二世帯住宅のトータル価格を抑える5つのヒント【若本修治の住宅取得講座ー11】

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二世帯住宅の共用部分と独立部分

前ページの「価格の内訳」で見てもらった通り、二世帯住宅の建築コストのポイントは、お互いが『独立した家庭』として、それぞれの家族が必要な部屋や住宅設備機器をすべて世帯ごとに揃えるのか、それともいくつかの機能や空間のみを共用するのかで工事金額は大きく変わってきます。設備機器の費用よりも、むしろ部屋を確保することでの床面積の増加分が100万円単位でコストアップに繋がります。

生活時間を考える

例え家族や親子だと言っても、血のつながった実の親子であれば気にならないことでも義理の父母であれば、すべての生活が一緒で筒抜けなのは心配です。特に家庭内のちょっとしたことがストレスに感じるのは女性のほうが多いのではないでしょうか?全く価値観や相性が合わないのであれば、同じ屋根の下はおろか、同じ敷地内でも一緒に住まないほうがいいでしょうが、生活時間が異なれば、やはり嫁か姑のどちらかにストレスが溜まりがちです。

まずは一週間の大まかな生活のリズムを家族ごとで整理していきましょう。
起床時間から朝食までの過ごし方、朝食後から外出までの時間の使い方と部屋への移動といったことを1日24時間の棒グラフ(ガンチャート)に落とし込みます。平日と休日(週末)でどのような傾向が現れるか、ざっくりと把握できると、例えばお風呂や洗面で時間が重なるのか否か、分けたほうがいいのか判断材料が揃います。

一番建築コストに影響するのが、キッチンを親世帯、子世帯で別々に設けるか、それとも共用で使うかです。キッチンを別々にすると、床面積が大きくなるのはもとより、カップボード(食器棚)からダイニングテーブル、冷蔵庫やキッチン家電なども全てが倍必要になります。料理をする時間帯が同じで、本物の母娘がキッチンを使うのであれば、キッチン周りをぐるりと回って2~3人でも調理が出来る『アイランド型』のキッチンにして、大家族で食事をするのもいいでしょう。

間口の狭い狭小地で二世帯住宅を建てた事例。母娘なのでキッチンは共有として、両面から使えるアイランドキッチンを採用。

親世帯の夕食の時間が早く、子世帯のご主人の帰りが遅いなど、食事の時間帯が大きく変わる場合は、リビングでのくつろぎ方や見るテレビも違う可能性が高いから、それぞれの世帯で別々にLDKを設けたほうがいいでしょうね。費用対効果と家族のライフスタイルで判断して下さい。

生活動線を考える

家族それぞれの生活時間が把握できたら、特に家事をする主婦の家事動線の重なりや距離などを考えてみましょう。
食事の準備から片付け、お掃除や洗濯はどのルートが効率が良く、洗濯物を干して部屋の中に取り込み、どこに吊るして片付けるか・・・。お風呂の準備から着替えやタオルの用意、ちょっとした移動でも、毎日のことになると間取りで家事効率が全く変わってきます。

キッチンの片付けとお洗濯を同じ時間帯で一気にしたいという「時間節約型」の主婦にとっては、動線が短いことが優先され、同じフロアの出来るだけ近い場所にキッチンと浴室・洗面を配置したいという希望を頂きます。

一方で、料理の準備から片付けまで、子供たちの様子を把握したいので、キッチンからほとんど移動することなく司令塔のようにキッチンからリビング全体を見渡したいというご要望も良くあります。お掃除や洗濯は、お皿などキッチンを片付けて少し休憩後にする場合は、浴室・洗面がキッチン近くにある必然性はありません。水分を含んだ洗濯物を2階バルコニーまで運ぶことを考えると、2階に浴室や洗面所、ランドリースペースを設けたいという要望も増えてきました。

2階に洗面・浴室とランドリースペースを設けた事例。バルコニーへの出入り口があり、洗濯物も目隠しの格子で視線や雨風を防げる。右側の白い内装ドアはトイレへの入り口

このような場合は、両親がお風呂や洗面の都度、2階に上がってくるということはあまり考えられません。だから2世帯で水回りを分離したほうがいいでしょう。階段を使うのもほとんど子世帯に限られ、お互い自由な時間にお風呂や洗濯などを済ませることが可能です。

プライベートの確保で考える

調理や食事は「男の料理教室」などもあって、家族以外の他人と一緒に食事することも、また男性がキッチンを使うことも少なくありません。しかし基本的には浴室や洗面は一人だけが使う家族のプライベート空間。米国では、ベッドルームの数と同じくらいバスルームかシャワールームを備えています。日本では不動産広告でも「○LDK」で部屋の数を示しますが、アメリカではベッドルームとバスルームの数が表示されるくらいです。

友人や仕事関係の人たちを自宅に招く機会が多いアメリカの住まいは、1Fはソーシャルな空間、つまりSNSのように個人の空間でありながら、限定的に開かれた社会性のある空間だとされています。プライベートな空間である個室やバスルーム等は切り離されて2階に分離されているのが一般的です。

そう考えると、キッチンやダイニングは家族に限らず友人たちも招いて料理を手伝ってもらう空間として、二世帯住宅でも家族みんなが使えるようにし、お風呂やトイレはそれぞれの個室に付属するアメリカ的発想もありでしょう。

米国シアトル郊外のイサクワハイランドの分譲地に建つモデルホーム。メインベッドルームには夫婦だけの空間として立派なバスルームが必ず併設されている。

日本も昔は風呂のない家が多く、銭湯を利用していたことを考えても、今後の日本の家の進化形は、複数のバスルームやシャワーブースがあるという方向になるかも知れませんね!ちなみにアメリカでは洗濯物を外に干すという習慣がありません。黄砂やスギ花粉、PM2.5などで汚染が激しい日本でも、将来的には「ランドリールーム」を独立させ、室内で乾燥させる時代が来る予感もします。

NEXT:二世帯住宅の将来の活用方法を考える

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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。