二世帯住宅のトータル価格を抑える5つのヒント【若本修治の住宅取得講座ー11】

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二世帯住宅の将来の活用方法を考える

Wakamoto
大多数が親の土地を利用する二世帯住宅は、一人っ子で兄弟姉妹がいないのであれば新築時の問題は少ないものの、兄弟姉妹がいれば将来親が亡くなった時に相続の問題が発生するケースがあります。さらにその頃には子供たちも成長して家を離れ、二世帯住宅で生活するのは夫婦だけか、片方の親の2~3人になった時のことも考えておく必要があるでしょう。

相続トラブルを避けよう!

二世帯住宅を建てようと考えた時、お盆や正月に帰省してきた兄弟たちに伝えると、大反対に遭うケースがあります。仮に親の介護で長い期間大きな負担があったとしても、兄弟には相続の『遺留分の権利』があるため、一定の財産分与を請求され家族内で争うことになり兼ねません。(詳しくは専門サイトで検索して下さい)

実家の土地で新築を建てて多額のローンを負い、その後親が亡くなって相続税の支払い請求と建物のローン返済が重なるという最悪の事態は、かなりの資産家でなければ遭遇しません。しかし新築を建てる段階で親が子供たちに保有資産をきちんと伝えていないケースも多々あり、税理士等の専門家に入ってもらい資産の査定をしてもらったほうがいいでしょう。親の財産が少ないからといっても、油断は禁物。兄弟から『遺留分の減殺請求』をされたら、例え数百万円でも現金を要求されることになり兼ねないのです。

このようなケースで大手ハウスメーカーの展示場で相談してしまうと「じゃあ相続税対策も兼ねて敷地内にアパートを建てましょう♪」と、背負わないでもいい大きな借金でアパート経営をさせられるハメになりますので、ご注意下さい。すでに空き家の増加や人口減少でアパート経営はリスクの高い事業になっています。

最初に出口戦略を考える

米国人は、個人が住む住宅であっても「投資」という発想をします。
超長期に低金利でお金が借りられる住宅取得は、不動産という現物もあり、人生で最大で安全性の高い資産形成のチャンスだと捉えているのです。投資なので、当然一生持ち続けることはせず、将来の売却を前提に一定期間所有したら、いかに高いタイミングで売れるかを考えます。つまり『出口戦略』を明確にした上で物件選びをしているのです。

なぜなら一生のうちに結婚から出産、子育てから子供たちの独立に至るまで、家族構成が変わり、それに伴ってライフスタイルも変わるから。考えてみれば、住む人数が変わっても同じ家に住み続けるより、必要な部屋数に合わせて家を移るほうが合理的です。そのために将来高く売れるロケーションや街並みを重視して購入するから、映画で見るような素敵な住環境が維持できているのです。

築10年未満で売り出されているアメリカの住宅。街路樹も大きくなり街が熟成してくると購入時よりも高く売却できるのが当然だという国なので、しっかりとメンテナンスもされている。

日本ではまだまだそんな発想は定着していないので、最長35年の住宅ローンが終わる頃には建物は老朽化し、建物自体の資産価値もゼロに等しく、その後も手放すことなく固定資産税を支払いながら一生住み潰す方がほとんどです。

しかし例え自分が負担して取得した訳ではない実家の土地であっても、二世帯住宅という規模が大きく建築費も高い家を建てる場合、10年後、20年後、30年後の家族構成の変化を予測し、その時点での自分たちの収入や老後資金なども考えて、最初にシナリオを用意しておいたほうがいいでしょう。将来、自分の子供たちが後継ぎとしてその家に住んでくれるのか、それとも土地ごと売却して高齢者向け施設で悠々自適暮らすことを考えるのか・・・。

