二世帯住宅のトータル価格を抑える5つのヒント【若本修治の住宅取得講座ー11】

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二世帯住宅の価格の内訳を考える

Wakamoto
ではもう少し細かく建築費の内訳までみていきましょう。
大きく1.完全分離型、2.一部共用型、3.同居型に分けて解説していきます。

完全分離型二世帯住宅

他人同士が住む賃貸アパートと同様、それぞれが完全に行き来できないよう、玄関からすべて分離して建物自体は1棟になった住宅。左右分離と上下分離があり、左右分離では土地の広さが、上下分離では外部階段が必要となるケースがほとんどです。

上下分離型二世帯住宅の事例。間口が狭いため2階への外部階段を正面に設置している。

写真の二世帯住宅は、繁華街にお住まいだったご家族の建替え事例。防火地域で一般的には鉄骨造や鉄筋コンクリート造で考えるところです。しかしコスト面や柱や壁の厚みで居室面積が小さくなるのを避けるため、木造で計画しました。しかも合計100mを超えると防火の規制がより厳しくなるため、上下階とも50m未満に収めるよう、階段は外部に設けて各階15坪未満の間取りとしています。

この建物を前提にコストアップした部分を見てみましょう。
それぞれが2つ必要な部分がプラスになります。

(1) 玄関ドア 約20万円プラス

(2) キッチン 約50万円プラス

(3) ユニットバス 約40万円プラス

(4) 洗面台 約5万円プラス

(5) 給湯器(エコキュート) 約40万円プラス

(6) 外部鉄骨階段(取付け費含む) 約60万円プラス

(7) 室内階段 約15万円マイナス

(8) 床面積増加分(LDK12帖+浴室・洗面4帖) 約400万円プラス ※8坪×50万円

(9) 内部建具ほか二世帯増額調整 約20万円プラス

【合計プラスマイナス】約620万円のプラス

トイレは単世帯の二階建て住宅でも2階設置の事例が多いことを考え、トイレ以外の水回り機器が2台設置で差額を計算しました。もちろんご家族の身体的理由やご希望で特殊工事やオプション工事が発生すればもっと差額は大きくなるでしょう。換気システムを含めた空調機器や照明器具も増えますので、上記金額を基本として余裕を持った予算確保をお勧めします。

一部供用型二世帯住宅

玄関だけ共有して、室内階段で上下階で世帯を分けて、それぞれのフロアにキッチンも浴室・洗面も設置するケースもあれば、キッチンまで共有して、お風呂や洗面などは別々にするなど、家族関係によって変わってくるのがこの「一部供用型」の住宅です。

奥さん(娘さん)の実家を建替えて同居する場合には、キッチンはお母さんと一緒にするケースが多く、ご主人(息子さん)の実家の土地で家を建てる場合には、嫁と姑との関係もあって、少なくとも生活空間はすべて分離してお互いあまり干渉しなくて済むような間取りにするケースが多いようです。いずれにしても、コストアップ要因は床面積増住宅設備機器の追加価格が大半です。

自然素材でナチュラルな雰囲気をつくった3階LDK。壁は時間的余裕のあるお父さんが漆喰塗をされました。

画像の事例は奥さん(長女)の実家を建替えて三階建ての二世帯住宅建築をしたケース。
1階は親世帯の生活が完結するように、キッチンや浴室・洗面などすべて配置し、居室はLDK+和室。2階は両世帯の個室と納戸など就寝する部屋が並び、見晴らしのいい最上階に娘さん家族のLDKを計画しました。浴室と洗面はお互いの生活時間にずれがあるので共用で1か所でOKです。皆の就寝は2階なので、真夜中や早朝に風呂に入っても気になりません。最上階にLDKを計画すると、勾配天井なども出来て開放感が得られます。

(1) キッチン(カップボード含む) 約100万円プラス

(2) 床面積増加(LDK20帖) 約500万円プラス ※10坪×50万円

(3) 外部サッシや内部建具ほか二世帯増額調整 約40万円プラス

【合計プラスマイナス】約640万円のプラス

キッチンを別々にするケースでは、親世帯は昔のようにキッチンを「壁付」にしてダイニングテーブルを並べて置く間取りでも、DK(ダイニングキッチン)6帖とL(リビング)6帖の12帖(=6坪)は床面積が増えてしまいます。設備機器を除く建築と仕上げのみで建物坪単価を50万円で考えても、床面積増加分+それぞれの住宅設備機器がプラスされます。

こちらの家で、仮に浴室・洗面も別々で設置していたら、床面積増加分の建築費が約100万円住宅設備機器の追加が約60万円で、単世帯の住宅よりも800万円ほど負担増になっていたでしょう。親の土地を利用する対価として、800万円分の建築費負担を若い子世帯が返済していくと考えれば、土地価格によって損得勘定の計算は成り立ちます。後は、孫の面倒を見てもらうことなども含めて、同じ敷地で済む家族間の関係やメリット・デメリットで判断して下さい。

完全同居型

完全同居型の二世帯住宅は、核家族化が進む前には普通だった「大家族」の家です。

大人の部屋が複数必要で、1階に広めの和室と床の間・仏間空間など床面積の増加以外には、コストアップ要因はほとんどありません。とはいえ、親の土地を使わせてもらう遠慮や気遣いから、親が現役世代にはやりたくても時間やお金で我慢した趣味の部屋を作ってあげるという親孝行の表し方もあるでしょう。

また、将来体が不自由になった時のことを考えて、廊下幅を広げたりトイレを広めにつくったり、玄関アプローチにスロープを設けるなど、バリアフリー化にもコスト増要因は出てきます。

画像のご家族は、奥さんのご両親が実家の土地・建物を売却して、ご夫婦の職場がある広島県内に移住してきた事例。男の子ばかり4人の孫に囲まれ、おじいちゃんは趣味のジャズを思い切って楽しめるオーディオルームを、ばあちゃんは師範代にもなっているお茶の教室が出来るよう、和室に炉を切って生徒さんたちも訪ねてこられる独立した部屋もつくりました。

部屋の広さ+それぞれの用途に応じた防音性能や和風仕上等のグレードアップ分がプラス要因です。

完全同居型の場合は、土地や建物が大きくなりがちで、固定資産税等が『小規模住宅用地』としての要件(200m以下の部分で標準課税の6分の1に軽減)を満たさず、一部負担増になるケースがあります。建物については税計算で減価償却されることもあり100坪クラスの大邸宅や店舗併用の二世帯住宅でなければ大きな負担にはならないでしょう。

NEXT:二世帯住宅の共用部分と独立部分

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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。