建築工事の見積書は妥当ですか?【若本修治の住宅取得講座ー13】

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プラン変更で分かる見積の精度

Wakamoto
いわゆる『一式見積』で一番困るのは、間取りや仕様を変更した時に、見積価格にどう影響するのか分からないこと。自動車のパーツのように数量が明確でオプションの差額が明示できるほど、住宅は単純で共通化されていません。

例えば床面積は変わらず、リビングと主寝室だけは自然素材の床材と壁仕上げにしたいといった場合、今の複合フローリングとビニールクロスを、珪藻土にするのか漆喰仕上げにするのか、厚み15ミリのオークのフローリングにするのか、厚み30ミリのカラマツのオイル仕上げなのか、購入者は「比較して検討したい」と思うでしょう。

同じ床面積でも、1階に和室を設けて広くし、2階の子供部屋は狭くしてその分吹抜けを設けたいといったケースでも、坪単価計算での「建築本体工事」が同じということにはなりません。吹抜けがある分、実際に床として利用できる面積以上に空間のボリュームは増え、構造材も基礎も増額は間違いありません。「吹抜けがあるケースでは5%割り増しです」というルール作りも出来ないのです。

外皮面積による価格差

建築費への影響で大きいのは床面積だけでなく、外壁の延べ長さ、つまり『外皮面積』も大きな影響を与えます。例えば単純な四角形でも6m四方の正方形の面積は6(6m×6m)で36mとなり、延べ長さは6m×4=24mですね。長方形で4m×9mとしたら面積は同じく36mですが、周辺の長さは26mです。つまり正方形よりも2m長くなり、その分構造材も外壁の仕上げ材も増えるのです。

上記のプランは、もっと複雑な長方体の組合せ。凹状のくびれを中庭として、各部屋から出入りできるように掃出し窓(サッシ)を3か所設けているから、外壁の延べ面積だけでなくサッシのコストも上がります。このような複雑な形状にすると「熱損失も大きい」から、サッシの省エネグレードも含めて断熱性能を上げないと、実際に暮らし始めて快適な暮らしから遠ざかるかも知れません。

注文住宅で家を建てたい人は、実際にはこんな比較をしながら自分たちの購入した土地に合った暮らしやすい間取り、使い勝手のいい動線を検討したいのです。「床面積」というひとつの基準だけで建築本体工事の金額が決まってしまい、どこが信頼できるか、どの会社が値引き幅が大きいのか、そんな比較で業者選びをしてもいいのでしょうか?

建物の性能や暮らしやすさに全く影響を与えない、印象だけの比較です。

部位別見積で詳細を比較しよう!

単に細かく工事内容が分解され、数量と単価が記載されていても、その中身が何か、建築知識のない施主には全く分からないのが現実です。そのためここでも「キッチリと明細を出してもらっている」という印象だけで、いい業者さんだと評価しがちです。

見積の役目は、自分たちが頼もうとしている工事が、どのくらいの金額掛かるのかという『総額』だけでなく、コストを抑えた場合はどのような仕様やスペックになり、元の見積と比較してどちらを選ぶか判断できること。そして別の会社に頼んだ場合に、どのような差がついてどちらが自分たちの求めるイメージに近く、コストパフォーマンスがいいのか「意思決定するための」判断材料が見積書です。

さらに「契約締結」となれば、契約書の金額の根拠として「見積明細に書かれた仕様や数量」が、契約内容として支払いの対価であり、そこが一式見積では、後でトラブルになることは火を見るより明らかです。だってあなたが見学した住宅展示場や完成物件のモデルハウスは、決して標準仕様でもなく、あなたが注文した家でもないのです。

上記の表は、前ページの入札事例で、断熱工事だけ抜き出して各社の見積の内訳を分析したもの。私が発案し運営している『住宅CMサービス広島』では、間取りプランの作成からこのような見積の分析表まで作成し、施主自身が各社に直接話を聞いて何を選ぶのか意思決定することが可能です。

例えばA社~C社は、足元の断熱は『基礎断熱』として床下に冷気や湿気の進入のない環境をつくります。D・E社は床下を断熱するから、基礎には通気口が必要で、冬の基礎部分には冷気も入ってきて夏は湿気が溜まりやすい環境です。自然換気中心なので、温度も湿度も住人ではコントロールできません。

サーモウールの断熱現場。白く見える壁は羊毛の充填なので暖かく感じます。

またA社・B社は古紙を加工した自然素材の「セルロースファイバー」を充填し、E社も羊毛を加工してはっ水や防虫効果を増した「サーモウール」を提案していることが分かります。C・D社は現場発泡ウレタンの「アクアフォーム」吹付けで気密性を高めています。断熱材の厚みの違いや数量の違いなどがあるから、知識のない施主でも違いを尋ねることや比較することが可能です。

そのヒアリングの結果を、右側の空欄に「特長」としてメモ書きし、自分たちなりに性能を◎,○,△,×や、5段階評価などでチェックすれば、最終的にコストパフォーマンスや自分たちの優先順位で、何を評価しどこを選ぶか、施主自ら意思決定することが出来るのです。

NEXT:相見積をしたお客様事例紹介

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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。