でなければ、老朽化した建物の修繕・リフォームや維持管理費の負担、そして固定資産税支払いと、子供たちへの遺産相続でまた苦労することになり兼ねません。

賃貸経営可能な
完全分離型二世帯住宅

このように考えていくと、建築費の負担が大きく家族構成の変化も大きな二世帯住宅を建てる場合、将来の環境変化に柔軟に対応できる計画が欠かせないことが分かります。大家族でキッチンもお風呂も共有する『同居型』であれば、将来使わなくなる部屋や物置化する子供部屋が出てきても、お盆やお正月に家庭を持った子供たちが孫たちを連れ帰って、家族・親族間の絆を確かめることもできるでしょう。

しかし伴侶のどちらかが亡くなった場合、独居老人の一人暮らしとなった上に孫たちも成人したら、冠婚葬祭や法事くらいしか家族が集まる機会はなくなり、大きな家は持て余してしまいます。それは決して50年先の問題ではなく、それほど遠くない未来の姿です。

イギリスをはじめヨーロッパの国々の住宅を視察すると、郊外では一戸建ての住宅を目にするものの、市街地である程度住宅が密集してくると『セミデタッチド』とか『デュプレックス』と呼ばれる連棟の建物、一棟二戸の長屋形式の建物が増えてきます。それほど所得が多くない中間層の一般市民が、家計に無理のない範囲で住宅を取得して資産形成するために考えられた建物で、賃貸ではなく多くは建物の所有権を持った持ち家です。

日本のように『土地の所有』にこだわることがなく、より利便性が高く将来高く売却出来そうな立地で、土地利用が効率的で外壁面積を最小化することで建築コストの圧縮とエネルギーロスが少ない住宅を求めます。結果的に住居費負担が抑えられ、光熱費も少なくて売却のリターンが最大化します。

経済合理性を考えれば、それが賢い選択だと数多くの国民が知っているから、新築偏重・大手ハウスメーカーで建てるという日本は、世界で特殊なマーケットです。それぞれ独立住宅を建て、1棟を将来戸建て賃貸として貸す選択肢もありますが、欧米の合理的発想で考えれば区分所有方式での連棟がお勧めです。

ロンドン郊外で20世紀初めに開発されたレッチワースに並ぶセミデタッチドハウス。築後90年以上経った連棟住宅が現在でも高く取引されている。東京の田園調布の街づくりで模範にされた有名な住宅地だ。

上の画像の英国の住宅も、ページトップで表示されている薄いブルーのアメリカの家も、中間的所得層の人たちが住んでいるセミデタッチドハウス(連棟住宅)です。つまり1つの屋根の下別々の世帯が住んでいる「二世帯住宅」で、入居者が親族か他人かは建物形態に影響されません。

日本でも昭和四十~五十年代には、自宅を下宿にして学生に部屋を賃貸するという形態は、学生の街を中心に良くありました。その後バブルで地価が上昇し経済的にも豊かになった日本は、核家族化でプライバシーを重視して1家族のみが一戸建てに住むスタイルが増えました。しかしこれからの未来を考えると、一部の部屋を学生に賃貸するとか、親世帯が亡くなったらリフォームして他人に賃貸するなど、将来の維持管理や住宅ローンの残債を賃貸人に負担してもらうという発想も必要でしょう。

欧米の国々では、長いバケーションの間に自宅を貸したり、利用していない期間の別荘で収益を上げる『B&B(Bed and Breakfast)』という宿泊施設利用が盛んでした。それを世界レベルでサービス化したのが『シェアリングエコノミー』で有名になった『AirBnB』というアメリカ発のベンチャービジネスです。
Wakamoto
上下階分離の二世帯住宅も含めて、将来赤の他人に貸してもしっかりと家賃が取れることを想定した二世帯住宅をするのは賢い選択です。防音やプライバシー確保など、親子間でも確保しておきたい機能や性能を有しておけば、将来の不安は和らぎます。
ちなみに賃貸契約は、期限のある『定期借家契約』で結ぶのが基本です。

NEXT:生活のトータルコストを把握しよう!

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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。