住宅会社の選び方(工務店編)【若本修治の住宅取得講座-9】

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業態で選ぶ

工務店選びで『業態』と聞いてもピンとこないかも知れません。
住宅建築は、建設業の許可を持っていれば、1人親方の大工さんから売上げ1兆円を超える大企業まで、日本国内で数十万社の会社で建てることが可能です。大分類では『建設業』ですが、頼む先の業態によって、価格もグレードもデザインも全く変わるのが注文住宅の建築です。

身近な小売店舗(小売流通業)で考えればイメージしやすいのが「業態」です。例えばお弁当を買うのにも、ほか弁のような専門店もあれば、コンビニ弁当や食品スーパーの総菜コーナー、百貨店のデパ地下にある食料品売り場など、お店の形態規模売り方(セルフ販売か対面販売かなど)によって「客単価」も「商品グレード」も異なります。

関連記事として書いた『ハウスメーカーと工務店の違い』はこちら

家づくりも、業態の違いによって「建築単価」も違えば「商談の進め方」も、出来上がる家の「テイスト」もかなり変わってきます。親戚が工務店や建設会社を経営していたり、知人が住宅会社に勤めているからと言って、あなたが建てたい家を依頼する先として適切かどうか、以下の説明でご判断下さい。

最も確かめたいのは①その会社の主要な対象顧客は誰か?、そして②その会社の1物件あたりの顧客単価はいくらか?ということです。小売りのお店をイメージしてもその違いは接客対応から提供される商品まで違ってくることがイメージできるでしょう。

  • 建設会社(地元中堅ゼネコン)

    創業者の事業スタートは、大工の親方で木造住宅からスタートしても、戦前や戦後すぐに建設業をスタートした会社は、日本の経済成長に合わせてビル建設や公共事業によって成長した会社が多い。社長は経済同友会やロータリークラブ、ライオンズクラブなどの地元経済団体で活動しており、医療法人や福祉法人などの施設建設工事や、施設オーナーの自宅建設など、主に鉄筋コンクリート造が得意

    ほとんどが紹介で、5千万円以下の住宅を建築するケースはあまりなく、木造戸建て住宅の進出にはフランチャイズ加盟など他社からのノウハウを購入して、子会社で住宅事業をスタートする会社が一般的。このような会社は、一線級の営業マンは客単価の高い「ビル工事の営業」に就き、親会社からの出向者や他のハウスメーカーを退職した再就職組が営業を担っている。規格商品でカタログがあれば住宅販売も出来るといった、建売りや賃貸住宅とあまり変わらないような住宅が多く、過度な期待やこだわりの注文は避ければコスパの高い住宅取得も可能。

    ただしほとんどの建物はビニールクロスに新建材、アルミサッシで吹抜けは避けるような「無難な家」。現場監督はビルの工事監理が中心で、戸建て住宅は大工任せになりがち。

  • ビルダー(住宅販売会社)

    複数の住宅展示場に出展し、概ね年間50棟程度以上住宅建築を手掛けている地元業者。
    商談のスタートは専任の営業マンとなり、大手ハウスメーカーと体制はほぼ同じ。商談が進んでいくと、建築士資格を持つ設計担当者がプランを作成し、契約後にインテリアコーディネーターとの打合せに進む。工事担当の現場監督は、契約時か地鎮祭の時などに初めて紹介されるか、顔を知らないまま現場が進行するケースも少なくない。施主よりも職人たちのほうが仲間であり、守る存在になってしまう。

    社長は、自動車販売などの異業種からも含め「営業畑」の独立が多く、1軒あたりの受注額が大きいから住宅事業で自分の営業力を試そうという人も少なくない。従って建築技術の知識は乏しく、家づくりに対する強い想いや建物への愛情、住宅供給者としての責任感よりも、ライバル他社との競争や売上げ確保、受注棟数の拡大が事業目的になっているケースのほうが多い。

    営業マンが実際に住んでいる家について本人から話を聞き、契約を進めるのであれば先に社長とも会って、なぜ住宅事業を手掛けているのか、その思想などを聞いてから判断したほうがいい。逆に営業部長や営業マンなどの営業部門任せにし、営業会議で数字ばかり追っている社長も少なくないので、見分けたうえで会社を選びたい。社長の器以上の家は建たない。

郊外の分譲地の『住宅展』に出展しているビルダー各社の新築モデル

  • 工務店(建築士事務所登録)

