれば、私自身が競争入札を実施し、見積の中身の精査から現場着工後のインスペクションまで行う『住宅CMサービス広島』を利用できますが、それ以外のエリアでは個人が見積比較をするのは難しいと感じます。

建築費以外でも、二世帯住宅ならではの生活コストの見直しを考えたいですね!

生活に掛かる負担の抑制

毎月家計簿をつけている方であれば、毎月ほとんど変動がない「固定的支出」と変動の激しい「変動的(趣向的)支出」があることは気づいていらっしゃいます。住宅ローンや教育費、各種保険などは簡単に変わらない「固定的支出」です。二世帯同居によって建築時に将来的な家計支出を抑えられることが出来るものを抽出していきましょう。

  1. 水道光熱費及び通信費

    冷暖房や給湯に掛かる光熱費は、建物の向きや断熱性能(特に開口部の性能)に大きく影響を受けます。エネルギー争奪で戦争が起き、エネルギー相場が生活に影響を与えることを考えると、出来るだけ建築時に省エネの住宅を建てておきたいもの。

    断熱性能の高さだけでなく、外皮面積の最小かからエネルギーの時給・自家発電(ソーラーや燃料電池によるコジェネ等)も検討課題でしょう。省エネ性が高く実質エネルギー収支がゼロになる『ZEH住宅(ゼロ・エネルギー・ハウス)』などは、単世帯よりも多世帯で使うほうが1世帯当たりの負担が小さくなります。ソーラーであれば屋根面積が広いほど発電量が増え、投資効率も高まります。

    ドイツの環境都市フライブルク市を視察した時、20世帯程度の賃貸住宅で、屋根にソーラーパネルを載せ、地下室(地階)には機械室がある賃貸物件を見学しました。『パッシブハウス』と呼ばれる超省エネの建物に、マイクロガスタービンによる発電機から、共有のランドリースペースに業務用の洗濯乾燥機や大型冷凍庫が設置され、電気使用や水道利用が大きく共用で負担したほうが経済合理性があり環境負荷が小さいものは、投資効果を計算した上で大胆に採用していました。

    ドイツの賃貸住宅の地下機械室。写真は発電機で隣の部屋に業務用の洗濯乾燥機や大型冷凍庫等を設置していて共同利用されていた。地下は湿気対策が出来れば温度は安定しておりエネルギーロスが少ない。

    ドイツのように徹底できなくても、共同利用することで下げられる支出はいくつもあるでしょう。それは他人に賃貸しても共有も単独利用も選べて、単世帯が負担するより経済合理性がある支出です。上記の賃貸物件の設備投資は長くて11年、短ければ9年で投資が回収できると計算できたものを採用しています。
  2. 税負担の抑制

    不動産を所有していると、様々な税金が掛かってきます。
    新築時には不動産取得税から入居後の固定資産税・都市計画税、親からの生前贈与における贈与税から、親が亡くなった時に発生する可能性のある相続税など、それぞれの事情に応じて決して少なくない税負担が発生します。逆に『住宅ローン減税』など、一旦納付して還付される税金もあり、気づかないうちに大損をしている可能性もあるのが税金です。

    税率だけでなく、制度も毎年のように変更されるので、詳しくは専門サイトで調べていただくか、地元で改行している税理士さんに相談いただくとして、基本は書籍などで把握しておいたほうがいいでしょう。私が出演したフジテレビの『ホンマでっか!?TV』で、マネーの専門家として隣で回答された一級ファイナンシャル技能士(CFP)の竹下さくらさんなど、何冊か本を購入されることをお勧めします。

    「家を買おうかな」と思ったときにまず読む本 改訂第3版

    2013年11月に放映された『住宅購入トラブル』の出演者。画像の外になる左端にマーケッターの牛窪恵さん、そして「住宅購入評論家」として竹下さくらさんが並び、私が「戸建住宅評論家」として出演しました。

  3. 金利負担の抑制

    住宅ローンの金利もバカになりません。
    低金利だからと言って、営業マンの勧められるまま『変動金利』の定額ローンを組むと、将来金利上昇した時に、返済額が大きく変動し、負担しきれなくなる可能性もあります。今の収入がそのまま続くとは限らず、プロでも読めない金利の変動に一般市民が変化を先読みして損失回避などは出来ません。

