プラン変更で分かる見積の精度
例えば床面積は変わらず、リビングと主寝室だけは自然素材の床材と壁仕上げにしたいといった場合、今の複合フローリングとビニールクロスを、珪藻土にするのか漆喰仕上げにするのか、厚み15ミリのオークのフローリングにするのか、厚み30ミリのカラマツのオイル仕上げなのか、購入者は「比較して検討したい」と思うでしょう。
同じ床面積でも、1階に和室を設けて広くし、2階の子供部屋は狭くしてその分吹抜けを設けたいといったケースでも、坪単価計算での「建築本体工事」が同じということにはなりません。吹抜けがある分、実際に床として利用できる面積以上に空間のボリュームは増え、構造材も基礎も増額は間違いありません。「吹抜けがあるケースでは5%割り増しです」というルール作りも出来ないのです。
外皮面積による価格差
建築費への影響で大きいのは床面積だけでなく、外壁の延べ長さ、つまり『外皮面積』も大きな影響を与えます。例えば単純な四角形でも6m四方の正方形の面積は62(6m×6m)で36m2となり、延べ長さは6m×4=24mですね。長方形で4m×9mとしたら面積は同じく36m2ですが、周辺の長さは26mです。つまり正方形よりも2m長くなり、その分構造材も外壁の仕上げ材も増えるのです。
上記のプランは、もっと複雑な長方体の組合せ。凹状のくびれを中庭として、各部屋から出入りできるように掃出し窓(サッシ)を3か所設けているから、外壁の延べ面積だけでなくサッシのコストも上がります。このような複雑な形状にすると「熱損失も大きい」から、サッシの省エネグレードも含めて断熱性能を上げないと、実際に暮らし始めて快適な暮らしから遠ざかるかも知れません。
注文住宅で家を建てたい人は、実際にはこんな比較をしながら自分たちの購入した土地に合った暮らしやすい間取り、使い勝手のいい動線を検討したいのです。「床面積」というひとつの基準だけで建築本体工事の金額が決まってしまい、どこが信頼できるか、どの会社が値引き幅が大きいのか、そんな比較で業者選びをしてもいいのでしょうか?
建物の性能や暮らしやすさに全く影響を与えない、印象だけの比較です。
部位別見積で詳細を比較しよう!
単に細かく工事内容が分解され、数量と単価が記載されていても、その中身が何か、建築知識のない施主には全く分からないのが現実です。そのためここでも「キッチリと明細を出してもらっている」という印象だけで、いい業者さんだと評価しがちです。
見積の役目は、自分たちが頼もうとしている工事が、どのくらいの金額掛かるのかという『総額』だけでなく、コストを抑えた場合はどのような仕様やスペックになり、元の見積と比較してどちらを選ぶか判断できること。そして別の会社に頼んだ場合に、どのような差がついてどちらが自分たちの求めるイメージに近く、コストパフォーマンスがいいのか「意思決定するための」判断材料が見積書です。
さらに「契約締結」となれば、契約書の金額の根拠として「見積明細に書かれた仕様や数量」が、契約内容として支払いの対価であり、そこが一式見積では、後でトラブルになることは火を見るより明らかです。だってあなたが見学した住宅展示場や完成物件のモデルハウスは、決して標準仕様でもなく、あなたが注文した家でもないのです。
上記の表は、前ページの入札事例で、断熱工事だけ抜き出して各社の見積の内訳を分析したもの。私が発案し運営している『住宅CMサービス広島』では、間取りプランの作成からこのような見積の分析表まで作成し、施主自身が各社に直接話を聞いて何を選ぶのか意思決定することが可能です。
例えばA社~C社は、足元の断熱は『基礎断熱』として床下に冷気や湿気の進入のない環境をつくります。D・E社は床下を断熱するから、基礎には通気口が必要で、冬の基礎部分には冷気も入ってきて夏は湿気が溜まりやすい環境です。自然換気中心なので、温度も湿度も住人ではコントロールできません。
またA社・B社は古紙を加工した自然素材の「セルロースファイバー」を充填し、E社も羊毛を加工してはっ水や防虫効果を増した「サーモウール」を提案していることが分かります。C・D社は現場発泡ウレタンの「アクアフォーム」吹付けで気密性を高めています。断熱材の厚みの違いや数量の違いなどがあるから、知識のない施主でも違いを尋ねることや比較することが可能です。
そのヒアリングの結果を、右側の空欄に「特長」としてメモ書きし、自分たちなりに性能を◎,○,△,×や、5段階評価などでチェックすれば、最終的にコストパフォーマンスや自分たちの優先順位で、何を評価しどこを選ぶか、施主自ら意思決定することが出来るのです。
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