    新築を中心とした住宅建設を手掛ける施工会社。年間数棟から20棟程度の注文住宅と、リフォーム事業を手掛け、建設業許可だけでなく『二級建築士事務所』などの設計事務所の免許も取得して、元請けで一般消費者の住宅建築を担っている。事務所には社名入りのトラックが停まっていて、資材や道具などを積み、現場中心に会社が回っている。

    自社の建物性能を体験してもらうために、実験棟のようなモデルハウスを建築しているケースもあるが、概ねカタログや規格商品といったものはなく、地域密着による紹介受注が中心。今ではホームページを充実させネットからの相談が増えている会社もあるが、会社規模から意匠設計まで出来る設計者を抱える余裕はなく、デザイン性を重視する外観やおしゃれなインテリアなどは不得意。

    断熱性能や構造材へのこだわりなど、技術面での特長を全面に出しがちで、説明も専門的なので一般の消費者にはとっつきにくい。事業の比重は、信頼して契約してもらった施主の工事現場実施図面作成等が大きいため、土地探しの段階や無料のプラン提示を何度も求めるお客さんには対応が疎遠になりがち。

    私が運営する『住宅CMサービス広島』のような、エージェント利用や、家づくりカウンターなどのマッチングサービスを利用して、相性や施工内容、こだわり部分などを確かめれば、不安やデメリットは逆に「魅力」になり得る業態。こだわりが強いほど、価格が高くなるから、やはり個人での折衝は厳しいだろう。個性の強い社長が多い。

  • 工務店(大工工務店)

    ゼネコンやハウスメーカーの大工工事を下請けでしながら、近所のリフォームなども請け負う家族経営の小さな工務店。職人の手配が主な仕事なので、事務所に出入りするのも職人や作業員、不動産会社の営業マンなどがほとんど。「友達の親が工務店を経営している」とか「知り合いの旦那が大工なので安くできる」といった紹介で新築を依頼すると、トラブルや失敗が多い。

    新しい法律や出始めたばかりの施工技術・新素材を学ぶことは消極的で、指示されたこと以上の仕事は期待できないため、設計が伴わない大規模修繕工事やリフォーム工事などの依頼先として考えておけばコスパが高い。大手ハウスメーカーの長期保証で高いお金を負担するのであれば、外壁塗装等も含めこのような地元の職人集団、専門工事会社を押さえておいたほうが経済合理性がある。

  • 設計事務所(分離発注等)

    ネットで探しやすくなったとは言うものの、個人が設計事務所の事務所を訪ねるのは敷居が高く、個人住宅の設計だけでは食べていけない設計者・建築事務所が多いため、施工に関与する設計事務所も増えてきた。

    数百万円の設計料を負担できる施主は、設計者を「先生」として信頼し、施工者選びも先生に任せるケースが多い。そのため建設業許可のない設計事務所が表面的に工事の請負契約を結び、工事中のトラブルがキッカケで法令違反施工知識の不足が表面化するケースが増えている。

    また凝った設計をした結果、予算が大幅にオーバーすることも多く、途中解約すると多大な違約金で建築プロジェクトが行き詰るため、分離発注を勧められるケースは注意が必要。複数の専門工事業者に相見積を行い、価格の安い業者に分離発注して設計者が全体のコーディネートする場合、設計料にプラスしてコーディネート料負担も発生する。その金額は建設業許可を持って元請け施工している工務店利益を上回るケースもあり、最初から元請けで設計事務所登録もしている工務店に頼んだほうが安心出来てコスパも高いということにも。

    設計事務所は、本業のデザインセンスへの期待と現場の品質監理のみに特化して依頼したい。

設計事務所に依頼し予算1千万円以上オーバーしてプロジェクトがストップした施主に、設計者を外して建築工事とインテリア工事を分離発注し、求める空間を予算内に実現させた事例

Next:工務店の選び方-4 価格帯で選ぶ

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≪住まいづくり専門コンシェルジェ≫ 福岡大学工学部建築学科に在学中、当時の人気建築家『宮脇檀建築研究所』のオープンデスクを体験。卒業後、店舗の企画・設計・施工の中堅企業に就職し、主に首都圏の大型商業施設、駅ビル等のテナント工事にてコンストラクション・マネジメントを体験。1991年に東京から広島に移住し、住宅リフォームのFC本部、住宅営業コンサルティング会社に勤務。全国で1千社以上の工務店・ハウスメーカー・設計事務所と交流し、住宅業界の表も裏も知り尽くす。2001年に独立し、500件以上の住宅取得相談に応じ、広島にて150棟以上の見積入札・新築検査等に携わる。2006年に著書「家づくりで泣く人笑う人」を出版。 マネジメントの国家資格『中小企業診断士』を持つ、異色の住生活エージェント。