    固定期間のある変動金利も、返済金額が変わらずとも金利自体は変動しているから、ローンの内訳の金利部分が大きく元金はほとんど減っていないということもあるのです。2千万円を借り入れたとして金利が0.3%づつ変動した場合の15年から35年間、5年刻みの返済金額を計算してみました。返済期間が長いほど、たった0.3%の変動でも100万円単位で返済額が増えるのが分かります。

    低金利と言われて不動産投資がブームになったバブル経済の頃の住宅ローン金利は5%前後でした。将来何が起こり、どう金利が変動するか分からないから10年を超える長期の借り入れは原則「固定金利」がお奨めです。

    住宅ローンを組む時、今の賃貸住宅の家賃を参考に返済額を設定する人も少なくありません。しかし二世帯住宅の場合は、将来の賃貸経営も視野に、出来るだけ早めに返済を終え、将来の家族構成の変動にも柔軟に対応できるようにしておくことを勧めます。しっかりとした維持管理でリフォーム資金も準備できていれば、いざという時に安心です。

    余裕がない人でも、住宅ローン減税で還付される資金(年末のローン残高の1%等)を生活に使わず、ローンの繰り上げ返済の原資に使うなど、出来るだけ余計な金利を払わず、早くローン完済を目指しましょう。返済額を減額する繰り上げ返済よりも、期間を短縮するほうが金利削減効果は高いです。低金利時代の長期の借り入れは、原則「固定金利」が安全です。フラット35で繰り上げ返済していきましょう。

ライフプランを考えよう!

住宅建築をする際、これまで入っていた生命保険も無駄なものに入っていないか見直しをするいい機会です。住宅ローンを組む時に『団体信用生命保険(通称「団信」)』加入が融資条件になるケースがほとんどです。住宅ローンの返済者が、事故や病気などで亡くなったり、重度障害で返済が不能になった時に、本人に代わって保険会社が住宅ローン残高を一括返済するという保険で、その名の通り「団体割引」が適用されます。

この団信に入ることで、残された家族は住宅ローンの支払いを免れ、住居費負担が軽くなる分、これまで掛けていた保険は減額することが可能となるのです。今は、複数の保険会社の商品を扱う『保険の窓口』などの来店型サービスやネット保険など、保険を比較するサービスが数多くあるので、家族の生命保険も含めて見直しましょう。火災保険も同様です。

大家族が一緒に住む二世帯住宅は、進学に伴う教育費だけでなく、将来の介護や相続も含めて、ライフステージの変化が大きいのが特徴です。家族構成の変化によるライフステージが変われば、当然乗る車から遊びなども変わっていき、ライフスタイルも変わっていかざるを得ません。自分たちのライフスタイルに合わせて建てたはずの住宅が、ライフステージの変化によって足かせになり得るのです。

私のお客さんでも、住宅取得を機にファイナンシャルプランナーの資格を取得した方が何人もいらっしゃいます。プロのFPとして開業し、投資の相談や相続の相談に応じている方々の表情を見ると、家族の明るい未来を感じます。今は、生命保険会社でも様々なライフプランづくりのソフトがあり、簡単にシミュレーションしてくれますが、やはり自ら学び、自ら家族のライフプランづくりをされることをお勧めします。

私が付き合いがあって、プロになる学びの場をご紹介しておきましょう。

■マネーバランス・クリニック ⇒ https://ssl.alpha-prm.jp/moneybalance-clinic.com/

■日本マネーバランスFP協会 ⇒ http://www.jmbf.jp/

Wakamoto
二世帯住宅を建てる時は、今現在の親の資産の把握、そして将来の遺産分割や相続への備え、そして住宅ローンを返し終えた頃の『出口戦略』など、建築会社探し以上に重要なことがたくさんあります。出来れば「建築することで大きな利益を得る」会社を相談先にするのではなく、中立的にコンサルティングが出来、複数の専門家と協働出来るコンサルタントを味方につけましょう。